作品タイトル不明
2巻発売記念毎日更新 ナズナの冒険者試験2
気を取り直して、冒険者登録(演技)をして『奈落』の外へ。
『奈落』最下層の冒険者ギルド(偽)で、薪拾いのクエストを受けた。
なので、近くにある原生林に向かったのだ。
アオユキの協力で、彼女配下のモンスター達の監視で、原生林に人影は無し。また僕達が活動している間は近づかせないようにしてもらう。
これで周囲を気にせず、ナズナと冒険者として薪拾いが出来る。
「それじゃ早速、薪を拾っていこうか」
「あたいに任せろ、ご主人様! ……ところでどうして薪なんて拾うんだ? 普通、冒険者ってこう凄いモンスターとか倒すんじゃないのか?」
ナズナが可愛らしく首を傾げて問う。
僕は改めて説明をした。
「ナズナの考えている冒険者は、世間一般的に考えられている冒険者の姿だね。でも、普通の登録したばかりの駆け出し冒険者は、薪拾いや薬草摘みなんかで経験と、装備を買うお金を貯めるものなんだよ。そして貯めたお金で装備を買って、近隣にいる一番弱いモンスターを倒して、戦闘経験を積んで、さらに強いモンスターやダンジョンなんかに潜っていくんだ。今回はお試しの試験だから、駆け出し冒険者らしく薪拾いを選んだんだよ」
「なるほど……つまりあたい達は今、下積みから頑張っている感じなのか!」
「そう、そんな感じ」
ナズナが腕を組み感心したように何度もうなずく。
建前上は、下積み経験として薪拾いを選んだ。
実際は、『奈落』原生林でナズナにモンスター狩りをさせたら、手加減を失敗し地形が変わってしまうかもしれないからだ。
さすがに地形が変わってしまったら隠蔽にどれだけの労力がかかるか……。
故に最初から、被害が出にくいクエストを選んだのである。
ナズナはこちらの思惑に気付かず、素直に信じて早速薪拾いに動く。
「よし! なら早速、薪拾いをするぞ!」
「……ナズナ、薪拾いをするのにどうして『プロメテウス』を抜くの?」
ナズナはなぜか躊躇いなく背中に背負っている大剣『プロメテウス』を迷い無く抜く。
「まさかとは思うけど……その辺の大木をプロメテウスで切って薪にしようとか考えている?」
「あはははは、ご主人様は冗談も面白いんだな!」
ナズナは僕の発言を面白そうに笑う。
彼女は大剣『プロメテウス』を手に語る。
「まさかそんな馬鹿なマネする訳ないぞ。大木を切るのは簡単でも薪の形に切るのは面倒だし、生木だから煮炊きにも使い辛いからな!」
「なら、どうして『プロメテウス』を出したんだ?」
意外としっかり考えていたため、反論の余地がなかった。
だが逆に大剣『プロメテウス』を抜く意味が分からない。
今度は僕が首を傾げていると、ナズナが答えを示す。
「摂理をねじ曲げろ! プロメテウス!」
ナズナが大剣『プロメテウス』で5人に分裂する。
彼女の 神話級(ミトロジー・クラス) 、大剣『プロメテウス』は世界に干渉し『摂理をねじ曲げる』ことが出来るのだ。
摂理をねじ曲げてナズナが5人に増やすのも造作もない。
「ご主人様、こうして5人になれば薪も5倍拾えるぜ!」
「あたいマジ天才だな!」
「ご主人様、あたいと一緒に薪拾いしようぜ!」
「あたいもご主人様と薪拾いしたいぜ!」
「こらぁ! それじゃ増えた意味がないだろ! ちゃんとばらけて集めないと駄目じゃねぇか!」
