軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 クローとセスタ

セスタは子爵領で話し合いを終えると、手紙を懐に入れて人種第一王子クローが監禁されている『隔離塔』へと入り込む。

竜人帝国側『マスター』の彼からすれば、『隔離塔』なんて大それた名前の厳重な場所も、鍵のかかっていない自宅に帰るような気軽さでするりとクローの元へと辿り着く。

「おお、待っていたぞセスタ殿!」

ソファーに座り、不機嫌そうに酒を口にしていたクローだったが、セスタの姿を目にすると初対面の時が嘘のように歓迎ムードで出迎える。

彼の元側近達との橋渡しを何度もこなしていくうちに、『敵ではない。現状は味方だ』と認識した結果だ。

お陰で現在は胸襟を開く――まではいかないにしても、協力的な友人のような距離感を保っている。

セスタ的には別に深入りするつもりはないため、それ以上、踏み込むつもりはない。

クロー側も、『隔離塔』から脱出して、人種王国王座が手に入れば、『協力者』として約束通り支援はするが、それ以上肩入れするつもりもなかった。

胸中の思惑はともかく、互いに楽な距離感を得たとも言えなくもない。

「お疲れ様、王子様。はい、これゴドー子爵達からの手紙だよ。中身は『人種王国女王就任式典』当日、妨害を含めてこの『隔離塔』から脱出するための作戦内容が書かれてあるから。読んで覚えたら焼き捨てておいてね」

「うむ、了解した」

セスタから手紙を受けとると、いそいそとクローが内容を確認する。

「…………」

手紙と言っても、『人種王国女王就任式典』の妨害、『隔離塔』から脱出するための作戦が記されているため、そこそこの量があった。

なので一通り目を通すのにも少々時間がかかる。

数十分後――。

一通り読み込み、自身の中で作戦内容を咀嚼したクローがこわばった表情を作った。

彼は額に冷や汗を浮かべつつ、問う。

「せ、セスタ殿……この手紙に書かれている作戦内容を本気で実行するつもりか?」

「もちろん。なぜならこれが最も成功率の高い作戦だからね」

セスタは胸中ではニヤニヤと猫がネズミをいたぶるような感情を渦巻かせつつ、顔だけは邪気の無い笑顔を作る。

手紙にはなんと書かれていたのか?

作戦内容自体はそう難しくない。

セスタが仕入れたマジックアイテムを爆弾化。

金で雇った商人を通して、『人種王国女王就任式典』で盛り上がる首都に複数ばらまく。

時間が来たら爆発し、首都は混乱する。

『人種王国女王就任式典』の最中に大きな事件(爆発騒動)が起きれば、リリスもメンツのため、騒動を鎮静化させなければならない。

女王就任儀式は一時中断させ、すぐさま沈静させるためにも、王宮の兵士達すら一部を派遣するだろう。

結果、王宮の警備が薄くなり、意識も首都全体へ向けられる。

その隙にクローが囚われている『隔離塔』に、クロー派閥のファイト(子爵嫡男)が自領兵士や徴兵した農民の男手を伴い突撃して救出。

ゴドー(子爵嫡男)は、クローが伝えてくれた王宮隠し通路を利用し、内部へ侵入し、リリスの首を刎ねる――以上が大雑把作戦内容だ。

クローが唾液を飲み込み問う。

「作戦を立案した気概は認めよう。我ら王族のお膝元である首都での騒ぎも必要悪として目を瞑ろう。しかし、わざわざ妹……リリスの首を刎ねる必要はあるのか?」

この問いにセスタは明るい声で断言する。

「もちろん、必要だよ! だって、王女が死ねば、残る血統は元国王と王子様だけでしょ? 元国王は奔放過ぎて既に民の心は離れている。必然、人種王国玉座に座るのは王子様しかいなくなる。ねぇ、分かりやすいでしょ?」

まるで『1+1は2だよ』と簡単な算数を教えているかのような態度でセスタは答えた。

だがクローからすれば、『自分が得るはずの玉座を強引に奪ったリリス』ではあるが、実妹である。

いくら腹が立っても『実妹を暗殺』はやはりためらわれた。

クローは凡夫だが、根っからの悪人ではない。

ためらう感情があるのは当然だ。

しかし、凡夫故に、自身の欲望とプライドをコントロールし切れなかった。

セスタが胸中を手に取るように理解し、ニヤニヤと意地の悪い笑みで彼の背中を押す。

「あれあれ~、もしかして王子様、びびっちゃったの? 『自分こそが王位にふさわしい』って謳って、元側近の部下達までその気にさせて今更イモ引くなんて、かっこ悪過ぎない?」

