軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話 無限ガチャの可能性

現在の『奈落』最下層の雰囲気は非常に重かった。

『奈落』最下層の絶対的主であるライトが、落ち込んでいるためである。

ナズナが泣きそうな涙目でエリーへと声をかける。

「な、なぁやっぱりあたいが作戦を失敗させて ゴウ(あいつ) を死なせたから、ご主人様が怒っているのか?」

「大丈夫ですわ。ライト 神様(しんさま) がその程度の些事で腹を立てるなどありえませんの。第一、報告を聞く限り……」

「? エリー、どうしたか?」

エリーはナズナからの報告を聞いて疑問を抱くが、彼女に問い質しても意味がないため黙り込む。

何より問題はライトだ。

「……いえ、なんでもありませんわ。ともかくライト 神様(しんさま) はナズナさんに怒っている訳ではありませんの。だから、そこまで気にする必要はありませんわ」

「わ、分かった。エリーがそこまで言うなら……」

ナズナを落ち着かせた後、エリーはナズナからとある方角へと向ける。

視線の先にある部屋に今、ライトが1人、落ち込んでいるのだ。

その光景を想像するだけでエリーの胸が締め付けられる。

(わたくしの 魔術(力) でどうにか出来ればよいのですが……。さすがに無理難題が過ぎますわ。『レベル9999 禁忌の魔女』だというのに、大切な時にライト神様のお役に立てないなんて……)

ナズナを慰めつつ、エリー自身、1人胸中で歯噛みする。

敬愛するライトが落ち込んでいるのに何も出来ない自分自身を嘆く。

――では、ライトは何に落ち込んでいるのか?

☆ ☆ ☆

「…………」

エルス兄を助け出すのと、魔人国側『ますたー』であるドクを捕らえる作戦を無事に終えた。

結果だけなら、成功と言っても問題ないだろう。

兄は僕をこれ以上、傷つけないように自死したが、エリーの『死者蘇生魔術』で生き返らせることが可能だと彼女の口から確認を取ることが出来た。

肉体を改造されたお陰で、耐久力が上がっているのと、心臓のみが破壊されている、死後時間があまり経過していないのが良かったらしい。

肉体が――レベルが低いと『死者蘇生魔術』に耐えきれず、死体がバラバラになっていたり、死後時間が経過して腐乱や白骨死体などになっていると適応されない等、『死者蘇生魔術』には様々な条件があるが、それはクリアされている。

問題があるとするなら……兄を怪物から、人種に戻す方法が無いことだ。

現在、僕は『奈落』最下層の一室、ベッドの側に1人腰掛けていた。

ベッドには死亡した兄が、怪物化したまま寝かされている。

破壊された心臓もエリーの魔術で再生済み。

お陰でただベッドで眠っているだけに見える。

僕はそんな兄の姿を前に、胸中でエリーの台詞を思い返す。

(エリー曰く、捕らえたドクの記憶を確認してもにーちゃんを怪物から、人種に戻す方法は本当に持っていないらしい。メイが魔術で真偽を判定しても彼が嘘をついていないと判明しただけだ……)

捕らえたドクは情報を引き出すためと、今まで犯してきた罪は苦痛をもって償わせるため『奈落』最下層のさらに地下――元『種族の集い』メンバーと同じ地下で苛烈な拷問を受けている。

ドクが今まで人種におこなってきたことを考えればまだまだ温い。

そんなドクの体を責め、記憶を様々に掘り起こし『にーちゃんを怪物から人種に戻す方法』を吐かせようとしたが、『そんな方法は無い』という結論しか出てこなかった。

今の兄は酒に泥を混ぜたような状態だ。

泥を完全に除去し、元の酒に戻すことが不可能なように、怪物から人種に戻すことが出来ないらしい。

兄を怪物から元に戻す方法が無いため、たとえこの場ですぐに生き返らせても再度暴走し暴れさせるだけだ。

それでは意味が無い。

現在の処置としては、このまま放置したら兄の遺体が腐敗してしまうため、エリーの 極限級(アルティメット・クラス) 魔術で時間を停止している。

数秒や数分の停止ではない。

永続的な時間停止をおこなってもらっている。

これで兄の遺体が腐敗したり、時間経過による不具合が出ることはなくなった。

本当にただベッドの上で眠っているだけのように見える。

(貧農時代とは比べモノにならない財を持っても、世界最強最悪のダンジョン『奈落』を制覇し、人種を差別する他種国家を凌ぐ力を持っても、僕には大切な家族を助ける力もないのか……)

祈るように両手を組み、額を押しあて俯く。

後悔が溢れ出て、瞳からは涙がこぼれる。

僕は兄の側でただただ悔しさ、悲しみで涙を流し続けた。

折角救い出した兄に何も出来ない自分が悲しく、涙を零す。

ノック音。

返事をしていないのに扉が開く。

気配から相手が誰か理解していた。

「……メイ、僕は暫くにーちゃんと二人っきりにしてくれと言ったはずだけど」

「申し訳ございません……」

思わず硬い口調で部屋に入ってきたメイへと告げてしまう。

彼女は謝罪を口にすると、僕のすぐ側へと近付く。

膝を突き、ハンカチを取り出すと、優しい手つきで僕の涙を拭う。

いつもなら彼女の優しさは嬉しく包み込んでくれるものの筈なのに、今はむしろより一層心が震えてしまう――だが、それより早くメイが口を開く。

「ライト様、どうぞ諦めないでください。まだお兄様を助け出す方法は残っています」

「改造した本人、ドクが無いと言っているんだよ。竜人帝国側のますたーにでもその技術があるというのか?」

それはいくらなんでも希望的観測過ぎる。

超常的力を持つ『ますたー』達とはいえ、怪物化した兄をピンポイントで救う力、能力、技能を持つ存在がいる可能性は低い。

僕の言葉にメイは首を横に振った。

「いいえ、違います。お兄様を助け出す方法は、ライト様ご自身がお持ちになっております。『無限ガチャ』です」

「……!?」

言われて気付く。

あまりに身近な存在だったため失念していたが、僕の 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』なら確かにその可能性がある。

「……そうか。僕の『無限ガチャ』なら、将来的ににーちゃんを怪物から人種へ戻すカードが出る可能性があるのか!? 実際、『無限ガチャ』から 創世級(ジェネシス・クラス) の 神葬(しんそう) グングニールなんて超常的な武器すら出てきた。今まで出ていない高レアな回復系のカード、にーちゃんを元に戻すカードが出てきても可笑しくないじゃないか!」

『目から鱗が落ちる』とは、まさにこのことだ。

僕は椅子から立ち上がると、改めてメイへと向き直る。

絶望という暗闇の中、メイの助言のお陰で希望という光を得ることが出来た。

僕は興奮と感謝の気持ちから、彼女に対してお礼を言わずにはいられず、メイの手を両手で握り締める。

「ありがとう、メイ、ありがとう! お陰でにーちゃんを救う可能性に気付くことが出来たよ」

「お礼など不要です。我が存在、我がメイド道は全て主、ライト様のためにあるのですから」

メイは落ち込みから立ち直った僕を見て、嬉しかったのか微笑みを浮かべて返答する。

それでも僕は再び涙を零し、お礼を告げた。

悲しいから泣いているのではない。

希望に気づくことが出来た喜びの涙だ。

また再びメイがハンカチで僕の涙を拭いてくれる。

その手つきは先程と違って彼女自身、喜びに満ちているのが伝わってくるような優しい手つきだった。