軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 不快感

子爵領屋敷の一角でファイト次期子爵の嫡男と同じく、ゴドー次期子爵嫡男が顔をつきあわせて話し合う。

会話の内容は『クロー第一王子救出』についてだ。

彼らは竜人帝国側『マスター』の一人、セスタ経由で『隔離塔』に監禁されているクローから手紙を受け取っている。

手紙に書かれている内容は――以前、提出した作戦計画の許可だ。

ゴドーが酒で口を湿らせながら、安堵の溜息を漏らす。

「さすが次期国王のクロー王子殿下だ。クロー王子殿下は心のお優しいお方だから、作戦目標のひとつ『リリス暗殺』についてご了承頂けないかもと懸念していたが……『良きに計らえ』と我々に全てお任せ頂けるとは。この信頼になんとしても応えねば!」

ゴドーは熱く語っているが、彼は本当の意味では人種王国やクローに忠誠を誓っている訳ではない。

彼は野心が高く、今回の作戦が成功してクローを無事に救出してリリスを暗殺すれば、『多大な貢献をしたゴドーが次期宰相になる』と計算しているから、やる気に溢れているだけだ。

問題があるとすれば……このリリス暗殺にクローが二の足を踏み、受け入れられなかった場合だが、その懸念も手紙の返事から払拭された。

無事に作戦が成功すれば、ほぼ間違いなくゴドー自身の計算通り、彼が人種王国次期宰相になるのは確実だろう。

計画が成功すればだが……。

自身の薔薇色の未来を想像し、ご機嫌なゴドーの正面ソファーにファイトが座り、同じく酒で喉を湿らせていた。

彼はゴドーと違って、手紙を読み、哀愁を漂わせる。

「クロー王子殿下に実妹暗殺の決断をさせてしまうとは……。俺達にもっと力があり、魔女に唆されたリリス様にもっと早く気付いてお助けしていれば、このような兄妹どうしで血を流し合うことが防げたというのに……ッ」

ファイトは心底悔しげに歯ぎしりしながら、コップに残った酒を飲み干し、テーブルを砕く勢いで下ろす。

彼は口から唾液を飛ばしながら、魔女――『巨塔の魔女』を批判する。

「あの魔女は本当によけいなことを! 『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』という宣言は良いが、嫡男であるクロー殿下を差し置いて、リリス様を女王の座に座らせるなど何を考えているのだ! 魔女の気まぐれで結果、人種がまとまるどころか、クロー殿下とリリス様が争うことになってしまった! あの魔女、口では『人種の未来のため』とうそぶいているが、結局、血が流れるのをただ見たいだけではないか!」

逆にファイトはゴドーと違って、人種王国、クローに忠誠を捧げていた。

元クロー側近だが、妹姫であるリリスにも忠誠を誓っている。

しかし、彼女の暗殺計画には納得していた。

ファイト的には『長男であるクローが国王に即位すべき』という考えがまず第一にあるのだ。

なので、リリスにも忠誠は誓っているが、序列を乱すようなマネをするなら『暗殺もやむなし』と考えているのである。

リリス暗殺を実行しなければならないのも、『巨塔の魔女』が彼女を女王に就任させたからだと信じて疑っていなかった。

ファイト的には兄妹で争うことになったのも全て『巨塔の魔女』の陰謀とすら考えているほどだ。

ゴドーが酒をコップに注いでやる。

「気持ちは分かるが落ち着け、ファイト。貴殿の忠誠心にはいつも感心させられるが、今回の計画に失敗は許されない。熱くなり過ぎて失敗など、クロー王子殿下に申し訳がたたないぞ」

「すまないゴドー。どうしてもクロー殿下のお気持ちを考えると、自分自身の感情が抑えきれなくてな……」

ファイトは肩を落としつつ、注がれた酒に口をつけた。

ゴドーは軽く溜息を付きながら話を進める。

「とりあえずあの怪しげな人種の子供、セスタが仕入れたマジックアイテムは商人達に配布済みだ。何も知らない商人共が『人種王国女王就任式典』のお祭り気分に便乗して首都で品物を売りさばく。そしてある程度時間が経過したら、品物が爆発」

ゴドーが両手で爆発を表現するように左右に手のひらを散らす。

「我々はその爆発で首都が混乱している隙にリリス様を暗殺、そしてクロー王子殿下を救出する訳だが……。ファイトはクロー王子殿下救出に回ってもらうが、いいな?」

「もちろんだ。むしろ、ゴドーには汚れ仕事を押しつける形になってしまい申し訳ないぐらいだ……」

「気にするな。確かにクロー王子殿下――主君の窮地をお救いするのは騎士の誉れだ。これ以上の栄誉はそうそうないだろう。だからこそ、元クロー王子殿下の護衛であるファイトに相応しい。クロー王子殿下を守れず、『隔離塔』に監禁させてしまった汚名を今回の作戦でそそぐがいい」

「ゴドー……俺は良い仲間に恵まれた……」

酒が入っているのと、ゴドーの臭い台詞に感極まったファイトが、でかい筋肉質の体を丸めて涙を見せないようにする。

表だってゴドーは、元護衛であるファイトにクローを『隔離塔』からの救出を任せていた。

表だった理由として、先程口にした通りだが、実際は――。

(首都で爆発騒動が起きれば、リリスは王宮から兵士を派遣するだろう。その際、リリスの周囲は手薄になる。隠し通路から遡ってリリスの首を狩る方が被害は少ない。ガチガチに警備されている『隔離塔』を襲撃する方が危険度は高いからな。こういう時こそ、筋肉馬鹿の使い所だろう)

ゴドー自身、本気で『友の汚名をそそぐため』クロー救出を譲った訳ではない。

『隔離塔』からのクロー救出と、リリス暗殺。

どちらが自身への被害が少ないか考えた結果でしかない。

ファイトが絹の生地で作られた衣服袖で顔を拭うと、顔を上げる。

「ゴドー! 友の気遣い、主君クロー殿下の剣として、必ずや期待に応えてみせるぞ! そして、クロー殿下、いや、国王の下で互いに人種王国を今後も導いていこうではないか!」

「もちろんだ、友よ。作戦を成功させて、今度こそ正しき正当なる血統に玉座をお返ししようじゃないか。だが焦りは禁物だぞ。リリス様とて馬鹿ではない。我々は恐らく目をつけられている。決して先走ってはならぬぞ。もし先走って一人で動いたら、救えるものも救えぬからな」

「もちろんだ! 分かっているさ!」

ファイトがコップの中身を飲み干し、テーブルへと置く。

彼は酒瓶を手に取ると、ゴドーと、自分のコップに酒を入れ直す。

「作戦の成功とクロー殿下王家の繁栄を願い乾杯といこうではないか!」

「うむ、では乾杯といこう」

「おう! 乾杯!」

ファイトはコップを手に取ると、ゴドーのへと豪快にぶつける。

そのままファイトは一息で酒を飲み干してしまう。

ゴドーはその姿に肩をすくめて、自身も酒を口にした。

二人は作戦が成功し、互いに描く薔薇色の未来が必ず得られると信じて疑っていなかった。

☆ ☆ ☆

『奈落』最下層執務室。

僕は席に座りながら、メイからの報告を耳にして、不快そうに眉根を顰めた。

「貴族の一部が『人種王国女王就任式典』の最中に騒ぎをおこそうとしているだって?」

「いかがいたしましょう、ライト様」

メイの問いに僕は、眉根の皺をより一段深くした。