どうやらナズナは大剣『プロメテウス』で人数を増やして、人海戦術で薪を大量に拾おうと画策したようだ。
(うん、やりたいことも分かるし、人数が増えれば薪拾いの効率が上がるのも間違っていないけど……)
しかし決定的な問題はそこではない。
「ナズナ……非常に言いにくいんだけど、大剣『プロメテウス』で増えるのは無しだよ」
「!? どうしてだご主人様!?」
「あれじゃねぇ、人数が足りないとか?」
「それだ! ならもっと数を増やそうぜ!」
「100、いや1000人ぐらいにすれば、この辺り根こそぎの薪が拾えるぜ!」
「さすがご主人様、頭いいな!」
「いや、違うんだ……そもそも人数を増やしちゃいけないんだよ。地上では分身なんて皆できないから、悪い意味で目立つから駄目なんだよ」
『!?』
僕の指摘にナズナ達が衝撃を受ける。
やはりナズナは自身の力が地上では規格外というのを頭で認識はしていても、理解は出来ていないようだ。
大剣『プロメテウス』で増えたナズナ×5人を元に戻してもらう。
僕とナズナの二人で、紐を片手に薪拾いを開始した。
「変に短かったり、長かったり、太かったりを選ばず、なるべく大きさが近いのを選んでまずは一度軽く集めるんだ。そして、束ねて軽く紐で縛って……」
「おお、なるほど……勉強になるぜ!」
ナズナは薪を集めて軽く縛る僕の手元を覗き込み良い笑顔を浮かべる。
説明後、とりあえずナズナにも薪拾いをしてもらう。
「これはちょうどいい長さだぜ! こっちは長いな……」
「長いなら、ちょうどよい長さに切るのもありだよ」
「切ってもいいんだ?」
「うん、ただ一般的には質の良い鉈やナイフ、体重をかけて折れる程度の太さの薪ならだけど」
どれにも当てはまらない場合、無理に薪束に入れるとバランスが崩れて、全部紐から抜け落ちたり、持ち辛くなる。
その点は注意が必要だ。
「あたいなら素手で切れるからな! とりゃ!」
ナズナが手刀で軽く一閃。
まるで最初から切れていたかのような切断面で薪がちょうど良い長さに切られる。
ナズナはうきうきと切った薪をしまっていた。
(そろそろ頃合いかな……)
数十分後、大分、薪も集まる。
ここで試験開始の合図を送った。
「お、おい、そこの冒険者達、だ、誰に断って自分達のシマで薪拾いをしているんだよ!」
「うん? ネムムに、妖精メイド達? ちらちら視線を感じていたけど、そっちこそ何をしているんだ?」
合図を送ると、ネムムに妖精メイド達×4人が顔を出す。
ネムム達がしている話を聞いて、ナズナが僕と一緒に『冒険者がしたい』と言い出した。
その話を聞いたメイが、彼女達に『ナズナに余計なことを教えた罰です』ということで、僕達に絡むチンピラ冒険者の役割を任されたのだ。
ネムムが若干涙目で告げる。
「な、ナズナ様、これは試験です。試験ですから。その点をお忘れなく」
「試験? ……ああ! 『奈落』最下層の冒険者ギルドでやったようなヤツか!」
「そ、そうです。その点を絶対にお忘れなく! いいですね?」
妖精メイド達がネムムの背後に隠れつつ、何度も頷く。
ネムムがレベル5000、妖精メイド達がレベル500で、ナズナがレベル9999だ。
(これはいくらなんでも可哀想じゃないかな……?)
