作品タイトル不明
25話 偽『C』
「お待たせ、エリー」
「いえ、むしろわざわざ足を運んでくださりありがとうございますわ」
偽『C』を監視中のエリーの元へ僕が『SSR 転移』を使って移動する。
僕はエリーが乗るレッドドラゴンの上に立つと、カードの力を借りて暴れている偽『C』へと視線を向けた。
「あれが暴走している偽『C』か……」
魔人国王城が地下から偽『C』の暴走で崩壊。
偽『C』は未だに廃墟と化した魔人国王城で暴れ回っている。
上半身が裸で、髪の毛をだらだらと背中まで伸ばしている。
その髪の毛は怨念が凝り固まって出来た呪術道具のようだった。
瞳から涙を流し、全身から怒り、悲しみ、怨嗟を撒き散らしながら瓦礫に八つ当たりをしている。
話には聞いていたが、遠目からでも『何かの悲しみで暴走している』のが伝わってくるようだ。
まるで僕がエルス兄の自死を目の前にして悲しみ、まったく反省の色もない加害者ドクに対して怒りをぶちまけている時のようだ。
悲しみ、怨嗟、怒りに飲み込まれ理性を失い、ただただ暴れ回っているかのように見える。
(僕もあのまま怒りに飲み込まれていたら、あんな風になっていたのかな……)
思わずそんなことを考えてしまう。
状況証拠的に考えて彼は魔人国『ますたー』達が求めている『C』ではありえない。
またあんな絶望した悲しそうな姿を見ているだけで、彼が『C』ではないことが実感できる。
僕は偽『C』の観察を止めてエリーへと向き直った。
「それで僕がこっちに来る前にエリーがしてくれた報告だけど……」
「はいですの。魔人国第一王子ヴォロスらしき人物が、元王城瓦礫から抜け出すと手勢を連れて馬に乗って西側、魔人国領内奥へと遁走いたしましたわ。まさか一国のトップが首都を捨てて逃げるとは想定しておらず……。一応、ドラゴン数匹に遠距離から監視させておりますが、まずは偽『C』への対応が先かとも思いまして。如何いたしましょうか?」
「いつでも捕らえられるように監視を付けているのなら問題はないよ。それにしても……見間違いって可能性はないよね……」
僕がエリーと合流する前、彼女から念話で一報が入る。
『魔人国第一王子ヴォロスらしき人物が、首都を、民を見捨てて逃げ出してしまった』と。
僕はこの報告を聞いてすぐに返事が出来なかった。
まさか一国の責任者が自分が引き起こした事態の対応に動くどころか、全部を捨てて真っ先に逃げ出すとは想像していなかったからだ。
あまりの無責任っぷりに頭痛を覚えてしまう。
……前向きに考えるなら偽『C』の暴走でまだ死んでおらず、貴重な情報源を失わずに済んだ。また首都から逃げ出したお陰でより簡単に捕らえやすくなったとも考えられる。
前向きに考えるならだ。
「とりあえず、ヴォロスの監視は引き続き続行してくれ。そして、位置をスズに伝えるように。逃げる獲物を捕獲するのはガンナーであるスズの十八番だからね。ああ、邪魔する者が現れそうになったらすぐに回収するように。ないとは思うけれど強者と交戦する可能性も考えて、十分な戦力をスズには与えておいて」
「畏まりましたわ」
エリーも『スズさんなら問題ないでしょう』と顔に出しながら一礼する。
スズの魔弾は魔力を対価に属性を付与することが出来るのだ。故に相手を殺さず、たとえば痺れさせて動きを止めることも可能。
ただし相手のレベルが高いとその効果はなかなか発揮されないという問題もあるが、ヴォロス程度なら瞬時に効果を発揮させることができる。
「偽『C』の対処はアオユキに任せるから、エリーはドラゴン達を引いて、一度戻ってギラ戦で使った決闘場の補強を頼むよ。あそこで戦う予定だけど、僕がカードで応急処置しただけで以後放置していたから……」
