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作品タイトル不明

書籍版発売記念番外編1 ミヤ、シックス公国魔術師学園試験を受ける

「ごくり……」

ミヤは過去、ドワーフ王国とエルフ女王国が国境で揉めているダンジョン街で冒険者をしていた。

お陰で普通の村人よりは、街での生活に慣れている。

にも関わらず、彼女は現在目の前に広がる光景――魔術師なら誰もが憧れる学舎、シックス公国の魔術師学園に威圧されて唾液を飲み下す。

『シックス公国魔術師学園』といえば、この世界で最も最先端の魔術を研究している学園である。

在席しているだけでかなりの信頼を得ることが出来るし、箔がつく。

故に入学時に求められる才能は高く、支払う学費も庶民が気軽に出せる金額ではない。当然通っている者達も一定の立場の親を持つ者達にほぼ限られている。

過去ミヤも人種王国にある魔術師学園で好成績を収めて、推薦を受けて進学したいと希望していた――より正確に言うなら『試験を受ける許可はもらっていた』。

試験を受けて合格すれば通うことが出来ていたのだ。

両親が流行病で亡くなり、そんな余裕はなくなったが。

では、なぜ1村人である彼女が公国の魔術師学園に居るのか?

シックス公国魔術師学園教員兼、攻撃魔術研究者ドマスから手紙を貰ったからだ。

内容を要約すると『偶然、公国に来ていたダークと知り合い、色々貴重な話や経験をさせてもらった。彼は、ミヤは非常に良い娘で魔術の腕も確か、才能は自分を超える、勧誘して絶対に後悔させない魔術師云々と言っていた。故にミヤ勧誘を決断した』だ。

