作品タイトル不明
5話 ゴウの楽しみ
「兄ちゃん、悪いがここを無事に通りたかったら、支払う物を支払ってもらおうか」
竜人(ドラゴニュート) 帝国に向かう途中で魔人国側『マスター』であるゴウに、人種賊共が絡む。
現在、ゴウはマジックアイテム『偽りの腕輪』の力で、極平凡な人種男性の姿をしている。
賊達も『この程度の人種男性1人なら、脅せばどうにでもなるだろう』と考えて、武器を手に姿を現し、脅してきたのだ。
相手が圧倒的強さを持つ『マスター』であるゴウとは知らずにだ。
「おい、兄ちゃん、黙ってニヤけていないで返事をするか、金を出すかさっさと選べや! それとも命を差し出す方を選ぶか? うん?」
少し前までであれば『魔人国――人種王国』間で荷物を運ぶ馬車、行商人、旅人などが存在したが、両国内で問題が発生しているためほぼゼロまで落ちこんでいた。
当然、賊達にとっても獲物が通りかからず死活問題だ。
故に人種男性1人という、襲ってもあまり旨味の無いゴウ(擬装済み)すら襲う始末だった。
賊達自身生活に追いつめられ、腹を減らしながら剣やナイフ、鉈などでゴウを囲む。
だが本来、物理的危機に追いつめられているはずのゴウ(擬装済み)が怯えた顔ひとつせず、にやにやといやらしく笑っているのだ。
賊のカシラが苛立った声をあげるのは当然といえば当然だった。
その苛立ちは当然、部下達にも伝播する。
カシラの台詞の後に続いて、部下達も声をあげる。
「もしかして自分が命の危険に陥っているって分かっていないのか? 1人で旅をするぐらいだ。頭が足りないのかもな」
「だな。よく見れば頭の足りなさそうなアホ面だしな!」
「だったら馬鹿にも分かり易く、ちょっと体に教えてやるべきじゃないですかね? 耳の一つでもそぎ落とせば、こいつのような大馬鹿でも少しは身の程を弁えるでしょ。どうしますカシラ?」
ナイフを持つ部下が、手にした得物をちらつかせて賊カシラにお伺いを立てる。
賊のカシラも嗜虐心で醜い笑みを作りながら許可を出す。
「どうせ当分、他の獲物が来る訳でもない。時間潰しにこのマヌケに世間の常識を教えてやれ。もっとも教えた後、その知識を活用できる機会があるかどうかは知らんがな!」
「ギャハハハハ! ですね。教えても死んじまったら活用もクソもありませんよね。ですが、もしかしたらおいら達から許しを得られる必死の命乞いを見せてくるかもしれませんよ。どんな命乞いをしても無駄でしょうがね!」
カシラの発言に部下の1人が追従する。
部下の台詞に賊達全員が『ギャハハハハ』と醜く笑う。
その姿を前にゴウはようやく動く。
彼が手のひらを見せつけるように晒す――その上にはいつのまにか複数の片耳が乗っていた。
賊達は最初意味が分からず、手のひらにある『耳』の意味を理解することが出来なかった。
見せられてようやく自分の片耳が千切り取られていたことを、痛みによって自覚する。
「ぎゃぁぁっ!? お、おいらの耳が! 耳が! いつのまに……ッ!?」
下品に笑い賊のカシラに追従していた下っ端が耳を押さえて、声をあげた。
賊のカシラや他部下達も似たような反応を示す。
最も驚いているのは森に隠れて狙いを付けている弓担当の賊達だろう。
隠れて狙いを付けていた筈なのに、自分達の片耳まで千切られているのだから。
ゴウは手のひらに乗った12枚の耳を地面に落とすと、タバコの火を消すようにグリグリと足の裏で踏みつぶしながら告げる。
「アァァァッ! オマエ達の気持ちは良く理解できるわァッ。逆らえない弱者を暴力に訴えて嬲るのは本当に気持ちいいよな。……けど、それ以上に気持ちいいことがあるんだが、何か分かるかァッ?」
「ち、畜生が! こ、殺せ! こいつはもう殺せ!」
賊のカシラがゴウの問いを無視して、傷口を押さえつつ部下達に命じるが、悪手だ。
ゴウの腕が軽く動く。
賊のカシラの側にいた部下が、それだけで血煙になる。
レベル9000前後のゴウの軽い一撃を受けたら、レベルの低い人種など蟻を踏み潰すより楽に殺せる。
「オラ、質問に答えろォッ」
「ひぃっ、はぃ……わ、分かりません」
ゴウの視線が他の賊達に向けられる。
賊達は大人しく答えていく。
「さ、酒を飲むとか、女をだ、抱くとかでしょうか?」
「ご、ご禁制のクスリなんかは気持ちいいとき、聞きました……」
「自分は、た、食べることが好きなので、食事とかですかね?」
賊達が応えていくが、どれも不正解らしく、ゴウは『こいつら、分かっていない』と言いたげに肩をすくめた。
一通りの答えを聞くと、彼は正解を告げる。
先程の賊達が浮かべていた以上の嗜虐的な表情を作ってだ。
