作品タイトル不明
40話 地下深くへ
「れ、レベル9999……ッ」
ディアブロは僕のステータス画面を見ると、この世の終わりを前にしたような絶望顔を作り出す。
彼は顔と言わず全身から冷や汗を流し、その場で土下座した。
土下座しながら、全力で言い訳を口にする。
「……あ、あの時は、あの時はしかたなかったのですよ! パーティーメンバーにはドラゴも居て、魔人国からも念押しされて偽『ますたー』であるライトを逃がすことができなかったんですよ! ミー自身に選択肢が無かった。抗うことが出来なかったのですよ! でもあれからやはり人道的に考えて、ずっとライトを裏切り殺そうとしたことを後悔していましたー。ですから――」
「…………」
僕は黙って土下座するディアブロを前に続きを待つ。
彼はゆっくりと顔を上げ、こちらに媚びるように上目遣いで見上げてくる。
「ですから、た、助けてください。貴族籍も返して欲しいですよ。その代わりにミーは以後、ライトに従います。ライトの右腕としてミーの才覚を全て捧げますから。今後、魔人国を統治するなら、ミーは有能な人材だと自負しますよ。領地経営のノウハウ、人材の采配、魔人国内部の貴族傾向など。この国を治めるノウハウを多数持っていますから。部下にして損はありませんよー!」
彼の発言にエリーが苛立つ。
『ディアブロさん程度の才覚で、ライト 神様(しんさま) の右腕になれるつもりとか。完全にこちらを舐めていますよね』
あまりにも切羽詰まってディアブロは、エリーの苛立ちにも気付かず自身が命乞いどころか、挑発しているのも気付いていない。
『後悔している』と口にしているが、人種より魔人種の方が上という考えが染みこんでいるため、僕達の方が圧倒的に強者、レベル差があるにも拘わらず自然と見下した台詞がでてしまっているのだろう。
第一、僕達は魔人国を統治するつもりなどない。
売り込むにしても、最初から見当が外れているのだ。
(切羽詰まった時こそ本性が見えるというけど、本当だな……)
僕はディアブロの言い訳を聞きながら、胸中でついそんなことを考えてしまう。
ディアブロは自身の有能さを提示しても僕達の反応が良くなかったため、焦り出す。
なので命乞いの方向を変える。
彼は『種族の集い』時代の話題を振って、僕の同情心を刺激しようとしてくる。
「そ、それにミーにとっても『種族の集い』時代は良い思い出です。なのであの時のように仲良くしましょう。もしライトが良ければまたミーが礼儀作法などを教えて差し上げますよ。あの日のように一緒に楽しくやりましょうー」
「……あの日のように……」
僕がようやく反応を示す。
ディアブロは光明を得たように笑顔で続ける。
「はいですよ! あの日のように楽しく。仲間同士で飲み明かし、皆で騒いで――」
「くっ、ははは……」
僕は自然と笑ってしまう。
先程まで生き残る光明を得ていたディアブロの表情が固まる。
「あは、あはは、あはははははははははははっ!」
笑っているはずなのに、声がひび割れ、溢れ出る感情に一切の明るさはなく、呪いのような威圧感だけが漏れ出続ける。
「ハハハハハハハハハハハハハハッ!」
「……ッゥ!」
絶対の忠誠心を抱くエリーですら、僕の内側から溢れ出る狂気的な笑いに怯え、半歩後退ってしまう。
彼女の怯えに気付きつつも、僕は感情を止められず叫ぶ。
「確かに楽しかったよ! 『種族の集い』に誘われて、入団パーティーを皆に開いてもらって、村のお祭りでも食べたことがない豪華な食事を振る舞ってもらって、夜遅くまで騒いだ! 僕の人生であれほどの幸福は訪れないと考えてしまうほどに! クエストを終えた後、『種族の集い』メンバーの皆と一緒に飲んで、騒いで、唄って、誇らしげに肩を組んで、僕達全員が無事だったのを祝い、次も無事であることを祈った! あんな幸せがずっと続けばよかったと何度も、何度も、何度も思った! にもかかわらずそれを壊し、全てを裏切り、僕を殺そうとしたのはオマエ達だろうがぁあああぁあぁぁぁあぁあッッ!」
感情に任せて絶叫をする。
レベル9999にまでなった僕が、感情に任せて叫ぶせいで建物全体がギシギシと物理的に揺れた。
事前の打ち合わせで、エリーには屋敷内部に誰も入れないよう、また僕達の姿形、声、内部でおこなわれていることが外に漏れ出ないよう強固な結界を張ってもらっていた。
もし結界を張っていなければ、僕の声と殺気が外に漏れ出ていただろう。
僕は自分自身で壊れていると分かる笑顔を浮かべ、心底楽しげにディアブロへと語りかける。
「でも安心していいよ。『種族の集い』の皆、ガルーも、サーシャも、ナーノも、『奈落』最下層のさらに地下深くで再び一緒に居るんだ。ガルー達は死ぬよりも辛い責め苦を味わい続けている。それでも皆、僕の『無限ガチャ』カード、最上級ポーション、最高位魔術等で生き続けているんだ。ディアブロ、君もそんな楽しい場所に連れて行ってあげよう。元『種族の集い』メンバーとして仲間外れは哀しいだろうからね。同窓会のようにまた皆で一緒の場所に集まるといいじゃないか。僕が連れて行ってあげるよ」
僕は心底笑顔で語りかける。
「ディアブロ、1人だけ除け者なんて寂しいだろうからね」
「く、く、来るな! 来るなぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ディアブロは恐怖に引きつった顔で、腰が抜けたようにバタバタと足を僕の横をすり抜け動かし1階奥へと向かう。
あまり素速い動きではなく、止めることは容易かったが、手は出さなかった。
最後の悪あがきなのだから、存分に好きなだけやらせてあげようと親切心で見守る。
正面出入口はエリーが立っていたから、避けたのだろう。
「もうどれだけ足掻いても無駄だけどね」
僕はディアブロの足掻き、悲鳴、絶望を楽しみつつ、彼の後をゆっくりと追いかけた。