作品タイトル不明
3話 気分転換
時を停止されたエルス兄が安置されている部屋から、執務室へと移動する。
執務室の席に座りながら、改めて報告をしてきたメイと言葉を交わす。
「『人種王国女王就任式典』か……リリスはついに、兄であるクローとその派閥貴族を完全に排除するため動き出した訳か」
「恐らく。魔人王国問題も片付き、私達の協力で女王に即位、人種王国もようやく掌握し終えた時期でしょうから、妥当かと」
一応、シックス公国会議の各国推薦でリリスは『人種王国女王』に就任済みだ。
とはいえ、この就任はあくまで当時王女だったリリスによるクーデターに近い。
人種王国庶民からすれば雲の上の出来事で、リリスが女王に即位したことを知らない者達の方が多いぐらいだろう。
(庶民にとってはリリスが女王に就任したことより、今日食べるパン代を稼ぐことの方が重要だからな……)
村から出た当時、僕も冒険者ギルドでパン代や宿代のために、よりよい仕事がないか探すことに注力していた。
国のトップが国王からその娘に世代交代したなんて言われても、『そうなんだ』程度にしか庶民は思わないだろう。
だからこそ大々的に『人種王国女王就任式典』を開き、民衆にパンや酒を振る舞いリリスが『女王に就任した』と宣伝するのは大切なことだ。
国を挙げての大規模な即位式をおこない、民達に自分が確固たる女王だという宣伝することで名実ともに『人種王国トップ』になるつもりなのだろう。
「そのための参加者として、僕――というより『巨塔の魔女』の名前が欲しいのかな?」
「恐らくは。『巨塔の魔女』の名は今や庶民の間でも有名ですから」
『巨塔の魔女』はエルフ女王国、獣人連合国、魔人王国を陥落、支配下に治めている。
ドワーフ王国、人種王国は友好国扱いだが……。
人種王国は多額の資金などを投入しているため、実質ほぼ傘下状態だ。
唯一、対等な国交を持つのはドワーフ王国ぐらいだろう。
それだけの力を持ち、『人種絶対独立宣言』をおこなっている『巨塔の魔女』の名が人種王国の庶民達に広まるのは当然のことだ。
『巨塔の魔女』の影響力が無いのは、竜人帝国、シックス公国ぐらいだ。
「気付いたら、随分地上に手を伸ばしていたね。必要なことではあったけど……」
「はい、必要な措置だったのでライト様はお気になさらずともよいかと」
メイが僕の言葉に頷く。
話を戻そう。
そんな地上のほぼ支配者の『巨塔の魔女』が、大々的におこなう『人種王国女王就任式典』に参加し、リリスの女王就任を見届ければ、これほど強力な見届け人はいないだろう。
実権を既に得て、民が名実ともに認め、『巨塔の魔女』がバックにいると明言することで幽閉されている兄クロー、その派閥貴族達の心を完全に折りに来ているようだ。
当然、この申し出を断る理由は無い。
「人種王国内部の火種をリリスが処理する気になったんだから、そこに水を差す理由は無いよ。なにより『人種王国女王就任式典』――つまり国をあげてリリスの女王就任を祝うお祭りをやろうっていうんだ。落ち込んでいるユメを元気づけるのにも丁度いいイベントじゃないか」
「ですね。これでユメ様が元気を取り戻してくださると嬉しいのですが……」
僕は興奮気味に、メイは心配そうに片手を頬に当ててため息を漏らす。
最近、ユメの元気がない。
理由は当然、エルス兄の件だ。
ユメには『エルスにーちゃんを確保したが、体を癒やすため当分会えない』と僕が伝えた。
表面上は納得しているが……やはり内心は色々察して落ち込んでいるらしい。
あのナズナですら、
『最近、妹様、一緒に植物園(ユメが趣味で育てている植物を集めた場所)の水やりをしている最中、落ち込んで暗い表情を作る時があって……。ご主人様、妹様を何か元気づける方法ないかな?』と心配して相談に来るほどだ。
しかし、そこに『人種王国女王就任式典』――国をあげてのお祭りがおこなわれる。
ユメにはこのお祭りを楽しんでもらい、さらに時間を作ってユメが本物のリリスと顔を合わせれば元気になる可能性がある。
元気にならなくても一時、気を紛らわせることが出来れば十分参加する意義があるというものだ。
ただ問題があるとすれば……。
「ユメを地上に連れて行くのはちょっと心配だな……」
「はい。『奈落』最下層とは違って、地上は安全とは言いがたいですから……」
当然、お祭りに参加する際は僕を含め、レベル9999、他高レベルの者達でユメの周囲を固める予定だ。
だが、それでもユメのレベルは未だ低いため、万が一の可能性がある。
なので低レベル状態のユメをお祭りのためとはいえ、地上に出して連れ回すのはやや気後れしてしまう。
「ユメのレベルがそこそこでもあれば、より安全度は上げられるんだけど……」
ユメは一応魔術の才能があるため、そちらを伸ばしているが、レベル上げはさせていない。
僕などは自身の目的、信念があるため積極的に殺傷し、レベルを限界まで上げた。
だが幼いユメに、レベルを上げるためとはいえ積極的に モンスター(生物) を殺害させるようなマネを進んでする気にはなれなかった。
なにより『奈落』最下層が安全のため、無理にレベルを上げる必要が無いというのも大きい。
「今からでもユメのレベルを上げさせるか……?」
自分で口にしてなんだが、そうは言ってもユメにレベル上げとはいえ モンスター(生物) を殺害させるのは抵抗がある。
無意識に僕は苦虫を噛み潰したような表情を作ってしまう。
そんな僕にメイが提案する。
「ライト様、とりあえずユメ様に『人種王国女王就任式典』――お祭りに参加するかどうか意見をお聞きした方がよろしいかと。不参加を希望される可能性もありますので」
「……確かにメイの言う通りだね」
メイの指摘通り、『不参加』の可能性もある。
なので、まずユメに参加、不参加の意見を訊くのが先だろう。
(ほぼ参加するだろうけど。ユメのレベル上げ云々は置いておいて、護衛の選定は本気で力を入れないと)
ユメの実兄として、彼女の返事はなんとなく予想がつく。
なので僕はメイにユメの参加・不参加を尋ねるよう指示を出しつつ、内心で彼女を地上でどう護衛するのか、護衛する人員の選定方法などを思考するのだった。