当時、この手紙を読んだミヤは頭を抱えた。

『わたし程度が、ダークさんの才能を超えるなんてありえる訳ないじゃないですか~~~!』

頭を抱えたが、ダークに褒められて嬉しかったのも事実である。

またドマス曰く、『あらゆる傷を癒す聖女ミヤの名を耳にして興味を持った。もしよければ自分の推薦でシックス公国魔術師学園の試験を受けないか』とも書かれていた。

『あらゆる傷を癒す聖女ミヤの名を~』部分は気になったが、シックス公国魔術師学園の試験を無料で受けられるのは僥倖だ。

ダークを超える才能など持っていないことは自分自身がよく理解しているが、世の中に対して自分の力を試したいという気持ちもある。

結果、ドマスへと返信の手紙を書き送った。

後日、旅費、宿泊費、証明書などが同封され、到着の日時などが指定された手紙が返信されてきた。

ミヤは兄エリオ、薬師老婆に許可を取り、試験を受けるためシックス公国魔術師学園へと訪れたのだ。

ちなみに薬師老婆の後継者である孫娘はより技術を高めるため、シックス公国へと留学していたが、ミヤと入れ違うように村へと戻ってくるらしい。

なので受かって学園に通うことになったら、自分に遠慮無く勉強してくるようにと薬師老婆から背中を押されていた。

その後押しもあって、試験を受ける気になったのだ。

「はぁ……ふぅ……よし!」

ミヤは気合を入れ直し、ドマスから送られてきた手紙と証明書を手に正門から入り、警備員へと声を掛ける。

☆ ☆ ☆

「では早速、実技――魔術の実力を見せてもらおうか」

「は、はい! よ、よろしくお願いします!」

ミヤが緊張した面持ちで返事をする。

返事をする相手は浅黒い肌に尖端が尖った尻尾を伸ばし、身長は175cm前後で、禿頭で白い顎髭を生やした魔人種だ。

彼こそミヤを呼び寄せたシックス公国魔術師学園教員兼、攻撃魔術研究者ドマスである。

ミヤは彼と合流してすぐ、旅の垢を落とす暇もなく『地下魔術実験場』へと連れてこられた。

地下深く部屋を作り、既存魔術&現行技術でガチガチに固めた魔術実験場だ。

大抵の攻撃魔術ではその壁に傷を付けることは出来ないとか。

シックス公国魔術師学園側に高級住宅地が近いため、外でやると苦情が来る。そのため地下に攻撃魔術が使用できる施設を作ったのだ。

『地下魔術実験場』で使用できないほど大規模な攻撃魔術はさすがに公国を出た外でおこなう。

ドマスは攻撃魔術研究者だけあり、興味深そうにミヤへと声をかける。

「あのダーク殿に『才能がある』と言わしめるほどの実力者。試験官として、また一攻撃魔術研究者として非常に楽しみにしているよ」

「が、が、がんばります……」

旅の汚れすら落とす暇もなく試験を受けさせられるのも、ドマスがそれだけミヤに期待し、彼女がどのような魔術を使うか研究者として興味が強いからだ。

伊達にダークが放った攻撃魔術『ファイアーウォール』の中に自ら突撃して熱量を確認するほど魔術きちが――研究者として熱心な人物ではない。

ミヤは展開の早さにドギマギしつつも、冒険者時代に使っていた杖を両手にして頭を切り替える。

冒険者時代、突然のアクシデントに遭遇した場合、いつまでも慌ててはいられなかった。

気持ちを切り替えられなければ、死ぬからである。

その経験が生き、気持ちをすぐさま臨戦態勢まで持ち込むことが出来た。

「ではあの的に向かって好きに攻撃魔術を放ってくれたまえ。ダーク殿からミヤ殿の攻撃魔術は優れていると聞いたが、自信のある治癒魔術でも構わぬよ」

「いえ、攻撃魔術で行かせて頂きます」

『巨塔教の聖女』としてなぜか祭り上げられているせいで、ミヤは『治癒を得意としている』という風潮がある。

しかし実際は治癒より、攻撃魔術の方が得意だ。

故にドマスが気を利かせて振った話を断り、攻撃魔術を選択する。

「行きます! ――魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」

ミヤが空中に4本のアイスソードを作り出す。

2つはごく普通のアイスソードだが、1本は妙に剣身に幅があり、もう一つは一見すると普通なのだが……微妙に違和感を覚えた。

「アイスソードよ! 敵を討って!」

まず一本のアイスソードが飛翔し、数十m先の的へと突き刺さる。

これはごく普通のアイスソードだ。

次にミヤは剣身に幅があるアイスソードにひょいと飛び乗ると、滑るように横に移動し、残り二本を飛ばす。

「ブレイク!」

先行していたアイスソードの1本が、ミヤの声にあわせて砕け散る。

砕けた破片は最初に刺さっていた的をズタズタにしてしまう。

次にミヤは一本を他的へと移動しつつ、狙い当てる。

「はぁぁぁ!」

最後は彼女が乗っていたアイスソードを滑らせて、上空へと移動。

そのまま落下速度を利用し、的へぶつける。

ぶつかる際に、彼女は飛び降りるが、アイスソードは落下の勢いをプラスして的を深々と切り裂く。

到底、アイスソードの威力ではない。

「…………」

これにはドマスも目を見張る。

(魔力、技術、身のこなし、どれも普通の魔術師だ。正直言えば、威力については見るべき所などない。しかし、なんだあのアイスソードの攻撃方法は!? 一本目は普通のアイスソードで、私に自分がどの程度の実力か見せるために使用した。次は剣身が途中でバラバラに砕け散り、的をずたずたにした。あれなら、複数の相手を倒すことは出来ずとも傷を負わせて動きを鈍らせることが出来るだろう。3本目は普通のアイスソードかと思いきや実は薄い刃が隠れていて、普通のアイスソードと思わせて迎撃したら、隠れたもう一本に傷を負わされるという嫌らしい仕掛けになっている。どれも机の上で考えたというより、実戦で得た着想という匂いを感じる……)

何より彼を驚愕させたのは、最後の攻撃だ。

思わず攻撃魔術研究者として凶暴に笑ってしまう。

(攻撃魔術に乗って空中を移動するなど! その発想はどこから出てきたんだ!? しかも最後は、高所からの落下速度を利用することで通常の 戦闘級(コンバット・クラス) ではありえない破壊力を引き出すなど! 私が発想力で負けるとは……ッ!)