メイド長であるメイが決めた以上、僕が横やりで口を挟む訳にはいかず大人しく見守るしかなかった。
ネムム、妖精メイド達は覚悟を決めてナズナに絡む。
「こ、ここは自分達のシマですから。薪を拾うなら、それなりの誠意が必要なんですよ」
「そ、そうです。誠意です」
「誠意って……ありがとうございます?」
ナズナは『誠意が必要』と問われ、首を傾げつつお礼を告げる。
予想外の対応に僕は可愛らしくて思わず和んでしまったが、ネムムと妖精メイドはそうもいかない。
「誠意と言ったら、お礼ではなく、金銭ですよ」
「金銭がなかったら、あーし達に、その今集めた薪を寄こせっていうか~」
「はぁ!? ど、どうしてあたいが集めた薪をオマエ達に渡さないといけないんだよ!」
ナズナは予想外の要求に驚き、思わず集めた薪を自分の赤ん坊の如く抱きしめる。
奪われないよう体で拒む。
しかし妖精メイド達は、ネムムの背後に隠れつつ要求を押し通す。
「こ、こ、断ったら、う、ウチの姐さんがだ、だ、黙っていないですよ!」
「で、で、ですね! 黙っておりませんよ!」
「ちょ! 自分を押さないでよ!」
妖精メイド達の盾にされて、ネムムが涙目になる。
演技とはいえレベル9999のナズナに喧嘩を売るのが本気で怖いらしい。
昔は僕もレベルが低かったため、レベルの高い者に喧嘩を売る恐怖は共感できた。
一人昔を懐かしんでいると、ナズナからひんやりとした空気が流れ出す。
「いきなり現れて意味不明なこと言いやがって……」
『ッ!?』
「ナズナ、ストップ!」
ナズナは彼女達が演技だということを忘れて、苛立ち、怒りを向けようとしたのだ。
レベル9999の苛立った怒りとはいえ、低いレベルの者からすれば立派な凶器である。
ネムム、妖精メイド達の顔色が原色を塗ったように青くなり、周囲から鳥達も全力で逃げ出す。
他冒険者が近づかないように監視しているアオユキ配下のモンスター達ですら、縮み上がるのを感じ取った。
僕はナズナの怒りを和らげるため、頭を撫でながら告げる。
「ネムム達はあくまで試験として言いがかりをつけてきただけだよ。本当にナズナから薪を取り上げようとしている訳じゃないから、落ち着いて」
「そ、そうです! ら、ら、ライト様の仰る通り、これはあくまでメイ様からご命令されたことで、本気でナズナ様から薪を取り上げようとしていたわけではありません!」
ネムム発言の後、妖精メイド達も全力で頷く。
苛立ちを押さえたナズナだったが、納得いかないと言いたげに頬を膨らませる。
「試験だっていうのは理解しているけど、何しても良いわけないだろ! なんだよ、薪拾いの誠意に金銭を払え、さもなくば薪を置いていけって! 理不尽過ぎるだろ!」
「ナズナの理不尽に思う気持ちはよく理解できるよ。でも意外と地上では起きる事例なんだ」
「えっ……」
僕は頬を掻きながら、指摘するとナズナが驚きの表情を作った。
別に彼女に対して意地悪をするため、理不尽な問題を起こしている訳ではないのだ。
「薪拾いや薬草摘みをしていると、さっきのネムム達のように絡んでくる先輩冒険者もいるんだよ。しかも相手が人種の駆け出し冒険者なら、小遣い稼ぎと嫌がらせも兼ねて獣人種とかがよくちょっかいを出してくるんだ」
この行為に関して冒険者ギルドは、あまりに酷ければ注意、罰則をもって問題を起こした冒険者に対処するが……。
被害者が人種の場合、その腰は途端に重くなる。
なので揉めても良いことなどないため、こういう時は素直に集めた薪を渡すか、足に自信があるなら逃げることがお勧めだ。
幸い、僕自身、過去2、3度しか経験したことがない。
その時は薪を素直に渡して見逃してもらった後、街の門が閉まるギリギリまで粘ってもう一度集め直すか、その日の金銭を諦めて食事を抜き節約して耐え忍んだものだ。
「ご、ご主人様、冗談とかじゃなくて?」
「冗談じゃないよ、実際、地上でよくある事例だよ」
「う、うわぁ……」
レベル9999の『奈落』最強戦力のナズナが、地上世界の低いモラル、人種差別のひどさにドン引きする。
ナズナがドン引きした所で、区切りも良いため薪集めを終えて、『奈落』最下層へと引き上げることにした。
あとは『奈落』最下層に作った冒険者ギルド(偽)に薪を渡して、賃金をもらえば試験は終了するのだった。