作品タイトル不明
2巻発売記念毎日更新 ナズナの冒険者試験3
「あたい、地上で冒険者するのやっぱり止める」
『奈落』最下層に準備した冒険者ギルド(偽)で、集めた薪束を換金し終えた。
そのお金は、ナズナのお小遣いにしてよいと告げている。
彼女は喜ぶが同時に、地上で冒険者をする苦労を体験したせいか、先程のような台詞を口にした。
試験が終わったことで、冒険者ギルド(偽)は妖精メイド達の手によって片付けが進められていた。
僕達はそんな冒険者ギルド(偽)にあるテーブルの一角に座っており、そこでナズナが今回の試験の感想と冒険者になるのを中止すると告げる。
「よろしいのですの? あんなにライト 神様(しんさま) と一緒に冒険者として活動をするのを熱望していたではありませんですか」
同席したエリーの指摘に、ナズナは素直な気持ちを吐露した。
「確かにご主人様と一緒に冒険者になって地上で色々活動したいと思ったけど……。地上の人種差別とモラルが低すぎて、あたい、きっと我慢し切れず絶対手を出すから。あたいが地上で冒険者をするのは無理だって分かったぜ」
「ナズナさん……」
ナズナは自分自身を冷静に分析し、現状のまま地上に上がったら絶対に問題をおこしてしまう。だから、僕と一緒に冒険者活動をしたいが、諦めると自ら試験の辞退をしてきたのだ。
ナズナの成長を前に、エリーはまるで母親か、姉のように感動した面持ちを浮かべる。
僕はというと……。
(ナズナですらヤバいと分かるほど、やっぱり地上の人種差別とモラルって低いんだ……)
あまり細かいことにこだわらない、おおらかなナズナですら『自分は地上に上がって冒険者活動をしたら絶対に問題を起こす』と自覚するほど地上世界の酷さが浮き彫りになった気持ちになる。
ナズナが今回の試験を通して、知った地上の内実について愚痴り出す。
「地上は酷い酷いって聞いてはいたけど、あそこまで酷いとは思わなかったぞ。正直、今回の一件であたい的にはさっさと人種以外の種を滅ぼして、ご主人様がトップに立って世界を導いた方がまだマシな世界になると思ったぞ」
「珍しくわたくしもナズナさんと同意見ですわ」
彼女の発言にエリーだけではなく、片付けを続ける妖精メイド達も深く頷く。
「さすがにそれは極論過ぎるよ。差別は確かに酷いけど、人種の中にも悪人はいるし、他種の中にも中立の人達はいるから」
あまり極論を振りすぎて、実行しようとするのも問題のため釘を刺しておいた。
ナズナは口を尖らせて『ぶぅ~』と膨れながらも、僕の意見を大人しく受け入れる。
一転、今回行われた試験を楽しそうに語り出す。
「でもご主人様と一緒に試験とはいえ冒険者の仕事が出来て楽しかったぜ! まるで本当に冒険者になってクエストをおこなっている気分がしたぞ!」
「その点はナズナさんが羨ましいですわね。わたくしもライト 神様(しんさま) と一緒に冒険者として活動してみたかったですわ」
「ならエリーも試験をするか? あたいが薪を紐で上手に縛るやり方を教えてやるぞ! ご主人様から教わったやり方なんだ!」
ナズナが嬉しそうにエリーへと語りかける。
エリーに対して上から目線での自慢ではなく、僕に教えられた技術が本当に嬉しくて彼女にもその気持ちを伝えたくて語っているのだ。
エリーもその点を理解しているため、幼子をあやすように相づちを打つ。
「お気持ちは嬉しいですが、わたくしがライト 神様(しんさま) と一緒に冒険者になることはほぼ不可能ですわ。冒険者として一緒に活動して、万が一、『巨塔の魔女』と見破られたら色々支障をきたしますから」
その可能性はほぼ無いだろうが、何かしら事故や特殊なマジックアイテム等で知られる可能性もゼロではない。
そのため安全性を考えると、エリーが僕と一緒に冒険者をやるのは難しいのだ。
「なるほど、エリーも大変なんだな……」
「ライト 神様(しんさま) と一緒に冒険者が出来ないのは残念で仕方ありませんが、今のお仕事もやりがいがありますから問題はないですわ」
ナズナの同情にエリーが胸を張って返答する。
僕は二人のやりとりを眺めつつ、予想通り事が運んだことに内心でほっとしていた。
(ナズナが『人種以外の種を滅ぼして云々』まで言い出すとは思わなかったけど、概ね僕の予想通りに進んで良かったな)
ナズナのことだから、擬似的にも僕と一緒に『冒険者らしいこと』をすれば、その欲求が満たされるのではないかと予想した。
結果、僕の予想通り、試験という形だが、一緒に『冒険者らしいこと』をしたお陰でナズナは満足して無理に地上で冒険者をやらずに済んだ。
地上に対してやや偏った意見が作られたことは気がかりではあるが……。いや実情を知らせたらああなったので偏っているかというとそうでもないが。
僕が色々と心配していると、ナズナが提案してくる。
「試験だけど、あたいの初冒険者収入でご主人様やエリー、世話になったみんなにごちそうするぞ! 地上の気分の悪い奴らのことなんて忘れてみんなで楽しもう!」
どうやらナズナは試験とはいえ初冒険者で得たお金で僕達にごちそうしてくれるらしい。
ただ薪集めのため、そこまで金額は多くないので、せいぜい購買でお菓子を買ったらおしまいだろう。
しかし、その気持ちが嬉しくて僕も提案する。
「ありがとう、ナズナ。嬉しいよ。なら、折角だし、ここにはいないメイやアオユキ、他手の空いている子達も呼んで楽しもうか。無礼講と言うことで足りない分は、僕がお金を出すから」
「さすがライト 神様(しんさま) 、素晴らしいご提案ですわ!」
「エリーの言う通りだな! さすがご主人様、太っ腹だぜ!」
エリー、ナズナが手放しで喜ぶ。
他、話を聞いていた妖精メイド達も歓声を上げる。
こうして急遽、僕達はナズナの試験冒険者初給金祝いとしてパーティーを開くことになる。
地上の人種差別、モラルの低さを忘れるように皆、楽しくお祭り騒ぎで盛り上がったのだった。