軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22話 驚愕

『ケケケケケ! おいおい、どんな化け物が来るのかと身構えたら、意外と思った程じゃないかもな』

メラは無理矢理声帯を動かし、言葉を発する擦過音のような声をあげる。

彼女は本気で『意外と思った程~』と口にしている訳ではない。

圧倒的に自分より相手の方がレベルが高いと理解しつつも、自身を鼓舞するため強気な台詞を口にしているだけだ。

「アァァッ、逆に俺様はがっかりしているがなァ。こんな見るからに雑魚相手にわざわざ俺様を呼び出すとは……。本当にクソダリィ」

一方相手側、魔人国マスターのゴウはあからさまに落胆した態度を取っていた。

彼らが一番近い人種村を襲うため移動を開始。

暫く徒歩で移動していると、村が見えてくるが……。

その村を守るように異形の怪物が外で待ち構えていた。

身長は2mを超えて、コブラの頭部に、胴体は色気すら有る人種なのに両腕と足はドラゴンのものらしくアンバランスなほど太く、強靱な鱗、凶暴な爪に覆われていた。

悪夢のような姿形に魔人国兵士達は怯えて、及び腰になっている。

にもかかわらずゴウは兵士達とは正反対の態度を取っていた。

演技ではない。

本心から落胆しているのが伝わってくる。

ゴウだけではなく、ドク自身もコブラ頭の怪物を前にして、恐怖など一切感じず、研究者としての視線を向けていた。

「人種を材料に使って作り出した生物ではありませんね。とはいえ、こういう形の生物という訳でもなさそうですし……」

彼らの態度に、コブラ頭の怪物の姿をしているメラは気勢を上げて躍りかかる。

『ケケケケケケ! 随分、余裕じゃないか! その余裕がいつまで続くか、ね!』

約2mの体躯に見合わない超高速移動、そして同時にドラゴンの前足のような強靱な腕から繰り出される振り下ろしの攻撃。

冒険者A級でもまず反応できず、気付けばミンチになっているだろう攻撃速度、威力だった――が、

『グガァッ!?』

気付けば地面に背中から叩きつけられていたのは、攻撃を仕掛けたはずのメラだった。

突然だったのと、背中から叩きつけられ、驚きで空気を吐き出したが、強靱な鱗に守られているためほぼダメージはない。

すぐさま立ち上がり、再度攻撃をしかけようと腕を振り上げる。

だが、メラが両腕を振り上げるより、相手が爪を掴む方が速かった。

『……ッ!?』

気付くと、メラは片膝を地面に突いていた。

ゴウはその姿を見下ろす。

メラは何か苦痛を受けて片膝を突いた訳ではない。

気付けば、爪を掴まれいつのまにかバランスを崩し、自ら膝を突いてしまったのだ。

お陰で攻撃する余裕もなく、手も地面についてしまう。

『!? ケ、ケケケケケ……おいおい、オマエ、魔術師か? それとも何かマジックアイテムの力を借りてアタシを操っているのか?』

「アァァッ、魔術師? マジックアイテム? まぁオマエのような『怪物』には俺様がやっていることなんて分からないだろうな。ただ強靱な筋力、凶暴な爪や牙、与えられた能力だけを振り回す『怪物』にはな」

