作品タイトル不明
7話 好みとくしゃみ
『ギギギギギギギッ!』
緑の子供程度の背丈しかないゴブリンが、奇声をあげる。
数は7匹。
腹がよほど減っているのか、涎をまき散らしながら襲いかかってくる。
「俺が3匹! 他4匹は各自1匹ずつ相手をしろ! 倒そうと思うな! こっちが片付くまで足止めだけを考えるんだ!」
『わ、分かりました!』
村から剣と盾の扱いが上手い者×4人を選抜し、エリオと共に護衛仕事へと出発した。
村外での初めての実戦ということもあり、若者×4人はうわずった声をあげる。
エリオは彼らの救援にすぐさま入るためにも、さっさと向かってくるゴブリンを片付けるため駆け出す。
バラバラに突っ込んでくる7匹のゴブリン。
エリオ達も同じように突撃する。
最初にエリオがゴブリンの1匹と接触。
『グギィッ!?』
エリオは勢いを殺さず、ゴブリンが振り上げる棍棒ごと盾でぶん殴った。
体格は圧倒的にエリオが勝っている。
ゴブリンは棍棒ごと盾で殴られ、勢い、体格共にに負けているため押し負け仰向けに倒れる。
すぐさまエリオは剣先でゴブリンの喉を突き刺し殺す。
(残り2匹!)
エリオはさっさと敵の数を減らし、若者達の援護に回るため ゴブリン(獲物) を探した。
『ギギギギギギギッ!』
運良くちょうど2匹がエリオへ突撃。
彼は剣で1匹を牽制し、もう1匹の攻撃を盾で受け流し相手取る。
「え、エリオさん! マジヤバいっす! 助けて下さいっす!」
若者×4人、ゴブリン×4匹がすでにぶつかりあっていた。
戦況はややゴブリンが押している。
若者達はゴブリン達の勢いと初めて村の外で戦う状況に浮き足立ち、押されているようだ。
(早く倒して援護に回らないと!)
胸中で焦りつつもエリオは冷静に立ち回る。
体格差を生かしゴブリン一匹を盾でそのまま弾き倒す。
その際にエリオに僅かな隙が生まれ、もう一匹がそれを逃すまいと棍棒を振り上げるが、もちろんエリオは計算済みだ。
振り返り盾で受け流し、剣で切り裂く。
その頃には盾で弾き転ばせたゴブリンも立ち上がるが、既に1対1だ。
1対1でエリオがゴブリンに負けるはずも無い。
数合も交えず、最後のゴブリンを切り裂き倒した。
時間にして3分もかかっていないだろう。
「エリオ隊長! 本気で限界です!」
「たす、助けてください!」
「ふぅ……ちょっと甘やかし過ぎたのかな……」
完全にへっぴり腰になってゴブリン×4匹に押されている若者達×4人から救援を求める声が相次ぐ。
訓練では動けていたはずなのだが……。
エリオは自身の訓練内容に問題があったかとつい考え込んでしまったのだった。
☆ ☆ ☆
「エリオくん、凄いじゃないか。結局7匹のゴブリン、全員倒しちゃうなんて」
「最初の3匹はともかく、残り4匹は皆が注意を向けてくれていたからで。実質2対1を4回繰り返しただけですから」
エリオは護衛の依頼人である行商人ヨールムの褒め言葉に謙遜で返した。
現在、エリオ達一行は、人種王国首都を目指し馬車で移動中だ。
なぜ人種王国首都に向かっているかというと……。
リリス女王が大々的に『自分こそ現在の人種王国のトップだ』と喧伝するために、『人種王国女王就任式典』がおこなわれる。
お陰で首都で大きなお祭りが開催されることになっていた。
行商人ヨールムは依頼された荷物と自身でも祭りで一儲けするため、人種王国首都を目指しているのだ。
ただ大規模なお祭りだけに護衛してくれる冒険者の値段が高騰し、信用度が高い人達は埋まってしまっていた。
大切な荷物だけではなく自分の命も預ける護衛を、信用度が低い者達に依頼するわけにはいかない。
そこでヨールムは、以前から知り合いで一度護衛についてもらい、腕も信用できるエリオに直接仕事を依頼。
エリオは村で教えている覚えが良い若者達を社会勉強も兼ねて、護衛仕事を一緒にこなすことにしたが……。
先程、ゴブリン×7匹の襲撃を受け、普段の練習では良い動きをするのに初の村外実戦で腰が引けてまともに戦えなかった若者達――というより、自身の指導力のなさに落胆する。
