軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33話 ヴォロスの処遇

「我の体を自由に出来ても、心までは自由に出来ると思うな! 『巨塔の魔女』め!」

魔人国第一王子ヴォロスが強気な態度で見当違いな事を叫ぶ。

(これはいくらなんでも意味不明過ぎるな……)

僕はあまりの愚かさに指をこめかみに添える。

僕だけではない。

メイ、アオユキ、エリーまで『こんな阿呆な発言をするなんて……』と唖然とした表情を作っていた。

(ま、まあ前向きに考えるなら、『奈落』最下層の安全のためナズナを残しておいてきてよかったな。彼女にこんな変な事を聞かせずに済んでよかったよ)

ミキを捕らえているのと、『奈落最下層』の安全を考慮するため、保険としてレベル9999が必ず1人『奈落』に滞在することになっていた。

今回はナズナにお願いしていたが、本当に連れてこなくてよかった。

だが、ふとある可能性に気付く。

(……いや、もしかしたらこちらを煙に巻いて脱出する機会を探っているのか? そのためにわざと変なことを叫び、僕達を呆れさせているのかもしれない)

相手は魔人国第一王子。

幼い頃から最上級のエリート教育を受けているのだ。可能性はゼロではない。

思わずメイに視線を向ける。

彼女は僕の視線の意図にすぐに気付き、嘘を見抜く魔術でヴォロスを確認する。

「…………」

彼女は『処置無しです』と言いたげに首を振った。

どうやらヴォロスは本気で、『体を自由に出来ても、心までは~』と口にしているようだ。

「…………」

僕はその事実に改めてではあるが引いてしまう。

(ま、まさかこれほど頭のおかしい人物が、魔人国を率いていたなんて……。いや、こんなにも頭がおかしいから、人種王国に『懲罰のため人種の領土を襲う』とか言い出したのか……)

正直、当事者を目の前にして微妙に納得してしまう。

当初はヴォロスに直接、『なぜドクの暴走を許し、人種に対してそこまで残酷になれるのか』と問い質したかった。

エルス兄を間接的にではあれ、苦しめた相手の口からその理由を聞きたかった。

だがあまりに彼が頭が悪過ぎて、それを聞いたところで斜め上の訳の分からない回答が返ってくるだけだろう、と考えてしまう。

(むしろ、こんな彼に国家の最高権力を握られていた魔人国民衆に同情心を抱かずにはいられないな……)

嘘偽り無く心の底から同情する。

ヴォロスは僕達の呆れと哀れみなど一切気付かず、尊大な態度を続けた。

「おい、魔女よ。いつまでこのような見窄らしい場所に我を居させる。王族として相応した待遇を要求する。早く連れて行くがよい」

重ね重ねの斜め上の発言。

声をかけられたエリーを含め、メイ、アオユキも激怒しているのを肌で感じ取る。

僕は彼の相手が面倒になり、エリーへと命じた。

彼の口から話を聞いても、もう意味など無いからだ。こいつの阿呆な台詞を聞いている意味など、もう存在しない。

「エリー、こいつから適当に情報を抜いたら、『奈落』の底に連れて行っていいよ。もちろん、最大級の絶望と苦しみを常に与え続けて、エルスにーちゃんの苦しみの万分の一でも味わって貰うように」

「畏まりましたわ」

「ふん、何を馬鹿なことを。我は王族なのだぞ。どうして苦しみを与える必要がある? これだから道理も理解できぬ ヒューマン(劣等種) は……」

『やれやれ』と芝居がかった動きでヴォロスは肩をすくめる。

「もし我を殺したりすれば、魔人国諸侯達が黙っておらぬぞ? 貴族達を蔑ろにして国家運営が出来ると思うのか。適当に脅しても、我はこれ以上の譲歩はせぬぞ。だいたい、貴様のような ヒューマン(劣等種) が誰に断って口を利いている! 我は魔人国第一――!?」

メイの腕が動く。

同時にヴォロスの軽快に動いていた舌が切り落とされ、床へと落ちる。

普段あまり感情を表に出さないメイが、珍しく誰にでも分かるほど激怒していた。

「ライト様に対してそれ以上口を利く許可を誰が与えましたか。舌禍は根本から断たないとなりませんよね?」

「ぐがぁっいが!?」

メイに『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で舌を切られたヴォロスは、自分に何が起きたのか分からず、だらだらと口内から血を流し、その場に両膝を突く。

