作品タイトル不明
番外編1 メラの戦力強化
「ケケケケケケ! よう、邪魔するぜ」
メラが『奈落』最下層内部でも特殊な領域――カードから出た宝物、マジックアイテム、武器防具などを扱う管理倉庫へと転移する。
管理倉庫にはただ『転移』するだけでは辿りつけない。
ライト、メイ、アオユキ、エリーの許可を得ないと、『転移』できない仕様になっているのだ。
許可を得ていないと例え『禁忌の魔女』であるエリーですら、『転移』で内部に入ることが出来ない。
もちろん何事も例外はあるが。
その『例外』が宝石、金貨、王冠など財宝で埋め尽くされた黄金の浴槽を泳いでいた。
金貨や宝石が擦れあうが、特殊な魔術がかけられているため傷が作られることはない。
「ケケケケケ! 相変わらず宝石、財宝、価値の高い物が好きだねトントンは」
「ブヒ?」
声をかけられ、文字通り金銀財宝で埋め尽くされた黄金の浴槽から、天使と悪魔の羽根を片方ずつ持った子豚が姿を現す。
『SSR 財宝好きのトントン レベル100』
天使と悪魔の羽根が片方ずつ生えているが、レベル自体はたいして高くないし、戦闘能力も低い。
だが、カードから出た宝物、マジックアイテム、武器防具などを扱う管理倉庫を任されているのがこのトントンだ。
トントンはライト達に許可を取らずとも、管理倉庫の管理人として出入り出来る例外的な存在である。
トントンは強くないが、財宝に関して非常に鼻が利くのだ。
故に管理倉庫に管理人、上のダンジョン『奈落』の宝箱補充なども任されている。
そんなトントンが豚鼻を動かし訴えてくる。
「ブヒブヒ」
「ケケケケケケ! 悪いな日課の財宝堪能中、邪魔をして。だが、ちょっと装備品を見せてもらおうと思ってな。当然、ご主人さま達の許可は取っているからな」
メラはドワーフ王国が長年秘匿してきた過去にあった文明遺跡『大規模過去文明遺跡』で、人造 神話級(ミトロジー・クラス) 兵器、通称『蛇擬き』と戦闘したが、手も足も出なかった。
自身の実力不足を痛感したが、これ以上レベルを上げることは出来ない。
それ故、ライト達に許可を取って既存のマジックアイテム、武器、防具で実力強化を図りに来たのである。
納得したトントンが黄金の浴槽から上がると、メラを振り返り管理倉庫内部にある武器、防具エリアへと向かう。
「ブヒ、ブヒブヒ!」
「ケケケケケケ! 分かっている。エリー様の惑わしの魔術等がかかっているから、もしトントンとはぐれたらその場で動かず合流を待つさ」
トントンは『ブヒブヒ』としか言わないが、なぜか意味が通じる。
管理倉庫内部の表層は黄金で埋め尽くされていた。
これは以前、偽金を製作するために練習がてら作られた物や材料の黄金、そして実際に使用されている偽金が置かれている。
また 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』カードから出た価値が低いが見栄えのする物を置いて、仮に侵入者が入った場合、目移りさせるためのまやかし用でもある。
本当に価値ある物は倉庫奥にあるのだが……この場所はエリー特性の幻惑魔術によって、メラでさえ迂闊に動いたら、二度と出られなくなるほど強力な魔術がかけられているのだ。もちろんマジックアイテムの力でブーストしてだ。
トントンは財宝の匂いが分かるため、幻惑に惑わされず、好きな場所へと移動することが出来た。
この辺りも倉庫を任されている理由である。
トントンが小さな足を動かし、奥へと進む。
(ケケケケケ! あの羽根で飛ばず歩くのかよ……)
内心でツッコミを入れつつ、メラが後へと続く。
子豚のため足は短いが、動かす速度は速いため、歩幅が違うメラだったが、『遅い』と感じることはなかった。
数分ほどで本命の一角へと辿り着く。
「ブヒ!」
「ケケケケケ! 案内ありがとうよ。ここが武器庫エリアか……」
内部に入ると、広い空間があり壁一面に武器、防具が並び、中央にも攻撃、防御にも使用できるマジックアイテム等が置かれていた。
メラはまず本命のURカードクラスの武器、地上で言うなら 幻想級(ファンタズマ・クラス) を確認する。
「ブヒ、ブヒ、ブヒ!」
