軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 事後承諾

『人種王国女王就任式典』、数日前。

既に他国――エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国の代表者は人種王国に到着済み。

竜人帝国は表面上は『中立』として、人種王国から招待状を送るも参加を拒否されている。

魔人国については、つい最近まで人種王国は魔人国と揉めていて、偽『C』の被害からの復興や第一王子ヴォロス失踪によるトップ不在問題などがあるため魔人王国は参加できず、こちらも予想通り欠席だ。

ちなみにライト達は、魔人国の復興に手を貸していない。

魔人国内部は『巨塔の魔女』の目を気にしつつ、次代の『魔人国トップ』の座を争い合っており、群雄割拠になりつつあった。

別に掣肘をするつもりはないため、放置している状態だ。もちろん、ライトの邪魔や『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を侵害しようとするなら、相応の報いを与えるだけだ。

最後に人種王国に姿を現したのは、『巨塔の魔女』一行だ。

ドラゴン達の背中に乗って、派手に人種王国へと来訪する。

事前に首都城下にも通達がおこなわれていたため、住民達からすると派手な見世物でしかない。

老若男女が手を止めて一目見ようと空を仰ぐ。

「お待ちしておりました、『巨塔の魔女』様」

一部を上空に待機させて、最も大きなドラゴンに加え他2頭を伴い人種王国王城中庭へと『巨塔の魔女』が降り立つ。

人種王国現女王であるリリスが率先して待機し、他既に到着済みの各国代表者も一歩下がって『巨塔の魔女』エリーを歓迎した。

「リリス女王自らのお出迎え、光栄ですわ」

「最もお世話になった『巨塔の魔女』様がお越し下さったのですから、当然のことです」

『巨塔の魔女』とリリスがニコニコと笑顔で会話を交わす。

軽い会話にもかかわらず、政治的思惑が入り乱れる。

現在、この大陸で最も勢いのある『巨塔の魔女』が、各国代表者や出迎えた人種王国使用人などの前で『リリス女王』と口にしたのだ。

『巨塔の魔女』の発言にここに居る誰であれ異議を唱えることなど出来ない。

つまり、人種王国のトップは各国代表者含めて『リリス』だと暗に認めたことになる。

当然、全て打ち合わせ済みの演出だ。

各国代表者もそれを理解しているため、リリス挨拶後、『巨塔の魔女』とにこやかに挨拶を交わす。

ある意味、ここまでは予定調和だ。

ひとつ問題――というよりも、首を傾げる違和感があるとするなら……。

「ワン!」

元気よく犬が吠える。

『巨塔の魔女』を乗せたドラゴン以外、他2頭が王城中庭へと降り立った。

その背には『巨塔の魔女』の従者として妖精メイド達が揃っている。

未だ空を飛んでいるドラゴンにも、『巨塔の魔女』の格に必要なだけの者達が揃っていたが……。

唯一、困惑する存在が、現在妖精メイドの一人に抱えられた犬だ。

尖った大きな耳に、つぶらな瞳、短い足。胴が長く、妖精メイドに抱えられているせいか余計長い印象を抱く。

頭の上に天使のような輪っかを乗せているため、ただの犬ではないことは一目で分かったが、大切な外交の場とも言えるこの場に通常であれば連れて来る存在ではないことは確かだ。

各国代表者が首を傾げ、突っ込んでいいのか戸惑う。

人種王国使用人女性達は、『可愛い』、『撫でてみたい』、『お腹に顔を埋めて匂いを嗅ぎたい』など愛玩犬として愛でたい欲求を胸中に抱いていた。

リリスも事前の打ち合わせで聞いていないため、どう反応していいか分からず、とりあえず流す。

「ワン! ワン! ワン!」

犬は元気よく鳴き、抱えられている妖精メイドに怒られ、口元を掴まれつつも、くりくりとしたつぶらな瞳を周囲に向ける。

その姿もただただ可愛らしかった。

若干天使の輪を浮かべた犬のせいで微妙な空気になりながらも、無事に『巨塔の魔女』一行が、『人種王国女王就任式典』のため人種王国王城入りを果たす。

☆ ☆ ☆

――夜。

表向きの歓迎会を終えて、リリス私室で『巨塔の魔女』エリーとの話し合いの場が非公式で持たれる。

この話し合いは事前に決められていた物で、情報交換などを改めて確認。

他、報告する内容があればおこなう場である。

予定通りの時間、リリス私室にエリーが顔を出す。

昼間、妖精メイドに抱えられていた頭の上に天使のような輪っかを乗せている犬を連れてだ。

『巨塔の魔女』が犬を抱えてリリス私室に顔を出したのである。

出迎えたリリスは、『なぜ犬を連れて』と疑問を抱くが、相手は自分を人種王国女王に後押しした最大の功労者の一人。失礼な態度など取れず、疑問を飲み込み笑顔で挨拶を交わす。

