作品タイトル不明
31話 偽『C』の終わり
「にゃ~……」
偽ギラとも戦った地下決闘場。
元々エリーが製作した場のため、対物・対魔能力は非常に高く、頑強だ。
並大抵の攻撃では傷一つ付かないはずだが……。
アオユキvs偽『C』の戦いで、今にも崩れそうなほどボロボロになっていた。
僕は改めて決闘場を見回し、アオユキに声をかける。
「お疲れ様、アオユキ。よく頑張ってくれたね」
「――いえ。結局、主の命を果たせませんでした。この罰はいかようにでも償わせて頂ければと」
アオユキはその場に片膝を突くと、申し訳なさそうに頭を垂れる。
彼女だけではなく、フェンリル、 不死鳥(フェニックス) 、ケルベロスも彼女に従い伏せていた。
「…………」
彼女が気に病む理由に視線を向ける。
情報収集のため僕が捕らえろと命じた偽『C』は、手足の先から崩壊を始めていた。
アオユキに追いつめられた後も、狂っているせいで勝ち目が無いのは明白にも拘わらず最後まで抗い続けた。
アオユキも捕らえるため『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』と配下の能力を使って偽『C』をさらに削っていったが……それが問題となる。
偽『C』の力、あの黒い影のようなモノは他者の生命エネルギーを吸うだけではなく、自身の命をも削って強化できるようだ。
本来であれば、自身の命がなくなるまで削ることはないが、偽『C』は狂ってしまっている。
他者どころか、自分の命すら蔑ろに扱うため、一切の躊躇いもなく力を行使。
結果、捕らえるどころか、偽『C』は自身の命を使い切るまで暴れ続けてしまったのだ。
(だが『無限ガチャ』カードの力で戦いを見ていたけど、アオユキを責める気には全くならないな。あれだけ暴れる偽『C』を拘束するのは無理だろう……)
最初こそ偽『C』の意味不明な力で防戦気味だったが、中盤以降は終始アオユキが押していた。
偽『C』に普通の頭があれば『勝てない』と理解し、負けを認めるか、逃げるために動き出すか、何かしらのアクションを取るだろう。
しかし偽『C』はただただ、アオユキと配下達を殺すためだけに文字通り狂ったように暴れ続けていたのだ。
相手は同じレベル9999。
いくら狂っていても生半可な相手ではない。
これで偽『C』を捕らえられなかったからと言って、アオユキに罰を与えるのは余りにも酷というものだ。
僕は頭を垂れるアオユキに近付き頭を撫でる。
「アオユキ、面を上げて……罰なんてないよ。偽『C』が狂っていることは始めから知っていたけど、自分の命すら省みないほどとは想像もしていなかったからね。アオユキが無理なら、無力化して拘束するのは誰にも出来ないよ。むしろ、被害も出さずよく倒してくれたね」
「にゃぁ~」
僕の声に従い、彼女は顔を上げて猫の鳴き真似をする。
僕はアオユキを労るように頬を撫でた後、顎下を撫でる。
彼女は嬉しそうに大きな目を細めた。
僕はアオユキを労りつつ、背後に控えるメイとエリーへと振り返った。
「ではエリー、後は頼む」
「お任せくださいませ、ライト 神様(しんさま) 」
「もう抗う力は無いだろうけど、気を付けて。メイ、アオユキ、いつでもカバー出来るように警戒を頼む」
「畏まりました、ライト様」
「んにゃぁー!」
エリーは偽『C』の記憶を読むため、彼へと歩みよる。
アオユキが相当弱らせたので今更エリーに抗う力は無いだろうが、一応の警戒をメイ達に指示する。
当然、僕も杖を手に警戒を強めた。
エリーが記憶を読むため、倒れている偽『C』の頭部に触れる。
「――ッ!?」
だがすぐに彼女は偽『C』から距離を取り、青い顔で口元を押さえた。
僕は杖を手に警戒しつつ、声をかける。
「エリー?」