「ケケケケケ! へぇ~、この辺りは実際にご主人さまも使用したのか。んで、結局、最初は『UR、ウラガン』に落ち着いたと……」
当時、実際にライトが使用して感触を確かめていたため、カードではなく、実物化されたUR武器がずらりと並ぶ。
「ケケケケケ! 実際に手にとってもいいか?」
「ブヒ!」
トントンから許可を得ると、メラはまず一番扱いやすそうな双剣を手に取った。
刃から炎のように燃える赤い揺らめきが上り続ける。
双剣の名は『UR 不死鳥ソル』だ。
双剣を手にした者は炎無効化耐性を得る。刃がどれだけ壊れても復活し、敵を切り裂くと炎ダメージを与えてくれるし、持っているだけで回復能力が上がり、外部の気温にも影響を受けなくなる。
これだけ聞くと非常に有効そうな武器だが……。
「ケケケケケ! やっぱり双剣だけあってリーチが短いな」
「ブヒ、ブヒ!」
「ケケケケケ! ご主人さまもそれを嫌って使わなかっただって。だよな、ちょっとリーチが短すぎるよな」
追加攻撃や自動回復能力、炎攻撃無効化も魅力的だが、素人が扱うにはリーチが短く、両手で扱うため難度も高い。
そういう意味では次のUR武器は素人でも簡単に扱える武器だ。
メラが『UR 不死鳥ソル』の次に手に取ったのは『UR 破者の大槌』。
『UR 破者の大槌』……見た目は金属製の大槌で、効果は『どんな相手にも一定のダメージを与える』だ。
極論レベル1がレベル9999のライトに使用してもダメージを与えることが出来る。
デメリットは……誰が使っても重いため、敵に当て辛いことだ。
「ケケケケケ! おいおい、誰が使っても重いとは聞いたが、レベル7777のキメラのアタシが持っても重いとか……この大槌はどんな材質で出来ているんだ? いや、むしろ材質より付与された性質、魔術的な力によるものなのか?」
メラは最初片手で持とうとしたが、持ち上げるのも難しく、キメラの能力で腕力を強化し、両手を使う。
それでも腰を入れて持たないと重く、これを振り回し戦うのは自分の戦闘スタイルには向かない事を実感する。
「ケケケケケ! 『UR 破者の大槌』ならあの『蛇擬き』相手にもダメージを与えられそうだが……ちょっと重すぎてアタシの流儀には合わないな。なぁトントン、他に武器はないか? むしろ、この場で一番強いのを教えてくれ」
「ブヒ~……」
トントンはメラの要求に鳴き声を漏らすと、トテトテと移動を開始、一本の美しい武器――レイピアの前に立ち止まる。
「ケケケケケ! これが武器庫で最強の攻撃力を持つ武器なのか?」
「ブヒ!」
トントンは力強く鳴き、説明をする。
名前は『UR 宝群のレイピア』。
文字通り各種宝石で彩られ、作られたレイピアで、見た目も非常に美しい。しかし美しいだけではなく使用者の能力全体アップ、魔術・対物防御力アップ、異常状態無効化、攻撃能力アップ、一刺しで即死効果有り、他にも各種特典ありという『武器庫にある中で最強の攻撃力を持つ武器』に相応しい能力を備えている。 幻想級(ファンタズマ・クラス) の武器の中でも最上級レベルと断言していいだろう。
……ただし宝石で作られている武器のため脆く、誤った攻撃、防御などをした場合、あっさりと砕け散る。砕けても鞘に戻せば時間が経てば戻るから問題無いと言えば問題無いが。またわざと砕けさせて宝石を採取しようとしても、砕けた場合はただの石ころになり価値を失う。
いくら攻撃力の高い武器でも、当時、戦闘の素人であるライトが扱うには適さなかったため、結局選ばれず倉庫の肥やし状態になった。
ただし能力は折り紙付きで、上手くいけば例え『蛇擬き』でも屠ることが出来る力を持つ。
上手く急所に一刺し出来ればだ。
だが少しでも失敗すると、刀身が折れてしまい再生にしばらくの時間がかかる。
メラはもう笑うしかなかった。
「ケケケケケケケケケケケ! いや、確かに強力な武器だが、アタシには完全に向かないことだけは分かったわ。まずこれを扱える人材がウチにいるのか?」
ナズナなら技量的に使え無くはないだろうが、『いや、あたいには大剣プロメテウスがあるから』と断るだろう。
第一、性能的に『大剣プロメテウス』の方が高い。
「ケケケケケケ! 他にお勧めとかないか?」
「ブヒ……」
トントンは思案し、メラの要求に応える。
