軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

書籍版発売記念番外編4 モヒカン冒険者達の報告、後編

「今宵は、良い夜ですね」

人種を奴隷として売りさばこうとしていた山賊達は、すぐ目の前の汚れ一つ無い極上のメイドに声をかけられる。

今夜は雲一つ無い晴天。

満月で、森の奥にある洞窟とはいえ周囲を見張るには十分だった。

にも関わらず先程までは、絶対にその場に誰も居なかった。

見張りとして2人は断言できた。

だが、2人の証言を否定するように1人の少女が立っている。

着ている衣服はシンプルなメイド服だ。

頭の上にしっかりとホワイトブリムも身に付けている。

背中には月光をキラキラと反射する妖精のような羽根を背負っていた。

だが深夜、森の中、妖精の羽根が生えた少女が居る異様さより、山賊達は少女の美貌さに驚愕する。

まるで『美』を追求し、辿り着いたような完璧な美少女の顔立ちをしているのだ。

彼女の美し過ぎる顔立ちの前に、深夜、森の奥地で突然姿を現したメイドという異様さなど霞むほどである。

だが、いつまでも驚いている場合ではない。

山賊達は驚愕から立ち直り大声をあげる。

「お、オマエ、何者だ!? どこから湧いて出やがった!」

「1人か、それとも他に仲間がいるのか?」

大声を上げたのは威嚇もあるが、異変を洞窟奥に居る仲間達に知らせる意味もある。

やる気と練度は低いが、『ぐへへへ、お嬢ちゃん、こんな所に居たら襲われても文句いえないよ』とスケベ心を出すほど馬鹿ではない。

自分達の命も場合によっては左右されるため、見張りとして最低限の常識ぐらいはあった。

2人は大声で誰何しながら、ジリジリと洞窟の方へと移動する。

洞窟の内部は2人の声が届いたのか、ざわつき始めていた。

突然、姿を現した妖精のように美しいメイドは、2人の意図を理解しつつも、特に慌てた様子は見せない。

「おじ様方、何者だなんて酷いですよ。皆様がわたし達のお話をしているから、わざわざ足を運んだというのに」

妖精メイドが笑う。

美しい顔立ちで笑うが……美し過ぎるせいで綺麗ではあるが正直、印象に残らない笑顔だった。

胸中で彼女を批評しつつ、山賊達が返答する。

「話をした?」

「話……、まさか!? 『巨塔の魔女』! その羽根、まさか妖精メイド!?」

「はい、正解です。では正解した貴方達には『死』をプレゼントしてあげますね?」

「何をいっ――」

台詞の途中、隣に立ってつい先程馬鹿話をしていた同僚の顔が潰れた。

そのせいで最後まで言い切ることが出来ない、トマトのように頭部がぐちゃぐちゃに潰れてしまったのだ。

美少女過ぎるメイドが、台詞の途中で手を振ったのと同時にだ。

彼女が再び笑う。

綺麗過ぎる笑顔が、月光に照らされより美しさを持つ。

山賊はその笑顔を前に美しいとは思うが、恐怖しか感じない。

美しすぎる死神にしか見えなかった。

その死神が目の笑っていない笑顔で告げる。

「誰が特徴のない凡庸メイドですって? ねぇ、それって誰のことなの? ねぇ?」

「いっ、言ってない! おれはいって、言ってない! だからたす――」

「お黙りなさい!」

再度腕を振るうと、胴体が2つに分断される。

魔術ではない。

単純に拾った石を投げているだけだ。

レベル500の腕力で投げたので、頭部が潰れて、胴体は耐えきれず2つに分断されただけである。

見張りを排除後、残り3名の妖精メイドが姿を現し、中へと入る。

「……中、臭いわね」

「こんな環境じゃ、お風呂に入るとか出来ないだろうし。当然といえば、当然じゃない~」

「こ、こんな奴らに、ウチは『匂いがどうこう』とか思われていたかとか…絶対に許さない!」

