軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 偽装

「クソがァァァアッ! 死ねよ、クソガキがァァァッ!」

「あたいはクソガキじゃない! ナズナって名前だって言ってるだろ! ……あれ言ったか? 言ったよな?」

ゴウが手加減も、余裕も投げ捨て、全力でナズナへと挑む。

鋭いジャブ、渾身のハイキック、当たれば一発で相手を沈める鳩尾を狙った三日月蹴りなど――その全てを簡単に防がれる。

(アァアァッ!? どうして初見の攻撃すら見切りやがるんだよォッ!? クソがァッ、俺様の呼吸が完全に読まれているってことかァッ!)

『呼吸を読む』、『攻撃のリズムを読まれる』など、呼ばれ方は様々だが、つまりはナズナはゴウの動きを見切り始めていて、たとえ初めて見る攻撃でも対応できるようになったのだ。

今まで戦って来た相手にゴウ自身がやってきたことを、今度は逆にナズナにやられる。

「……ッ!」

屈辱に苛立ち舌打ちするが、現実は変わらない。

ゴウはそれでも抗う。

「俺様は格闘技の天才なんだよォッ! 貴様のようなクソガキに負けて良い訳がないんだよォッ!」

「う~ん、天才か? 別に普通ぐらいじゃないか?」

全力の左ハイキック。

常人なら『どのような攻撃を受けたのか』理解できず、頭部が首から消えているだろう。

一方、ナズナはまるで子供の投げるボールを回避する気軽さで、ひょいと何でもないように感想を漏らしつつ、避ける。

ゴウの股関節は別の生き物の如くうねり動き、空中で軌道を変化。

踵を天に向ける勢いで大地へと振り下ろす!

「おいおい、それはもう見たぞ。一度見た攻撃をするとか、あたいを舐めているのか?」

しかし、当然とばかりにこの奇襲もナズナは楽々回避してしまう。

ゴウは渾身の踵落としを回避されたにもかかわらず、笑みを浮かべる。

「ああ、知っているよォッ。クソガキならこのぐらい絶対に回避するってなァッ!」

「うん?」

踵落としは回避されるが、お陰でナズナとの間合いは完全に潰れる。

2人の距離は互いに触れ合えるほど近い。

本来であれば、こんな近距離、蹴りも、拳も、肘もどの攻撃も近すぎて有効打にならない……が、唯一、『間合いが近いからこそ効果が高い』技術がある。

俗に言う『ワンインチパンチ』だ。

寸勁とも呼ばれる。

約3cm――一寸の距離から放たれる攻撃だ。

さらにゼロ距離――ナズナ×2名の頭部に叩き込んだ触れた状態から頭部に勁を流し込んだ。このようなゼロ距離から打撃を叩き込むのを『 零勁(れいけい) 』と呼ぶ。

本来であればこの『 零勁(れいけい) 』をゴウの力で頭部に叩き込まれたら、即死は免れない威力なのだが……。

ナズナは普通に立ち上がってしまった。

故にゴウは彼自身が唯一開発した奥義をナズナへと使用する。

ゴウはナズナの腹部に両手を重ね、『ヒュッ――』と短く呼吸を刻む。

「内側から内臓と血反吐をばらまいてくたばれ化け物―― 瞬勁(しゅんけい) !」

ゴウが超人的肉体、技術、研鑽によって雲耀の時間差でナズナの体内に『 零勁(れいけい) 』を二度打ちこむ。

一発目の『 零勁(れいけい) 』が体内部に浸透し、反射。

その後、僅かに遅れて二発目の『 零勁(れいけい) 』が、体内部で反射した『 零勁(れいけい) 』とぶつかり不規則に乱反射する。

勁が乱反射するたび、内臓などの器官をズタズタに引き裂く。

常人であれば体内部にある臓器全てをズタズタに引き裂かれ、即死。

たとえ高いレベル、頑丈な鎧を纏っていたとしても意味をなさず、 瞬勁(しゅんけい) を叩き込まれたら即死せずとも多大なダメージを与えることが出来るのだが……。

『ガンッ』とナズナが 瞬勁(しゅんけい) を叩き込まれたと同時に、自身の胸を殴る。

自傷するためではない。

体内部に叩き込まれた 瞬勁(しゅんけい) を、相殺するため自身に新たな勁を流し込んだのだ。

お陰でダメージ0で、ゴウの奥義を打ち破る。

ナズナは苛立ち、拳を振るう。

「いきなりあたいの体に変なモノ流し込むなよ!」

「ぐがァッ!」

乱雑に殴られた一撃で、ゴウ自身しっかりとガードしたにもかかわらずナズナはもう覚えてしまった勁を流し込み、ダメージを与える。

ゴウは拳の衝撃で吹き飛ばされ、なおかつ身体内部にまでダメージを負う。

この一撃で彼のプライドは完全に折れた。

(クソッ……クソ、クソがァッ! このガキ、勁の流し方なんて一切知らなかったはずなのに、自身の体に勁を叩き込んで『 瞬勁(しゅんけい) 』すら無効化するとはァッ。勝てない可能性を感じてはいたが……俺様がここまで手も足も出ないなんて……ッ)

だらだらと口から流れる血を拭う余裕もなく、屈辱にナズナを睨みつける。

(クソッタレ! 俺様がぼこって地べたを這いずらせて睨みつけてきた負け犬共の気持ちが今文字通り理解できるぞォッ! クソがアァァッ! クソガキの分際で調子に乗りやがってよォオォッ!)