「むしろ、訓練では皆あれだけ動けるのに今回の実戦は反省点が多かったっていうか……。俺の教え方が悪かったのかな……」
『ゴールドさんやダークさんなら、もっと上手く教えられるだろうな……』と一人呟き出す。
そんな落ち込むエリオに若者達×4人が声をあげる。
「お、落ち込まないで欲しいっす、エリオさん!」
「そうですよ、エリオ隊長!」
「今回は実剣と盾を持った初の実戦で、舞い上がってしまったというか……」
「次こそ自分達もエリオさんに頼らずモンスターを倒して見せますから!」
村外初の実戦で、手にあるのは実剣と盾。
そのせいで緊張してまともに動けなかったと若者達は主張する。
若者達の主張にエリオは『本当に大丈夫かな……』と心配の表情が晴れない。
どうしても先程のゴブリン戦が頭にちらつく。
微妙な空気になりかけたのを察して、御者を務める行商人ヨールムが、なるべく明るい声で話題を振る。
「しかしエリオくん、本当に強くなったね。それだけ強ければ村でも女の子達からかなり言い寄られてるんじゃないか? 男としては羨ましいね!」
「ヨールムさんまで何を言っているんですか。俺なんて全然ですよ」
「いや、そんなことないっすよ! エリオさん、村でも注目の的っすよ!」
「そうそう! うちの姉貴なんてよくエリオ隊長の話を聞きたがりますから!」
「自分ところの妹もです」
若者達もヨールムの話題に乗って、エリオを持ち上げようとする。
エリオは持ち上げられて嬉しそうどころか、逆に居心地が悪そうだった。
若者達がどうにかエリオの気持ちを上げるため、話題を振り続ける。
「そういえばエリオさんの好みって聞いたことがないですね。どんな女性が好みなんですか?」
「確かにエリオくんの好みって聞いたことがないね」
今回の依頼人でもあるヨールムも話に乗ってきた。
別に好みは『恥ずかしい秘密』でも何でもない上に、依頼人の手前、これ以上空気を悪くして仕事に支障をきたさないためにもエリオは隠さず告げる。
「別に好みってほど、こだわりがあるわけじゃないけど……あんまり口うるさい娘は苦手かな。物静かで、優しい娘がいいかな」
「物静かな女性が好みなんですか。うちの村にそんな娘いたかな?」
「いないんじゃね? 大抵、お喋りに夢中でうるさい印象しかないわ」
「駄目だ……うちの姉貴、エリオ隊長の好みの真逆じゃん」
エリオが好みの相手を口にすると、『村に彼のタイプはいたか』と考察を始めた。
彼らの喧々囂々の会話を、エリオは微苦笑を漏らしながら釘を刺す。
「とはいえ僕はまだ結婚するつもりはないよ。ミヤが学園を卒業していい人を見つけて、結婚するまでは安心できないからね。それより会話に夢中になって警戒を怠らないように気をつけるんだぞ。敵を早く発見出来るか出来ないかは、本気で命にかかわるから」
エリオの注意に若者達は返事をして、真面目に周囲を監視する。
監視しながらも、先程の考察について再度意見を交わし合う。
彼の話に茶々を入れつつ、エリオ自身は『ミヤが落ち着くまで自分は結婚どころか、恋愛も出来ないだろうな』と本気で考えていた。
――そんなエリオが、『人種王国女王就任式典』で賑わう人種王国首都で、一方的に恋に落ちる相手に出会うとは彼自身、想像どころか夢にも思わなかった。
☆ ☆ ☆
「くしゅん!」
『ウン? 相方、風邪カ? イヤ、異常状態攻撃ニ高イ耐性ヲ持ツ相方ガ風邪ナンテ引クハズナイカ。ナラ、誰カ噂話デモシテイルンダロウナ。……ダトシタラ一人シカ思イツカナイケドナ』
「(ブルブル……)」
『奈落』最下層廊下。
スズ、ロックが会話を交わす。
スズ達は彼女(?)が敬愛するライトに呼び出され、現在廊下を移動中だった。
その際、スズがくしゃみをしたのだ。
ロックが風邪ではなく、噂話をされていると指摘。
スズはその相手が自身に異常な執着を持つミキだと予想して震え上がったのだった。