眼鏡妖精メイドが洞窟内部の臭いに眉根を顰め、ギャル妖精メイドが理由を指摘。

オタクっぽい妖精メイドが、自分達を差し置いて『匂いがきつそう』という評価を下されたことに再度、怒りを覚えた。

4人は特に緊張感もなく内部へと入って行く。

逆に洞窟内部の山賊達は、見張りの悲鳴に気付き、慌ただしい音をたてる。

寝ていた所を起きたのか、普段身に着けている革鎧は装備せず、手に鉈、斧、ナイフ、ショートソード、弓などを手に姿を現す。

彼女達の姿を目にした山賊達は、『め、メイド?』と誰しもが首を傾げる。

まるで未だ自分達が眠っていて夢を視ていると錯覚しているようだった。

しかし、その錯覚も長くは続かない。

眼鏡を掛けた妖精メイドが両手の指をベキボキと鳴らしながら、歩み寄る。

「さて地味で、根暗で、居るか居ないか分からない、居てもたいしたプラスにならないと言った奴から前に出なさい。今なら楽に殺してあげますよ?」

『!?』

冷や水を頭からぶっかけられた方がまだマシな寒気が、山賊達を襲う。

生物の本能として、一部の者が声をあげる。

「ち、近づけさせるな! 弓を持っている奴はとにかく撃て!」

叫びに反応し、弓持ち山賊が矢を放つが、

「当たっていないのか?」

眼鏡妖精メイドは自身に放たれる矢など一切気にせず、ずんずん歩いて近付いてくる。

洞窟を照らすのが一部ランタンのため、光源に乏しく一見すると矢が当たっていないように見えるが実際はちゃんとヒットしている。

強力な 魔術武具(マジックウエポン) でも無い矢など、レベル500でフル装備の妖精メイドに傷を負わせるなど不可能だ。

赤ん坊が巨石を素手で割る方がまだ可能性がある。

「ふん!」

「うぎゃ!?」

眼鏡妖精メイドは接近した山賊の体に指先を突き刺す。

「地味眼鏡と揶揄した罪を償いなさい」

「お、おれはそんなこと言ってないです!」

「お黙りなさい――魔力よ、顕現し水を作り形をなせ、ウォーターボール!」

「ぐばげェッ!?」

指先から攻撃魔術級の水魔術を放つ。

山賊男の体の内側に、人丈の半分はある水の塊が生まれ出る。

当然男の体は耐えきれず内側から残酷に飛び散った。

山賊の飛び散った遺体は仲間の側にしか向かっていない。

眼鏡メイドが同時に風魔術を使用し、妖精メイド側に飛び散らないようにしたのだ。

また非効率的な殺害方法だが、これにもちゃんと意味がある。

ただ殺すだけなら、一瞬だ。

彼らが少しでもその罪を贖うため恐怖を与えようとしているのだ。

彼女だけではない。

「あーしの性格が悪いとか、どこ情報よ。ねぇ、どこ情報~?」

「た、助け、首はそれ以上、後ろに曲がらな――ぐげぇ!?」

「ウチ、匂いなんてないし。むしろそっちのほうが絶対臭いし」

「は、離せ! 離せ! チビ! ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

ギャル妖精メイドが、首の可動域を無視して頭と肩を掴むと背後へ回転させ折る。

オタクメイドは鬱屈した視線を向けつつ、掴んだ部分を握りつぶした。

山賊達がどれだけ攻撃を加えようと、美少女メイド達を傷つけることは一切できない。

しかも味方が次々と殺されていくのだ。

この状態で士気など保っていられない。

「に、逃げろ! 化け物だ! 見た目は可愛いが化け物が攻めてきたぞ!」

「逃げろってどこにだよ!? 前には化け物が――」

「誰が化け物よ。こんな可愛いわたし達を捕まえて、失礼しちゃう!」

美しすぎて特徴がない妖精メイドの投石で頭部が破裂。

それを間近で浴びた山賊は悲鳴もあげられず奥へと逃げ出す。

それを切っ掛けに雪崩を打ったように生き残りが奥へと逃げ出した。

「奥に逃げ道が無いのは把握済みですが。彼らはこの後、どうするつもりですかね?」

