作品タイトル不明
8話 護衛の選定
「くしゅん!」
「珍しいね、スズがくしゃみをするなんて」
「ケケケケケケ! おいおいまさかレベル7777の一角が風邪なんて引いたんじゃないだろうな。だとしたら弛んでいるってレベルじゃないぞ」
『奈落』最下層執務室。
話があるためスズとメラを執務室へと呼び出す。
彼女達が並び、話を切り出す前にスズがくしゃみをしたのだ。
メラがからかうと、僕の前ということもあり恥ずかしがり屋のスズは、耳まで赤くして涙目でうつむいてしまう。
よほど人前でくしゃみをしたのが恥ずかしかったらしい。
恥ずかしがる相方にスズの手にする『インテリジェンスウェポン』のロックがフォローする。
『失礼シマシタ、らいと様。恐ラク風邪デハナク誰カガ噂ヲシテイルノデハト……』
「あっ……」
「ケケケケケ……」
スズのことを噂している人物となれば、一番可能性が高いのは彼女に執着している元魔人国『ますたー』で『奈落』の牢に繋がれている人物だろう。
僕は気まずそうに視線を反らし、メラも同情するような微妙な笑い声を漏らす。
気まずい空気になった執務室の雰囲気を変えるため、軽く咳払いしてから本題に入る。
「こほん、二人を呼び出したのは他でもない。近々、地上で『人種王国女王就任式典』に絡むお祭りが開かれるんだ。そのお祭りにユメが参加する予定だから、二人に護衛を依頼したいんだよ」
そう言って、より詳しく説明をする。
『人種王国女王就任式典』がおこなわれる人種王国首都で、お祭りが開かれる。
ユメが気分転換で、そのお祭りを回る予定だ。
地上で活動する際、ユメは『大きな店を持つ商人の娘』と身分を偽る。
『 大店(おおだな) の娘が、お祭りに身分を偽って見て回る』というカバーストーリーだ。
ユメの乳姉妹と身分を偽り、ナズナが護衛として一緒に祭りを見て回り、メイも護衛兼保護者として普段のメイド服から地味な衣服に着替えてもらい二人の側に居てもらう。
『黒の道化師』パーティーは、今回、大店であるユメの親から、祭りの護衛として雇われたという体裁の元、彼女達の側で護衛をしつつ、一緒に回る予定である。
ちゃんと冒険者ギルドを通して、正式にクエストとして受けるつもりだ。
ユメの護衛として側にナズナとメイが付き、その周りを僕とネムム、ゴールドもつく形である。
レベル9999の僕、メイ、ナズナ。
レベル5000で暗殺技能、周辺察知能力に長けたネムムに、守りのエキスパートであるゴールド。
基本的にこの布陣であれば、よほどのことがない限り、守り切ることが出来るだろう。
基本この布陣で問題無いと思うが……念には念を入れておきたい。
そこでスズとメラに声をかけたのである。
「スズとメラにも一緒に地上に出てもらう。ただ僕達に混じって一緒にユメを守るのが仕事じゃない。僕達から距離を取って、第三者を装い、付かず離れずの位置で様子を見ていてもらいたいんだ」
「?」
『らいと様、ソレニ何ノ意味ガアルノデスカ? ト相方ガ疑問ニ思ッテイルヨウデスワ』
スズが首を傾げると、すぐに機微を察してロックが気を回す。
『インテリジェンスウェポン』だが、ロックは下手な者達より空気が読めるな……。
僕はスズの疑問に答える。
「スズ達には僕達のバックアップについて欲しいんだよ。無いとは思うけど、僕達が誤ってユメから目を離して迷子にさせてしまうかもしれない。何かトラブルがあって、ユメが一人でお店に入る時があるかもしれない。内側からでは分からない、外から見て気付く異変があるかもしれない……。そういうモノに対処する保険を作っておきたいんだよ」
「ケケケケケ! なるほど、ユメさまの安全を考えるなら保険は必要ですね」
メラが僕の意見に深く同意した。
「ユメの安全を考えるなら、『奈落』最下層から出さないか、多くの人数で彼女の周囲を囲う方がいいけど。それをやったらお祭りどころじゃないからね」
