作品タイトル不明
8話 ライト達vsドク、エルス1
――少しだけ時間が遡る。
メラ分身体討伐後、ゴウが離脱。
残されたドクがディアブロ領地兵士を従え、人種王国を移動する。
魔人国にとっては見せしめ、ドクに取っては実験材料確保のためだ。
ドクは喜々として兵士達を連れて人種王国領内を移動するが……。
「まさかいく先々の村に人っ子1人いないとは……想定外にも程がありますよ……」
ドクは次の村を目指し移動しつつ、溜息を漏らす。
人種村人を捕らえられないのは当然だ。
最悪の場合を想定して、『巨塔』主導で魔人種国境近くの村人達は全員、移動済み。
現在、『巨塔』1階などで避難所生活を送っている。
避難所生活と言っても、衣食住はライト達持ちで、一緒に連れてきた家畜などの世話、近隣村人達との交流、『巨塔』街観光などもあるため、悲壮感は全くない。
唯一、持ち込めない畑の状態を心配しているが、魔術で現状以上のモノにすると確約している。
他心配があるとすれば、村の若い者達が妖精メイドの色香、初めて見る街の雰囲気に飲まれて『辺鄙な村ではなく、この街に住む方がよくないか』と言い出している点だろうか。
その辺りは村長等に対応を任せるしかない。
そんな事実を知らないドク達は、『いつまで誰もいない村を探して回るんだ』という雰囲気が漂う。
無人の村だが、金品、貴重品、食料も無い。
襲う人も居ないため、賊としての欲望を満たすことすら出来なかった。
移動する労力だけかかり旨味がない。
ディアブロ領地兵士達の間に不満が募る。
不満が募っているのはドク自身もだ。
折角、新鮮な 実験材料(人種) が手に入ると思ったら、誰一人いないのだ。
(もういい加減、村を襲うのは諦めて引き上げましょうかね。ヴォロスさんからのお仕事依頼もありますし)
魔人国第一王子ヴォロスからの依頼とは……『領民兵士達を洗脳してディアブロを襲い殺害させる』だ。
領主であるディアブロを領民兵士達の手で殺害し、国が彼の領地を接収するというものだ。
ドクは兵士達の洗脳の依頼をヴォロスから受けていた。
(新鮮な 実験材料(人種) を手に入れることは出来ませんでしたが、代わりに洗脳する魔人種兵士達の一部を材料としてもらってもいいですよね。仕事依頼の報酬の一部ということで。きっとヴォロスさんも納得してくださるでしょう)
ドクは胸中で1人自己完結する。
ドクの背後でだらけきった領地兵士達は、自分達が地獄のような目に遭うことにも気付かない。
早速、行動に移そうとしたドクだったが……自分達が向かう進行方向に人影を発見して中止する。
彼的には『ようやく人種を発見したのか』と暗い喜びが湧き上がる。
暗い喜びが強すぎて、進行方向に居る人影の異様さにすぐには気付かなかった。
人影は3つ。
1人は簡素な杖を手に、黒いフード付きローブを纏った12、3歳の少年だ。
1人はメイドで、少年の影を踏まないように後ろに待機。魔人国でも見たことがない優れた容姿で、胸もあり、足もスラリと長い。もしこんなメイドが自分を主と仰ぐなら、絶対に手を出してしまいそうなほど男の欲望を刺激する存在だった。
最後の1人はネコミミフードを被り、巨大な首輪を巻いた美少女だ。
メイドとは正反対に背は低く、胸も育ってはいない。
しかし、メイドに負けないほどの美貌の持ち主で、将来確実に絶世の美女になるのが約束された存在だった。
一部の者達なら、メイド以上にネコミミフード美少女の方を好ましく思うだろう。
3人はドク達――いかにも怪しい風体をした賊達を前にしても逃げも隠れもしない。
ドク達はそんな彼らの空気にも気付かず、喜々として少年達へと近付いていく。
☆ ☆ ☆
エリーによって転移阻止結界の準備を終えた地点に、敵であるドク達が予定通り入り込む。
彼らは僕達の姿に気付くと、喜々として距離を縮めてくる。
距離を縮めてくれたお陰で、より鮮明に僕の実兄の姿を確認することが出来た。
皆の報告によって覚悟はしていたが……。
「エルスにーちゃん……まさか本当に居るなんて……」
