作品タイトル不明
19話 お祭りのため人種王国首都へと移動
『人種王国女王就任式典』開始3日前。
『奈落』最下層、応接室に『人種王国女王就任式典』に参加する者達が集まっていた。
「おおおぉ! 地上のお祭りめっちゃ楽しみだぞ!」
「ナズナちゃん、ユメが地上のお祭りを色々教えてあげるね!」
ユメとナズナがドレスと鎧を脱ぎ、地上で活動するための私服姿になる。
ナズナはお祭りが本気で楽しみなのか、彼女の体中から『自分、お祭りを楽しみにしています』という空気を一目で分かるほど発していた。
ユメも久しぶりに人種王国女王リリスと出会えることを、そして、ナズナ同様地上でのお祭りを非常に楽しみにしていた。
ナズナを含めた僕達に『自分が地上のお祭りを教えてあげないと』というやる気に満ちている。
幼い子供が知っていることを人に伝えたがるのと同じだ。
彼女達を含めて、僕達はこれから『人種王国女王就任式典』に参加するため地上へと上がる。
メイは二人の保護者として、以前、地上で活動していた際、袖を通していた地味な私服に着替えていた。
設定では、ユメはとある大商の娘で、ナズナは彼女の乳姉妹。
人種王国首都で『人種王国女王就任式典』が開かれるため、娘のお願いにほだされた大商主は、保護者役のメイドと、腕利きの冒険者を護衛に付けてお祭りへの参加を許可した――ということになっている。
『腕利きの冒険者』として、僕とネムム、ゴールドは『黒の道化師』が冒険者ギルドから依頼を受けて、付く。
そのため僕達がユメ達の側に居ても何ら問題はない。
実際、人種王国にある冒険者ギルドを通して、しっかり護衛依頼の仕事を受けている。
たとえ調べられても問題ないレベルだ。
ちなみにスズ、ロリメラは既に地上へと移動済み。
首都に入って僕達も泊まる高級宿屋に部屋を取り、待機している状態だ。
他にも既に妖精メイド含めて、首都に散らばり済みである。
僕は軽く咳払いをした。
「ユメ、ナズナ、はしゃぐ気持ちも分かるけど、安全のためにも、ちゃんと僕達の言うことを聞くんだよ。それと地上に出たら僕のことは1冒険者、『ダーク』として扱うように。あくまで二人は雇い主側なんだから」
「分かったよ、にーちゃん!」
「もちろんだぜ!」
二人が元気よく答える。
『返事は良いのだけど……』と若干の不安を覚えてしまう。
僕は気持ちを切り替えつつ、改めて確認をする。
「僕達はこのまま地上へと転移する。転移後、地上で既にユメ達が乗る馬車が準備してあるから、それに乗って人種王国首都へと移動するから」
最初は、お祭り期間中の夜は『奈落』最下層へと戻る計画を考えたが……。
さすがに情緒がなさ過ぎた。
現状でユメの安全性は高いのに、これ以上を求めて、お祭り前夜の期待感を奪っても意味はない。
なので三日前から、馬車で人種王国首都に乗り込む事になったのだ。
僕は、最後に皆へ確認をする。
「皆は忘れ物とか、確認、問題とかないよね?」
「大丈夫だよ、にーちゃん!」
「おう! あたいも忘れ物とかないぜ! 妹様と一緒に昨日からちゃんと確認したものな!」
「ねぇー、ナズナちゃん」
ユメ、ナズナが手を繋ぎあい興奮気味に頷き合う。
次はメイ達に視線を向ける。
「はい、問題ありません、ライト様」
「自分も問題ありません」
「ユメ様達を護衛するための訓練は何度もこなしてきたからな!」
ゴールドの言葉通り、僕達は『奈落』最下層でユメを護衛するための練習をしてきた。
お陰で護衛者としても問題なく動ける。
一通りの確認を終えると、僕は『無限ガチャ』カード『転移』を取り出す。
「それでは、地上へ行こうか。転移、 解放(リリース) 」
カードを解放すると、視界がぶれる。
僕達は一瞬で予定通り、人種王国首都近くの森へと転移する。
「ここから馬車がある所まで少し歩くからね。ナズナ、そのままユメの手を握って移動してあげて」
「分かったぜ、ご主人様! 妹様、馬車まで一緒に行こうぜ!」
「うん、一緒に行こうね、ナズナちゃん」
ナズナは僕に頼られるのが嬉しいのか、ユメの手を嬉しそうに握り直す。
ユメも、素直にその手を握り返していた。
「ネムム」
「はっ、お任せください」
ネムムが先頭へと移動。
僕が右、ゴールドが左やや後方へ、中央にユメ、ナズナが並び、彼女達の後ろにメイが立つ。
これが今後の基本的な立ち位置だ。
索敵能力が高いネムムが先頭に立ち、僕、ゴールド、メイでユメ&ナズナを囲み護衛する陣形である。
ユメ達を4人で囲めば、彼女達を護衛しやすいのと、外れて迷子になることはない。
人目を避けるため森へと転移したが、馬車までの道のりは既に整えているため、特別歩くのが困難という訳では無い。
数分で森出入り口を出て馬車へと到達する。
「お待ちしておりました、皆様」
馬車の側で待ち構えていた妖精メイド達が、一斉に頭を下げた。
馬車は『無限ガチャ』カードの力で、幻影をかけて気付かれないようにしていた。
最初は『奈落』最下層から、直接馬車に乗って『転移』することも考えたが……。
まず『奈落』最下層に普通の馬が存在しなかった。
高レベルの『馬型モンスター』ならいるのだが……。
さすがに高レベルの馬型モンスターで馬車を引いていたら、目立ち過ぎるため却下。
普通の馬を『奈落』最下層へ移動させたら、雰囲気に怯えて使いモノにならない可能性があった。
なので普通の馬を2頭購入し、持ち込んだ馬車に備え付ける所から始めることにしたのだ。
結果、このように幻影をかけて、待機する形になったのである。
メイが妖精メイド達に対応する。
「ご苦労様、以後は私が引き継ぎます。皆は『奈落』へ戻るように」
「畏まりました、メイド長」
妖精メイド達がメイの指示に従い、『転移』で『奈落』最下層へ。
メイは馬車の扉を開き、ユメ、ナズナ、僕が乗り込む。
ゴールドは馬車後方へ、メイとネムムが交互に御者を務める。
これも事前に決めていたことだ。
何でも器用にこなすメイが御者を担当し、索敵能力に優れるネムムを隣の席に、また防御能力に優れたゴールドを後方でいつでも動けるように。
僕が最終ラインと、ユメ&ナズナの相手をするため内部へと乗り込んだのだ。
『では出発しますね』
「頼んだよ、メイ」
僕が声をかけると、馬車が動き出す。
ユメとナズナが楽しげに会話を交わしつつ、木窓を開き動く風景を楽しげに眺めた。
こうして僕達はいよいよ『人種王国女王就任式典』へと移動を開始したのである。