次に彼女達を選んだ理由を説明する。
「だから、遠巻きに僕達を見守る保険を作ろうと考えたんだよ。スズとメラを選んだのは『ユメがはぐれた場合、見た目の年齢が近い同性の方が側に行っても自然』だからだよ」
スズは見た目が15、6歳の少女だ。
メラは身長が約2mで、お世辞にも歳の近い少女には見えないが……。
「メラは地上でバックアップに付く際は、ユメと近い年齢になってくれないか? その方がいざという時、ユメに近づきやすいから」
「ケケケケケケ! 畏まりました。では早速――」
僕が指示を出すと、メラは笑いながら体を縮める。
彼女は『UR キメラ メラ レベル7777』だけあり、それこそ体を4つ足歩行のモンスター、炎を吐き出すドラゴン、複数の小型の昆虫に体を分割することさえ出来てしまう。
約2mの身長を変化させてユメと年が近い少女の姿にするのも難しくはない。
ちなみに身にまとう衣服もキメラで作り出しているため、同様に伸び縮みさせることが出来る。
背丈、顔つきがユメと近い少女の姿にメラが縮む。
足首まで隠れている長いスカートに、両手が見えないほど長い袖。
帽子は彼女が縮み小さくなった頭からこぼれ落ちそうなほど大きいが、逆にそのアンバランスさが幼い少女の可愛らしさを引き立てている。
「けけけけけ! こんな感じで如何でしょうか、ご主人さま」
「さすがメラ。その少女の姿なら問題無くユメの側に近づけられるね。二人が地上で活動する際は、姉妹という設定で行動するように。顔立ちはともかく、二人とも髪が黒いから問題なく他者を納得させることが出来るだろう」
「けけけけけ! 畏まりました。では、地上ではスズを姉として、あたしは妹として護衛に付きます。地上ではよろしくねスズおねえちゃん!」
「…………」
「けけけけけけ! そんな嫌そうな顔をするなよ。地上で活動する時は姉妹になるんだから。今からそんなんじゃ地上に出た時、周囲から怪しまれるだろ」
メラがスズを『おねえちゃん』と呼ぶと、彼女は嫌そう――というより、自分の中にあるメラ本人との認識のズレが起きているのか微妙な表情を作り出す。
普段、目にしていたメラは身長が約2mで、美女だが大型の肉食動物のような雰囲気を漂わせていて、大きな口で肉だろうがモンスターだろうがバリボリ食べてしまう迫力があった。
しかし現在のロリメラは、身長が低くなり、合わせて顔立ちもユメやナズナに近い幼い顔つきの、愛らしい美少女である。
そのギャップにスズは困惑しているようだった。
ロックがフォローする。
『相方、めらノ姐サンノ言ウ通リダゼ。地上デハ姉妹デ護衛ニ付クンダカラ今カラ慣レテオカナイト。デスガ正直、めらノ姐サントこんびヲ組マセルナラ、相方ヨリあいすひーとノ姐サントノ方ガヨクナイデスカ?』
「僕もその案は考えたけど……」
スズの性格を考えるなら、誰かと組ませるより単独で動いた方が気楽だろう。
しかし、『奈落』メンバーといつまでも距離があるというのも問題だ。
何よりレベルが高いとはいえ、彼女達自身の安全も考えたら二人一組で行動させるべきだろう。
そういう意味で、実力、能力、性格を考慮してスズとメラを組ませたのだ。
メラは言動こそすごみがあるが、他者をしっかり気遣える面倒見が良い部分があるため、問題無くコンビを組ませることができる。
またアイスヒートを護衛として選ばなかった理由として……。
「アイスヒートの能力を人種が多数集まるお祭りの最中に使ったら、大惨事になるし、髪がどうしても目立って護衛には不向きだから……」
「けけけけ、アイスヒートの奴、ここでも運の無さが祟るのかよ……」
僕の発言にメラが親友の運の無さを嘆き、スズ&ロックは気まずそうに黙り込む。
保険として距離を取り見守る護衛として後日、ユメとの顔合わせをする時間を取ると二人に告げて、その場は解散になったのだった。