作品タイトル不明
42話 合流と興味
「魔人国で『C』と誤認されていた『ますたー』が『巨塔の魔女』に討伐された?」
竜人帝国のとある一室で、元『種族の集い』リーダーを務めていたドラゴが、部下からの報告を聞き驚きの声を漏らす。
竜人帝国側は魔人国がレベルはともかく封印された『マスター』を『C』と誤認して、ひた隠し、竜人種を魔人種が種として超えるための足がかりにしようと目論んでいたことは知っていた。
だが実際は『C』ではないため、放置していたが……。
まさか魔人国の第一王子が『偽C』をわざわざ復活させて、自国の城を壊滅させ、さらに『偽C』が『巨塔の魔女』に討ち取られるとまでは予想できなかった。
「……引き続き情報を集めるように。『巨塔の魔女』についてもだ」
わずかな間を置いて、部下に指示を出す。
部下は一礼すると、部屋を出た。
ドラゴは部下が退出したのを確認後、座っている椅子の背もたれに自身の体を預け、考え込む。
(『巨塔の魔女』とは一体何者だ? まさか封印されていた『ますたー』を始末するとは……。『C』が作り出した新しい玩具か? それとも――)
竜人帝国上層部も『巨塔の魔女』について情報を収集しているが、あまり進展はない。
『巨塔の魔女』(相手側) の情報封鎖が上手すぎて、芳しくないのである。
ドラゴも自身の安全のため独自に動き調べているが、進展はいまいちない。
「……まぁいい。偽『ますたー』、あの ヒューマン(劣等種) のお陰で俺は、無事にひっかかることが出来たのだから。もうすぐどれも関係のない話になる。『P・A』が完成すれば――」
ドラゴの体が震える。
寒いからではない。
純粋な恐怖心から、体が震えてしまっているのだ。
ドラゴは両腕で自分を抱きしめつつ、自身の幸運に感謝の念を漏らす。
(本当に俺は運が良かった! もしあの時『ますたー』候補を見つけられなかったら、時間に間に合わず引っかからず、切り捨てられる側に落ちてしまっていただろう。だが ライト(劣等種) と出会って、ぶち殺すことが出来たお陰で俺はギリギリ助かることが出来たんだ……ッ)
もしライトと出会わず、何も知らずのうのうと次期竜人帝国皇帝の座を狙っていたら……。
自分自身の間抜けな姿を想像して再度震えた。
(しかし、自分はそんな間抜けにならずに済んだ。済んだんだ!)
結果として、ドラゴは真実を知り、自身の幸運に感謝するほどの歓喜を得た。
あとは『P・A』が完成すれば全ては完璧なのだが……。
竜人帝国、ドラゴの耳に偽『C』が『巨塔の魔女』に倒されたという情報が入る。
当然、竜人帝国側に所属するマスター達にも、その情報は入っていた。
もちろん、それだけではない。
☆ ☆ ☆
「あははははははははははは! だめ、もう僕様ちゃんお腹が痛いのぉ! あははははははははははははははははっ! ひひひひひぃ!」
「このクソガキがァ……ッ」
竜人帝国所属のマスター達が集まる部屋がある。
その一室に元魔人国マスターのリーダー格であるゴウが、下座の一人がけソファーに腰を下ろし、一方的に笑われて額に青筋を浮かべていた。
ゴウに『クソガキ』と呼ばれた少年は、絨毯の上で笑い転げる。身長は低く、年齢は14、5歳。顔立ちが非常に整っており、少年にもかかわらず一見すると美少女に見間違うほどだ。
本人も自分の容姿の良さを理解して、身長の低さもあってか、異性、同性問わず甘える可愛らしい態度をとる。彼の『中身』を知る者達からすれば気色悪いが、初対面の人物ならだいたい彼の可愛さに心を奪われ、どのような願いでも叶えようとするだろう。
そんな少年が、ゴウの怒りに再度顔を上げて――ドレッドヘアーを切り、丸坊主頭になったゴウを直視。