「お待ちしておりました、『巨塔の魔女』様――いえ、エリー様」

「夜分遅くに失礼いたしますわ」

私室に入ると、エリーがフードを取る。

リリス私室は事前にエリー監修のもと防諜対策をしているため、ほぼ盗み見ることも会話を聞くことも不可能だ。

なので礼儀としてエリーがフードを取る。

二人が挨拶を交わし、ソファーへと移動。

ユメ(偽)が座った後、お茶を並べる。

彼女は一礼してから壁際へと移動した。

エリーは抱き上げていた犬を、自身の隣へと下ろしてリリスへと向き直る。

「まず情報交換等の前に、リリス様には一つ事後承諾で申し訳ございませんが、ご許可を頂きたいと存じますわ」

「? なんでしょうか。我らは盟友同士。エリー様のお望みならば、どのような内容だろうとご許可いたしますよ」

「寛大なご配慮ありがとうございますわ。内容に関しては本人がお話をした方が説得力があると思いますの。では、ウルシュさん、後はお願い致しますわね?」

「――畏まりました、エリー様」

「!?」

人種王国女王としてエリーへの応対をしていたリリスが、彼女の隣に座る犬――ウルシュと呼ばれたモノが突然喋り出したことに息を呑む。

頭に天使の輪っかがあるため、普通の犬とは違うと予想はしていたが、まさか喋るとまでは考えていなかったのだ。

さらにその声質は、渋い男性のものだった。

可愛らしい犬の容姿と、激渋い男性の声のギャップにもリリスは驚かされる。

一方、ウルシュは昼間見せていた可愛らしい犬の姿が嘘のように居住まいを正し、リリスへと挨拶をする。

「わたくしは『レベル5000 雷鳴の統括者 ウルシュ』と申します。リリス女王陛下に拝謁賜りましたこと恐悦至極に存じます。以後、お見知りおきを」

「ご、ご丁寧、あ、ありがとうございます……」

ウルシュの挨拶にリリスは女王としての仮面を維持することが出来ず、戸惑いながら返事をすることしか出来なかった。

(い、以前、ライト様と玉座で対面した時、多数の配下の者達がいましたが……。こんな可愛らしい子、いたかしら?)

リリスが思わず胸中で振り返る。

『奈落』最下層、玉座に一度招待され、ライトから『妹の命の恩人だから』と樽に一杯に入った金貨、最高級ポーションを渡された。

その席にはライトだけではなく配下達が多数集まり、リリスのことを見ていたが、彼女の記憶にウルシュの姿はない。

実際は当時、彼女が緊張して見落としていただけだが。

リリスが戸惑っているのを尻目にウルシュが話を進める。

「――反貴族連合が、女王就任の妨害をしてくることが予想されます。その際、万が一に備えて『巨塔の魔女』エリーが、リリス女王陛下の護衛に。わたくし、ウルシュが妖精メイド達の護衛に付かせて頂ければと思います」

他にも、王家の秘密通路にダークナイトを配置、さらにリリス兄であるクローの所にも護衛兼監視役をつけるらしい。

ウルシュが続ける。

「最初は魔術等で姿を隠し護衛する案が出たのですが……。姿を隠しても、敵対者に見破られる可能性があります。ですからわたくしのような見た目が愛玩犬の者が妖精メイド達の護衛に選ばれたのです。『敵を騙すならまず味方から』と言いますが、仲間である妖精メイド達を守るため、事後承諾の形になってしまい大変申し訳ございません。ですがどうか彼女達の安全のため、どうかわたくしが側に居ることをご許可願えませんでしょうか」

ウルシュが渋い男性の声で頭を下げてきた。

昼間、中庭で見せた可愛らしい犬の姿も、敵対者を騙すための演技だ。

可愛らしい犬の態度を取れば、見た目と合わさり、警戒を抱くのは難しい。

見た目可愛らしい犬の姿との落差に、混乱しつつも拒絶する訳にもいかずリリスが返答する。

「ウルシュ殿、頭を上げてください。もちろん、許可いたします。妖精メイドさん達を守護するためなら必要なことでしょうから」

「リリス女王陛下の寛大なご配慮ありがとうございます」

ウルシュは返事を聞くと、もう一度深々と頭を下げ、謝辞を示す。

実際、リリスからすれば今更ウルシュなどが護衛につくことを拒絶できるはずなどない。

エリーが笑顔で話を引き継ぐ。

「リリス様のご許可を頂けて本当によかったですわ。では改めて情報交換等にまいりましょうか」

ウルシュ滞在の許可を出した後、ようやく本題へと入る。

夜はまだ始まったばかりだった。