作品タイトル不明
6話 ナズナvsゴウ1
――少し時間を戻す。
『奈落』最下層執務室。
僕がメイ達と今後の動きについて話を終えた後、ナズナに作戦を教えるため執務室に呼び出す。
にーちゃんを確実に保護するため、僕とメイ、アオユキはドク側へと向かう。
エリーは逃げられないように転移阻止結界の準備後、予備戦力として『奈落』最下層に待機。
魔人国側『ますたー』最強のゴウは、『奈落』最強戦力であるナズナをぶつける。
話を聞き終えたナズナが珍しく心底激怒していた。
「分身体とはいえ仲間を傷つけただけじゃなく、ご主人様のにーちゃんを化け物に改造して戦わせているなんて……マジで許せねぇ……」
よくナズナはエリーにからかわれて怒っているが、あれはじゃれ合いのようなものだ。
『喧嘩するほど仲が良い』である。
しかし、今回、話を聞いたナズナは殺気をともない怒りを露わにした。
分身体とはいえ仲間が傷つけられ、僕のにーちゃんが怪物化させられたのが心底頭に来ているらしい。
一般人が浴びたら一瞬で心臓が止まるほどの殺気がナズナから溢れ出す。
僕はナズナが仲間、にーちゃんのために怒ってくれている姿が嬉しかった。
そんな彼女に声をかける。
「下手にレベルが低い者をナズナにつけても足を引っ張るだけになる可能性が高い。僕達もにーちゃん、ドクの確保に集中するから、ナズナの援護は難しい。だから、1人で大変だとは思うけど、ゴウのことは任せたよ?」
「はい! 任せてください! 絶対にぶっ飛ばして、ご主人様の前に連れてきます!」
ナズナは僕に声をかけられて元気よく返事をする。
僕は彼女のやる気が溢れる返事に満足そうに頷いた。
☆ ☆ ☆
ナズナはライトから作戦を伝えられると、皆の準備が終わるのを待ってゴウ、ドク、ライトの兄エルスが居る場所近くへと転移する予定だった。
しかし、ゴウがドク達から1人離脱して、1人単独で行動を開始したのに気付く。
ドク達は無事にエリーが張った転移阻止結界の内部へ引き込めそうだが……ゴウは難しい。
不幸中の幸いは、ゴウの動きをレベル9000前後の彼本人にも気付かれないある特殊な方法で完全に捉えていることだ。
ゴウに対しては転移阻止結界の内部へ引き込むことを諦め、これ以上逃がさないようにナズナが単独でぶつかることになる。
彼女は大剣プロメテウスを手に、一番近くまで転移。
『SSR 存在隠蔽』で姿を消して、『SR、飛行』で森へと入り、ゴウへと追いつく。
ちょうどゴウが遭遇した賊のカシラの頭を潰す所だった。
ナズナ的に賊カシラの頭が潰されようがどうでもいい。
仲間を傷つけ、ライト兄を怪物化させた敵の1人とようやく対峙出来たのだ。
『SSR 存在隠蔽』、『SR、飛行』で相手に気付かれず近づけたにも拘わらず、ナズナは存在隠蔽を解除して、感情的に叫んでいた。
「よくもあたいの仲間に手を出してくれたな。ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろ!」
「アァァッ?」
ゴウ的にはいつの間にか、大剣を持つ銀髪の美少女が側に居たのだ。
しかも、ゴウはレベル9000前後なのにもかかわらず、彼女から向けられる殺意に肌がピリピリとする。
(このガキ、どこから現れやがった。見た目からアホそうだが、強ぇなァッ……)
それだけで並の相手ではないことを理解した。
逆にナズナは珍しく本気で怒っているため、ゴウから伝わってくる強さなど一切気にせず大剣プロメテウスを構える。
(『あたいの仲間云々』と言ったかァッ。こんなちんけな賊の仲間には見えねェ。恐らくあのコブラ頭の仲間、魔女の部下の1人ってところか? だとしたら魔女の下にどれだけの人材がいるんだよォ。マジで緊急報告案件だぞ、これはァッ……)
そんなナズナの態度にゴウは、『巨塔の魔女』について竜人帝国側『マスター』との情報共有の重要性をより強めた。
(こんな無駄に強そうなガキ相手といちいち戦ってなんていられねェッ。アホそうだし、適当に誤魔化せば煙に巻けるかァッ?)
