作品タイトル不明
4話 ゴウの趣味
「アァァッ、クソだりィッ」
メラ分身体を倒した魔人国側『マスター』リーダーであるゴウは、与えられた仕事を終えたと判断してドク達から1人離脱する。
ドクからの追跡がなく、フリーになったのを確認すると、彼の足は魔人国国境を超えることなく、竜人帝国へと向く。
ゴウは竜人帝国を目指し、移動を開始したのだ。
では、なぜ彼が行く先を変更したのか?
理由は先程まで戦っていたメラ半身体である。
(手練れとは聞いていたが、まさか『巨塔の魔女』の下にあんな実力者が居たとは……。しかも、物陰に隠れて俺様達の様子を窺い、即座に転移して逃げた輩も気配から相当の実力者だった……。『巨塔の魔女』の側に『C』がいるのか、もしくは魔女自体がそうなのかァッ?)
ゴウが内心で危機感を抱くほど、半身体は強かったし、すぐさま逃げ出した者――『メラ本体』が持つ気配から、高い実力を持つ者だと理解できた。
そんな実力者が偶然、『巨塔の魔女』の下についていると考えるほど、彼は楽観主義者ではない。
(クソだりィが、この情報をヒロに伝える必要があるなァッ……)
ヒロとは、竜人帝国側『マスター』のリーダーを務める人物のことだ。
ゴウとヒロは、敵視しあっている魔人国側『マスター』、竜人帝国側『マスター』にもかかわらず裏で繋がっているのだ。
ゴウとヒロが繋がっていることは本人達含めて一部しか知らされていない。
竜人帝国側『マスター』では、目が細く商人に扮する等して暗躍する『ヒソミ』と『 鮫野郎(カマボコ) 』(カイザー曰く)の2名だけだ。
ゴウがレベル9000に到達できたのも、地上より圧倒的に強い海中モンスターを 鮫野郎(カマボコ) の力を借りて倒し続けたためだ。
魔人国側『マスター』に至っては、ゴウ自身、誰にも打ち明けていない。
ミキもこの情報を得てはいなかった。
竜人帝国側『マスター』であるヒロがゴウと繋がっているのは、魔人国側『マスター』と無駄な争いを避けて、その労力を『P・A』に注ぐためだ。
ゴウにとっては、いざという時、自分だけでも助かるための保険でしかない。
ゴウ自身、魔人国側『マスター』の誰も信用していないし、一番自分の身が可愛いため、仮に彼らを斬り捨て自分だけが助かるならば、迷い無く斬り捨てる。
魔人国側『マスター』の繋がりなど、その程度のモノでしかない。
(本来なら魔術等を使って伝えれば済む話だが……相手は自称魔女を名乗っている。傍受される危険性がある以上、大人しく徒歩で移動し情報を伝えた方がいいな。アァッ! くそ本気でダリィなァッ!)
内心で面倒臭がりながらも、自身の保身のために動く。
彼はアイテムボックスから腕輪型マジックアイテムを取り出す。
ゴウが腕輪を身に付けると、彼の姿が一般的で弱そうな人種男性へと変化する。
『偽りの腕輪』というマジックアイテムだ。
装着者の姿形を別の者に偽るマジックアイテムである。
護衛対象の姿形を変えたり、貴人が夜の街で遊ぶ際に使用したり、悪戯にも使われるある意味有名なマジックアイテムだ。
鑑定を使えば一発で本当の姿が分かる程度の力しかない。
とはいえ、一般的にはそこそこの値段がするマジックアイテムである。
ゴウ自身の趣味として、『偽りの腕輪』のような国宝級ではないが、そこそこ使えたり、笑える、ジョークグッズ的マジックアイテム蒐集をしているというのもあるが――こうしてか弱い人種になっていると、あちらから『お楽しみ』が、つまり賊などが襲いかかってくるのだ。
一般的に護衛もつけず、馬車にも乗らず1人で移動するのは、よほど自分の腕に自信があるか、命を落とす危険があると分かっていながら移動しなければならない訳あり、もしくは命知らずの馬鹿だけだ。
トラブルを避けるなら、 竜人(ドラゴニュート) 種、エルフ種、魔人種に変化すればいい。
『自分の腕に自信がある』タイプだと、勝手に判断して荷物も少ないため、襲ってくることはないからだ。
にもかかわらずゴウがわざわざ貧弱な体型の『人種』に変化するのは、弱そうに見せて調子に乗って襲ってくる賊などを返り討ちにするためだ。
もちろん、それだけが理由ではなく『目立ちたくない』、『姿形を偽る』、『人混みなどに紛れやすい』というのもあるが。
☆ ☆ ☆
ドク達と別れて数日後。
ゴウが『偽りの腕輪』で一般的な人種男性に姿を変えて、移動を続けている。
目指すはシックス公国へと繋がる 河川舟運(かせんしゅううん) だ。
一番近いのは人種王国近辺のため、そちらを目指す。
例年であれば魔人国――人種王国間で荷物を運ぶ馬車も、両国内で問題が発生しているため例年に比べてその数はゼロレベルだ。
(通りかかった馬車に便乗させてもらう予定だったんだがなァッ……)
全力で駆ければ1日で 河川舟運(かせんしゅううん) 乗り場まで辿り着くが、目立つ上に疲れる。
メリットよりデメリットが多いため、大人しく歩いてのんびり移動していた。
馬車が行き来せず、ヒッチハイクには失敗したが、逆に良いこともある。
(思ったより、引っかかるのが早かったなァッ)
ゴウの索敵に複数の気配を拾う。
剣呑な雰囲気を垂れ流し、街道を移動する自分を逃がさないよう森林分から慌ただしく動く男達の音が強化されている耳に届く。
去年に比べて移動する馬車の数が減ったたため、賊も収入が落ち、明らかに手荷物を持っていないゴウ(擬装済み)でも襲おうとしているらしい。
彼の予想通り、森から手に剣、鉈、ナイフを持った人種男性が、左右を挟むように姿を見せる。
森の一部には弓矢を手にした男達も居るようだ。
賊の頭らしい、人種にしては体格が良い髭面男性が低い声で告げる。
「兄ちゃん、悪いがここを無事に通りたかったら、支払う物を支払ってもらおうか」
賊達は見た目に騙されて、魔人国『マスター』のリーダー格で、レベル9000のゴウを囲み、脅す。
滑稽な道化師を前にしたようにゴウは醜く、彼らを嘲笑ったのだった。