彼が思案し、いくつかのお勧めを紹介した。
『UR ナズチ』。水属性の短剣、分銅付きの鎖。短剣・鎖両方が常に濡れているかのように艶やかで、攻撃をすると 飛沫(しぶき) が飛ぶ。聖水効果もあり、邪悪な存在には致命的なダメージを与える。投擲しなくても所持者の意思で自在に動き、所持者の実力によってリーチが伸び縮みする。隠し武器としても有効。
『UR 蠱惑のカタール』。相手に攻撃を与えるとランダムで追加の攻撃が加わる。しかし、それがどんな攻撃なのかは使用者にも分からない。即死、毒、炎、氷、闇――など。完全にランダム。
他にもURの武器は多数あるが、目を転じて一つ格下のSSSRのものを見ると――『SSSR 嘆きの斧』。重い斧で、使用者がその斧にどれだけ嘆くかで威力が変化する。
『SSSR ドラゴンスキン』。武器ではないが、鋼ドラゴンの鱗ではなく 鞣(なめ) した革で作られた肌に張り付くようなスーツ。防御能力は高いが。体にピッタリと張り付くため体のラインが出てしまう。
『SSSR 長刀サクラ』。女性用武器。サクラをモチーフに作られた長刀。魔力を込めて攻撃するとサクラの花びらが舞い散る。幻惑の効果あり。
以上がトントンのお勧め武器と防具だ。
どの武器、防具も地上に存在した場合、国宝になってもおかしくない一品ばかりである。
しかし、メラとしては物足りない。
「ケケケケケケ! 『UR ナズチ』が惜しいな。これでもう少し攻撃能力が高ければ即決なんだが……」
「ブヒブヒブヒ!」
「ケケケケケケ! ご主人さまも同じ意見だったって? そいつは嬉しいね!」
心底嬉しそうにメラは笑う。
一通り笑った後、彼女は考え込んでしまう。
(ケケケケケケ! 本当に惜しいな……。だがアタシが満足するレベルには達していないんだよな。やっぱりご主人さまにお願いして 神話級(ミトロジー・クラス) をお借りするべきか?)
メラの視線が倉庫の奥――案内がなければトントンにしか到達できない場所へと向けられる。
『奈落』最下層には3つの 神話級(ミトロジー・クラス) カードが存在する。
その内一つは『 乖離世界の世界(ワールド・オブ・ワールド) 』。 神話級(ミトロジー・クラス) の使い捨てアイテムで、使用すると周囲約3km、上空約4kmの隔離空間を作り出す。その空間からの脱出は、例え 創世級(ジェネシス・クラス) のアイテムなどを使用しても理論的に不可能だ。
「ブヒブヒブヒ!」
トントンがメラの視線の先に気付き、激しく非難の声をあげる。
神話級(ミトロジー・クラス) は能力は高いが、ピーキー過ぎる。
もしかしたら上手く使えばメラならば大丈夫かもしれないが……過ぎたる力は魂そのものを代償にするとも言われている。
自らの魂など、メラ自身ライトの役に立つなら喜々として捨てるが、ライト本人は絶対にそれを望まない。
元『種族の集い』メンバーにやられたように、仲間を使い捨てにすることは絶対に許さない。
「……ケケケケケケケケケケケケ! 分かっているさ、トントン。ご主人さまのご命令に反することをアタシがする訳ないだろ。ちょっと考えただけさ。ちょっとだけな」
「ブヒ……」
「ケケケケケ! ならいいか。ありがとうよ。他にも一応、何か役に立ちそうなマジックアイテムとかないか? そっちで戦力を拡充できないか考えたいんだが」
「ブヒ!」
トントンは景気よく声をあげる。
その声に従いメラは、マジックアイテム倉庫へと移動したのだった。
☆ ☆ ☆
――ちなみに、結局、これ以上メラの戦力を拡充できるマジックアイテム等は無かったが……ミキ問題で自身の運の無さに頭を悩ませていたアイスヒートがとあるマジックアイテムに手を出そうとした。
『UR ドキドキルーレット』。何が起きるか分からないルーレット。幸か不幸かは回してみないと分からない、だ。
「こ、これを回せばワンチャン、アイスヒートの幸運値が爆上がりする可能性が……」
「ケケケケケケケ! 絶対に止めておけ。下手に回して『奈落』そのものが爆発したら目も当てられないぞ!」
「ブヒ~」
メラ、トントンにアイスヒートが止められ、その日、彼女の自棄酒に付き合わせることになるのはまた別の話である。