「ライト 神様(しんさま) が修繕したのなら、完璧に直っているとは思いますが、微力ながらお手伝いさせて頂きますわ。しかしアオユキさんが自分から申し出るとは……。珍しいこともありますのね」
「まぁ、彼女にも色々あるんだろうね……」
僕はアオユキとのやりとりを思い出し、目を閉じる。
僕の態度変化に気付いたエリーが、『わたくし、何か失礼なことを口にしてしまったのでしょうか』と不安な声で尋ねてくる。
「ら、ライト 神様(しんさま) 、あの……」
「いや、なんでもないよ。それじゃ後は頼む」
「か、畏まりましたわ」
エリーが一礼するのを見届けて、僕は再度『SSR 転移』カードで『奈落』へと戻る。
『奈落』へと戻りながら、アオユキが偽『C』と自分が戦いたいと申し出た会話をつい思い返してしまう。
☆ ☆ ☆
少し時間を戻す。
「――主、是非、アオユキにご命令ください」
アオユキが本当に珍しく自ら『魔人国王城で暴れているレベル9999は自分が倒す』と口にする。
これには僕だけではなく、『奈落』最下層執務室に集まっていたメイ、ナズナも驚いていた。
アオユキは彼女達の驚きも無視して、『自分が今回の相手に最も適任な理由』を理論立てて並べる。
彼女の主張は以下になる。
・未知のレベル9999のため危険度が高い。自分の配下(テイムしている高レベルモンスター)をぶつけることである程度、その危険を減らすことが出来る。
・自分の配下をぶつけ直接戦闘をすることで、相手の情報を得ることが出来る。
・自分の配下と連携する場合、メイ達と一緒だと、連携に問題が生じる可能性がある。そのためアオユキ自身と自分の配下だけに任せて欲しい。
・安全性には気を付けるが、相手は未知のレベル9999。場合によっては多大な犠牲が出る可能性がある。最悪を想定して、被害を必要最低限に抑えるため『奈落』から出すレベル9999はアオユキ自身だけにして欲しい。その場合、死亡するのはアオユキ1人で済むため。
――他にも淡々と持論を述べる。
ナズナなど途中で理解できず、口を開けて、目が彼方を見つめ始めた。脳味噌が理解力を超えてショートしているようだ。
そんなナズナを無視して、アオユキは持論を全て吐き出す。
「――以上です。なのでどうかアオユキにご命令ください」
「…………」
僕は一通りアオユキの話を聞き終えた。
確かにアオユキが配下を連れて出た方がメリットは多いだろう。
しかし、彼女がメリットだけで、今回の提案をしているだけとは思えなかった。
(アオユキは……エルスにーちゃんの自死を止められなかった責任を感じている部分もあるんだろうな)
アオユキは『自分がもっと上手く立ち回れば、エルス兄を僕の前で自死させるようなマネをさせずに済んだ』と考えているのだろう。
僕の心を必要以上に傷つけずに済んだかもしれない、と。
今回の一件で少しでもそのことを取り返せればと考えているのかもしれない。
(別に僕はにーちゃんの一件をアオユキのせいだなんて少しも考えていないんだけど……。でも、下手に口にして止める方が、溜め込んで暴発する危険性があるか)
ならば、このままアオユキに任せる方が良いだろう。
実際、彼女が口にしたメリットは非常に大きい。
僕は胸中で考えを纏めて、アオユキに任せることを決定する。
「分かった。それじゃあの偽『C』討伐はアオユキに任せるよ」
「――是。主の期待に必ず応えて見せます」
アオユキはその場で跪き、誓いを立てた。
彼女の言葉に、意識がどこかに飛んでいたナズナは『はっ!』目を覚ます。
『なんか分からないうちにアオユキが戦うことになったんだ』と1人納得していたのだった。