作品タイトル不明
11話 ライト達vsドク、エルス4
「……ッ!?」
僕は思わず口元を抑える。
『種族の集い』メンバーに殺されそうになって以後、多くの修羅場を潜り抜けてきた。
お陰で色々な耐性を持っていると自負していたが、ドクの背後から溢れ出す人種死体が雪崩を打って溢れ出てくる光景は邪悪そのものだった。
それらは、腐った死体、白骨、子供、大人、老人、男性、女性、まだ生きているように見える者など――本当に多種多様な死体で溢れていた。
「これでまだ終わりではありませんよ! 集え! 形をなせ! クリエイトゴーレム!」
ドクはそれら死体が溢れる異様な光景を一切気にせず、道具のように利用する。
アイテムボックスから流れ出続ける死体の山が、ドクの叫びに従い彼を中心に集まり出す。
人種死体が集合しつつ、足、胴体、腕、頭を作り出していった。
途中で、その腕が兄エルスを取り込む。
「にゃ!?」
アオユキがすぐさま引っ張り出そうとするが、『デバフ! ブースト! デバフ!』とドクが人種死体ゴーレムを支援、アオユキにデバフをしてくる。
お陰で力のバランスが崩れ兄同様に巻き込まれそうになる。
「アオユキ! 無理しないで鎖を外して!」
「……ニャ」
僕の指示にアオユキが苦渋の決断をした返事をしつつ、『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』を兄から外す。
その間も人種死体が吐き出され続ける。
まるで永遠に尽きないかのようにだ。
その死体は全てゴーレムの材料にされていく。
最終的に人種死体ゴーレムは10m近くまで巨大化する。
(メイ達の報告でドク研究所で人種死体が大量に放置されていたとは聞いていたが……あれはまだ一部でしかなかったのか)
見たこともない人種死体の多さに僕が眩暈を覚えていると、人種死体ゴーレムからドクが誇らしげに叫ぶ。
『これこそ! 人種の未来に喜んでその身を捧げた献身者達の絆! 貴方達にこの絆を砕くことは出来ますか!』
ドクの叫びに僕達は絶句する。
ここまで……ここまで人種という種の存在を蔑ろにし、誇りを踏みにじり、何の罪悪感もなく虐殺をしてきた存在を見たことがない。
人種を差別する他種だって、ここまで酷くはなかった。
僕は思わず問い質してしまう。
「オマエには……オマエには人種に対する心が無いのか?」
『? 何を仰るのですか。ワタクシほど人種を思う存在はいないと自負しておりますよ。ワタクシは幼い頃から感じていたのです、『人種ほど弱い存在はない』と。少しのことで死にゆく皆――だからこそ思ったのです、『全ての人種がワタクシのような存在になるべきだ』と。だからこそ、こうやって人種を救うために行動しているのです! 彼らを救うためには、彼ら自身を変え、改造するしかない! これこそが全ての人種を救うための聖なるおこない! 彼らはそのための貴き犠牲なのです!』
ドクの声に一切の虚偽の響きは無かった。
本心から彼は『自分は人種のために善をおこなっている』と信じ切っていた。
無自覚の邪悪に頭がクラクラする。
しかし、ドクの悪意はまだ終わらない。
『ブースト! ブースト! ブースト! 多重層ブースト!』
ドクは魔術にすら干渉できる支援魔術を人種死体ゴーレムにかける。
数千人の人種死体にブーストをかけることで、大量の死体が持つ怨念がさらに強まっていく。
『痛いよぉ』、『助けて』、『苦しい』、『殺して』、『お願い助けて』――怨念が強くなり過ぎて死体達の苦痛が溢れ出る。
数千人の呪詛を強化したせいか、人種死体ゴーレム全体を黒い靄が覆う。
『さぁ! 人種達の絆を前に滅ぶがいいです!』
「……ッ!」
ドクが声を上げて襲いかかってくる。
人種死体ゴーレムが足で移動し、腕を振り上げ、殴りかかってくる。
僕達は直感に従い慌てて距離を取った。
動いただけで空気が死に、歩いた大地の草が枯れて、地面すら砂漠のように乾く。
ドクが人種死体にブーストをかけたせいで、呪詛が強化。
