軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 怒り

「素晴らしい! 素晴らしいですよ! ワタクシが求めているのはこれ! 人種の美しい可能性! 可能性より美しく、未来より尊いモノ! ――愛です!」

にーちゃんがこれ以上、家族である僕に暴力を振るわないため、自ら心臓を握り潰した。

僕は体に穴の空いたにーちゃんを抱き上げ、悲しみから涙を零す。

メイ、アオユキも僕の悲しむ姿に影響を受けたのか、涙を零していた。

その中で、唯一、ドクだけは悲しみではなく歓喜の声をあげた。

「いやぁ、素晴らしいモノを見せて頂きました! ワタクシの技術で最高傑作に作られた筈のお兄さんが、まさか意識を取り戻し、弟をこれ以上傷つけまいと自らの心臓を打ち砕くなんて! 理論上、こんなこと絶対にありえませんよ!」

彼は極上の麻薬を摂取したような恍惚感にまみれた、非常に上機嫌な、感動した面持ちで拍手すら贈ってくる。

「まさに奇跡としかいいようがありません。これこそワタクシが求める人種の可能性、愛ですよ、愛! 本当に素晴らしいモノを見せて頂きました!」

「「…………」」

ドクは切り札である人種死体ゴーレムを焼かれ、護衛として連れて来た最高傑作の兄エルスが死亡した。

現状だけみるなら、彼は非常に不利な状況に追い込まれている。

にもかかわらずドクは状況の有利不利など一切気にせず、研究者としての興奮を告げてきた。

一切空気を読まないその態度に、さすがのメイとアオユキも怒りを通り越して絶句しているようだった。

ドクは彼女達の絶句にも気付かず、僕へと提案してくる。

「貴方は……ワタクシが作り出した最高傑作の弟さんなのですよね? お兄さんと一緒にワタクシの研究に協力してくださいませんか? 家族愛で奇跡を起こした彼と同じ血を引き、人種で、さらにそれだけの力をどうやって手に入れたのか非常に興味深い。貴方が協力してくれれば、人種の未来――他種に蔑まれない世界を作り出すことが早まる可能性があります。どうかその身を人種の未来のため捧げませんか?」

「だ……ま……」

「あと、貴方の部下らしきそこの女性2人も非常に興味深い存在です。彼女達も人種の未来のためその身を捧げるようご協力お願いできませんか。あっ、勘違いしないでくださいね。いくらお二人が非常に美しい容姿をしているからと言って、邪な気持ちで言っている訳ではありませんから。あくまで人種の未来のために――」

「黙れ。もうそれ以上、喋るな」

「「……ッ!」」

僕は言葉荒く、ドクの台詞を遮る。

同時に明確な殺意を彼へと叩きつけた。

その殺意が強すぎて、関係ないメイとアオユキが怯えで息を呑む。

明確な殺意を向けられているのにも拘わらず、ドクは相変わらず空気を読まず返答してくる。

「落ち着いてください。お兄さんの死は悲しいことですが、これも人種の未来のため、必要な犠牲というものです。お兄さんは尊い礎になったのです、感情的に怒ってもなんの益も――」

「黙れっていってるだろうがぁあぁッ!」

僕は怒声を張り上げ、兄を地面にそっと戻すとドクへと殴りかかる。

ドクは咄嗟に金属のメスを投擲!

さらに、

「デバフ! デバフ! デバフ! 多重層デバフ! ブースト! ブースト! ブースト! 多重層ブースト!」

得意の支援魔術で僕の能力値を下げ、投擲したメスの能力値を上げる。

本来であれば 神葬(しんそう) グングニールの杖で弾くなり、回避するが、僕は構わず突撃する。

ドクのデバフ&ブーストでメスが体に刺さるが、そんな小さなものには構わず突撃して殴りかかる。

こいつだけは! この外道だけは、許すことが出来ない!