ゴウは ダイゴ(レベルアップ馬鹿) や ギラ(切り裂き魔) ではない。
別に戦闘を楽しむほど戦闘狂ではないのだ。
いちいち強くて面倒そうなナズナの相手などしていられないと誤魔化しに走る。
彼は『偽りの腕輪』で変えている平凡な人種男性のまま、作り笑顔を浮かべて弁明した。
「何か誤解しているようですが、自分はただ襲われていた賊達に対して反撃を行使していただけ。決して違法行為をしている訳ではありませんよ。お嬢ちゃんに非難を向けれる謂われはありませんよ」
「? オマエ何を言っているんだ。あたいはあたいの仲間を傷つけたオマエに怒っているんだよ。姿を変えて誤魔化そうとしても無駄だぞ。オマエの体にはタップリとメラの血が付いているからな!」
(アァァァッ、血だとォッ?)
ゴウは内心で憤りの言葉を漏らす。
ナズナは得意気に語る。
「あたいの仲間、キメラのメラの血は特殊なんだ。その血をマーキングにして暫く相手の位置を特定することが出来るんだ! だから誤魔化しても、オマエが仲間を傷つけた奴だってあたいは誤魔化されないんだよ!」
(……コブラ頭が無駄に血をばらまいていたのは、毒狙いかと思っていたがこれが狙いだったのか。……クソがァッ!)
ゴウは分身体の不自然な動きにようやく合点が行く。
メラ分身体はやや不自然に自身の血をゴウ、ドク、ライト兄にばらまいていた。
『UR キメラ メラ レベル7777』の血は特殊で、ある種、分身体の一つでもある。
故に完全に血を落とさない限り、本体であるメラは例えどれだけ物理的距離が離れていても位置を特定することが出来る。
ゴウとドクの、特にライト兄の位置を絶対に特定するため、分身体は血をばらまいていたのだ。
「あたいから逃げようとしても無駄だぞ! 大人しくぶっ倒されろ!」
「チィッ! クソがァァァッ!」
ナズナが手にしている大剣プロメテウスを遠慮無く振り抜く。
ただ振り抜いただけで衝撃が地面を抉り、木々を撒き散らし、森の一角をえぐり取る。
ゴウは肌が粟立つ感覚に従い舌打ちしながら、全力で回避。
その鋭い勘のお陰で直撃を免れたが、レベル9000前後の咄嗟の回避運動による衝撃に『偽りの腕輪』が耐え切れず壊れてしまう。
マジックアイテムの効果が切れて、素顔を晒す。
「摂理をねじ曲げろ! プロメテウス!」
「!?」
ナズナはすぐさま 神話級(ミトロジー・クラス) 、『大剣プロメテウス』で世界に干渉し『摂理をねじ曲げる』。
摂理をねじ曲げ、ナズナ本人を5人に増やした。
これにはさすがのゴウも驚愕し眼を白黒させる。
「ボコボコにしてやるから覚悟しろ!」
「とりあえず、情報を引き出すため殺さなければいいんだよな?」
「殺さないって、手足をもぐぐらいに留めておけばいいのか?」
「手足をもいだら一杯血が出て死んじゃうんじゃないか?」
「なら、手足はもがずぼこぼこにすればいいんだな!」
『さすがあたい! 天才だぜ!』
最後は5人全員で自画自賛しながら鼻息荒く突撃してくる。
突撃してくる5人が、ただの幻覚ではないことをゴウは肌で感じていた。
5人全員、レベルだけなら自分より確実に上だと実感する。
彼は久方ぶりに冷や汗を掻きながら、突然襲いかかってくる強敵を前に吐き捨てる。
「クソ! クソ! クソがァァアアァァァッ! 魔女の下にこんな面倒なクソガキまでいやがるなんて聞いてねぇぞォッ! クソがァァァァッ!」
ゴウは絶叫しながらも、逃げ切れる状況でもないため、覚悟を決めてナズナ×5人を迎え撃つのだった。