ただ歩くだけで空気や大地すら殺す怨念兵器と化す。
さらに人種死体ゴーレムは殺した生命を力に変換するのか、呪詛がより強化され黒い靄が広がり、近くにいた魔人種兵士達が伝染病に犯された患者の如くバタバタと倒れていく。
「た、助け――」
「ぎゃぁぁぁッ!」
「ど、ドクさん、どうして……ッ」
魔人種兵士達が次々命を落としていく。
死亡した魔人種に反応したのか、人種死体ゴーレムから無数に伸びる手によって遺体が掴まれ取り込まれていった。
結果、増えた人数分より呪詛が強化される。
「どうやら生命を貪るたびに呪詛が強化されていくようですね。では、物理的に切り離し、細切れにして無力化させて頂きます!」
メイが『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で人種死体ゴーレムへと攻撃を加える。
他生命を殺し、取り込むことで呪詛が強化されるなら、物理的に人種死体ゴーレムを分割し、小さくすることで力を弱めようとしたのだ――が、
「!? 『 魔力糸(マジック・ストリング) 』が腐食した!?」
『強化されたワタクシ達の絆はその程度の攻撃では傷つけられませんよ!』
万に近い人種呪詛を支援特化のドクが強化したことで、メイの『 魔力糸(マジック・ストリング) 』では干渉できないレベルに到達しているらしい。
切ろうとした『 魔力糸(マジック・ストリング) 』が逆に黒くボロボロになってしまってしまう。
僕達レベル9999の中で最も戦闘能力に劣るとはいえ、メイの糸を腐食させるとは……。
どれだけドクは大勢の人種を死後まで苦しめているのか!
ドクの邪悪さに頭がくらくらしてしまう。
「こいつだけは必要な情報を抜き出した後、すぐに殺す! 存在しているだけで、お前はこの世の災いにしかならない!」
僕は決意を固め、無限ガチャカードを取り出す。
ドクは僕の言葉を前に嘲笑う。
『何をしようとしているのか分かりませんが、無駄ですよ! 人種の無限大の可能性に貴方達程度の存在が敵う筈ないのですから! いくらレベルが高くても皆の集まった絆の前には無力なのです!』
「貴様のような外道が絆云々を語るな。言葉が腐る。なにより――ギフト『無限ガチャ』を、貴様程度の存在が計るなよ」
僕は取り出した1枚のカード――『UR 炎環地獄(ヘル・ファイア) 』を解放する。
「『UR 炎環地獄(ヘル・ファイア) 』、 解放(リリース) 。文字通り、地獄の炎に焼かれろ、 罪人(ドク) 」
カード 解放(リリース) 後、黒い炎が人種死体ゴーレムへと絡みつく。
人種死体で作られたゴーレムのため、痛覚はなく未だドクは元気よく声を上げる。
『この程度の炎でワタクシ達の絆を燃やそうとしても無駄ですよ! なにせこちらには数千人! 万に近い人種達との 死体(絆) があるのですからね! 大火事にコップで水をまくようなもの! 個人でどうこうできる規模ではありません! これこそ人種の絆!』
確かに普通の炎系攻撃魔術なら、万に近い人種を燃やし尽くすことは不可能だ。
しかも強化された呪詛に阻まれ碌に燃やすことが出来ないだろう。
――しかしURカードである『 炎環地獄(ヘル・ファイア) 』は当然、普通の炎ではない。
『? どうして消えず、次々に燃え移っているのですか!? 普通、これだけの質量をこの程度の炎で燃やし尽くすことなど不可能なはず!?』
燃えた人種死体を切り離し、消火を図ろうとしたが僅かに燃え移っただけであっというまに全身が炎に包まれてしまう。
ドクは得意の支援魔術で火を弱めようとするが、
『デバフ! デバフ! デバフ! 多重層デバフ! 馬鹿な!? 炎を弱めることができない!? どうして! ワタクシの支援魔術が通じないのですか!?』
攻撃魔術にも干渉できるドクの支援魔術を使っても、黒い炎は弱めるどころか、干渉することも出来ず、燃え広がっていく。
さすがに異常事態に気付き、ドクが焦りの声をあげ始めたのだった。