最初こそ耐えようとしたが……。
「――ぶふあははは! ひひひ! あははは! 駄目! やっぱり無理! 面白過ぎるでしょ!」
「……ッ!」
「落ち着いてください、ゴウ君。セスタ君も笑い過ぎですよ」
ゴウを散々笑う美少年セスタを、2mはある巨漢の男が淡々とした声で叱責する。
空気抵抗を嫌うかのように髪の毛、眉、髭も一切無く、体を隠すようにマントを羽織っていた。マントの下は鱗で覆われた鎧を身につけており、今すぐにでも水中へ飛び込み高速移動可能な格好をしていた。
禿頭の青年に注意を受けセスタが、目に浮かんだ涙を拭いながら答える。
「だ、だってさ、あのゴウが、まさか丸坊主になるなんて! ルカンさんじゃあるまいし!」
「私の場合、剃っているだけなのですがね。ゴウ君の場合も、緊急避難措置のようなものなのですから、笑うのはよくありませんよ。まぁ私も当初、緊急で呼び出された時は驚きましたが……」
「……ルカンには感謝している。地面に潜って敵をやり過ごした際に粗方は落とした筈だが、体に付着した追跡用の血を完璧に落とすにはどうしてもオマエの力が必要だったからなァッ」
ゴウが人種王国村で戦ったメラ分身体はやや不自然に自身の血をばらまいていた。
『UR キメラ メラ レベル7777』の血は特殊で、ある種、分身体の一つでもある。
故に完全に血を落とさない限り、本体であるメラは例えどれだけ物理的距離が離れていても位置を特定することが出来るのだ。
その話をナズナから聞かされたゴウは、彼女の前で自爆――と見せかけ無事に目を誤魔化して逃走した。
その際、ナズナに追跡された原因、『血』を落とすため、服を脱いで他者のと入れ替え、自ら髪の毛をそり落とし、さらにゴウ自身出来うる限りの手を使い自身の体を洗浄したのだ。
さらに竜人帝国側マスターの一人であるルカンに緊急で連絡を取り、合流。
彼は水のエキスパートで、全身を魔術で洗浄。
微細な成分も全て物理・魔術的に完全に落としたのだ。
お陰で ナズナ(化け物) に気付かれ、追いつかれる前にマーキングとなる血を完全に洗い流すことに成功した。
そのためゴウはルカンに対してだけは、借りがあるため落ち着いた態度を取る。
一方馬鹿笑いしてくるセスタに対してはぎろりと殺意を込めて睨みつけた。
「だが、セスタ、貴様は後で殺すわァッ」
「あはははは! やれるものならやってみろよ、クソガキに負けてきたクソ負け犬が!」
先ほどまで無邪気な美少年アピールをしていたセスタが、ゴウの殺気に反応して戦闘体制に切り替わる。
ナズナ(クソガキ) に負けてきたゴウを全力で煽り、自身も殺気を飛ばす。
マスター同士の殺意がぶつかりあい部屋に充満した。
だが、その充満した殺気に対して、金髪に上半身裸で黄金の装飾具を大量につけた、どこかの王族のような出で立ちをしたカイザーがうざそうに口を開く。
「えええい! 鬱陶しい! 殺気を飛ばし合うな馬鹿者どもめ! 大体、なぜ頭のイカレた破滅主義派である『魔人国マスター』のリーダーがこの場に居るのだ! ヒロ、貴様、裏でこの者と繋がっていたというのは本当か!?」
数人で座るソファーに一人で座るカイザーが、上座に置かれた一人がけソファーに腰を下ろす竜人帝国側『マスター』のリーダー的存在であるヒロに怒りの視線を向ける。
ちなみにカイザーの護衛を自称する 黒(ヘイ) は、彼の後ろにひっそりと立っていた。
竜人国『マスター』達の纏め役であり、舞台で王子役でもやるかのように華美な衣装を着た美形のヒロは、カイザーから向けられた言葉に軽くため息をつき弁明する。
「……いくら互いに主義主張が違えど、完全に連絡を絶つのは悪手ですよ。とはいえ表沙汰にするには憚られていたので、裏で繋がっていただけです。他意はありません」