魔人王国側『ますたー』ドクの背後に、兄が立っていた。
村に居た時より肩近くまで髪が伸びている。
僕は黒髪だが、兄は暗めの茶色。
碌に栄養を摂っていないのか、言葉にするのも辛い目に合ったのか、貧農時代以上に頬が痩けて、眼の下にクマがあった。
瞳にも光はなく『本当に生きている人種なのか』と疑いたくなるほどだ。
村を出て約3年と6ヶ月以上経つが、家族の顔を見間違う筈がない。
ドクの背後に居るのは確かにエルスにーちゃんだった。
「エルスにーちゃん! 僕だよ、ライトだよ! ごめん、見つけるのが遅くなって……今すぐ助けるからね!」
「ライト様……」
「にゃー……」
僕は魔人王国側『ますたー』ドクが目の前にいるにもかかわらず、にーちゃんに思わず近付こうとするが、咄嗟に後ろにいるメイが肩に手を添えてくれたおかげでそれを思いとどまる。
僕の声を聞いても兄に反応は一切ない。
まるでエルスにーちゃんそっくりに作られた人形のようだ。
ドクが僕の反応を前に、顎を撫でる。
「ふむ……失礼ながら、そちらの少年の反応から、ワタクシの護衛の弟さんのようですが」
「ああ、そうだ。貴様、にーちゃんに一体何をした……」
僕はドクに声をかけられ、兄に向けていた親愛的態度から一転、冷たい声で返答する。
今まで『おっ、ようやく美味しそうな獲物を発見! 楽しく人種をいたぶれるぜ』と浮かれていた魔人種兵士達が青ざめた。
ドクへと向ける僕の攻撃的気配に、生物として絶対の差があると本能的に気付いたようだ。
自分達こそが一方的に殺されるエサだと、ようやく気付いたらしい。
一方でドクは、僕の攻撃的気配を一心に浴びながらも、納得したように何度も頷く。
「やはりそうでしたか。貴方のお兄様はとても素晴らしい素材でしたよ。お陰でワタクシの研究成果の中で最高傑作の出来映えになりました! ただ色々手を入れたせいでご本人の自我は壊れ、弟さんが知る以前のお兄様のように受け答えは永遠に出来なくなりましたが……。しかし! 悲しまないでくださいね。お兄様は『 人種(ヒューマン) の未来のため』尊い犠牲になったのです! むしろ悲しむより、胸を張ってお兄様を誇ってください!」
「オマエ――」
ぶちぶちと脳味噌の神経が切れるのを自覚する。
こいつは何を言っているんだ。
自我が壊れた?
永遠に元には戻らない?
にーちゃんは『 人種(ヒューマン) の未来のため』尊い犠牲になった?
僕の神経を逆撫でする言葉を次々に吐き出す。
激怒し過ぎて、まともに口を動かすことが出来なくなってしまった。
人の家族に手を出して悪びれもなく、何を口にしていやがるんだ、こいつは?
僕を裏切り殺そうとした『種族の集い』メンバーへのものと同等の殺意を目の前のドクへと抱いてしまう。
今すぐ 神葬(しんそう) グングニールを全解放して、ドクという存在そのものを消し去って仕舞いたい。
「――ライト様、お怒りはごもっとも。ですが私達の目的を忘れてはなりません」
「にゃ!」
背後からメイ、アオユキの言葉が飛ぶ。
彼女達の諫言のお陰で、幾分冷静さを取りもどす。
(そうだ……僕の第一目的はにーちゃんの救出。次はドクの生け捕り。冷静さを失ってはどれだけ強くても、目標の達成は不可能だ。とにかく落ち着け)
……もしかしたらドクは、僕の冷静さを奪うために挑発してきたのだろうか?
ミキの話ではそういった策を用いるタイプではない。
自身の研究が大切なタイプだと聞いていたが……。
僕は軽く深呼吸して、改めてにーちゃん、ドクへと向き直る。
「ありがとう、メイ、アオユキ。事前に決めた通り、確実ににーちゃんを取り戻す。そして絶対にドクを捕らえて、にーちゃんを元に戻させるぞ」
「我がメイド道に懸けて、必ずやドクを捕らえてみせます!」
「――是。アオユキの全知全能を持って主の兄様の救出を必ずや達成を」
メイ、アオユキ共に気合を入れて、事前に決めた通り動く。
僕は手に握った 神葬(しんそう) グングニールを改めて構えて、兄を取り戻し敵を捕らえるため、大地を蹴った。