作品タイトル不明
2話 絶対目標
「魔人国『ますたー』ドクは、にーちゃんを元に戻すためにも必ず捕らえる」
『奈落』最下層、執務室で僕とユメの血縁の兄、エルスにーちゃんを確実に捕らえるための話し合いが持たれた。
まず絶対に達成する最大の目標を口にする。
「にーちゃんだけは絶対に確保するつもりだ。次にドクの確保。にーちゃんを元に戻すための方法を吐かせるために必要だからだ。ゴウは最悪の場合、逃がしても構わない」
当然、理想はにーちゃん、ドク、ゴウ、全員の確保だが。
「にーちゃんとドクの相手をするのは僕、メイ、アオユキの3名だ。ゴウは、ナズナに任せるつもりだ。エリーは、3人を転移などで逃がさないように転移阻止結界の準備を頼む。準備を終えて発動したら、一応『奈落』最下層に戻って待機しておいてくれ」
「畏まりました、我がメイド道に懸けてライト様のお兄様救出に全力を尽くさせていただきます」
「にゃー!」
「ライト 神様(しんさま) のお義兄様の救出という大事を前に待機は慚愧の念に耐えませんが、必要な措置ですわよね。畏まりましたわ」
メイ、アオユキは気合の入った返事をして、エリーは若干の不満を漏らすが、同意の声を上げた。
対ギラ戦の時、その役割をアオユキが文句一つ言わずやり遂げているため、彼女の前でだだをこねるようなマネはしたくなかったのだろう。
本来であればエリーも側に居てくれた方が心強いが、『奈落』最下層にレベル9999が1人も居なくなるのは不安が残る。
現在はミキという存在もいるため、常に最悪を想定して最低でも誰か1人レベル9999は『奈落』へ残しておきたい。
にーちゃんも大切だが、同じぐらい僕は『奈落』メンバーの皆が大切だからだ。『奈落』最下層防衛に手を抜くつもりは一切無い。
また対にーちゃん、ドクにメイとアオユキを選出したのにもちゃんと理由がある。
メイは『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で物理的に敵の逃走を防ぐことが出来る。アオユキの場合、彼女の持つ武器『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』に期待しての抜擢だ。
幻想級(ファンタズマ・クラス) 『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』は、自動追尾機能があり、モンスターの首に一度嵌まれば力尽くでの破壊はほぼ不可能だ。
所有者であるアオユキが解除するか、相手が彼女を倒すか、素直に服従するしかない(他にも例外的な方法で脱出する術があるかもしれないが)。
アオユキの『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』でにーちゃんを物理的に拘束して、絶対に逃がさないようにするつもりなのだ。
ミキからの情報によれば、魔人側『ますたー』最強であるゴウには、こちらも『奈落』最強戦力であるナズナをぶつける。
例え相手が魔人側『ますたー』最強であるゴウでも、戦力的にナズナならまったく心配はない。
ただ相手のゴウは魔人側『ますたー』のリーダーを務めていただけあり頭もキレるらしい。
戦力的には心配がないが……戦闘以外の盤外戦術に持ち込まれた際、ちゃんと対応できるかという一抹の不安がある。
この不安は僕だけではなかった。
メイ、アオユキ、エリーもナズナ1人に任せることに不安を覚える。
「ライト様、一応お目付役――こほん、補助にアイスヒートを付けましょうか?」
「にゃ~」
「もしくは転移阻止結界を張った後、わたくしがナズナさんのバックアップに回った方がいいのでは……」
「皆の気持ちは分かるよ。僕もナズナ単独だと心配だから、誰かに付いていってもらうことも考えたけど……」
メラは半身を裂いて、ゴウと一戦を交えた。
その時の戦闘報告も既に聞いている。
メラ曰く『ケケケケ! 正直、ゴウの実力の底はまったく分かりませんでした。唯一、分かったことはあのゴウという相手はまったく本気を出しておらず、遊ばれていたことぐらいです』と。
メラ半身体が先に攻撃をしかけたにも関わらず、気付けば自身が地面に叩き伏せられていた。再度立ち上がり攻撃をしかけたが、爪先を掴まれると、立ち上がれなくなってしまう。
『ケケケケケ! アタシがどれだけ力を込めて立ち上がろうとしようとも立ち上がれず、相手の腕を振り払おうとしても無理でした。レベル差があって力で押さえつけられているなら理解できるのですが……まったくと言っていいほどゴウは力を込めている素振りを見せなかったんです。逆にアタシは全力で力を込めたにもかかわらず、振りほどくことすら出来ませんでした。魔術か、マジックアイテムかと疑ったのですが、相手からは鼻で笑われ否定されたんですよね。正直、未だにどうやって動きを止められたのか見当も付きません。まるで質の悪い幻術をかけられた気分です』とメラが感想を漏らす。
「ゴウはレベル9000前後で、僕達が戦ってきた敵の中で最もレベルが高い。そして、メラですら困惑させ、圧倒する未知の力を持っている。彼女の話を聞く限り、誰かを補助に付けても、下手をすればナズナの足手まといにしかならない可能性があるから……」
僕達は対ドク、にーちゃん戦でフォローする余裕はない。
エリーを付ける案もあるが、なんだかんだ言って彼女は純魔術師だ。
レベル7000前後程度のギラならともかく、対ゴウ戦に純魔術師であるエリーを付けるのは厳しい。
「僕達やナズナのフォローが間に合わず、接近戦になって命を落とすことになったら……。僕は後悔しても後悔しきれないから」
「ら、ライト 神様(しんさま) ……ッ」
エリーが僕に心配されたのが嬉しくて、顔を紅く染めて、瞳を潤ませる。
「もちろん、エリーだけじゃないよ。メイ、アオユキ、ナズナ、皆、誰にも命を落として欲しくないというのが僕の本音だ。だから、今回はこの布陣でいこうと思う」
「私達のことをここまで想ってくださるライト様のお気持ち、本当に嬉しく思います」
「にゃー!」
僕の素直な気持ちを知って、エリーだけではなくメイ、アオユキも嬉しそうに声をあげた。
僕は少々照れ臭くなり、頬を染めてはにかんでしまう。
場を誤魔化すように軽く咳払いをして、話題を纏める。
「とりあえず、話し合いは以上だ。最初に決めた通りの布陣で行く。変更は無しだ。ナズナにも話を通してすぐに準備にとりかかってくれ」
僕の指示にメイ達が返事をする。
にーちゃんを救うため、残りの魔人国『ますたー』を捕らえるための作戦が動き出す。