作品タイトル不明
17話 エリオ一行、首都へと到着
「いやぁ~、エリオくん、本当に強くなったね。まさか村から首都まで来る間、ゴブリンをほとんど一人で倒すなんて」
「あはははは、褒めてくださってありがとうございます、ヨールムさん。でも、実際は僕一人じゃなくて、彼らが援護に回ってくれたお陰ですから」
地元に行商へ来るヨールムの願いで、エリオは村の一部物覚えが良い若者達を連れて護衛を務めつつ人種王国首都を目指していた。
途中、ゴブリンの襲撃にあったが、村の男達が援護――正確には初の村外の実戦ということもあり浮き足だって、ゴブリンと1対1でまごついていた。
その間に、エリオが背後に回り込み、ゴブリンを倒していったというのが真実だ。
もちろん、村の若者達もエリオが謙遜と自分達を傷つけないように言っていることは理解している。
馬車の後部に座り、周囲を見回していた若者達が声をあげる。
「自分達は足を引っ張ってばっかりで、実質ゴブリンを倒していたのはエリオさんですよ!」
「マジ、エリオ隊長、凄いっす!」
「自分もいつかエリオさんみたいになりたいですよ!」
若者達は声に元気はあるが、頼りない。
エリオは彼らの声に、微妙な笑顔しか返せなかった。
空気を変えるため行商人ヨールムが声をあげる。
「とにかく、今回はエリオくん達のお陰で助かったから、護衛代に色を付けておくよ。首都はこれからお祭りで盛り上がるから、その代金で楽しんだらどうだろう」
「自分、街のお祭り初めてで楽しみです!」
「母ちゃん達に護衛代金でお土産を買わないと!」
「街のお祭りは派手で、色々可愛い子達がくるんですよね? もしかしたら運命の出会いとかあったりして!」
若者達は子供のようにお祭りについてわいわいと盛り上がった。
正確にはお祭りではなく『人種王国女王就任式典』だが。
リリスが女王に即位したと内外に広めるためのイベントだが、彼らからすればお祭りの一種と思われてもしかたがない。
リリス側も、情報が大々的に広がれば成功のため、問題はなかった。
若者の一人が話題を振る。
「エリオ隊長は今回の護衛代で何か買ったりするんですか?」
「俺は特に買いたい物もないし、貯金かな」
「えぇぇ! 折角の街のお祭りなのにもったいないですよ!」
エリオの返答に若者達が驚きと不満そうな表情を作った。
しかしエリオは意見を変えず話を続ける。
「妹のミヤがシックス公国魔術学園に通っているだろ? 授業料は奨学金でなんとかなっているけど、生活費は必要らしいから。ミヤが少しでも勉強に集中できるように、仕送りをしてやりたいんだよ」
エリオの真面目な返答に、浮かれていた若者達が微妙な表情を作る。
彼の立派な考えに、自分達はお祭りで散財したり、家族のお土産を買おうとしているのが恥ずかしくなってしまったのだ。
さすがにエリオも空気の変化に気付き慌てて弁解する。
「あ、あくまでこれは俺の家の事情だから! 気にしないでくれ。むしろ、首都で買い物、しかもお祭りでなんて滅多に出来る経験じゃないし、見識を広げるためにも行動する方がいいと思うぞ!」
エリオが精一杯のフォローをするが、上司に『今日は無礼講だから、自分を気にせず羽目を外しなさい』と言われて、素直に騒げる者達だけではない。
若者達は愛想笑いを返すだけで、微妙な空気は払拭できなかった。
(しまったな……余計なことを口にしちゃったな)
エリオは、自身の失言に内心で反省してしまう。
自分だって、目上から『羽目を外しなさい』と言われて素直に外せるタイプではない。
それを同行している若者達に求めるのは酷というものだ。
どうにか雰囲気を変えようと話題を探していると、先に行商人ヨールムが声をあげる。
「見えてきた。あれが人種王国首都だよ。思った以上に人が集まっているね。目的は我々と同じだろう」
彼の言葉通り、城壁に囲まれた街が目視できる距離まで来た。
出入り口の一つには長蛇の列が出来ている。
遠目でも馬車を大量に連れた商人、背中に限界まで荷物を背負った行商人、近くの村から来ているのか手に持てるだけの荷物を持った者達など――『人種王国女王就任式典』を商機と見て、商人達、それに類する者達が既に集まりだしているようだ。
もちろん『人種王国女王就任式典』――人種王国のお祭りを楽しむため足を伸ばしてきた者達も存在した。
まだ遠目だが、ヨールム達の所まで祭りの熱気が伝わってくるようだ。
お陰で先程まで微妙な空気だった若者達のテンションも爆上がりする。
「おおおぉ! マジ、こんな大きな街初めて見たわ!」
「自分も! 自分も!」
「すげぇー! あんなに人が並んでるし! 並んでいる人だけでウチらの村の人数こえるんじゃねぇ?」
まるで年齢一桁台の子供のように若者達が騒ぎ出す。
本来であればまだ街中に入っていないため、護衛として気を抜くのは不味いが……。
街が見える地点周辺でモンスターが襲ってくることはない。そもそも街に近すぎてモンスター自体がいないのだ。
むしろ、微妙だった空気が払拭できてエリオは内心安堵の溜息を漏らす。
ヨールムも若者達の楽しげな雰囲気が伝播し、楽しげな笑みを浮かべ語る。
「宿屋は行商人のツテで既に確保済み。外見はボロいが、室内は出来る限り清潔を心がけようと努力している穴場の宿で、古い分宿泊費が安いんだ。自分も含めて相部屋になるけど、お祭り期間中は護衛仕事を解くから、みんな楽しんで来るといい」
『ヨールムさん、あざっす!』
若者達がテンション高めにお礼を叫ぶ。
礼儀はなっていないが、本心からお礼を告げていることは理解できるため、ヨールムも笑顔を崩さない。
エリオもなんだか楽しくなってきて、若干意識を変える。
(お金を使うつもりはなかったから、お祭り期間中は宿屋で過ごそうと思ったけど……。折角だし、ミヤへの仕送りと手紙を送るついでに話題の一つとして見て回るのもありかな)
あくまで散歩で、ミヤへの仕送りのため護衛代を使うつもりはない。
それでも『お祭り期間中の街中をぶらぶら見て回るだけでも楽しいだろうな』とエリオは考えたのである。
皆が『人種王国女王就任式典』――お祭りを心底楽しみにしながら首都出入り口を目指すのだった。