作品タイトル不明
35話 ディアブロの処遇
「エリー、魔人国の被害状況と支援状況はどうだい?」
「はい、ですの」
僕に声をかけられてエリーが嬉しそうに笑みを浮かべる。
偽『C』討伐後、魔人国第一王子ヴォロスに呆れ果ててから、約1日が過ぎた。
僕は『奈落』最下層執務室に座り、エリーからの報告を受ける。
「偽『C』の影響で暴走していた者達の異常状態回復と治癒、他救助は妖精メイド達のお陰ですぐに収まりましたの。市民達への炊き出しもつつがなくおこなっていますわ。ただ……」
話していたエリーの表情が曇る。
「人種奴隷達の把握、確保、治癒などはやや遅れ気味ですわ。『巨塔の魔女』としてヴォロスからの委任状を盾に、『 人種(ヒューマン) 絶対主義』を掲げましたが浸透がまだされておらず、人種奴隷を助け出そうとすると反発する者達もおりまして。また人種奴隷達の殆どが栄養失調気味で、傷跡があったり場合によっては重度の怪我を負っており、その治癒などに人手を割かれてしまって……。大変、申し訳ありませんの」
「エルフ女王国でもだったが、魔人国でも人種はろくな扱いを受けていないのか……」
人種の扱いの悪さには本当に嫌気が差す。
扱いが酷い割りには、皆、手放そうとしない。
場合によっては人種奴隷自身が酷い扱いを受けているにも関わらず、トラウマと過去の恐怖から雇い主から離れたがらないケースも存在した。
大抵そういう奴隷は、雇い主から強制的に引きはがし、『巨塔街』で1人の人間として生活しているうちに気持ちを落ち着かせていくが……。
エリーの報告に、僕は微笑みを浮かべて返答する。
「エリーが謝る必要はないよ。妖精メイドを増やしていいから、人種奴隷達の把握、救出、治癒などを急いでくれ。もし必要ならカードを遠慮なく使っていいからね」
「ライト 神様(しんさま) の寛大なるご配慮、痛み入りますわ」
彼女は深々と頭を下げて一礼する。
今回、『巨塔の魔女』、妖精メイドをわざわざ投入したのも、あまりにも頭がおかしかったヴォロスのせいもあるが、人種が被害にあっている可能性があるため早急に状況把握、救助のため人手を投入する必要があった。
目の前に救える命があるのに手を抜いて、負傷していた人種がひっそりと命を落とすことは避けたかったのだ。
『SSSR 高位異常状態解除』という割と上位カードを惜しみなく投入したのも、人種保護を邪魔されないためだ。
無限ガチャでそのうち使用した分は補充が利く。人種奴隷が命を落とすことに比べれば、たいした消費ではない。
僕は気持ちを切り替えるように、椅子の背もたれに体を預ける。
「さて、魔人国の扱いについてはこれで問題ないだろう。エリー、引き続き頼むよ」
「畏まりましたわ、ライト 神様(しんさま) 」
仕事を任されるのが嬉しいのか、エリーは片手で帽子を押さえて優雅に一礼するが、喜びが押さえきれず全身から発せられていた。
僕はそんな彼女を微笑ましく眺めつつ、次の話に移る。
「さて、いよいよ次はようやくディアブロへの復讐に着手できるわけだが……偽『C』騒動は面倒だったけど、結果的にそこそこ面白いモノが手に入ったから良しとしよう」
『面白いモノ』とは、もちろんヴォロス第一王子直筆の委任状だ。
最初は偽『C』騒動を早急に治め、人種奴隷を救い出すのに必要だから用意したものだった。
しかし、この委任状を使えば、ディアブロを精神的にも追いつめることが出来ると気付く。
「ディアブロが貴族の地位に拘っているのは、地上で情報収集にあたってくれている者達から調査済みだ。実兄との仲が良くないのも。ヴォロス第一王子からの委任状を使えば、ディアブロを貴族籍から即座に排除して絶望させることも、実兄に継がせるのも思いのまま。人種奴隷を救い出すため準備したモノだけど、予想以上に使い勝手がいいな」
「さすがライト 神様(しんさま) ですわ。最小の労力で最大限の利益を得る。まさに神算鬼謀とはライト 神様(しんさま) のことですわね!」
「ありがとう、エリー」
僕はエリーから手放しで褒められて、笑みを零す。
「僕が味わった絶望はその程度では到底足りない。だが、まずはディアブロが僕を殺してでも得たかった地位を正式な手順で奪ってあげよう。そうすることで少しでも僕の味わった絶望を彼に感じてもらおうか」
「はい、素晴らしい案かと」
エリーが頷く。
さらに、僕は若干そこに追加する要素を考える。
(このまま普通にディアブロを貴族籍から外したり、実兄、またはその息子に譲ったり、領地没収だけではまだまだ足りないな……)
エリーが『巨塔の魔女』として委任状を片手に手続きをすればお終いだ。
それではまだ足りない。
ふと、過去のディアブロの言を思い出す。
(ディアブロが冒険者時代、元貴族なのに冒険者になった理由を語っていたっけ)
彼は見聞を広めるため冒険者になったと口にしていた。
そして今でも実家に帰ると兵士、使用人、メイド達に好かれ過ぎて、『冒険者なんて危ないことは止めて戻ってきて欲しい』と言われて困ると語っていた。
『まったく、家の者達はミーに対して過保護過ぎて困りますねー』と。
他にもメイド達から秋波を送られたり、両親にも溺愛され、実兄にもかわいがられて困ってしまう。
だから、面倒で実家にはなかなか帰らない、と語っていた。
(当時の僕はディアブロの話を貴族とはそういうものなんだと聞いていたけれど、あれは彼自身、自身のプライドを守るための出任せだったんだろうな……)
お陰で、趣向を思い付く。
以前、サーシャにおこなったようにディアブロの部下、使用人、メイド達の心を試す。彼ら・彼女らが1人でもディアブロを命懸けで守るならば許しを与えるというものだ。
「ディアブロ曰く、『自分は非常に好かれているらしい』から、きっと皆、命懸けで守るだろうね。もし仮に1人でも本当に命懸けで彼を守るなら、許しを与えてもいい。本当に『自らの主であるディアブロを命懸けで守る』という行為を出来るならば、ね」
「さすがライト 神様(しんさま) 、面白い趣向かと。彼を慕う者がいれば、どのような苦境に立たされてもきっと命懸けで主をお守りするはずですわ。本当にトップとして立つ器を持ち、好かれているのならば……」
僕とエリーは深い笑みを浮かべる。
こうして、いよいよディアブロへの復讐が始まろうとしていた。