作品タイトル不明
4話 お祭りに参加するか否か
「お祭り!? 行きたい! 行きたい! 行きたい!」
『奈落』最下層一室。
事前に妖精メイド経由で話を通し、実妹ユメと茶会を開く。
茶会の目的は、人種王国リリスから『人種王国女王就任式典』について参加を求められたため、ユメの希望を聞くためだ。
僕自身も招待を受けているが、リリス側の目的はエルフ女王国や魔人国を落とし多大な影響力を持っている『巨塔の魔女』エリーの参加である。
『巨塔の魔女』が大々的に開かれる『人種王国女王就任式典』に参加すれば、リリスの女王就任は完全に認められたようなものだ。
つい最近まで人種王国は魔人国と揉めていて、偽『C』の被害からの復興や第一王子ヴォロス失踪によるトップ不在問題などがあるため魔人王国は参加できないだろうが、他エルフ女王国、獣人連合国、ドワーフ王国の代表者も参加予定だ。
僕自身は前後に軽くリリスに挨拶をすれば問題無い。
その時、リリスに会いたがっていたユメも一緒に連れて行けば良いだろう。
個人的に落ち込んでいるユメを励ます本命は、国を挙げておこなわれる『人種王国女王就任式典』の際に開かれるお祭りだ。
村人時代、村でもお祭りは開かれた。
新年を祝い、大人達は酒を飲み子供達はお腹いっぱいご飯が食べられる、一年で一番楽しみだった日である。
村のお祭りでも非常に楽しかったが、街で開かれるお祭りはそれ以上に規模が大きい。
とてつもなく多くの人が集まり、催し物や出店、大道芸など村人が見たこともないような楽しいモノで溢れていると、外に出たことがある大人達から自慢気に聞かされたものだ。
村人時代は、外の華やかな話を聞かされるたびに子供達同士で、『自分達もいつか村を出て街のお祭りを見てみたい』と盛り上がったモノである。
当然、ユメもその一人だ。
『街でお祭りが開かれるから一緒に行かないか』と誘った結果、先ほどのように元気に返事をした。
エルスにーちゃんの話を聞き、落ち込んでいたユメの気持ちを少しだけだが持ち上げることが出来たようだ。
「姫様に会えるだけじゃなくて、新年祭のようなお祭りが開かれるなんて! にーちゃん、本当にユメが行ってもいいの?」
「もちろん。護衛として僕も一緒に行くから、色々見て回ろうか」
「うん! 凄く楽しみだよ!」
ユメは心底嬉しそうに笑顔を零す。
彼女が元気を取り戻したことに、僕は胸中で安堵する。
そんな僕達、兄妹の話を聞き、同席しているナズナもそわそわとした表情を作った。
「ご主人様、そのお祭りにあたいも参加していいのか?」
「もちろん。むしろ、ナズナには地上でユメを僕と一緒に護衛して欲しいんだ。お願いできるかな?」
「了解だぜ! あたいが妹様だけじゃなくて、ご主人様も守ってみせるぜ! あたいはさいきょーだからな!」
ナズナは胸を張って断言する。
僕に頼られたのがことのほか嬉しいようだ。
以前のナズナなら、地上にあげるのは心配だが、色々経験した今の彼女なら問題はないだろう。
……多分。
何よりユメの側で護衛に見えない護衛者が欲しかったのもあるが……。
「妹様、地上のお祭りに出たら一緒に色々見て回ろうな!」
「うん、見て回ろうね、ナズナちゃん! 約束だよ?」
ユメ、ナズナが年相応の少女同士のように仲良く約束を交わし、お祭りについて楽しそうに会話を始める。
(折角、気分転換に地上へ出てお祭りに参加するんだから。ユメには沢山、楽しい思い出を作って欲しいからな)
兄である僕と一緒に回るのもいいが、やはり年が近い(見た目上は)少女同士の方が楽しいだろう。
ユメと年が近く、友人として接することが出来るのは現状ナズナしかいない。
実力も『奈落』最強で申し分なく、ユメの側に居るなら安心できる。
また何か問題が起きても、僕が側にいる予定のため、基本的になんとかなるだろう。
(……でも、考えてみたら約三年間、リリスの側で人種王国首都に住んでいたユメの方がお祭りには詳しいんじゃないか?)
