軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 ちょっかい

「はいはいはーい! 僕様ちゃん、ゴウを退けたっていう『巨塔の魔女』に興味が湧いちゃった。せっかくだからちょっかいを出しに行ってきてもいいかな?」

竜人帝国側マスターの一人、見た目は美少年のセスタが純粋な笑顔で声と一緒に手を上げる。

「僕様ちゃんの仕事はほぼほぼ終わったし、最終までやることないから、ちょっとだけならいいでしょ?」

彼は絨毯の上にあぐらをかき、皆に対して同じ男性であるのにも関わらず、媚びた上目遣いを向けた。

セスタの顔立ちは下手な美少女より整っており、背丈も低く、庇護欲を誘う。彼を知らない初見の人物なら、魅了されてどんなわがままでも聞いてしまう蠱惑的な魅力を持っているが……。

この場にいるのは付き合いの長い者達しかいない。

セスタのこびた上目遣いを皆、受け流したり、気色悪そうに表情をゆがめた。

元魔人国側マスターであるゴウが、苛立ちながら問う。

「おいクソガキ、俺様の話を聞いてたのか? 『巨塔の魔女』にはヤバい化け物がいるって言っただろうが。にも関わらずちょっかいをかけようとするとか、頭わいているのかァッ」

「ゴウをボコボコにしたほどの化け物が、『巨塔の魔女』の配下にいるんでしょ? だから興味が湧いたんじゃないか。ずっと『P・A』に関する仕事続きだったし、息抜きがてらちょっかいを出すぐらいいいじゃないか」

セスタ的には『ゴウほどの実力者が化け物と呼ぶほどの相手にちょっかいを出すスリリングな遊び』程度の認識でしかない。

彼の楽観的な意識にゴウが心底不機嫌そうに舌打ちする。

「おい、クソガキ。俺様が伝えた情報の意味が理解できないのか? それとも理解できるほどの頭が無いのか? 『巨塔の魔女』の下に俺様すら敗北した ナズナ(化け物) がいるんだぞ? そんな化け物がいる魔女にちょっかいを出すとか、死にたかったら最後まで仕事を果たし終えてから勝手に死ねェッ」