「 鮫野郎(カマボコ) 、 ヒソミ(細目) も繋がりを知っていたな?」
ギロリとカイザーが部屋の隅で一人立つ 鮫野郎(カマボコ) ――ルカンを睨む。
今回ヒソミは所用で席を外しているため、この部屋にはいない。
カイザーに睨まれたルカンは、軽く肩をすくめる。
「ええ、まぁ、私自身、必要なことだと思いましたので。カイザー君、セスタ君には『P・A』に集中して欲しかったというのもありましたが。 黒(ヘイ) 君は、まぁ 黒(ヘイ) 君なので……」
黒(ヘイ) は『カイザー守護』にしか興味が無いため、伝えても伝えなくても変わらないため放置していたようだ。
世話になったルカンへ援護射撃するようにゴウが、口を挟む。
「組織として外交チャンネルを持つのは当然のことだろうが。お陰で俺様直々に『巨塔の魔女』のヤバさを伝えることが出来たんだからなァッ」
「チッ……まあ確かに、貴様を楽に下す化け物が『巨塔の魔女』の配下にいるというのは有意義な情報ではあるな。魔女の側に『C』がいないという情報があるのも良い」
カイザーも見た目派手で『俺様』っぽく見えるが、プライドが高いだけの馬鹿ではない。
自分に隠していたとはいえ、魔人側、竜人帝国側マスター同士で密かに繋がっていたことの有効性は素直に認めるしかなかった。
竜人帝国側マスターのトップを務めるヒロが、カイザーの爆発をなんとか押さえられたことに密かに安堵しつつ話を進める。
「カイザーさんにご理解頂けてよかったです。ゴウさんは元敵側の組織リーダーとはいえ実力も高く、ボク達側の考えにも一定の理解を示してくださっていました。だから、お互い秘密裏に外交チャンネルを持つことが出来た訳で。さらに『巨塔の魔女』について多数の有益な情報を伝えてくださいました。なので彼を我々の仲間、具体的には『P・A』に席を用意するつもりですが……」
「私は賛成です」
「僕様ちゃんもいいよ。散々笑わせてもらったし」
ルカン、セスタがヒロの言葉に賛成を示す。
「カイザーが賛成するなら」
「ヒソミさんからも既に賛成をもらっているんですよね……」
「…………」
カイザーの背後に立つ 黒(ヘイ) が淡々と、ヒロがこの場にいないヒソミの賛成も既にもらっていることを告げる。
カイザーは苦々しい表情を作っただけで発言をしない。
ヒロが追撃をしかける。
「ゴウさんはレベルも高い実力者なので、防衛を考えると迎え入れておきたい人材なんですよ。特に『C』が魔女側にいないとはいえ、相当の実力者があちら側にいるので、万が一『P・A』を邪魔されても困るので戦力を確保しておきたいというか……」
「チッ! 好きにするがいい!」
カイザーが折れる。
『P・A』の中心人物から許可も無事に下りて、ゴウは竜人帝国側マスターへと合流することが出来た。
ヒロも無事、ゴウを取り込めたことに安堵する。
この一件でカイザーとこじれたら、『P・A』が止まりかねない。それだけはなんとしても避けたかった。
カイザー的にも『P・A』を邪魔される訳にはいかない。
故にゴウのような実力者を取り込むことは胸中では賛成だったが、元々敵対していた組織トップの取り込みにすぐさま諸手を挙げるのは憚られていただけだ。
これは利益不利益云々ではなく、感情の問題である。
そんなカイザーの心情に一切気付かず、セスタが絨毯の上にあぐらで座り挙手する。
「はいはいはーい! 僕様ちゃん、ゴウを退けたっていう『巨塔の魔女』に興味が湧いちゃった。せっかくだからちょっかいを出しに行ってきてもいいかな?」
竜人帝国側マスターの一人、セスタが純粋な笑顔で声を上げたのだった。