作品タイトル不明
9話 ライト達vsドク、エルス2
「ライト様の命により、身柄を取り押さえさせて頂きます!」
事前に決めていた通り、メイがドクの確保と横槍を避けるため、早速動く。
彼女は『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を敵の身動きを止めるために振るう――が、
「ちょっと困りますよ。ワタクシ、見ての通り戦闘は得意ではないのに。乱暴は止めてくださいよ」
ドクはいつのまにか両手指の隙間に握った小型のナイフ……鑑定すると、手術などで使う道具メスというものらしいでメイの『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を切断していく。
ドクは身長が2mもありひょろ長く、血で汚れた白衣に袖を通し、仮面で顔を隠している。
厚みは無いが身長が高いため、メイの『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で簡単に搦め取れそうだったが、回避が非常に上手い。
レベルもミキ曰く5000前後という話だったが、鑑定すると実際はレベル6000を超えていた。
メイとのレベル差は3000以上あるが、逃げに徹せられるとなかなか捕らえ辛いようだ。
だが所詮は時間の問題である。
「アオユキ、今のうちににーちゃんを確保するぞ!」
「にゃー!」
アオユキが気合の入った声をあげる。
彼女はごつい棘付きの首輪に鎖がついた 幻想級(ファンタズマ・クラス) 、『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』を取り出す。
すぐさまエルス兄を捕らえるため投擲!
瞳が虚ろな兄だったが、アオユキからの攻撃に反応し、回避行動を取る。
故郷村時代には考えられない人種の枠を超えた規格外の素速い動きだったが、『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』には意味をなさない。
どれだけ素速く動いても、『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』は自動追尾機能が付いているため、敵側に想像を上回る程の回避力等がなければ逃げ切れずにその首へと嵌るのだ。
狙い通り『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』が兄の首へと嵌る。
「アオユキ、そのままにーちゃんを服従させろ!」
「にゃ!」
アオユキが短く返事をする。
一度首輪が嵌ったら力尽くで破壊は不可能。
所有者が解除するか、相手を倒すか、素直に服従するしかない。
もちろん例外的な方法で脱出する術もあるが。
ちなみに服従させることが出来るのはモンスターのみだ。
人種などにはいくら天才モンスターテイマーでも影響力はない。
もしかしたら改造されているためモンスター扱いで大人しく出来るかと思ったが……。
「ガァァァァアァアッ!」
兄は壊れた雄叫びを上げ、体中の筋肉を膨れあがらせる。
細い枝が、数秒で太い幹のように太くなり、首輪を掴んで千切ろうとし始めた。
先程の人種ではありえない素速い動きもだが、筋肉が一瞬で異常に膨れあがる様を見せつけられると『本当ににーちゃんは改造されて普通の人種ではなくなってしまったんだな……』と強く思ってしまう。
泣きそうな感情を抑えつけ、兄を確保するために頭を回転させる。
「『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』で大人しくさせるのは無理そうだ。アオユキはそのままにーちゃんを押さえつけてくれ。僕が直接殴って意識を奪うから!」
「ふにゃ!」
僕は指示を出し、手に杖を握り大地を蹴る。
いくら兄が改造されて人種ならざる力を手に入れたとしても、レベル9999のアオユキに腕力で敵う訳がない。
そのままアオユキが巧みに動きを制限している間に、僕は距離を縮めて兄を殴り、意識を奪おうとする。
「これはいけませんね。ブースト!」
「!?」
メイが振るう『 魔力糸(マジック・ストリング) 』から逃げ回るドクが、魔術で支援強化をおこなう。
支援強化をしたのはにーちゃんではなく僕とアオユキにだ。
「こッ、のォッ!」
「ニャ!?」
ドクの強化支援、バフは気持ちがよいほど身体能力を向上させてくる。
お陰で普段の感覚と大幅にずれて移動速度が上がり、このまま杖を振るったら兄を気絶させる所か殺害しかねない。
僕は勢いのまま兄の位置を越えて、一度距離を取る。
アオユキにも敵の支援が飛び、鎖で兄を上手く押さえ込んでいたのが、力の感覚が狂って驚きの声をあげつつ僕同様に慌てて調整していた。
僕はその間に強化された力を把握し、今度こそ兄の意識を奪おうとする。
「はい、次はデバフですよ」
「!? 体が、重い!」
「にゃ!?」
今度はドクからデバフ攻撃を受ける。
先程まで羽根のように軽かった体が、今度は全部鉛で出来てしまったかのように重くなってしまう。
強化された力で動き出そうとしたタイミングでのデバフで、体が重くなったせいで蹈鞴を踏み転んでしまいそうになる。
アオユキもデバフを受けて、力加減を間違えてしまう。
兄がその隙を逃さず、『ガァァァァアァアッ』と雄叫びを上げて、アオユキを空中へと引っこ抜く。
本来であれば力負けしないが、バフ&デバフで力加減を狂わされ空中へと放り出されてしまったのだ。
にーちゃんは『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』で繋がった鎖を力任せに振り回し、アオユキを地面へと叩きつけようとする。
「んにゃ!」
しかし、そこはレベル9999。
そんな雑な叩きつけではダメージを与えることなど出来ない。
アオユキはまるで本物の猫のように体を捻って体勢を立て直し、両足、膝、両腕などを使って衝撃を逃がし、無傷で着地する。
「よくもライト様の邪魔を!」
「いえ、そう怒られましても……。ワタクシとしても、護衛で最高傑作を壊される訳にはいきませんから。邪魔ぐらいしますよ」
メイが僕達の邪魔をするドクに鋭い殺気を飛ばすが、彼は我が儘を言う患者の要望を受け流すような態度を取る。
僕達が想像した以上に、ドクの支援技術が高くメイですら妨害する暇がない。
元魔人国側『ますたー』であるミキが『バフとデバフのスペシャリストだから甘く見ていると痛い目に遭うわよぉ』と助言してくれていた。
甘く見ていた訳ではないが、こちらの想定以上にこちらの攻撃への対応・防御能力が高い。攻撃力等が低い分、そこに特化しているというだけのことなのだろうが。
(にーちゃんだけなら転移で『奈落』最下層へ連れていくが――転移阻止結界が張られているから移動できないしな)
ドクを逃がさないための結界があるため、その手段を選ぶことはない。
(――ならまず邪魔してくるドクをメイと協力して倒そう。その後、にーちゃん確保に動くべきかな)
メイとアオユキに視線を向けると、2人は黙って頷く。
事前にいくつかの状況を想定して連携を確認済みだ。
これも想定した一つのため、スムーズに目標を切り替えることが出来る。
アオユキが兄を抑えている間、僕はカードを取り出し、狙いをドクへと移す。
僕は魔人種兵士達の被害など一切無視して、 解放(リリース) する。
「SSSR 業火の天使(ヘルフレイム・エンジェル) 、 解放(リリース) !」
炎が天使を形作る。
僕は殺意を込めて業火の天使をドクへと叩きつけた。