ミヤの魔力値などは普通だが、その発想力にドマスは研究者として強い刺激を受ける。

『アイスソードの上に乗って移動する』。

これ自体、ミヤが考え出した訳ではない。

彼女はドワーフ王国のダンジョンでエルフ種カイトに襲われた。

その際、カイトが剣身、エルフ女王国の国宝、宝剣『グランディウス』に乗って移動していた。

ミヤはその姿に影響を受け、アイスソードの上に乗って移動することを思い付いたに過ぎない。

とはいえ、最初は上手く乗れず尻餅を着いていた。

今では自由自在――とはいかずとも練習して落ちずに移動し、攻撃できるぐらいにはなった。

これもミヤの努力である。

「あ、あのドマス先生……」

攻撃魔術を見せたミヤが凶暴に笑って黙り込んでいるドマスに不安を感じて、おずおずと声をかける。

額から流れる汗は、全力で攻撃魔術を使った影響だけではなく、冷や汗も混じっていた。

ミヤに声をかけられたドマスが我を取り戻す。

「ああ、すまない。素晴らしい攻撃魔術の使用方法を見せられてつい研究者として考え込んでしまっていたよ。合格だ。文句なしだ。ミヤ殿、是非、我が学園に入学して欲しい」

「……ッ!? あ、ありがとうございます!」

「たださすがにダーク殿のように『学費免除の特待生』とはいかない。授業料等を支援する奨学金制度を私の名前で通すように後押ししよう。生活費は独自で稼いでもらう必要があるが、それでも問題ないかね?」

「は、はい、ありません! それで公国魔術学園で勉強できるなら! む、むしろこんな早くお話が進んでいいのかどうか……」

「問題ない。学園から、その程度の裁量は任されているからね。何より、折角の才能を磨く時間を削るようなマネをするほうが無駄だ」

ドマスに才能を認められミヤが頬を喜びでそめる。

実際、口にはしないが、現状で魔力、技術、短い会話から推測される魔術知識など、極々平凡なものだ。

しかしミヤの発想力は非凡なモノがあるため、ドマスは試験に合格させたのである。

ドマスはミヤの返事を聞き、満足そうに頷く。

「では、ミヤ殿――いや生徒ミヤ、その才能を腐らせずシックス公国魔術学園で磨き、魔術技術進歩の礎になってくれたまえ」

「はい! わたし、がんばります!」

「よろしい。以後、私のことは先生と呼ぶように。もし分からないこと、問題が起きた場合は私の研究室に相談にくるといい」

「はい、ありがとうございます、ドマス先生!」

ミヤは珍しくハイテンションで返事をする。

彼女の元気の良い返事を聞きつつも、ドマスはミヤのやった攻撃魔術利用法をすぐさま自身で検討したくてうずうずとした様子で手帳を取り出すと走り書きをした。

「制服、教科書などは後日届くよう手配しておこう。今夜はもう疲れているだろうから、女子寮に行きなさい。異性である私が入る訳にはいかないが、すでに寮の部屋には先輩生徒が待機している筈だ。普段の分からない学園での生活については彼女に聞くように」

「先輩ですか?」

「一般的に我が生徒達は一部屋に先輩、後輩が一緒に過ごすのだよ。先輩が後輩の面倒を見ることで、学園の規則や明文化されていないルール等を教え、精神ケアなどもおこなうのだ。合理的だろ? その方が我々教師陣の手を煩わせられることもなく、研究時間も確保できるからね」