「……ッ! ば、馬鹿を言うな! い、今更、怖じ気づくなどあるはずがない! 国をしょって立つ国王とは清濁併せ呑むもの! なにより最初に横紙破りを仕掛けたのはリリスの方でははないか! あ、暗殺して何が悪い!」

クローはセスタを睨み返し、命令する。

「作戦を実行しろ! リリスの……首級を必ずあげるのだ!」

「畏まりました王子様。子爵達にも伝えておくね」

セスタは彼の命令を耳にすると、満ち足りた美少女のような笑顔で返答した。

彼は満足そうに返事をした後、懐からアメ玉のような玉を取り出す。

セスタはそのアメ玉をクローへと差し出した。

「これは?」

「いざと言うとき、王子様を助けるマジックアイテムだよ。ファイト子爵なら無事に王子様を助け出すとは思うけど、万が一があるかもだし。その万が一に備えて身を守るために必要だから」

「う、うむ、分かった……。しかし、いくらアメ玉のようなマジックアイテムでも、ボクが所持していてはすぐにばれてしまうからな」

現在、クローは『隔離塔』の塔に監禁されている。

兵士が部屋の外で警備しているが、こうした会話程度なら気付かれる心配はない。

しかし、荷物は話が別である。

定期的に部屋に不審物がないかチェックされるため、小さなマジックアイテムといえど所持し続けるのは不可能だ。

作戦実行前に見つかったら面倒なことになるのは目に見えている。

セスタはその返答に笑顔で返す。

「大丈夫。このマジックアイテムは特別製で、飲み込んで体内で所持できるから」

「!? 飲み込むのか? これを……」

「そうだよ! 体内に入れておけば見つけるのはほぼ不可能でしょ?」

「た、確かに理論上はそうだが……」

部屋の調査の際、マジックアイテムを捜査するマジックアイテムも使用される。

なのでポケットやソファー、机の引き出しに入れていたらすぐに発見されてしまうだろう。

しかし体内になると話は別である。

本人の魔力が邪魔をするため、体内に飲み込んだマジックアイテムは非常に発見し辛くなるのだ。

『隔離塔』兵士が定期的に使用するマジックアイテムを捜査するマジックアイテムではまず発見されない。

非常に有効な方法ではあるが、アメ玉サイズとはいえマジックアイテムを飲み込むのはためらわれた。

セスタが笑顔で促す。

「これも身の安全を守るため必要な保険だから」

「……分かった。其方達の忠義に応えよう」

飲み込むのはためらわれたが、脱出する際、クロー自身が事故で傷を負っては意味がない。

『必要なこと』と割り切り、セスタからアメ玉サイズのマジックアイテムを受け取ると、残った酒で流し込む。

「……思ったより飲み込みやすいな。それに不思議と活力というか、力が湧いてきているような……」

「それもマジックアイテムの効果だね。だからと言って、作戦前に変な行動をしないでよぉ」

「うむ、分かっている」

セスタの釘刺しに、クローは鷹揚とした態度で頷く。

二人は他に必要な情報を交わし、手紙も焼却。

セスタが用事を済ませると、クローの監禁部屋を後にした。

彼が部屋を抜け出す際、クローに気付かれないように醜い笑みを作る。

(あは! まさかこんなに上手く事が運ぶなんて。この世界の人種って本当に馬鹿しかいないよねぇ!)

レベル差が圧倒的にありすぎて、人種兵士ではセスタの存在に気付くことは出来ない。

彼は鼻歌交じりで『隔離塔』を抜け出す。

(別にクロー達の作戦が成功しようが、失敗しようが僕様ちゃん的にはどうでもいいしね)

セスタとしては本当にどちらでもよかった。

(他人の死ぬ寸前の絶望顔、焦ったり、必死になっている表情や死ぬ瞬間の輝きが見られれば僕様ちゃん的にはどうでもいいしね)

『P・A計画』の息抜きにちょっかいを出しているだけに過ぎない。

彼からすればただの息抜きでしかないのだ。

彼は地上世界を玩具代わりに暗躍を続けるのだった。