僕は『種族の集い』メンバー達に復讐するため『奈落』最下層の改造、仲間を増やすためのガチャ、自分自身のレベル上げ&鍛える日々を送っていた。
お祭りの知識など、村の小さなモノしかない。
故にユメの方が地上での経験が多く、今もナズナとお祭りをどのようにすれば最大限有意義に過ごせるのか、楽しく話をしていた。
ユメの話にナズナが関心して、二人で一緒にどのように出店を回るのか年相応の少女同士のように話をする。
個人的な狙い通りユメのテンションが上がり、楽しみにしてくれるのはありがたいが……。
(兄の威厳を考えて、事前にお祭りについて勉強しておいた方がいいのかも……)
僕は二人が楽しくお話をしているのを眺めつつ、胸中でお祭りについての対応を考えるのだった。
☆ ☆ ☆
人種王国首都郊外に一軒の屋敷が存在した。
周囲を頑丈な城壁で囲まれ、周囲に武装した兵士達が常に見回っている。
屋敷も頑丈な石造りで、内側にはまず兵士の休憩所、馬小屋、武器庫などがあり、さらに城壁で周囲が囲まれていた。二重の城壁で囲まれているのだ。
その内側には四隅に尖塔がある石造りの屋敷が建築されている。
外部から見ると『豪華な屋敷』というより『堅牢な牢獄』の印象が強い。
実際、この建物は高貴な身分の犯罪者を捕らえておくための監獄――通称『隔離塔』である。
隔離塔は人種王国上位貴族などが問題を起こした際に使用されるが、滅多にそのようなことは起きない。
滅多に起きないため、一部から『予算を食い潰すだけで不要。さっさと解体すべし』と意見も上がっていた。
実際建物の維持だけでもそこそこの金額がかかる。
とはいえ予算を確保し維持してきたのも、無いと困るためだ。
実際、現在進行形で元人種王国第一王子クローを隔離している。
もし隔離塔が無ければ、首都にある貴族屋敷に幽閉するしか手は無かった。
さすがに首都に火種を抱える訳にはいかない。
普段まったく使用しないが、警備が厳重で、外部からの攻撃に耐えられる防御能力、首都から離れすぎず確保できる位置にある隔離塔は、身分の高い者を幽閉するにはもってこいの建物だった。
そんな隔離塔の一室。
四隅で最も身分が高い者を入る塔の最上階で、人種王国第一王子クローが手にしていたグラスを床に叩きつけ砕く。
「ふざけるな! 何が『人種王国女王就任式典』だ! あの愚妹、本気でボクから王位を簒奪するつもりか!?」
クローは現在実妹リリスによって隔離塔に押し込められていた。
大々的に『人種王国女王就任式典』がおこなわれると、リリス部下から伝えられたことで知る。
リリス側としては、『人種王国女王就任式典』をおこなうことを知ってクローの心を完全に折り、元国王である父のような生活を送って欲しいのだ。
クローが受け入れられるかは別だが。
彼はまだ国王の座を諦めてはいなかった。
「クソクソクソ! もし本当に『人種王国女王就任式典』など許したら、民達もリリスを完全に女王と認めてしまうじゃないか!」
彼は親指の爪を噛み一人漏らす。
「式典が開始するまで、なんとかしてここから早く脱出しなければ……。さもなくばリリスが名実ともに人種王国女王の座についてしまう」
『巨塔の魔女』がバックアップしている以上、リリスから玉座を取り返すのは不可能だ。
奇跡的に取り返したとしても、職務をおこなう人材が同時にいなくなるため、国家運営に支障をきたす。
しかし、クローはその点すら考慮できず、ただただ焦りを見せた。
「困っているみたいだね?」
「……ッ!?」
爪を噛み焦っていると、突然、声をかけられる。
誰も出入り出来ないはずの隔離塔一室に、いつの間にか『美少女』と見間違いそうなほど美しい少年が窓際に寄りかかり、声をかけてきたのだ。
彼――竜人王国側『マスター』であるセスタは、良い笑顔で再度告げる。
「困っているなら、僕様ちゃんが力を貸してあげようか?」