作品タイトル不明
2巻発売記念毎日更新 ナズナの冒険者試験1
「あたいもご主人様と一緒に冒険者がしたい!」
とある日。
僕が『奈落』最下層執務室で書類仕事をしていると、ナズナが訪ねて来た。
メイが用件を尋ねたが、『ご主人様にお願いがあって来た』の一点張り。
そのためとりあえず話を聞いたら、先程の台詞が飛び出してきたのだ。
この要求に僕は微苦笑を漏らし、メイは軽く溜息を漏らす。
僕は改めてナズナに向き合い問う。
「どうしたの突然、ナズナが『一緒に冒険者がしたい』だなんて。ナズナには僕がいない間、『奈落』最下層を守ってもらう役目をお願いしたと思ったけど」
「もちろん、ご主人様から任された『奈落』最下層の護衛は大切な仕事だ! でも、あたいもネムムが話していたような冒険を、ご主人様と一緒にしたいんだ!」
ナズナが目をキラキラと輝かせて、話を聞かせてくる。
より具体的に『ネムムが話していた云々』について問い出すと、ナズナは笑顔で答えてくれた。
つい先程、ナズナがお菓子を買いに購買店に向かうと、廊下の隅でネムムが休日の妖精メイド達にせがまれて僕の地上での冒険者活動について立ち話をしていたらしい。
ナズナは内容に興味を抱き、お菓子も買わずふらふらとその場に参加。
レベルが高いのと、話の邪魔をしないようにナズナが気配を消して近づいたため、ネムムも気付かず饒舌に地上での冒険者生活について語り続けた。
妖精メイド達を楽しませるため、冒険者として華やかな部分だけを語り聞かせていたら……気配を消して聞いていたナズナの心を捕らえてしまったらしく、『あたいも地上でご主人様と一緒に冒険者がしたい』という気持ちになったらしい。
そのまま我慢できず、ちょうど僕が執務室で書類仕事をしていると知っていたため直談判に顔を出した。
以上が話の経緯である。
「あの娘達は……」
一通り話を聞いたメイが、頭痛を覚えたように額を片手で押さえた。
だが、むしろ僕としては、ナズナの行動に共感を覚える。
(田舎に住んでいた子供の時代、無駄に都会に憧れたな……。家族の迷惑にならないため村を出たのもあるけど、都会で華やかな生活をしたいという気持ちも少しはあったっけ)
ついつい過去を懐かしむ。
都会に出れば田舎者の自分でも華やかな生活を送れると夢見ていた。
結果、冒険者ギルドで人種差別を受け、まともな仕事にありつけず極貧生活を送り、最終的に『種族の集い』パーティーに騙されダンジョン奥地で殺されかけた訳だが……。
ナズナの姿が、都会に出る前の自分と重なる。
(とはいえナズナを地上に上げるのは無理だ。こればかりはいくら彼女の頼みでも叶えてあげられないよな……)
別にナズナが嫌いで『一緒に冒険者など出来ない』と言う訳ではない。
地上では人種差別が激しく、また突発的な問題が起きたら臨機応変に対処する必要がある。
真っ直ぐな性格のナズナがそれに対応できるとはとても断言できないし、彼女はレベル9999だ。
下手に暴れただけで街ひとつが重大な致命傷を負って、多数の死者が出かねない。
(かといって、問答無用で却下するのも可哀想だし……)
大きな瞳をキラキラと輝かせて、僕と地上で一緒に冒険者をするのを楽しみにしている彼女に対して拒絶は難しかった。
僕が迷っていると、メイが先に口を開く。
「ナズナ、貴女を冒険者にさせる訳にはいきません。ライト様の足を引っ張るだけではなく、手加減が苦手な貴女が地上で暴れた場合、どれだけの被害が出るか分かりませんから」
「あたいだって手加減ぐらい出来るし!」
「駄目なモノは駄目です。聞き分けなさい」
「いーやーだー! あたいもご主人様と一緒に冒険者になって冒険するんだー!」
メイに頭から反対され、ナズナが意固地になって声をあげる。
今にも床に仰向けになって手足をジタバタしそうな勢いだ。
正直、メイとナズナのやりとりが親子のようで、個人的に微笑ましかった。
だが、いつまでも眺めている訳にはいかない。