「えぇぇ、酷い言い草ぁ~。僕様ちゃんは、ただゴウの情報が本当かどうか確かめるために仕事をしようと思っただけなのに」

「このクソガキがァ……ッ」

セスタは無知を装ってからかうように体をくねらせる。

美少女顔の美少年だから様になっているが、自身の容姿に自信を持つセスタがわざとやっていることを理解しているゴウからすれば、煽りにしかならない。

殺気を飛ばし、ソファーから立ち上がろうとしたが、一歩先にセスタが体をくねらせるのを止めて『降参』するように両手を上げる。

「いや、実際、ゴウが敗北するほど強い奴とか興味あるじゃん。だから、二重チェックと新しい情報取得も兼ねて手を出してみようかなって」

「ふん、確かに爆弾小僧の言い分も一理あるな。元敵対していた者の情報を鵜呑みにするのも危険だ。確認も重要だろう……」

セスタの言葉に、意外にもカイザーが理解を示す。

セスタがここぞとばかりに声をあげる。

「さすがカイザーさん! だよね! 確認は重要だよね!」

『P・A』に大きく関わり仕事をする二人の発言力は高い。

セスタが『巨塔の魔女』にちょっかいを出すのを許可する雰囲気が作られる。

この雰囲気に竜人帝国側マスターのリーダー格のヒロ、禿頭に眉毛まで剃っている長身の男性ルカンも、互いに視線を合わせて『仕方ないな』と言いたげに肩をすくめた。

カイザーの護衛である 黒(ヘイ) は、ただだまって彼の影にたたずむだけだ。

ヒロが微苦笑を漏らしつつ、許可を出す。

「分かりましたセスタくん、手を出すのを許可します」

「やり! ありがとう、ヒロさん!」

まるで明日『遊園地に連れて行く』と言われた子供のようにセスタは無邪気に指を鳴らし、両手を上げて喜ぶ。

ゴウはちょっかいを出すことが許可された事実に、黙って苦虫を噛む。

一方、彼の態度にヒロ達は微苦笑しつつも、釘を刺すのも忘れない。

ヒロが真剣な表情で告げる。

「ただ、本当に命を危険にさらすようなマネはしないでくださいよ。セスタくんの力はまだ『P・A』に必要なんですから」

「大丈夫です。分かってますよ。それに僕様ちゃんの 恩恵(ギフト) は皆、知っているでしょ? 僕様ちゃんが危険に陥るなんてそうそうないから大丈夫だって」

セスタが自信満々に断言した。

「久しぶりに、『生物が爆発する刹那の煌めき』を沢山見ることが出来そうだな」

彼は心底嬉しそうに舌舐めずりする。

☆ ☆ ☆

「――『巨塔の魔女』様のお陰で、無事に魔人国との諍いを納めることが出来ましたね」

「はい、『巨塔の魔女』様には足を向けて眠れませんね、リリス女王様」

人種王国首都、王城――というにはみすぼらしいちょっと大きい屋敷程度の執務室で、側付きメイド長となったユメ(偽)が、女王に即位したリリスの言葉にお茶を煎れつつ同意の返事をする。

(『巨塔の魔女』様とはいえ、あまり借りを作るのは得策ではないですが……)

そのお茶が置かれるのを眺めつつ、リリスは胸中で愚痴を零す。

リリスが人種王国女王に就任できたのも全て『巨塔の魔女』――の後ろにいるライトが力添えしてくれたお陰だ。

その点については感謝しているが、彼は『リリスにとって無条件の守護者』という訳ではない。

あくまで実妹ユメを助けたお礼として、リリスに協力しているだけに過ぎなかった。

そんな協力者のライトから、ユメ(偽)経由で連絡が入り、魔人国問題が片付いたことを知らされた。

魔人国問題とは?

魔人国がリリス女王就任に反対し、内政干渉よりも遙かに酷いことを声高に宣言し、人種王国に押しつけてきた。

直接的な表現を避けてぼかしてはいたが、『人種王国領土に入り麦の略奪、人種奴隷狩り、村の焼き討ち、見せしめによる強奪、虐殺等をおこなう』と言ってきたのである。

人種王国に魔人国のこのような横暴を止める力は無く、ちょうどリリスを尋ねてきたダーク(ライト)に協力を願った。

彼は二つ返事で了承。

そして見事、魔人国問題を解決したのだ。

リリスがユメ(偽)の煎れたお茶を、再度口にする。

(魔人国問題が無事に片付けられたのは僥倖ですが、問題はまだまだ山積みなのですよね……)

代表的な問題は兄クローとその派閥だ。

リリスがライトの協力で強引に人種王国王位を強奪。

無理矢理、元国王の父、第一王子だったクローを押しのけて、女王の座についた。

全ては人種の明るい未来を得るためである。

(お兄様は軟禁されていても未だ派閥共々王位を諦めていない。お陰で魔人国問題が片付いても人種王国内部はきな臭いまま……)

リリスは兄に問題を持つ妹としての顔で、背もたれに体を預ける。

「…………」

「女王様?」

書類にも手をつけず、黙り込んだリリスにユメ(偽)が思わず声をかけた。

声をかけたがリリスはすぐに反応せず、数秒後――女王としての表情で背もたれから体を起こす。

「魔人国問題が片付いた以上、お兄様とその派閥にも現実を突きつけ、受け入れて頂きましょう。人種が明るい未来を掴むためには、国内できっちりと纏まる必要がありますから」

リリスは実妹としてではなく、人種王国女王として判断を下す。

「お兄様とその派閥の心を折るため策を打ちます。ユメ、これまで以上に忙しくなると思いますが、どうか私を支えてくださいね?」

「はい、もちろんです、リリス女王様!」

ユメ(偽)は気合いを入れて可愛らしく、両手を胸の前で握りしめる。

その仕草が可愛くて、リリスもつい頬が緩んだ。

同時に自身の決意も緩みそうになる。

(お兄様の心を折り、野心を消してもらって、父のように他に楽しみを見つけて欲しい――いえ、やっぱり父のように弾けるのは勘弁して欲しいですわ)

最近また元国王である父が、新しい娼婦を迎えるための資金増額書類を提出してきた。

国王時代は職務に真面目な堅物だったが、重責から解放されて弾け、娼婦に入れ込んでいる状態だ。

野心が折れて、父のようになる実兄クローの姿を想像し、リリスはこめかみに痛みを覚えた。

だが痛みを覚えつつも、リリスはユメ(偽)に指示を出す。

「策を打つためにも『巨塔の魔女』様とお話し合いをする必要があるので、連絡をお願いしますね?」

リリスが打つ策とは――。