軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話 直筆の委任状

『pわ9うはあじゃな8392!』

魔人国首都は、地獄のような狂乱に陥っていた。

突然、王城が内側から大爆発。

瓦礫が周辺に散らばり、家屋、商店、軍事施設などを破壊した。

それだけならまだマシである。

次に内側から1人の人影が姿を現す。

爆発に生き残った魔人種兵士達は、その現れた人影――偽『C』を一目見るだけで狂ったように自傷、凶暴化して他者を襲い出す。

ただ手にしている槍、剣、拳などで襲いかかってくるだけならまだマシだ。

「や、止めろ! 止めてくれ、正気に戻ってくれ――ぎゃああぁぁっ!」

「、ばw9うあ9h!」

ある兵士は同僚に襲いかかると、彼の喉に噛みつき、千切る。

血を啜り、肉を咀嚼し、狂ったように叫び続けた。

偽『C』を目にしたのは多数のため、狂乱している者達は多い。

魔人国の高官達は瓦礫に埋もれてしまったのか不在で、生き残った兵士達が場当たり的な対処をおこなう。

取り押さえ拘束できたなら御の字。

足を斬って動きを止めたり、中には同僚をその手で殺さなければならなかった。

明らかに混乱しているため、無事だった魔術師が『状態異常解除』の魔術を使用するが、一切の効果がない。

故に最悪『殺害』までしなければならなかったのだ。

そんな地獄の光景を止める者が現れる。

「『SSSR 高位異常状態解除』、 解放(リリース) ですわ」

気付けばいつの間にか側にいた少女が、1枚のカードを使用する。

フードを頭からすっぽり被り、腰はくびれて、胸の谷間も深く、足もスラリと伸びている。体だけでも最高峰のスタイルだ。

隠している顔も声を聞くだけで『美少女だ』と断言できるほどの雰囲気を醸しだしている。

エリーこと『巨塔の魔女』が、無限ガチャカードを使用して、偽『C』を見て狂ってしまった魔人種兵士を助けたのだ。

『SSSR 高位異常状態解除』という割と上位カードのお陰で、魔人種兵士はまるで憑き物が落ちたように呆然とする。

「おれは確か、城の爆発に気付いて駆けつけたら変な奴の姿を見て……あれ? その後の記憶がないぞ?」

「!? しょ、正気に戻ったのか!? よかった!」

槍を向けていた同僚達が、正気に戻った兵士に抱きつき喜ぶ。

他兵士が、突如、助勢してくれた少女――エリーへと声をかける。

「あんたが使ってくれたアイテムのお陰で助かった! 悪いがそのアイテムはまだ残っていないか? 普通の状態異常解除の魔術を使っても元に戻らないんだ。だから他にも大勢の仲間が混乱しているんだが……」

「安心しなさい。既にもう手は打ってありますの」

『巨塔の魔女』はめんどくさそうに返答した。

彼女の言葉通り、冷静さを取り戻し当たりを見回すと、透明な妖精のような羽根を生やした美少女達が、忙しそうに飛び回り『SSSR 高位異常状態解除』を使用して、狂った者達を正常に戻している。

妖精メイド、フードを深く被った魔女の恰好をした少女――ここでようやく目の前の少女が誰なのか気付く者が現れた。

「妖精メイド……フードを被った魔女……き、貴様! きょ、『巨塔の魔女』か!?」

『!?』

『巨塔の魔女』という名に、お礼を告げた兵士達ですら身構える。

『巨塔の魔女』は魔人国が敵視している国家の長である。

(こ、こいつを取り押さえれば大金星……ッ。出世も思うままじゃないか?)

魔人種兵士達が目に欲望の光を宿し、喉を鳴らした。

『巨塔の魔女』は彼らなど一切気にせず、めんどくさそうにどこからか取り出した紙を突き出す。

兵士達が一瞬、首を捻るが……すぐに驚き、限界まで目を見開く。

『巨塔の魔女』は淡々と、何でもないように指示を出す。

「わたくし、魔人国第一王子ヴォロスさんから、委任状を受け取っていますの。その上で指示を出しますわ。無駄な欲を出してここで死んでもいいですが、折角生き残っているんですから仲間を助けるために動きなさいな。瓦礫の下に埋もれている者や怪我を負って動けない者を助けたり、街まで破片が散らばっているので被害状況の確認、炊き出しの準備等、やることは一杯ありますわよ」