僕は咳払いをして、二人の視線を集める。
「メイの意見も尤もだ。地上ではどのような問題が起きるか分からない。強すぎるナズナが手加減を間違えて、無辜の人達を傷つけるようなことになったら大問題だ」
「ううぅ……」
ナズナが僕の発言に肩を落とす。
自分の意見が却下されると考えて、落ち込んでしまったのだ。
僕は話を続ける。
「でも、ナズナだって頭から『却下』と言われても納得できないよね? なら試験をしてみないか」
「試験ですか?」
メイが小首を傾げながら問う。
「そう試験。ナズナが本当に地上で冒険者としてやっていけるか、事前に試験をしてみればいいんだよ。それに合格すれば、メイも安心してナズナを地上に送り出せるだろ?」
「確かに筋は通っておりますが……」
「…………」
ナズナが無言で再び瞳に光を取り戻し、メイを見上げる。
メイもこの期待の瞳には逆らえなかったらしく、渋々納得した。
「畏まりました。ではナズナがその試験に合格したら、私も黙って彼女を地上へ見送りましょう」
「やったー! あたい、頑張って試験に合格してご主人様と一緒に冒険者をするぞ!」
ナズナは無邪気に両手を上げて、喜びを全身であらわにする。
メイも彼女の喜びように嬉しそうな笑みを浮かべるが、その後に『やっぱり不安です』と言いたげな表情を作る。
もしナズナが合格して、冒険者として地上に上がったら、どんな問題を起こすか……。
想像しただけで頭が痛くなったのだろう。
個人的にもメイの気持ちも理解できるが……。
(恐らくナズナのことだから……)
僕としては今回の一件にある程度の予想をつけているため、こうした提案をしたのだ。
メイが想像するような悪いことにはならないだろう。
こうして、ナズナの『冒険者試験』が開始されるのだった。
☆ ☆ ☆
ナズナの『冒険者試験』は、『奈落』最下層にある多目的スペースでまずおこなわれた。
『奈落』最下層多目的スペースとは、未だ手をつけていない場所のことだ。
『奈落』最下層を完全に開発するより、ある程度手をつけない場所を作っておいた方が、いざという時に対応がしやすいと考えてあえて手をつけずにいた。
仮に人数がもっと増えたら、住居スペースにするもよし。
食料生産をするため畑にしてもいい。
場合によっては娯楽施設として開発してもいい。
そんな自由度の高い場所である。
今回は皆に協力してもらい、ナズナの『冒険者試験』会場にした。
エリーの力で『冒険者ギルド室内』っぽく内部を改造。
受付嬢役、他冒険者役として妖精メイド達、地上で活動しているモヒカン達にも参加してもらう。
一見すると本当に地上にある『冒険者ギルド』そのものだ。
ルールの説明をする。
「僕が一緒に試験官兼冒険者パートナーを務めるから。冒険者登録と、一般的なクエストを受けて達成するまでを実際にやってみよう」
「分かったぜ、ご主人様!」
僕は地上で活動する格好、冒険者ダークの姿で隣に立つナズナへと声をかける。
彼女も背中に大剣を背負い、甲冑姿で気合いも十分だ。
冒険者ギルドの端で、建物や内装作成をしたエリーが冒険者役をしつつナズナを心配そうに眺めている。
ナズナはその視線に気付いていないのか、終始ご機嫌だ。
「それじゃナズナ、早速試験を開始しようか」
「おう、あたい、頑張るぜ!」
ナズナは元気よく返事をした。
一度、僕達は建物の外へと出る。
内部に入ったら試験開始だ。
ナズナが足取りも軽く意気揚々と冒険者ギルド(偽)へと足を踏み入れる。
僕も後から続く。
冒険者ギルド(偽)内部は冒険者(という建前の妖精メイド)達が居て、パーティーメンバー同士で会話をしていた。
そのせいか、雰囲気はかなり地上にある冒険者ギルドのものに近い気がする。
僕はナズナを連れてカウンターへと向かう。
「ナズナ、ここで冒険者登録をするんだよ」
「ここで冒険者登録を済ませたら、ご主人様と一緒の冒険者になれるのか!」
(あくまで試験ってこと忘れてないよね?)
