作品タイトル不明
13話 才能
「摂理をねじ曲げて傷を癒せ、プロメテウス」
ゴウからの攻撃を受け、一時的に気を失っていたナズナの1人が立ち上がり、大剣『プロメテウス』で摂理を曲げて傷を癒す。
同時にナズナ×4人が姿を消し、大剣『プロメテウス』も鎧も外し、アイテムボックスへと仕舞う。
「アァァッ……どういうつもりだ?」
ゴウは訝しがり独り言で疑問を告げる。
人数を減らしたのも、大剣『プロメテウス』と鎧を脱ぎ仕舞ったのも、ナズナの戦闘力を落とすだけ。
ゴウ側が有利になっても、彼女側に益は無い筈だが……。
武器と防具を脱ぎ身軽になったナズナはゴウの声を無視して、拳を握り空を向けて振り、足を蹴り上げる。
「う~ん、なんか違うな? もっとこうしゅぱっとして、すぱっ! って感じだったような……」
ナズナはゴウなど目の前にいないとばかりに、1人ぶつぶつと抽象的な言葉を漏らしつつ体を動かす。
ゴウとしても今のナズナは無防備で、隙だらけ。
殴り倒すのは難しくないはずだが……踏み出せず、嫌な汗が額を伝う。
3分ほど体を動かしていたナズナは、ようやく納得できたのか晴れ晴れたした笑顔を向けてくる。
「うっし! だいたいこんな所でいいだろう! 悪いな、待たせて!」
「…………」
ナズナはまるで親しい友人に遅刻を謝罪するような快活な笑顔を向ける。
その笑顔はナズナの整った顔立ち、天真爛漫な性格から、同性異性関係なく虜にするほど魅力的なモノだった。
にもかかわらずゴウは一切良い感情を抱けず、ただただ不気味さを感じてしまう。
ナズナはゴウの感情など一切気にせず、構える。
その構えは先程から戦っていたゴウと寸分違わず同じだった。
「よっしゃ! 行くぞ!」
「!? このガキ! 俺様と同じ構えをするとはァッ! はったりは通用しねぇ――」
ゴウは自身と同じナズナの構えに驚愕し、思わず怒鳴り散らすが、途中で遮られる。
ナズナが間合いを詰める技術『縮地』で、距離を縮め拳を振るったからだ。
「……ッ!?」
ゴウは咄嗟にナズナの右ストレートをガード。
左、右のコンビネーションに、足をスイッチしてのナズナの蹴り。
『グゥッ!』と全てを反射的にガードしたが、元々ナズナの力が強いため防御を貫通してゴウへとダメージが入る。
最後の蹴りをガードしたが、勢いを殺せず、吹き飛ばされてしまう。
着地し両足で地面をガリガリと削りながら、なんとか勢いを殺した。
当然、ナズナは追撃をしかけてくる。
「舐めるなよ、クソガキがァァァァアッ!」
ゴウが吼えて、ナズナの追撃をメラの毒火炎を二本の腕で捌いた時のように、受け流す。
空手の防御技、廻し受けだ。
ナズナの拳を受け流し、ゴウは一種の芸術品の如く、攻撃へと転じる――が、
(!? こいつ俺様の攻撃をもう見切りやがっただとォッ!?)
ナズナは自分の顔を狙ったゴウの一撃を、上体を反らし鼻先数ミリの地点で回避する。
「そんな驚くことじゃないだろ? あれだけ何度も殴られたら、普通、間合いぐらい掴むだろ」
ナズナはゴウの驚愕を前に、『これぐらい出来て当然、普通のことだ』と当然とばかりに告げた。
得意気でも、相手を見下してもいない響きから、彼女が嘘偽りなく本心で告げているのを実感する。
ゴウの胸中から久しぶりに黒い感情がせり上がってくる。
彼はそれを否定するため、さらに攻撃をしかけようとするが、動くより先にナズナに突きだした拳を掴まれ、バランスを崩され膝を突いてしまう。
「!? こ、この俺様が体を崩されただと!?」
達人になれば指1本で敵のバランスを崩し、地面に膝を突かせ、立つことができなくすることが出来る。
ゴウ自身、コブラ頭――メラ分身体の爪を掴み、体を崩して膝を突かせ立ち上がらせなくさせるほどの高い技量を持つ。
当然、相手にされた際の回避方法も熟知している筈だが……そんな彼がつい先程まで体の崩しを知らない、教えてもいないナズナにいいように翻弄される。
(クソがァッ!? あ、ありえねェッ。この俺様が武器有りならともかく、素手の格闘技術でこんなクソガキに後れを取るなんて……ッ)
立とうにもバランスを崩されいつまでも立てないゴウは、胸中で毒を吐く。
彼は素手の戦闘技術に関しては魔人国、竜人帝国側『マスター』達の中で自分が最も優れている自負があった。
にも関わらず先程まで、格闘技術はほぼ素人レベルのナズナにいいようにされてしまう。
プライドの高いゴウにとってこれほどの屈辱はない――が、彼はさらにナズナに驚かされる。
「う~ん、この技は相手を動けなくさせるのに便利は便利だけど、まどろっこしくてあたいの趣味じゃないな……あっ! でも、こうしてこうすれば面白いかも!」
「ちょッ!?」
ナズナは掴んだ拳を軸にゴウの腕を捻り、関節を折ろうとする。彼は無意識に折られまいと反射的に体を動かし、最終的には自分から地面へと勢いよく投げ飛ぶ。
派手に飛んだゴウを前にナズナが自身に喝采を贈る。
「おおぉッ! あたい、全然力を使っていないのにこうすれば相手の力を利用して勢いよく投げられるのか! これ、滅茶苦茶格好良くないか!」
「ゲホ! ごほッ! ゲホッ!」
ナズナが1人はしゃいでいると、勢いよく投げ飛ばされ地面を転がったゴウが噎せる。
(こ、このガキ、俺様から崩しの技術を吸収したと思ったら、今度は自分で合気を作り出しやがったァッ!? ただの天才云々のレベルじゃねェぞォッ!?)
ゴウ自身、自分は『格闘技術の天才』だと自負している。
一目見た、体験した技術を一瞬でモノにする自信はあるが、先程のナズナのように『得た技術で新たな技術を生み出す』ことは出来ない。
あくまでコピーして十全に活用できるようになるだけだ。
新しい技術を生み出すなど、まず考えもしないし、出来ない。
にも関わらずナズナはやってのけたのである。
彼女は普段の言動こそ落ち着かず、子供っぽい。
初めてライトの妹ユメと顔を合わせた際、『ナズナお姉ちゃん』と呼ばれて、舞い上がっていたこともある。
しかし、ユメ本人がナズナと過ごすうちに『自分がしっかりしないと駄目だ』と自覚し、『姉』呼びが取れるほど子供っぽく、さらにナズナ本人自身、呼び方が変わったことに気付かないほど鈍感である。
だが、戦闘に関しては、ライトを含めて『奈落』メンバーの中で最も才能に溢れているのだ。
1を聞いて100を知るどころか――新たな技術を見ただけで自らの中に生み出すほどに。
呼吸が落ち着いたゴウが、地面に這い蹲り、ナズナを見上げる。
(クソがァッ……実力、才能共に俺様はこいつに勝てねェ……ッ)
自分の才能に高いプライドを持つゴウが、ナズナの戦闘技術、才能、実力を前に内心で自身の敗北を悟ってしまうのだった。