「さぁ? やっぱり命乞いとか~」

「命乞いしても、む、無駄だけどね。だ、だって皆殺し確定だもの」

妖精メイド達は生き残りが居ないかしっかり確認しつつ、走り去った山賊達の後を追った。

☆ ☆ ☆

「きょ、『巨塔の魔女』の妖精メイド達が攻めてきただと!?」

「は、はい! あいつらヤバイですよ! 矢も、ナイフも、斧の攻撃でも傷がつかないし、普通じゃない。内側から粉々に飛び散るなんて……あんな死に方はごめんだ!」

部下の1人が奥で寝ていた山賊親分に報告をする。

他にも先程の戦闘で生き残った山賊達がガタガタと震えていた。

聞こえてきた悲鳴、ざわめき、濃い血の臭い、彼らの反応から、嘘偽りでもなく『巨塔の魔女』の妖精メイド達が攻めてきたのだろう。

(まさかこんなちんけな山賊仕事に魔女が介入してくるなんて……ッ。魔女の耳の良さを侮ったか?)

山賊の親分は後悔に駆られるが、実際、モヒカン達が偶然発見したに過ぎない。

見つかったのは偶然だが、皆殺しの既定路線は変わらないが。

震え上がる部下達に山賊親分は腹を決めて指示を出す。

「今更ガタガタ騒ぐな! 牢から適当なガキか、女を連れてこい! 人質にして相手が逆らうようなら殺すと脅せ! 相手は『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』なんて甘い妄想を垂れ流しているアホ共だ。人質は効果があるはずだ! 残りは今すぐ出入口に机や荷物を押しつけてバリケードを作れ! 死にたくなかったら急げ!」

『りょ、了解しやした!』

ガタガタ震えていた部下達だったが、指示を出されれば動く。

文字通り自分達の命がかかっているためだ。

人質を取りに行く者達と、バリケードを作るため椅子や木箱など適当に障害になりそうなものを片っ端から積み上げる者達に別れる。

他は矢などの遠距離攻撃可能な武器を漁る者達もいた。

――しかし、その全てが無駄である。

「オヤブン、居ません!」

「あん!? 何がだ!」

「居ないんです! 捕まえてきた人質が誰一人、居ないんですよ!」

この報告に火がついたように動いていた現場が、水を打ったように静まりかえった。

『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を掲げる相手との交渉材料である人質が居ない。

足下がガラガラと崩れる音を幻聴ではなく山賊達は確かに耳にした。

最初に意識を回復させたのは、山賊親分だ。

「ば、ば、馬鹿を言うな!? なんで居ない! 人質なら馬車がいっぱいになるほど居ただろうが!? なんで居ないんだ! よく探せ馬鹿野郎!」

「探すも何も、牢はすっからかんなんですよ! 隠れる場所なんてありません!」

親分の激昂に、部下も怒鳴り返す。

「ふざけるな! なら馬車一杯に押し込められる人数に逃げられたとでも言うのか!? 寝ていたから横を気付かれずに、女子供が素通りしたとでも!? 巫山戯ていないでいいから連れてこい、この無能が!」

「当たらずとも遠からず、ですかね? 正確には侵入する際、まったく気付かれないようにしたんですよ」

『!?』

彼らの言い争いに第三者が口を挟む。

挟んだのは美少女メイドだ。

美しすぎて逆に個性が無い妖精メイド。

彼女の側には眼鏡、ギャル、オタクっぽい妖精メイド達も並ぶ。

バリケードを作っていた筈の者達が血を流し倒れていた。

サイレントキルだ。

言い争っている間に盗賊達を始末していたようだ。

美少女妖精メイドが話を続ける。

「モヒカンさん達には『SSR 存在隠蔽』カードで姿を消して先行してもらい、人質と合流後、『SSR 転移』カードで『巨塔』に移動してもらったんですよ。ちなみに商人さんも確保済みです。今頃あちらで 拷問(お話) をされていると思いますよ」