ナズナは僕と一緒の冒険者になれるのが嬉しいのか瞳をキラキラと輝かせる。
しかし、これはあくまで試験、非公式のごっこ遊びに近いのだが……。
それを忘れていないかちょっと心配になる。
「ギャハハハハ! おい、見ろよ。あんな子供が冒険者になるつもりだぜ!」
「ぼくちゃん達、ここは遊び場じゃないんだぞ!」
「ガキは家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな。 ヒューマン(劣等種) のガキが!」
モヒカン達が、地上の冒険者のようにヤジを飛ばしてくる。
モヒカン達も人種だが、今回は試験ということで、他種が飛ばしてきそうなヤジを口にしてもらった訳だが……。
「――おい、誰だ。あたいだけじゃなく、ご主人様まで侮辱した奴は……」
ナズナが声を低くして、ヤジが飛んできた方角を睨み付けた。
それだけで室内の温度が物理的に下がったように寒々しくなる。
演技とはいえヤジを飛ばしたモヒカン達が、一瞬で血液を全て抜かれてしまったかのように青ざめてしまう。
僕は慌てて彼女を止めた。
「ナズナ、落ち着いて! これは試験で、今のは演技としてヤジを飛ばしてもらったんだよ!」
「でもご主人様! いくら演技だからって、ご主人様を『 ヒューマン(劣等種) 』とか言うなんて……ッ!」
「ナズナ……『 ヒューマン(劣等種) のガキ』なんて地上の人種にとっては挨拶のようなものなんだよ」
「えぇえ……」
僕の発言にナズナが怒りを霧散させて、ドン引きする。
彼女は信じられないのか、問い返す。
「た、確かに地上では人種は差別されているって聞いたけど、見ず知らずの相手からいきなり『 ヒューマン(劣等種) 』とか馬鹿にされるって、失礼にもほどがあると思うんだけど……」
「ナズナの言いたいことは分かるけど、本当のことなんだよね」
戸惑うナズナに、地上で冒険者として活動しているモヒカン達がさらに事実を告げた。
「ナズナ様、口で『 ヒューマン(劣等種) 』と呼ばれるだけまだマシですよ」
「場合によっては、冒険者ギルドで、『 ヒューマン(劣等種) がまともに冒険者なんてできるわけないだろ。冒険者になりたかったら、俺を倒せ』とか言い出す奴もいますから」
「ああ、たまに居るよね。そういう奴。僕は運良く遭遇しなかったけど」
冒険者になるためギルドを訪れ、冒険者登録をするのだが、希に古参だがうだつの上がらない冒険者が、登録前の希望者に絡んで妨害するケースが存在する。
その場合、一度大人しく登録を諦めて、出直すのが吉とされていた。
たまに田舎から出て来た若者が、勝負を挑みボコボコにされ、心を折られる事案も年に数回はあるのだ。
この話を聞いたナズナが首を傾げる。
「冒険者になるのを妨害するって……それやっていいのか? だって、冒険者ギルドの職員でもないのに選別を勝手にするなんて、営業妨害じゃないのか? なにより冒険者が一般人に手を出すなんて捕まったりないの?」
「あ、うん、普通ならそうなるんだろうけど、人種相手だとね……」
「ですね。大抵、人種冒険者の登録を邪魔するのって、他種ですから……。ギルド側も、治安兵士側も大抵黙殺するっすね……」
僕とモヒカン達が、自虐的な笑みを零す。
冒険者ギルドからすれば、人種なんてそこまで役に立たないため、少数が妨害されて登録が若干減ろうが、割とどうでもいい存在だ。
治安維持側も、人種王国などならともかく他国の場合、治安を維持する側が他種で人種差別が根底にあるため、よほどの重要事件で無い限り被害にあっても相手にされない。
冒険者登録を邪魔された程度で訴えても、『そんなくだらないことをいちいち訴えるな』と一喝されておしまいだろう。
「ええぇ……」
僕達の返答にナズナは、再度ドン引きしてしまう。
彼女の『冒険者になるという憧れ』が急速に縮むのを見て取ることができたのだった。