回避せず、ダメージを受ける覚悟で突撃するとは予想していなかったのか、ドクは一瞬反応が遅れる。

その遅れが逃げるタイミングを失わせた。

「アァァアァァァッ!」

僕の拳がドクの顔面をとらえる。

素手での格闘技術も習っているが、今回は一切考慮せず、感情のまま殴りつけた。

やっていることはただの喧嘩だが、レベル9999の高いステータスによって、ドクが派手に殴り飛ばされ地面を転がる。

レベル6000を超えているお陰でドクは一撃で死亡することはなかったが、相応のダメージを受けたらしく、殴られた箇所を押さえつつ制止するように空いた片方の手をあげる。

「ま、待ってくださいよ! 落ち着いて、理性的に話し合いましょう!」

にーちゃんの件でブチ切れている上にそんな言葉を聞く必要はないため、ドクの制止を無視して追撃にかかる。

「お前は! お前に切り刻まれ、弄ばれている人種達が止めてくれと言ったら、その言葉を聞いたか!? 自分がやったことを棚にあげるなッ!」

未だ地面から立ち上がっていないドクを全力で蹴り飛ばす。

彼は咄嗟に両腕ガードするが、手加減が理性から完全に取り払われた僕の一撃に耐えきれず腕が折れ、再度地面を勢いよく転がる。

「――ぎゃぁぁっ! わ、ワタクシのう、腕が!?」

目の前が赤く染まる。怒りによって目の毛細血管がぶちぶちと切れて、血によって物理的に染まっているのだ。

にーちゃんが死亡したと言っても、まだエリーの『死者蘇生魔術』がある。

エルスにーちゃんを生き返らせる可能性は何かある筈。

故ににーちゃんの体を元に戻す方法を知るドクを、殺害するのは何もかも吐かせた後にする必要がある。

誤って死亡させて、『死者蘇生魔術』を使用しても、生き返るのを拒絶されたら、にーちゃんを元に戻す方法を吐かせる手段が無くなってしまうからだ。

だが、それとこれとは別だ。

死なない程度のギリギリまで、この男にダメージを与える。

技術など一切考えず、両腕が折れたドクに馬乗りになって殴り付ける。

「ま! 待ってくだ――」

「黙れぇぇえっ!」

言葉など発させはしない。言葉を喋る資格などこの男にはない。

僕はドクを殴り続ける。彼の両腕がぐちゃぐちゃになって千切れる。

拳が右肩を砕き、打ち抜く。

胸に左拳がめり込み、肋骨を正面から砕いた。さらに殴りつけて折れた肋骨ごと内臓器官を潰す。

顔を殴りつけ仮面を砕くが、ドクの素顔は目に入らない。

顔などどうでもいい。この男の体に罪を刻む必要がある。

「――――!!!」

僕は怒りで完全に我を忘れて、雄叫びを上げてドクを殴り続ける。

空間すら歪みそうなほどの怒りが僕の周囲に疼く。

☆ ☆ ☆

結論だけ告げるなら、ドクの体に痛みを刻んでいる最中に少し記憶が飛んでいたようで、メイとアオユキによって呼びかけられ、静止を促された時に気がつく。

メイがドクへと糸を伸ばし、命が細く繋がる程度の応急処置を施す。

僕の側にはアオユキが居て、膝を突き無抵抗で首を差し出す。

「――申し訳ありません。あれ以上、攻撃を続けていた場合、あの ドク(外道) が死亡していた可能性も極小ではありますがあり得ました。故に不敬を承知で主を押し止めさせて頂きました。後ほど、どのような処罰も受ける所存です」

止めてもらわなければ、気をつけていたとはいえドクを殺す可能性もあった。

そうなったら情報を引き出すことが出来なくなるため、メイとアオユキは後ほど僕の不興を買う可能性もありながら、僕に静止を促してくれたのだ。

「……メイ、アオユキ、よく僕を止めてくれた。礼を言おう」

「――寛大なお言葉誠にありがとうござます」

彼女達の忠誠心を蔑ろにするようなマネを出来るはずもない。

アオユキは僕の返答に改めて深々と頭を下げた。

メイ、アオユキの判断は本当に助かった。

メイの糸による応急処置の後、エリーを急ぎ呼び寄せ、 戦略級(ストラテジー・クラス) の回復魔術を連続で使用。

ドクのレベルが高かったのと、メイの応急処置もあり死ぬことはなく、ドクを捕らえることが出来た。

あとはたとえどのような手段を用いても、にーちゃんを人種に戻す方法を奴から聞き出すだけだ。

たとえどのような手段を使ってでもだ!

僕は闇より濃い暗い怒りを胸中に滾らせ、『奈落』最下層へと帰還したのだった。