「い、いや、だが、その書類が偽物の可能性も……」

「本物に決まっているじゃありませんか。馬鹿を言っていないで、お仲間の命を少しでも救いたいのなら早く動く!」

『りょ、了解しました!』

『巨塔の魔女』の妙な迫力に気圧されて、魔人種兵士達が反射的に敬礼、慌てて動き出す。

エリーはそんな彼らの背中を見送りつつ、軽く溜息を漏らす。

(こんな野蛮な奴らにすら、お情けをかけるなんて……ライト 神様(しんさま) はお優し過ぎますわ。一言、ご命じくだされば、わたくしが人種以外、邪魔する者達は街ごと更地にしてもよろしいのに……)

ヴォロスを『奈落』最下層に届けた後、ライトが魔人国の処遇について話をした。

魔人国首都では現在進行形で偽『C』を一目見て狂って暴れている者達が多数いることも、監視させている者達からの『SR、念話』で情報を耳にしていた。

ライトは、罪を犯していなかったり人種を奴隷として扱っていない者達については、エリーに『巨塔の魔女』として、偽『C』がもたらした狂乱から救うよう指示を出す。

(わたくし、『巨塔の魔女』が直接助けるのも、『誰が尽力したのか』分かりやすくするため。そして、恩を着せることでスムーズに『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を通すのが狙いなのでしょう――表向きは)

エリーは手の内にあるヴォロス第一王子直筆の委任状に視線を落とした。

この委任状は、本物のヴォロスに書かせた物だ。

最初、ライトは『UR、 2つ目の影(ダブル・シャドー) 』の使用も考えたが、貴重なカードなのと、ライト兄であるエルスを間接的に苦しめた存在に使用するのは躊躇われた。

ヴォロスの偽者を作って、魔人国を支配するつもりもない。

故に無駄でしかないのだ。

(ヴォロスが消えて偽『C』騒動が落ち着けば、魔人国は新たな国王の座を巡って内部での争いが起こりますわ。その間に魔人国内部にいる人種を回収、ドラゴンや高位モンスター達が持つ圧力を使って『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を魔人国に徹底。もし新国王が決まり、『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を覆し、再び人種を奴隷にする動きがあれば、ドラゴンを連れて滅ぼせばいいですの。人種がいなくなったのなら、気にせず見せしめができますわ)

だが、それはまだ先の話だ。

『ライトの狙いがそこではない』とエリーは解釈する。

彼女は手にしている委任状を目にして、蠱惑的に微笑む。

(ヴォロス第一王子直筆の委任状を手に、偽『C』問題をわたくしの手で解決すれば、一時的に魔人国を手中に収めることができますの。魔人国上層部がお城の爆発でほぼ死亡しているのも有利ですわね。この『一時的』に、というのが重要なのですわ。わたくし達は魔人国を統治するつもりなどありませんから。一時的――人種奴隷を解放し、ディアブロに復讐をするまで権利を行使できればいいですの)

一時的に魔人国を手中に収めれば、『種族の誓い』元メンバーであり魔人国の貴族であるディアブロを文字通り『煮るも焼くも思いのまま』だ。

ディアブロを貴族位から外したり、領地を没収し、適当な……敵対している彼の兄に再度与えることも出来る。

ただ滅ぼすだけなら、ライト1人いれば、ディアブロ殺害など容易いが、その程度では彼の気は済まない。

故にエリーに指示を出し、『巨塔の魔女』として、偽『C』問題を解決させ一時的に魔人国の首都を押さえる権力を握らせた――と彼女は『奈落』メンバー随一の頭脳で深読みする。

(さすがライト 神様(しんさま) ですわ。最少の労力で一時的に国家中枢の権力を掌握するなんて……。恐らく偽『C』が姿を現した時から、ここまで計算をなされたのでしょう。本来であれば、わたくしが献策すべきでしたが……気付くのが遅れましたの。もう少し早く気付いて、ライト神様に命じられるより早く行動すべきでしたわ。これではいつまで経ってもライト神様の足を引っ張るだけで、負担を減らすことができないですの。それでは何が忠実な部下か……ッ。もっと精進して、ライト神様の負担を少しでも減らすよう努力しなければなりませんと!)

エリーは胸の谷間に委任状を仕舞いつつ、改めて敬愛する主であるライトの負担を少しでも減らすため、努力することを誓ったのだった。