軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 リリスの決断

「わ、わざわざお越し頂きまして誠にありがとうございます、メイ様」

「いえ、こちらこそ、リリス女王陛下直々のご挨拶、痛み入ります」

人種王国首都にある王城――というには小さな屋敷の執務室で、リリスは『奈落』の主であるライトの片腕である『SUR 探求者メイドのメイ レベル9999』と挨拶を交わす。

執務室にはメイ、リリス、給仕を務めるユメ(偽)しかいない。

他の者達は執務室に近づかぬよう手を回し済みだ。

今回の会議は公的なものではなく、非公式。

決して記録に残せない裏の会議だ。

そのため、表だって行動する『巨塔の魔女』ではなく、ライトの片腕ともいえるメイが『奈落』最下層代表として秘密裏に顔を出しているのである。

互いに挨拶を終えると、テーブルを挟み、ソファーに座った。

ユメ(偽)がお茶を並べ終えて、壁際に移動したのを合図にメイが資料を提出する。

「我々が独自に入手した資料になります。まずは目を通して頂ければと」

「畏まりました。拝見しますね」

地上では考えられない程上質な紙に、文字が踊る。

当然、秘密裏におこなう会議に提出される書類内容が面白いはずがない。

リリスがページをめくるごとに顔色を青くしていく。

彼女は最後まで目を通すと、血の気の無い顔色で両手に握った書類をテーブルへと戻す。

あまりの顔色の悪さにメイが気を遣う。

「……体調がすぐれないようでしたら、また後日伺いますが」

「い、いえ、いえ、だ、大丈夫です。少々、気持ちを落ち着かせるお時間を頂ければ問題ありませんので……」

「了解致しました。気持ちが落ち着いたらお声をおかけくださいませ」

リリスはメイの許可を得ると、両手を握りしめ額に押しつけ、目を瞑る。

まるで神に祈る敬虔な信者のような体勢で、気持ちを落ち着かせようとした。

――約3分後、彼女はまぶたを開き、いくぶん体調を戻した顔色で切り出す。

「書類の方、ありがとうございます。ですが、め、メイ様……こちらの内容は真実なのでしょうか?」

「もちろん。一部、証拠品も押さえ済みです。危険物のためリリス王女陛下の前にお出しするのは憚れますが、お望みなら」

「お、お気遣い頂きありがとうございます。そのお言葉だけで十分です」

リリスが、再び黙り込む。

資料に記されていたこと、それは――リリスの『人種王国女王就任式典』を阻止するために、リリスの兄クロー派閥の者達によって、首都に爆発物化した魔術道具が商店に販売済み。

その爆発で集まった耳目を利用して、警備が薄くなった城に侵入し、リリスを暗殺。

また『隔離塔』で捕らえられているリリス兄であるクロー奪還計画が練られている可能性が高い、と書かれてあったのだ。

(お兄様の派閥が何か企んでいるとは、こちらも報告で把握していましたが……まさか、首都に爆発物を配置するなんて。民がどうなってもいいと本気で考えているの? 他種ではなく、同じ人種同士なのに……)

リリスは反対派閥から恨まれているとは自覚していたが、自国の民草すら犠牲にして、自分の暗殺を考えているとまでは考えていなかった。

「……ご許可頂けるなら、今すぐにでも反対派の貴族とクロー元第一王子の首をお持ち致しますが?」

「……ッ!?」

メイの言葉にリリスが息を飲む。

彼女が冗談でも『許可します』と口すれば、彼女は躊躇いなく反対派の貴族とリリスの実兄クローの首を切り、彼女の目の前に並べるだろう。

彼らにメイ達に対抗する手段はないため、『死』は確実だ。

何より、

「お、お待ちください、メイ様! 罪状もなく反対派貴族達の首を落とせば反発は必至! 今後の国内統治に罅を入れることになります!」

「罪状は十分では?」

メイの指摘通り、意図的に爆発物を首都にばらまいている時点で、罪状は十分過ぎるほどだ。

しかし、リリスは納得しない。

「確かに罪状は十分ですが、表だって糾弾するにはいささか証拠が弱いかと。下手に表立って言及すれば、『リリスが自分達を陥れるために自作自演をおこなった』と騒がれます。大半の者達は証拠を押さえている以上、一蹴しますでしょうが、一部でも疑惑の目を持たれたら問題です」

今回の一件がもしかしたら、リリスが自分の邪魔になっている反貴族、実兄クローを処分するため自作自演をおこなったと誤解された場合、『次は自分達が邪魔になり証拠をでっち上げられ処分されるかもしれない』という疑念を生みかねない。

リリス的にはそれは避けたかった。

それに、心情的には実兄を殺したくはない。

「…………」

リリスは息を吸い、吐き出し――リリス個人ではなく『人種王国女王』としての表情を覗かせる。

「……なので彼らがばらまいた爆発物は秘密裏に集めつつ、一部は人的被害を出さぬようにしながらわざと爆発させ、混乱が起きているように偽装します。私の命を狙う反貴族達もわざと城へと誘い入れるべきです」

リリスは統治者としての冷静な表情で告げる。

「第三者にも分かるように『彼らこそが諸悪の根源だ』という証拠を作り、国中に喧伝すべきかと」

つまり、反リリス派貴族達が、動いているのなら、あえてわざと見逃す。

ただ見逃す訳ではなく、被害が出ないようにこちらの方でコントロールしつつ、第三者に分かりやすい派手な証拠を彼らの手で作らせようというのだ。

これなら実際、爆発物を散布したのも反リリス派貴族で、実際に被害が出て、恐らく自分の命を狙い城に乗り込んでくるのも予想がつくため、城内で待ち構えて取り押さえれば文字通り『動かぬ証拠』となるわけだ。

ここまで証拠が揃えば、リリスへの疑念はなくなる。

「もちろん、この混乱に乗じてお兄様を『隔離塔』から逃がさぬよう警備も厳重にいたします。これで上手く事が運べば、名実ともにお兄様を支持する者達は全て消すことができます」

『ですが』とリリスは続けた。

「私達だけの力では十全に問題を解決することは不可能です。なのでメイ様、どうかお力を貸して頂けませんでしょうか?」

リリスがソファーに座ったまま、頭を下げる。

「承知いたしました。問題ありません。微力ながらご協力いたします」

「あ、ありがとうございます!」

メイの返事を聞いてリリスが頭を上げ、破顔した。

彼女的にもリリスの提案は想定の範囲内だったため、その場合の返事を既に決めていた。 故に即答することが出来たのである。

メイとリリスは方針を決めると、細かい点について話し合いを開始したのだった。