「も、申し訳ありませんわ、はしたない姿をお見せしてしまって……。ですが、ッ……彼の記憶を読むのは不可能ですの。思考を読むことが出来ないほど狂ってしまっていますので。アオユキさんはよくこんな気持ち悪い狂気の持ち主と戦うことに耐えられましたわね」
「にゃ!」
アオユキは自慢するように薄い胸を張る。
偽『C』の狂気に耐えられたから、アオユキの方がエリーより忠誠心が高い訳ではないだろう。
恐らくアオユキの場合『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』越しに偽『C』の狂気が伝播した。
エリーは直接偽『C』の狂気を覗き見た。
その差が出たに過ぎない。
エリーがハンカチを取り出し、口元を押さえつつ、青い顔で告げる。
「唯一、分かったのは『恋人を殺害されたせいで、ここまで狂ってしまった』ことだけですの。殺した相手を憎んで、仇討ちを願っていたようですわ」
「仇討ち……復讐か」
僕自身『種族の集い』メンバー達に復讐を誓いここまで来た。
故に狂うまで復讐を願っていたらしい偽『C』に対して僅かながらの共感を抱いた視線を向けてしまう。
しかし、その視線を遮るようにエリーが漏らす。
「ですが、彼の復讐心には若干の違和感を覚えますの」
「違和感?」
「はいですわ。確かにわたくしが気持ち悪くなるほど、強い復讐心を抱いているようですが……。妙な感じがするというか、『こうあれ』とされているような感覚がありましたの。あくまでわたくしが感じたことなので、絶対ではありませんが……」
「妙な感じ?」
「ここまで狂った思考に触れたのが初めてなので、そう感じてしまっただけかもしれませんわ。あくまで私見ですの」
パタパタと手を振り恥ずかしそうに言葉を重ねる。
エリーが可愛らしい動きを見せていると、偽『C』の唇が僅かに動く。
レベルが上がり強化された聴覚のお陰で、僕達は彼の言葉を耳にすることが出来た。
「ユリカ、ごめん。君の仇を討つことは――」
最後まで言い切ることが出来ず、語尾は掠れて消える。
『ユリカ』さんというのが、偽『C』の恋人で彼女が殺害されたから、狂ってしまうほど復讐を願い封印されてしまったのだろう。
(死ぬ間際に言葉を漏らすほど深い想いがあるのに、エリーは『妙な感じで、こうあれとされているような』と感じた?)
もちろん彼女の言の通り、エリーは初めてここまで狂った者の記憶に触れた。
そのためそう誤認した可能性はあるが……。
狂うほどの復讐心、妙な感触、本来両立しないモノが同時に存在していることに強い違和感を僕自身も感じてしまう。
偽『C』の体が完全に灰になってしまう。
お陰で情報を引き出すことは出来なくなってしまった。
これ以上の追求は難しいため、気持ちを切り替え指示を出す。
「……メイ、偽『C』の灰は集めて丁寧に埋葬してあげて。決して粗末には扱わないように注意してね」
「畏まりました」
メイが一礼し、『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で丁寧に灰を集める。
決してどうでも良いものを扱う風情ではなく、大切な遺骸を埋葬するため集める手つきだった。
そんな彼女から、視線を背後へと向ける。
「さて、僕達は次の仕事に取り掛かろうか。スズ、ロック、待たせて悪かったね」
「……(フルフル)」
『相方ハ待ッテイナイソウデス。おいらノ事モオ気ニナサラズ。デハ早速、獲物ヲ自由ニシマスカ?』
「ああ、頼むよ、ロック。」
僕はスズ、ロックが捕まえてきた獲物――魔人国第一王子ヴォロスを見下ろす。
彼はスズ達によって体の自由を奪われ、声も出せず床に蹲っていた。
偽『C』から情報を抜き出すことは出来なかったが、自国を見捨てて逃げ出し、僕の兄を苦しめ続けたドクの研究を支援していた人物。
彼からなら、色々情報を引き出すことが出来るだろう。
たとえどのような手段をとってもだ。
僕は思わず冷たく笑い彼を見下ろしてしまうのだった。