「正解は……自分は強者、相手は弱者と考えて調子に乗っている奴らをぶち殺すことだよ。勝ち誇って調子に乗っている奴らが、いざ殺されると理解した時の絶望顔、悲鳴、必死の命乞いが最高なんだァッ。さっきまで調子に乗って勝ち誇って居た奴が『ごめんなさい。許してください。殺さないでください! なんでもしますから』って叫びながら命乞いする姿が心底笑えるんだよ。だから、せいぜいオマエ達も死にたくなかったら、俺様が許しを与えるぐらい必死の命乞いを見せてみろ。どんな命乞いをしても無駄だがなァッ」
『!?』
先程、賊下っ端が口にした台詞をマネする。
ゴウは正体を隠す気はもう無く、凶暴な猛獣のように笑い賊達へと襲いかかる。
賊部下の1人が、脱兎の如く逃げ出す。
「た、たすけッ――」
慌てて背中を見せて逃げようとした賊部下の1人が、背後から背骨を掴まれ、力任せに引っこ抜かれた。
血と骨、内臓が派手に飛び散る。
ここでようやく賊達は自分達がとんでもない怪物に絡んだことを理解した。
「ひゃっぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げて、残った10人が一目散に逃げ出す。
少しでも距離を稼ごうと、森へと駆け込む。
森の中なら『自分の庭』とまではいかなくても、通り慣れているため地の利はある。
少しでもあの怪物から逃げようと賊達になりに頭を働かせたのだ。
――レベル9000前後のゴウには無意味だが。
「ギャハハハハハハ! どうした早く逃げないと死ぬぞ! 命懸けの鬼ごっこの始まりだァッ!」
「来るな! くるなッ!」
ゴウにとって森など障害にならず、次々に逃げる賊達を仕留めていく。
先程まで調子に乗っていた賊達が仲間達の悲鳴を聞く度に、恐怖に震える。
その姿を見るだけでゴウは子供のように笑ってしまう。
「ギャハハハハハハ! おらおら! どうしたさっきまで俺様を殺すとかどうとか言っていただろ? 出来るならやってみろやァッ!」
「ごめんなさい! 許して、いやだぁ! 死ぬにしてもこんな酷い死に方はいや――」
子供が昆虫の足を無意味に千切り、潰し、他虫の餌にするかのような残虐さをゴウは無邪気におこなう。
逃げる賊の足を無意味に潰し、手足を千切り、目玉を抉り、耳を削ぎ、腑をえぐり出し、はやにえの如く尖った枝に突き刺す。
およそまともな死に方とはいえない。
森に隠れて狙っていた弓賊×2名もしっかりと命を刈り取る。
最後に残ったのは賊のカシラだけだ。
彼は逃げられないと悟ると、その場で土下座して命乞いを開始する。
「お、俺達が悪かった! ゆ、許してください! 根城には金やマジックアイテム、食料なんかがある。全部、アンタに譲る! だ、だから、命だけは助けてくれ! 以後、ちゃんと真面目に働く、賊からも足を洗うからぁぁッ!」
賊カシラが髭面を涙、鼻水、涎で汚しながら今まで一番懸命に声を張り上げた。
だが、全て無意味だ。
ゴウが楽しげに声をあげる。
「ァァァァアッ! やっぱりいいな。調子に乗った奴を絶望に叩き落とすのは。そういう意味ではヒロ達が計画してる『P・A』がさっさと完成するより、現状が限界一杯までだらだらと続いてくれた方が俺様としてはありがたいんだがなァッ……」
これがゴウが魔人国側『マスター』に居る理由だ。
彼に特別な使命感も、目的意識もない。
ただ気分が乗れば殺して、適当な街などで女を攫い犯す。腹が減れば喰って、満ちれば寝る。
自分が好き勝手に生きられれば、魔人国側、竜人帝国側、『C』など、どうでもいいのだ。
「? はぁ? えぇ?」
突然、意味不明な独り言に、命乞いをしていた賊カシラが困惑した声をあげる。
ゴウは笑いながら歩み寄り、その足で彼の頭を踏み潰した。
「アァァッ、つい楽しくて余計なことを口にしちまったなァッ……。まぁ話を聞いたクソはこうして潰したんだ。問題は無いだろ――」
「こらぁ! オマエだな! あたいの仲間を傷つけた悪党は!」
賊カシラの頭を踏み潰し、死亡を確認しているゴウへ、怒りに満ちた少女の声が響く。
彼が視線を向けた先に背が低いが巨乳で、銀髪、赤い眼をした美少女が立っていた。
その美少女は自身を超える大剣を手にして、甲冑を身に纏い、柳眉を怒りで釣り上げ、大きな瞳でゴウを睨みつけている。
彼女は改めて叫ぶ。
「よくもあたいの仲間に手を出してくれたな。ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろ!」
突然、現れた少女――ナズナはゴウに対して正面から喧嘩を売ったのだった。