作品タイトル不明
15話 最悪に備えて
「『人種王国女王就任式典』を妨害するため複数の商人を通し、魔術道具を転売。魔術道具自体はたいした物ではありませんが、どうやら爆発する力が付与されているようです。ライト様のご指示で念のため人種王国首都を調査した結果、発見された次第です」
僕はメイからの報告を受ける。
メイの言葉通り、ユメが地上で遊ぶ以上『人種王国女王就任式典』の会場となる人種王国首都が本当に安全かどうか事前に調査していた。
結果、とある魔術道具が商人を通じて、各店舗に転売。偶然、僕の配下がその魔術道具に爆発する力が込められていることに気付いた。
背後を洗うと持ち込んだ商人に悪意は無く白だった。
さらにその背後にいるクロー派閥の一部貴族が、『人種王国女王就任式典』妨害を狙って魔術道具を意図的に流布していることが分かったのである。
「ユメが楽しみにしているお祭りを妨害しようとするなんて……」
念には念を入れて安全確認のため調査を依頼したら、本当に危険物が出てくるとは……。
ユメが楽しみにしているお祭りを破壊し、人々に被害をもたらそうとする相手の悪意に僕は怒りを覚える。
メイが進言してくる。
「今すぐ爆発する可能性がある魔術道具を回収し、今回の一件で糸を引いている貴族達の始末をいたしましょうか? ライト様のご指示があれば、本日中に首級をお持ち致しますが」
彼女の言葉通り、僕が指示を出せば、今回の作戦を実行した裏で糸を引く貴族達を始末することは容易い。
クロー派閥の貴族達が考えていることは、おおよそ見当もつく。
(恐らく街中に爆発する魔術道具を転売し広げて、お祭り中に爆発騒動をおこす。皆の耳目が爆発騒動に向けられている最中に『隔離塔』からクローの救出。同時にリリスの命を狙うぐらいはしてくるだろうな)
自分達が本来守るはずの民達を傷つけてまで、目的を実行しようとする作戦だ。
クロー救出だけではなく、ほぼ確実にリリスの暗殺も狙っているだろう。
僕は改めて提出された書類を手に取る。
「今回、お祭りの最中に販売される魔術道具に爆発する力が付与されているんだよね」
「はい、基本、魔力を込めると明かりが点灯する魔術道具などの核となる小さな魔石に、爆発する魔方陣が刻まれておりました。爆発する威力は、単体ではそこまででもありませんが、まとまって爆発した際は、それなりの規模になるかと」
他には種火をともす魔術道具、コップ一杯の水を生み出す、一定時間風を起こす魔術道具など、正直、小物レベルの魔術道具ばかりだ。
しかも、一定時間経つと、爆発する時限式で無駄に凝った魔方陣が組み込まれていた。
並の魔術師では、小さすぎて注意して見ないと気付かないレベルだ。
とはいえ、この程度の魔方陣を刻むのは並の魔術師でも簡単にできてしまう。
魔石が勿体ないのと、大きな魔石でなければ十分な爆発力を確保できないため、普通は実行しないが。
今回は首都の混乱を狙っているのと、小さくても数を用意してまとめて爆発させることで一定の威力を確保するのが狙いだろう。
「しかも随分、数が多いね」
その数は約1000個だ。
「敵は流通経路を分散し、国を複数経由し、また少数ずつ集めることで不自然さを消す努力をしております。その集める際、複数の魔術師に依頼して魔方陣を刻んだと思われます。なので魔術師側の足取りを掴むのは難しいかと」
「本当に徹底しているね。よほどクローを廃して、リリスを女王に据えたのがお冠らしい」
ただ正直、殺意が高すぎる気がしなくもない。
「……『ますたー』、もしくはその類いの超越者がかかわっている可能性はあるかな?」
「現時点では決定的な証拠はありませんが……。何かお気づきになられたのですか?」
メイの問いに首を振る。
「クロー派閥がリリスの女王就任を喧伝するお祭りをいくら妨害したいからといって、いくらなんでもこれはやり過ぎだと思ってさ。だって、注意を引くためとはいえ、自分達の民を大勢巻き込むようなマネをするんだよ? いくらなんでも強引すぎないかな」
「確かにライト様の仰る通り強引過ぎる気が……」
「印象だけで証拠はないけどね。メイ、もう少し持ち込まれた魔術道具の経路と『ますたー』などの超越者が関わっていないかの調査を頼むよ」
「畏まりました」
メイが僕の指示に一礼した。
もし『ますたー』が関わっているとしたら、竜人帝国側のだろう。
しかし、彼らは『巨塔の魔女』、人種王国から距離を取り続けている。
前回、魔人国が音頭をとって開催したシックス公国会議で、竜人帝国はリリス女王就任について賛成・反対もせず棄権した。
以後、 竜人(ドラゴニュート) 帝国は人種王国からずっと距離を取り続けてきた。
(今になって手を出してくるのか……。だとしたら何かの理由があったのか。『巨塔の魔女』が大きくなりすぎたからか?)
『人種王国女王就任式典』が、『竜人帝国側に都合が悪いから手を出すことにした』とは考えにくい。
もし都合が悪いならリリスの女王就任を拒否しているだろうし、竜人国にとってはそこまでこだわっているという感触はなかった。
なので本来なら、今回の一件に竜人帝国側が関わってくることなどありえないのだが……。
(一応、対応しておいた方がいいかな)
今回は地上にユメが顔を出すため、敵の動きに備えておいて損はない。
僕は追加でメイに指示を出す。
「今回の一件はリリスに報告をしておいてくれ。恩がある相手の庭で勝手に行動する訳にはいかないからね。情報を上げて彼女の判断をくだしてもらおう。あと念のための対策をしておきたいから、アイスヒート、ウルシュ、ダークナイトを執務室に呼んでくれないか」
「畏まりました」
メイはもう一度頭を下げて、アイスヒート達を呼び出すため行動を起こす。
クロー派閥問題程度なら、いくらでも対処可能だ。
だが楽観視せず最悪に備えて手を打っておくべきだろう。
(やれやれ、普通にユメと一緒にお祭りを楽しみたいだけなんだけどな……)
多々問題が起きていることに僕は内心で溜息をもらしてしまうのだった。
☆ ☆ ☆
――後日、人種王国王城の執務室で、ユメ(偽)経由で、リリスの元に書類形式で報告が届く。
「ま、まさかこれほどのおこないを引き起こそうとするなんて……」
リリスはライト達から送られてきた魔術道具に偽装した爆発物、彼らの狙いなどがまとめられた資料に目を通し顔色を青くした。