作品タイトル不明
41話 ディアブロの終わり
「ひゃぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!」
ディアブロが悲鳴を上げて、1階奥へと逃げ出す。
腰が抜けてしまっているのか、ばたばたと激しく動くわりに速くない。軽く捕まえることもできたがあえてしなかった。
彼は1階奥へと向かう。
最後の悪あがきなのだから、存分に好きなだけやらせてあげようと親切心で見守る。
(どうせ屋敷から逃げ出すための隠し通路か何かあるんだろうな。エリーの結界が張ってあるから抜け出すことはできないのに)
僕はディアブロの最後の悪足掻きを笑って見送りつつ、ゆっくりと歩を進めた。
☆ ☆ ☆
「ひぃひぃぃ、ひぃ……!」
ほぼ腰が抜けた状態でディアブロは1階の奥にある執務室を目指す。そこには代々伝えられている、いざという時に脱出するための隠し通路が存在していた。
正面玄関には『巨塔の魔女』が立ち塞がっているため、出入りできない。
故にディアブロは隠し通路から脱出することを選択したのだ。
「ど、どうして! どうしてこんなことになったのですかー!」
ディアブロは本気で自身の不幸を嘆く。
「どうしてミーだけがこんな理不尽な思いをさせられなければならないのですか!? ミーは兄にも負けないよう努力してきて、領地、領民、国家にも多大な忠誠を示してきました。なのに、どうしてミーだけがこんな不幸な目にあわなければならないのですかー!」
ライトを私利私欲で殺害しようとしたことも、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を使ってダークを殺害しようとしたことも、ヴォロスから強制されたとはいえ人種王国に私兵を派遣したことも一切悪いとは考えていない。
同種の魔人種が殺害されるなら同情ぐらいはする。
しかし ヒューマン(劣等種) がどれだけ死のうが、ディアブロ的には虫が死ぬ程度の感慨しかない。
にもかかわらず、虫程度にしか思っていない ヒューマン(劣等種) を『奈落』で一方的に殺しかけただけで逆恨みされ、青い血が流れる貴種のディアブロ自身を殺害しようと乗り込んできた。
しかも国家を次々破壊して回る『巨塔の魔女』を部下にして、自身もレベル9999という頭がおかしい強さを手に入れてだ。
「はははははははははははっ! どこに行くんだい? ガルー、サーシャ、ナーノ、皆が『奈落』の奥底でディアブロを待っているのに!」
「来るな! 化け物ーッ!」
ライトが嗤いながらディアブロの後を追いかけてくる。
彼は嘆きつつ、執務室の分厚い扉を開き滑り込む。
無駄だと理解しつつも、鍵をかけた。
ディアブロは本棚に飛びつくと、次々本を床へと落とす。
本来、これらの本は貴重な物だが、今はかまっている暇はない。
本をのけて棚をいじり、木製の棚を外すと裏側に隠し通路の出入り口がある。
金属製の扉で塞がっており、鍵はかかっておらず、引っ張れば扉が開き、外部に出られる秘密通路に通じているのだ。
ディアブロが先祖代々伝えられる口伝通り、金属扉を引っ張り開く。
地下に続く階段があり、そこを降りて抜け外部に出ようとするが――。
「ッ!? ど、どうして通れないのです!? 何か透明な壁があって……ッ」
ディアブロが扉を開き隠し通路を通ろうとしたが、透明な壁に阻まれ階段を降りることができなかった。
レベル400前後の彼が全力で透明な壁を殴るが、びくともしない。
魔術師としての知識が答えに辿り着く。
「結界ッ!? ま、魔女の仕業ですかー!」
『結界』……敵の攻撃を防いだり、他者を入れないようにしたり、逆に外に出られなくしたりなど、他にも術式によって多数のことが出来る魔術の一種だ。
エリーは屋敷全体だけではなく、抜け道等にもしっかりと結界を張って外に出られないようにしていたのである。
絶対の忠誠を誓うライトの大切な復讐相手なのだ。
逃がすような真似をエリーがするはずなどない。
「くそ! くそ! くそぉおおぉー!」
ディアブロは必死に結界を殴り、攻撃魔術をしかけるがびくともしなかった。
彼は抜け道に見切りをつけ、窓を開き外に出ようとするが――。
「ッ!? 窓にも結界がー!」
エリーがほどこした結界は、屋敷全体を覆うため当然窓にも張られてある。
ディアブロは涙目で再度結界を殴るがびくともしない。
ノック音が響く。
「ッ!?」
必死に結界を殴っていたディアブロだったが、このノック音だけは明確に耳が拾う。
ディアブロが過去ライトに教えた通り、礼儀に則ったノック音だ。
次にガチャガチャと扉を開こうとする音が続く。
扉越しにライトが声をかけてくる。
『ディアブロ、中にいるんだろう? 元「種族の集い」の皆がディアブロを「奈落」最下層で待っているんだよ。開けてくれないかな』
「嫌、嫌ですよ。来るな、来るな、化け物ー……ッ!」
ディアブロが思わず叫んでしまう。
扉越しにライトが心底楽しそうな声をあげる。
『ははははは! そんな寂しいことを言わないでよ。また皆で一緒に集まれるんだからさ』
ガチャガチャガチャガチャ!
扉のノブが何度もひねられ、開けようとされる。
ディアブロはその音を聞くだけで発狂しそうになった。
(こ、これでは本当に悪夢を視ているようではありませんかー……)
しかし、これは現実である。
レベル9999のライトにただの扉など何の意味もない。
破壊音をたて、扉が壊される。
ライトが扉を力任せに引きちぎったのだ。
ガチャガチャガチャと音を鳴らしていたのはディアブロを怖がらせるための演出でしかない。
壊れた扉を置き去りにライトが顔を出す。
「あははははは、みつけたよ、ディアブロ」
ライトは約3年前、『奈落』ダンジョンに潜る前に見せていたような無邪気な笑顔を浮かべていた。
当時、あの笑顔を見るたびにディアブロは内心で『我々の演技にも気づかず、のんきな子供ですね。将来殺される可能性が高いというのに、所詮は ヒューマン(劣等種) ということですかー』と蔑んでいた。
しかし、今はその笑顔を前に恐怖しか感じない。
ディアブロは窓際から、少しでもライトから距離をとるため部屋の端へと壁越しに後ずさる。
「く、来るな! 嫌だ! 助けて! 化け物! だすけ、ごめんなさい、許して! 助け――」
涙、鼻水、唾液、ズボンまで濡らしてその場にへたり込み、哀願、拒絶、罵り、謝罪を繰り返す。
恐怖し過ぎて口から出る言葉に一貫性がないのだ。
そんなディアブロへ、ライトはある意味で愛おしそうに歩み寄る。
ライトは天上から舞い降りた天使のような満ち足りた笑顔で宣告する。
「さぁ、皆が一緒にいる『奈落』へ行こうか」
「嫌だぁあぁぁあ! ぎあゃぁあっぁあぁぁぁっー!」
「転移、 解放(リリース) 、奈落『最下層』へ――」
ライトは泣き叫ぶディアブロを掴み、転移する。
執務室から一瞬で二人の姿が消え失せる。
――これで復讐相手は後、1人。