今回、人質救出にあたって『SSR 存在隠蔽』&『SSR 転移』カードが使用された。

『SSR、存在隠蔽』を使用すると五感、魔術的力、マジックアイテムでもその存在を認識することが出来なくなる。

あとは人質と接触し、『SSR 転移』カードで『巨塔』へと移動するだけだ。

モヒカン達だとレベル的に足を引っ張るため、妖精メイドのバックアップに回ってもらった。

山賊達はカードの話をされても分からず、反応は鈍い。

ただ確信する。

『自分達はここで確実に殺される』と。

絶対に助からないと本能で理解する。

妖精メイド達は笑う。

誰もが絶世の美しさで笑う。

「ま、待って! 待ってくれ!」

切り札である人質をどういう訳か奪われたと理解した山賊親分が、青い顔で制止の声をあげる。

彼は冷や汗で濡れた顔で叫び出す。

「お、オマエ達は妖精メイドだろ!? 『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を掲げる『巨塔の魔女』の! ならおれ達をなんで殺すんだ! おれ達はオマエ達の主である魔女が掲げる『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』の人種! 守るべき存在だろうが!」

山賊オヤブンは、人質を失ったため『自分達も人種だから守る対象だろ』と訴え出す。

この発言に部下達も『さすがオヤブン、冴えている!』と表情を明るくし、加勢する。

「そ、そうだ! おれ達は人種だぞ!」

「『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』なんて掲げている奴の部下が、率先して人種を殺してもいいのかよ!」

「魔女の部下なら、ちゃんと主義を守れよ! 主義をよ!」

山賊達が思い思いの声を上げた。

この叫びに眼鏡妖精メイドが、軽く眼鏡を上げて指摘する。

「でも貴方達、山賊ですよね? モンスターの一種のようなモノですから、『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』の対象には含まれませんよ」

「いや、含まれるだろ! 確かに山賊だが、人種なんだから!」

「人種だからあーし達が無条件で守る訳じゃないし。罪を犯した奴がいたら、しっかりケジメもつけるしね~」

「そういう意味で、さ、山賊さん達は既に処罰の対象だから」

彼女の後にギャル、オタクっぽい妖精メイドが続く。

最後に美少女過ぎる妖精メイドが笑顔で断言する。

「それに上から『罪をあがなわせるために始末しろ』とご命令を受けているので、皆様がどれだけ足掻こうと皆殺しは決定事項です。この世界で最もいと尊きお方がそうお決めになったのですから、全滅が皆様の終着地点にならなければならないのです。絶対に」

『…………』

殺される寒気以上の寒気を美少女過ぎる妖精メイドから、山賊達は感じ取った。

彼女の発言に他妖精メイド達も深く同意するように頷く。

ライトに対する絶対的な忠誠心。

ライトが山賊達の『皆殺し』を決定したのなら、それが絶対だと彼女達は魂の底から信じ切っているのだ。

その狂気的忠誠心に僅かながら触れたため山賊達は、それ以上の反論も出来ず震え上がる事しかできなかった。

美少女過ぎる妖精メイドが告げる。

「それじゃ皆様の罪を償うために、始めましょうか」

「たすけ――がいゃぁ!」

「いやだ! 死にたくな――」

「こんな死に方あんまりだ! せめてちゃんと殺して――」

「出す! 金なら出す! 金! 財宝ならたんまりと持っているんだ! だからおれだけは助けてぎゃあぁぁぁぁっ!」

洞窟内部で悲鳴が木霊する。

その悲鳴も暫くすると、ひとつもなくなってしまう。

この日を以て、人種を攫っていた山賊達は文字通り全滅したのだった。