エリーが溜息と共に指を鳴らす。

切断されたのが一瞬なら、血が止まったのも一瞬だった。

ヴォロスにまだ死なれては困るため、エリーが魔術で治癒したのだ。

「メイさん……お気持ちは分かりますが、情報を引き出す前に影響を与えるのは止めてくださいませ。気持ちは非常に理解できますが。ええ、本当に理解できますわ」

「も、申し訳ありません。つい頭に血が昇って……」

「にゃ~」

メイは恥ずかしそうにエリーに対して謝罪、頭を下げる。

メイの言葉にアオユキは『自分も気持ちは分かるから』と言いたげに、肩を叩く。

僕もメイを叱るつもりはない。

唯一、僕らと違う反応を示す人物が居た。

攻撃されたヴォロス自身である。

「き、貴様ら……ッ! 今、自分達が何をしようとしているのか分かっているのか!? 我を! この魔人国第一王子ヴォロスを殺しかけたのだぞ!」

彼はまだ現状を理解していないようだ。

これ以上、余計な勘違いをさせないため、改めて僕は自己紹介をする。

「こちらの狙い通りとはいえ、ここまで見事に何も理解していないとは……。『巨塔の魔女』は、彼女達の本当の主である僕を隠すためのフェイク、カモフラージュだ。そして、貴様には情報を抜き出した後、僕のにーちゃんに対する罪、人種村を襲おうとした罪、貴様にはこの世に産まれてきたことを後悔するほどの責め苦を味わい尽くさせる。どんな苦しみと痛みを味わえるのかを、今から楽しみにしていろ」

「? きょ、『巨塔の魔女』がカモフラージュだと?」

ヴォロスは意味が分からないと言いたげに問う。

「我は魔人国第一王子だぞ? このままトップに据えず、子供を作らず王族を存続させなければ、魔人国の諸侯達が黙っていない。国家運営などできないほど国が荒れてもよいのか!?」

「別に構わないよ。魔人国の面倒を見るつもりはないからね。死への片道切符だと知りつつも、特攻して反逆して来る奴らは死ぬだけさ」

僕は両膝を床に突けるヴォロスを見下ろし告げる。

「国家運営が出来ない? だからどうした。王族のいなくなった新しい魔人国とやらがどれだけ無能でどれだけ阿呆だろうが、これっぽっちも関係ない。手は貸さないし、協力もしないから、勝手に国家でも、街でも、村でも運営すればいいさ。僕達の邪魔をしなければ干渉するつもりもないからね。邪魔をすれば更地にするだけさ」

ヴォロスが青ざめる。

ようやく己の立場を理解したらしい。

僕はつまらなそうに指示を出す。

「用件は済んだ。スズ、彼を『奈落』最下層のさらに下に連れて行ってくれ。ガルー達が居る同じ場所にね。エリー、情報の抜き出しも忘れずにね」

「もちろんですわ」

「……(こく)」

『畏マリマシタ、らいと様』

ヴォロスへ向かってスズが歩み寄る。

彼はようやく己の立場を理解し、青い顔で後退る。

「いやだ! いやだ! 我は第一王子! 我こそ魔人国そのもの! ヴォロス第一王子なんだぞ! ふ、ふざけるなこんなことあっていいはずがないだろが!」

後ずさりするが、スズに蹴り飛ばされ転がされる。

そのまま背中を足で押さえられ、スズが『SSR 転移』カードを取り出す。

「い、いやだ! いやだぁああッ! お、お願いだ、助けてくれッ! お願いだ、何でもするッ! そ、そうだ、魔人国を貴様らの属国にしよう! 捧げる! 魔人国の国民を全てささげるッ! だから我を、我だけは助けて! お、お願いだ、お願いしますッ、何でもしますから……ッ」

『ウルサイ、ダマレッテ』

ロックが呟き、スズがさらに足に力を込めてヴォロスを地面へと押しつけ、『SSR 転移』カードを発動する。

「た、助け――」

ヴォロスの姿が一瞬で消失する。

転移した先は、『奈落』最下層のさらに下。

エリーから情報を抜き取られた後、彼に残された未来は死にたくても死ねない。絶望と苦痛にまみれた暗い未来だけだった。