作品タイトル不明
2話 ユメへの説明
「…………」
『奈落』最下層。
エルス兄を安置した部屋で、僕は椅子に座り時を止められた兄を見つめ黙り込む。
僕の実兄であるエルス兄は、魔人国『ますたー』の1人ドクの手により怪物化され、僕を襲う途中で正気に戻り自死。
現在はこの安置所で、死亡したエルス兄をエリーの力で時を止めてもらっている。
単純な蘇生は難しくないが……。
このまま復活させてもまた怪物化するだけ。
怪物から人種に現状戻す手段が無いのだ。
(メイのアドバイスのお陰で『無限ガチャ』から、エルスにーちゃんを怪物から人種に戻す『無限ガチャ』カードが出る可能性があるのは気づけたけど……。それがいつになるのか……)
暇を見つけては僕も『奈落』最下層でカードを引くようになった。
僕の 恩恵(ギフト) すら模倣する『UR 2つ目の影(ダブル・シャドー) 』にカードを引かせているが、どうしても 恩恵(ギフト) は劣化してしまう。
なので僕自ら引いた方が、良いカードが出る可能性が高いのだ。
とはいえ、僕も他にやらなければならないことがあるため、そうそう出来ないのだが……。
そのやらなければいけないことの一つとして、僕の実妹であるユメに『エルス兄の現状についての説明』があり、そのためユメに兄の現状を少し前に説明していた。
この説明だけは兄として、僕自身の口から説明する必要があったからだ。
僕はエルス兄の側に座りながらユメとのやりとりを思い返す。
『……ユメ、エルスにーちゃんを見つけて、保護することが出来たよ』
『!? さすがにーちゃん! 凄いよ!』
ユメに説明をするため、彼女の側付き妖精メイドを通して、茶会をセッティングしてもらう。
どう切り出せばよいか迷ったすえ……僕はストレートに口にすることを選択した。
ユメは僕の言葉に、大きな瞳にキラキラと輝かせて笑顔を作る。
彼女の表情とは正反対に僕の口は非常に重かった。
『……ただエルスにーちゃんはとても重い怪我をしていて、現状すぐに話が出来る状態じゃないんだ。本当ならユメと会わせて話をさせてあげたいんだけど……。しばらくは治療のため面会することが出来ないんだ。元気になったら僕と一緒にエルスにーちゃんに会いに行こう』
『…………』
この言葉にユメはすぐに反応しなかった。
僕の表情、言葉遣い、仕草から何かを悟っている気がした。
兄弟姉妹だから分かる空気感。
嘘はついていないが、本当のことは話していない。話せないことが伝わってしまっているのかもしれない。
だが現状を素直に話すのはためらわれた。
『エルスにーちゃんが怪物に改造されて、人種に戻る手段が現状難しい。無限ガチャから治癒カードが出るまで待つしかない』などとは言えない。
とはいえ人種に戻るまで、エルスにーちゃんを見つけて保護したことを黙っているつもりもなかった。
どのような形かでユメの耳に情報が入る可能性はゼロではないからだ。
その際、『どうしてエルスにーちゃんのことを話してくれなかったの!?』と問われるのを避けたかった。
変な不信感をユメに与えたくなかった。
故に僕は自分の口から、エルス兄の現状を伝えたのだ。
数十秒後、ユメが笑みを作り、返答する。
『分かったよ。なら、エルスにーちゃんが元気になったら一緒にお見舞いに行こうね?』
『……ああ、もちろん。約束だ』
ユメが何か理由があることを悟りながらも、あえて口に出さず受け入れた。
ある種、ユメに我慢させた結果になってしまったが……。
現状をそのまま伝えるよりは大分マシだが、彼女に甘えることになったのには変わらない。
(僕がもっと早くエルスにーちゃんを発見できていれば、にーちゃんが怪物に改造されることもなかったのに……。いや、それならもっと早く『奈落』から脱出出来ていれば、家族を、村、大勢の人々を救うことも出来たはずだ……)
時間が停止したエルスにーちゃんの側に座りながら、ユメとの会話を振り返ったため、『過去、もっと僕が上手く立ち回っていれば』と益体の無いことを考えてしまう。
過去は今更変えられないし、当時、『奈落』最下層から出るためメイ達皆と協力した。あれ以上の速度での脱出は難しい。
本当に今更の話だ。
「……にーちゃん、また顔を見に来るよ」
いつまでも感傷に浸り座り込んでいる訳にもいかない。
僕は席から立つと、時が停止したエルスにーちゃんをその場に残し、一人部屋を出る。
部屋を出ると、ちょうどメイが顔を出す。
本当に廊下の先から、『ライト様にお伝えしたいことがある』という表情で、無作法にならない速度で近づいてくる。
僕は護衛のアイスヒートに許可を出してから、メイを側に近づけ用件を尋ねた。
もしこれが緊急の用件なら、念話か、妖精メイド達の足止めも強権で省略し僕へ直言していただろう。
それら手段を用いていない時点で、何か緊急の知らせではないことが理解できる。
僕は未だやや沈んだ声で彼女に問う。
「メイ、何かあったの?」
「はい、先ほど人種王国王城に勤めるユメ(偽)様経由で、リリス女王陛下から内々でご連絡がありました」
「ダブルシャドーで作ったユメから?」
僕は脳内で連絡内容に予想をつける。
魔人王国問題を片付けた以上、急ぎの用件はないはずだ。
人種王国内部で、自然災害でも発生して、救援、援助、または人手などの要請だろうか?
しかし、メイの報告は僕の予想を外す。
「リリス女王陛下の案で、近々、『人種王国女王就任式典』を開催したいとのこと。つきましてライト様、『巨塔の魔女』であるエリー、また私達の予定をお尋ねしてきました」
「人種王国女王就任式典?」
ちょっと予想外の連絡に僕は思わず、メイの言葉を繰り返してしまう。
しばし黙り込み、リリスの意図を推測する。
「――リリスの兄、クローの心を完全に折るための式典を開くつもりか。確かに魔人王国問題も片付き、人種王国内部の掌握もほぼ完了済み、邪魔な者達の意識を挫くにはちょうど良いタイミングなのかな」
メイが僕の言葉に頷く。
……式典を終えれば、確かにリリスの地位はより確実になるだろう。
僕はメイに頷き、出席のために僕とエリー達の予定を確認するよう指示を出した。