ゴウは胸中で毒を吐き出しつつ、奥歯をギリギリと軋ませる。

今まではゴウが敵対者を余裕の態度で地べたに這い蹲らせていた。にもかかわらず今は自分が彼らと同じ立場に立たされてしまう。

ゴウは生まれて初めて『屈辱を抱く』という感情を理解する。

(――今すぐこのクソガキをぼこぼこにして、俺様と同じ屈辱を味わわせたいが、今のままじゃこの化け物に勝つのは不可能だァッ。業腹だがなァッ。それにやりあったお陰でこのクソガキの弱点はよぉおおぉく理解したぞォッ)

ゴウは地面から両手を離して、体を起こす。

ナズナに殴られると同時に勁を流されたせいで、体の芯から痛みが走り立つことが出来ない。

両膝を地面につけたたまの屈辱的な姿勢で、アイテムボックスから小箱を取り出す。

ナズナが首を傾げる。

「? なんだその箱は? 宝石でも入っているのか。言っておくがそんなのであたいは買収されないぞ。オマエはここでぼこぼこにして捕まえて、情報を引き出すってご主人様が言っていたからな! あたいがご主人様のご命令に逆らうなんてありえないぞ!」

ナズナは胸を反らし自慢気に自分の忠誠心を言葉にする。

ゴウは彼女との会話でいくつかの気になる情報を頭に入れつつ、返答する。

「アァァッ、誰がクソガキに貢ぎ物を差し出して命乞いするかよォッ。俺様に勝ったぐらいで調子に乗るなよォッ。オマエがいくら強くてもこの世界で意味なんてないんだよぉッ。アイツにとって俺様達なんて玩具程度の認識でしかないんだからなァッ」

「? 玩具? 玩具の話なんてしていないだろ。何を言っているんだ?」

ナズナの不思議そうな反応に、ゴウは確信を得た表情で1人笑う。

「ハァッ! 意味が分からないようだなァッ! なら、その時、せいぜい絶望しろ、クソガキがァッ――」

ゴウが言い切ると、手にした小箱に魔力を流す。

流すほぼ同時に煙りが噴き出し、爆発。

「!?」

血、肉片、内臓らしきモノがナズナまで飛び散る。

彼女は咄嗟に、汚物を避けるように飛び散る肉片などを回避するため距離を取った。

煙が晴れた後には、ゴウが居た場所は小さなクレーターが出来ていて本人はどこにもいない。

ナズナは顔色を悪くする。

「う、そ、だろ……あたいに勝てないからって自爆とか!? そんな簡単に自爆するとかありえないぞ! ああぁぁぁ……どうしよう、捕まえて情報を引き出すはずだったのに……これご主人様に怒られる?」

ナズナはその場で蹲り、暫し落ち込む。

だが、いつまでも落ち込んでいられず、ゴウが自爆の情報を伝えるため『巨塔』に転移。

『巨塔』経由で、ライトやエリー、『奈落』最下層に連絡をしようとする。

――実際ゴウは、ナズナに勝てないと悟り自爆したのか?

ナズナが姿を消して、30分ほど、ゴウが爆心地の地面から這い出る。

「アァァァッ、まさかこのマジックアイテムが役に立つ日がくるなんてなァッ。マジで助かったぜェッ」

ゴウが取り出した小箱は、マジックアイテムで『自身の死を偽装する』というものだ。 実際の効果は見ての通り。

飛び散った血肉は他者のモノで、死体などを加工して作られているらしい。

高価ではあるが、今までは使いどころがなかった。ゴウが強すぎたため、偽装の必要などなかったからだ。

さらに言えば、いくら稀少なマジックアイテムとは言え、頭が回る敵であれば不自然さに気付く可能性がある。だがナズナは戦闘タイプだ。そこが彼女の弱点で自らがこの場を逃れられる唯一のチャンスだろう、とゴウは考えた。

完全に賭けだったが……ナズナはその不自然さに気付かず、落ち込み、情報を伝えるため姿を消した。

ゴウは煙が散布され、爆発する僅かな時間に地面へと潜り込んだ。

お陰で頭から爪先まで土で汚れたが、ナズナから逃げ切ることは出来た。

彼は屈辱に歯噛みし、彼女の強さに畏怖を感じ吐き捨てる。

「あんな化け物のクソガキが居る魔女に目を付けられた魔人国はもう終わりだなァッ。俺様をあそこまで圧倒する化け物が居るんだからよォッ……。クソがァッ! 情報共有のために竜人帝国に向かうつもりだったが、このまま移籍するしかねぇなァッ。俺様も鍛え直して、 黒(ヘイ) と手を組めばあのクソガキを 殺(や) れるか?」

魔人国、竜人帝国側『マスター』最強の戦闘能力を持つ2人が手を組めばいくらナズナでも倒せるかもしれないとゴウが思案するが……。

「クソがァッ。それでもあのクソガキに勝てるビジョンが見えねぞォッ! あのガキを確実に 殺(や) るためには最高戦力をぶつけるだけじゃ駄目だなァッ。なにか策をうたなければ……」

ゴウは思案しつつ、その場を離れる。

いつ気まぐれでナズナが戻ってきて、自分の姿を見られるか分からないためだ。

彼自身、認めていないが、ナズナの戻ってくる幻影に怯えつつ急ぎその場を離れるのだった。