軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 凶報

「…………」

『奈落』執務室の空気は、噴火前の火山の如くピリピリとした怒りによって張りつめていた。

執務室に居るメイ、アオユキ、エリーの3人は例外なく誰もが怒りに打ち震えている。

原因はメイ達『ドク確保』組とメラの報告だ。

僕やエリー達が、魔人国『ますたー』の1人であるギラを捕らえるため行動している間に、メイ達も『ドク確保』のため魔人国首都郊外の森林奥地へと向かった。

問題なく『ますたー』の1人であるドクの研究施設に足を踏み入れたが、本人は不在。

代わりに彼の書斎でナズナが机に積み上がった書籍の間に挟まる紙束に気付く。

紙束の内容はドクが作り出した怪物の中でも優秀だった個体に関するデータだ。その実験材料になった人物の名前、身長、体重、特徴などが書かれてあったのだが――僕のにーちゃんと全て同じだった。

メイ達は当然、にーちゃんの名前、特徴などを僕が以前話しているため知っている。

結果、メイだけではなくその場にいたアイスヒート、スズ、ロック全員が引きつった声を上げそうになった。

だが、僕のにーちゃんと同じ名前で、同じ特徴というだけでは、他者の可能性はまだ有り得たのだが……。

メラの報告でその可能性は潰えた。

『ケケケケ! 容姿、言動から事前にミキから聞かされたドク、ゴウと思われるますたー達と接触しました。その際、以前耳にした兄君――エルス様と同じ特徴だったのと、ご主人さまと雰囲気が似た顔立ちだったお方をお見掛けいたしました。この情報を確実にお伝えすることが重要と考え、恥ずかしながら確保する行動を取らず、1人おめおめ帰還させて頂きました。どのような罰でもお与えくださいませ』

メラは転移での追撃を警戒し、最初は『巨塔』に移動。

そこから自分を追う者、魔術、マジックアイテムなどの痕跡が無いのを確認してから、僕に念話で連絡を取り、『奈落』最下層執務室で直接先程の情報を報告した。

メラは自分が姿を確認した『僕のにーちゃん』らしき人物の姿をキメラの肉体を使い、再現。

僕も顔を確認したが……確かにエルスにーちゃんだった。

メラは情報を伝えるのを優先して、僕のにーちゃんらしき人物の身柄を確保せず撤退したことを謝罪し罰を求めてきた。

当然、僕は跪き頭を垂れる彼女を罰することはない。

むしろ、冷静な行動を褒め称えた。

「……情報を持ち帰ることを優先し、冷静な判断を下したメラに罪などないよ。むしろ、にーちゃんの情報を持ち帰り伝えてくれてありがとう、メラ」

『ケケケケケ! 勿体ないお言葉です』

普段なら僕に褒められると体どころか、魂そのものを震わせて喜ぶメラだが、今回ばかりは素直に喜べずにいた。

メイ達が持ち帰った情報とメラの目撃から、エルスにーちゃんがドクの手で怪物に改造されたのが確定したからだ。

「メラ達のお陰でディアブロに対する圧力と嫌がらせ、人種村の防衛は十分達成できた。半身を裂いて疲れているだろうから、まずは体を休めて、力を取り戻すことに専念してくれ。またメラ達の力が必要な時がくるかもしれないからね」

『ケケケケケ! ありがとうございます。その際は是非、ご命じください! アタシやモヒカン達の忠誠、命、魂は全てご主人さまだけのもの。どうぞお好きにお使いくださいませ!』

メラは言外に『エルスにーちゃんを助け出すためなら、自分やモヒカン達の命を犠牲にしても構わない。それこそ自分達の望むことだ』と伝えてくる。

僕はその忠誠心、真心が嬉しくもあり、悲しくもあった。

メラ達も僕にとっては大切な存在だからだ。

そのため中途半端に笑みを作り、メラを下がらせる。

のち執務室にはメイ達が残り、彼女達も報告を聞いているため現在のような怒りを露わにしているのだ。

僕自身、報告を聞き終えた後、激しい怒りに襲われたが――同時に、哀しみにも襲われる。

思わず胸中でつい愚痴を漏らしてしまう。

(女神様はどうして人種にここまでの苦難を与えるんだろう……。僕達が一体何をしたというんだ。これほど苦しみを与えられるほどの罪を 人種(僕達) は犯してしまったのか? だからこれほどの苦痛を与えられるのだろうか……)

僕は痛みを堪えるように目を閉じる。

(だがもし女神様が、ただ人種を苦しませるためだけに苦難を与えているのなら、僕は――)

その先は例え胸中でも考えるのは憚られた。

僕は気持ちを落ち着かせるため、深呼吸を繰り返し、瞼を開く。

女神に八つ当たりしても状況は変わらない。

まずは冷静になるのが肝要だ。

「……できれば今すぐドクの元へ向かって、僕自身の手で捕らえて、にーちゃんが味わっただろう苦痛を数億倍にして、この手で朝から晩まで拷問してやりたいところだが……。エルスにーちゃんを無事に助け出すことが最優先だ。そのためにもドクを確実に捕らえてにーちゃんを怪物から元に戻す方法を吐かせる必要がある」

僕は胸中の怒りを抑えつつ、メイ達へと改めて向き直る。

「そのためにも僕が直接、ドクの元へ行ってにーちゃんを助け出す。でも、僕1人ではドクやにーちゃんを取り逃がす可能性がある。だから、皆にも是非協力して欲しい。お願いできるかい?」

この願いに激怒していたメイ達は、『待っていました』と言わんばかりに声をあげる。

「当然です。我がメイド道に懸けて、ライト様のお兄様を必ずや助け出して見せると誓わせてくださいませ」とメイが。

「わたくし達の魂、命、存在そのものは全てライト 神様(しんさま) のもの。ライト 神様(しんさま) の手足として動くことがわたくし達の存在理由そのものですわ! どうかライト 神様(しんさま) は『お兄様を救い出せ』とだけ仰ってくださいまし!」とエリーが興奮気味に声をあげる。

「――是。主の望みこそアオユキの望み。必ずや主に仇成す逆賊共を血祭りに上げ、主の兄君をお救いしてみせます」とアオユキが視線を隠しつつ冷たく応える。

僕はその返答に満足そうに頷く。

「ありがとう、皆。今なら メラの力のお陰で(、、、、、、、、) 確実にドク、エルスにーちゃん、そしてゴウの位置を特定することが出来る。皆で協力して必ずにーちゃんを救いだし、ドク達も捕らえよう」

僕の言葉にメイ達が今まで以上に気合が入った返事をする。

僕は彼女達の返答に満足気に頷いたのだった。