建前は『先輩が後輩の面倒を見ることで互いに高め合う』らしいが、実際は教師達が自分達の研究時間を少しでも確保するための方便のようだ。

ドマスが女子寮までの道のりを記したメモを破き、ミヤへと渡す。

「生徒ミヤの技術を利用すれば、あの攻撃魔術の威力を最少の労力で――」

彼はミヤの返事を聞く前に、急ぎ研究所へと戻る。

まさか合格後すぐに放置されるとは想定しておらず、ミヤはドマスを呼び止める暇がなかった。

しかたなく気持ちを切り替えて、メモを手に女子寮を目指す。

「ここで合っているよね? うん、合ってる」

メモに記された地図を下に女子寮へと移動。

部屋番号を数度確認して、合っていることを確かめる。

(この部屋から、わたしの公国魔術学園生活が始まるのか……)

まさか試験をすぐに受けさせられ、合格後に放置されるとは想定していなかったが……。

合格は合格で、これから生活をするのも事実だ。

彼女は気持ちを切り替え、部屋にいるこれから自分の面倒、学園のルールなどを教えてくれる先輩に挨拶をするため扉をノックする。

『どうぞ』

(? どこかで聞き覚えがある声のような……)

ノック後、返事がする。

その声が聞き覚えのあるものだと気付くが、その人物はこの場に居る筈がないため、ミヤはすぐその想像した姿を消し、ドアノブを回す。

「こ、こんにちは! あの、今日、ドマス先生に合格をもらって――」

「聖女ミヤ、遅かったわね。待ちくたびれたわよ」

「……クオーネちゃん、なんでクオーネちゃんが部屋に居るの?」

金髪を縦ロールに巻いて、鋭い瞳に腰がくびれ、胸もミヤより大きい少女が優雅にお茶を飲んでいた。

一見すると気が強そうな少女だが……彼女こそミヤを聖女へと押し上げ、『巨塔の魔女』、妖精メイド達を巻き込み『巨塔教』を立ち上げた人物で、過去、自称・天才魔術師、『 紅蓮の片翼天使(ヴァイオレット・フォーリンエンジェル) 』と叫んでいたクオーネだ。

クオーネは獣人種達に拉致され、監禁された経緯から心を折られた。

しかし、ミヤの支えにより自暴自棄になることなく、無事にダーク達に救出された。

以後、なぜか『自分の産まれた理由は、ミヤを聖女として巨塔教を広めること』と言い出し、シックス公国魔術学園や実家にも戻らず、『巨塔街』で布教活動をおこなっていたはずなのだが……。

なぜ、自分の先輩となる寮の部屋に彼女が居るのか本気でミヤは理解できなかった。

彼女の戸惑いに気が付きクオーネが笑顔で答える。

「聖女ミヤがシックス公国魔術学園の試験を受けると聞いて、ワタクシも1教徒として支えてあげようと戻ってきたのよ。無事、ミヤの先輩役を得られてよかったわ」

「ど、どうして? わ、わたしが落ちる可能性もあったのに……」

「もう聖女ミヤったら、冗談が好きね。あの過酷な環境でも耐え抜き、激戦を乗り越えた聖女ミヤが落ちるなんてありえないわ。むしろ、来るのが遅すぎて心配したほどよ」

クオーネの瞳は真剣そのものだった。

ミヤが試験に落ちるなど微塵も考えていなかったようだ。

彼女はニコニコ笑顔で断言する。

「今日からはワタクシが聖女ミヤの先輩として学園生活をフォローするから安心して。ついでに学園にも『巨塔教』を広める布教活動をしないと。忙しくなるわね!」

「…………」

『忙しくなる』と口ではいいながら、充実感がタップリと篭もった瞳でクオーネは告げる。

ミヤは彼女が本気だと言動から理解し、自分の平和な学園生活が訪れないことを悟った。

悟り、思わずその場に膝、両手を突いてしまったのだった。