作品タイトル不明
5話 協力の提案
「困っているなら僕様ちゃんが力を貸してあげようか?」
「!? き、貴様、いつからそこに!? ど、どうやってこの部屋まで侵入してきた!?」
隔離塔一室に軟禁されている人種王国第一王子クローが、見知らぬ美少女のように顔立ちが整った少年に突然、声をかけられ驚き後ずさる。
彼が居る部屋はリリスによって厳重に人種兵士達が警備している隔離塔だ。城壁が2重に展開され、堀も掘られている堅牢な建物だ。
クローが居る部屋は外から鍵をかけられ、警備兵士が複数で見張りについている。
隔離塔には4つの塔が存在し、クローが居る部屋はその一つの最上階だ。
窓も狭く、決して人一人が通り抜けるなど不可能である。
にもかかわらず侵入者の少年はまるで、最初からその部屋に居たかのように窓際に寄りかかっていたのだ。
クローから見ても非常に怪しい人物である。
(リリスが秘密裏にボクを暗殺するために送り出した暗殺者か? だが、もし暗殺者ならこんなのんきに会話をせずさっさと殺すだろう。何よりリリスは現状、暗殺者を雇わなくてもボクを殺そうと思えばいつでも殺せる訳だし、雇う意味がない)
クローは侵入者の少年からなるべく距離を取るようにじりじりと後ずさる。
少年は自身を警戒するクローを楽しげに眺めていた。
その瞳は芸をする家畜か、滑稽な道化師を見るような光を宿していた。
侵入者の少年はクローの警戒を解くように、美少女のように整った顔で満面の笑顔を作る。
「そう警戒しないで人種王国の王子様。僕様ちゃんはセスタ。王子様が奪われた、『人種王国の玉座』を取り返すお手伝いをするために来ただけなんだから」
「……ならば、今すぐここから脱出する手伝いをしろ!」
クローは少年とは思えないセスタの美少女的笑顔に一瞬心を奪われそうになるが、気を引き締め直し語気を強めた。
セスタはクローの疑り深い強気の言葉に、軽く肩をすくめる。
「もちろん王子様がそれを望むなら、僕様ちゃんがこんな牢獄から脱出させるのは容易いよ? でも本当に良いの? 身を隠す伝手とか、受け入れの態勢とかちゃんと準備できているの?」
「……貴様が最後まで面倒を見れば良いだろう」
「うわぁ、やっぱりそういう所は世間知らずの王子様だね。人一人を匿うのがどれだけ大変か理解してなさすぎ。僕様ちゃんがいくら可愛くて有能でも、単独でそこまで出来るわけないよ。根本的に手が足りなさすぎ」
セスタがやれやれとクローを小馬鹿にしたように笑った。
また内心で、
(あくまで僕様ちゃんは『巨塔の魔女』にちょっかいをかけに来ただけ。ただの遊びで、わざわざこんな負け犬王子を僕様ちゃんが囲ってやる必要――っていうか、そこまで労力をかける意味がないっていうか。そこまで付き合っていられないよ)
セスタはクローを元魔人王国マスターの一人ゴウを圧倒した部下を抱える『巨塔の魔女』にちょっかいを出すためのコマ程度にしか考えていなかった。
そのため必要以上の労力を割くつもりは、一切無い。
セスタに小馬鹿にされ、人種王国第一王子としてのプライドが傷ついた。
クローは顔を赤くし、声を張り上げる。
「き、貴様! ボクを馬鹿にしているのか!? なら貴様のような者に何が出来るというのだ!」
「言い方がきつくなってごめんね。悪気は無かったんだよぉ」
「くッ……」
レベルが低い人種の怒声などマスターの一人であるセスタには、何の痛痒も無い。しかし、ここで機嫌を損ねて非協力的になられて、『巨塔の魔女』にちょっかいを出すのに支障を来しても困る。
なのでセスタは自身が一番可愛いと自信がある上目遣い、潤んだ瞳、媚びた声を出す。
外見だけなら美少女でも通用するほど整っている。
そんなセスタの媚びた謝罪に、クローは『相手は少年』と理解しつつも、怒りとは違う意味で思わず頬を染めてしまう。
クローは頬を染めたのを誤魔化すように咳払いをしてから改めて問う。
「こ、この場から脱出させるのは容易くとも、匿うのは難しいのは理解できた。なら貴様はなんのつもりでボクにわざわざ接触しに来たのだ?」
「こんな場所に閉じ込められていても、王子様なら支持派閥の一つや二つはあるでしょ? 僕様ちゃんがその派閥との橋渡しをしてあげるよ」
「……確かに派閥は未だに健在だ。橋渡ししてくれるならありがたいが、貴様の目的はなんだ? まさか善意から無償でそのような世迷い言を口にしているわけではあるまい?」
気持ちを立て直したクローが、セスタの胸中を透かし見ようとするように目を細めて問う。
セスタは『よく出来ました』と教師のように上から目線で笑顔を作る。
「さすがに『善意の協力者』を盲信するほど世間知らずじゃなかったか。もしそこまで世間知らずなら、さすがの僕様ちゃんも手を引いていたところだけど」
「ふん! 小馬鹿にしているのか、褒めているのか分からん発言はよせ。それで一体何が望みだ?」
「派閥との橋渡し等、僕様ちゃんに出来ることがあれば手を貸すから、人種王国国王に即位できたら協力に見合う援助が欲しいんだよね」
「なるほど……援助か……」
クローはわざと勿体ぶるように台詞を濁す。
セスタが口にしたのが彼の真意か、また別の思惑があって自分を利用しようとしているのか考え込む。
もちろん、セスタの要求は嘘だ。
いや、嘘というより、『無償で協力を口にするより、それっぽい要求を口にした方がスムーズに協力を取り付けやすい』程度の理由で、適当な台詞を口にしているだけである。
(僕様ちゃんの目的は、『巨塔の魔女』にちょっかいを出して遊ぶことだもの。 クロー(こいつ) はそのためのコマ。僕様ちゃんの遊びのためにちゃんと踊ってくれるなら、理由なんてどうでもいいんだよね)
表情を崩さす、胸中でクローをあざ笑う。
いくら目の前の少年が怪しくてもクローには選択肢が無い。
彼は迷った末に手を差し出す。
「分かった約束しよう。ボクが国王になったら貴様――セスタ殿を可能な限り援助すると」
「英断だよ、王子様! それじゃ末永くよろしくね!」
セスタは美少女笑顔全開で、クローの手を握りしめた。
あまりに魅力的な美少女的笑顔に、クローの頬が再度染まってしまう。
彼は慌てて手を離すと、机に向かい自身の派閥に連絡を取るための手紙を書き始める。
この手紙をセスタに届けてもらう予定だ。
セスタはそんな手紙を書くクローの背中を、冷たい瞳でいやらしく嗤いながら見つめたのだった。