ゴウに見下した様子はない。

知っている答えを確認するような淡々とした態度だった。

『グッ!』

そんなゴウが初めて攻撃をしかける。

爪から手を離し、拳を固めて殴りかかる。

その動きは決して速くない。

むしろ、ゆっくりとした動きだった。

片膝を突いたメラは、両腕をクロスして十分ガードを固める余裕はある。

にもかかわらず、衝撃が両腕を抜け、牙を折り、巨体が地面を転がるほどの威力を味わう。

『……ッ!? ど、どうして、しっかりと防いだのに!?』

「アァァッ、痛がっていていいのかァッ?」

気付けばゴウに間合いを詰められ、足を狙ったローキックを放たれている。

彼としてはあくまで牽制の一撃だったが、ドラゴンの鱗と筋肉で構築されたメラの足は、その一発で芯まで痺れて機動力を落とす。

腹部に拳、くの字に折れ曲がった顎をゴウの蹴り上げた足先が捕らえる。

彼はその蹴り上げた足の態勢のまま、維持し――最後に踵を蹌踉めき意識を失いかけているメラの頭部へと振り下ろす。

メラは地面に強烈な勢いで叩きつけられ、大地に罅が走るほどだった。

一種の芸術品のような流れる攻撃を決めたにも拘わらず、ゴウは不機嫌に頬を拭う。

「アァァッ、失敗したぜ。こいつの気持ち悪い血が付いちまった……」

ゴウは無造作に頬に付いた血を拭う。

頬から拳についた血を服に擦りつけていると、傍観者だったドクが声をかけてくる。

「ゴウさん、ゴウさん、その倒した怪物は是非ワタクシの研究のために引き取らせてください!」

「……勝手にしろ。だがドク、まだ気が早すぎるぞ」

『ガァアァァアァァァァアァッ!』

ゴウが飛び退くと、まだ意識があったメラは、再度立ち上がり、咆哮。

口から毒物をともなった火炎を吐き出す。

口から吐き出す毒火炎は、まるで本物のドラゴンブレスのようにゴウ達へ向かって襲いかかる。

「ちょ!? ご、ゴウさん! 守ってくださいよ! ワタクシ、戦闘は得意ではないと言ったじゃないですか! もし護衛がいなかったら、ワタクシ達、丸焼きでしたよ!?」

「アァァッ、護衛を連れてきて居るんだから、そういうのは護衛にやらせろ。俺様の管轄じゃねぇだろうがァッ」

ゴウはさっさと上空へ退避して毒火炎ブレスを回避。

ドクは非難を上げつつ、頭からフードを被った護衛に慌てて指示を出し自分と魔人国兵士達を守らせる。

魔人国兵士を守らせたのも、別に善意からではない。

任務が終わった後、兵士達を一部改造してディアブロを暗殺させる依頼が残っているからだ。

ここで無駄に殺害され、人数を減らされたり、最悪全滅されたら依頼に支障をきたすため守ったに過ぎない。

『ケケケケ! まだだ! まだアタシは戦える! まだ負けちゃいな――ッ!?』

メラがだらだらと血を流しつつも、未だ衰えていない闘争心を口に出していたが、途中で途切れる。

その目は、ドク達を火炎ブレスから守った護衛に釘付けになってしまう。

火炎ブレスから守る代償で、敵の護衛の頭を覆っていたフードが焼け落ちていた。

結果、素顔を日の下に晒すことになる。

その顔立ちを前に、コブラ頭の怪物――自身の体の半分以上を使って作り出した分身体だけではなく、影に潜んで様子を窺っていたメラ本体でさえ驚愕した。

(ケケケケケ! な、なんであのフード男の顔立ちが ライトさま(ご主人さま) に似ているんだよ!?)

ライトは黒髪だが、フード男は暗めの茶色で、目元、口元がかなり似ていた。

年齢もライトより高いが、『将来、成長したライトです』と言われたらそうかと思える程似ている顔立ちをしている。

敬愛するメラが、ライトの顔を見間違う筈がないが、『他人のそら似』とばっさり斬り捨てるにはあまりにも似すぎていた。

他人のそら似ではなく、ライトの兄が未だ行方不明なこと等を繋ぎ合わせれば自ずと答えが見えてくる。

その想像に自分より圧倒的レベル差があるゴウと対峙する以上に、目の前が暗くなるような衝撃をメラは味わってしまう。

「アァァッ、ネズミがこそこそ一匹まだ隠れているようだなッ」

(……ッ!? ここでやられる訳にはいかない! 絶対にこの情報をご主人さまにお伝えしないと!)

メラは気配を消して分身体を嗾け、ゴウ達を観察していた。しかし、あまりの衝撃に、気配を消すのも忘れてただただ驚愕してしまった。

そのせいでゴウにメラ本体の存在と位置を特定されてしまう。

まだまだ情報収集をしたかったが、潮時だ。

メラは分身体に『アタシが逃げるまで全力で時間を稼げ』と命じて撤退を決断。

すぐさまメラは判断を下し、『SSR 転移』カードを解放する。

ライトに『兄らしき人物が敵ますたー達の側に居た』という情報を伝えるため、一度『巨塔』を経由して『奈落』最下層へと転移したのだった。