作品タイトル不明
19話 エリーvsギラ 4
「馬鹿な!? ありえない! どうして、魔女、『魔術禁止範囲』で、魔術、使える!」
エリーは動揺した声をあげるギラを、楽しげな嘲笑した表情を向ける。
「確かにその『グリード・グリード』は強力な能力ですわ。実際、『魔術禁止範囲』に入ってしまったら 戦略級(ストラテジー・クラス) どころか、 極限級(アルティメット・クラス) すら使えませんもの……。ですが、一つだけ例外がありますわ」
「例外?」
「貴方自身、先程実演していたではありませんの……。もしかして気付いていないのですか?」
エリーの問いにギラが考え込む――が、実演した覚えなど一切ない。
『魔女、はったりか』とも考えたが、どのような方法かは分からないがエリーは実際に『魔術禁止範囲』内で攻撃魔術を使用した。
はったりではないことは、ギラ自身が体験済みだ。
ギラの返答を待つのが面倒になったのか、エリーはさっさと答えを口にする。
「ギラさんは先程、マジックアイテムを使って、わたくしの攻撃魔術を防いでいたではありませんか。それこそが例外ですわ」
「…………」
その答えにギラは、目を見開く。
先程受けたエリーからの攻撃魔術、『ドラゴンの 顎門(アギト) 』、『 時空の猟犬(ヘル・ハウンド) 』は手にした大鎌で切断し、大鎌で防げない『 粘菌細胞(ベノム) 』、『 氷の世界(アイスワールド) 』は手持ちのマジックアイテムで凌いだ。
(確かに『魔術禁止範囲』内部で、魔術、使えない。しかし、マジックアイテムの効果まで、止めるのは不可能)
代表的なマジックアイテムとして、 獣魔球(じゅうまきゅう) がある。
割ると中に封じられている高レベルのモンスターを一時的に使役することが出来るマジックアイテムだ。
『魔術禁止範囲』内部で 獣魔球(じゅうまきゅう) を使用した場合、問題なく高レベルのモンスターが召喚され、使役できる。
だが、『魔術禁止範囲』内部で魔術を発動してモンスターを召喚することは出来ない。
例えるならば、『その場でお菓子を作ることを邪魔することは出来るが、既に作ってあるお菓子に干渉することは出来ない』と言ったところだろうか。
エリーが自身の周りをクルクルと浮遊する4冊の魔術写本に視線を向ける。
「他にもヒントとして、わたくしの4冊の魔術写本『ファンタジア』、『ラプソディ』、『スケルツォ』、『シンフォニー』の 4(フィーア) も『魔術禁止範囲』内部に居ながら異常無く正常に動いていましたから。これだけヒントがあれば、犬でも分かりますわ」
彼女は目を細めて蠱惑的な笑みを浮かべ、続ける。
「 4(フィーア) はわたくしが持つ、 幻想級(ファンタズマ・クラス) のマジックアイテムですの。わたくし的には準 神話級(ミトロジー・クラス) と言える力がある、と自負しておりますわ」
エリーは立派な胸を張って自慢気に告げた。
「魔術写本『ファンタジア』、『ラプソディ』、『スケルツォ』、『シンフォニー』の 4(フィーア) の分かり易い能力は、魔術の補助をしてくれる点ですわ。精霊を召喚し、写本に補助させれば、 戦略級(ストラテジー・クラス) の攻撃魔術を独立して唱えさせることができますのよ」
尤も精霊を召喚すること自体が難易度が高く、一般的な魔術師にとってほぼ不可能なことではあるが。
「魔術補助の力を用いれば、難しい魔術でも楽に行使することが出来ますわ……例えば『遅延術式』の補助など」
「!? そうか! あれは、『遅延術式』による、攻撃魔術か!」
ギラがようやく『気づいた』という表情、声をする。
では『遅延術式』とは?
魔術師の技術の一つで、攻撃魔術を事前に展開。遅れて発動するようにストックしておくことで、詠唱無しで、即座に解放するだけで攻撃できる高等技術だ。
当然、既に展開されている攻撃魔術のため『魔術禁止範囲』内部でも、 獣魔球(じゅうまきゅう) のように解放すれば使用することが出来る。
これだけ聞くと非常に便利な技術だが、当然、デメリットも存在した。
まず術式発動自体の難易度が高い。
さらに、遅れて発動するようにストックしている状態でも一定の魔力を消費するため、あまり長時間維持出来ない。
なので一般的には『複数の魔術をストックするのは現実的ではない』というのが魔術を知る者の常識だ。
ギラ自身『暗殺者(魔術師殺し)』というだけあり、魔術に関しても造詣が深い。
当然、『遅延術式』のメリット、デメリットも理解し――その上で自身の勝利を確信して、驚愕した表情から、再び醜い笑みを作る。
「あはははははははは! 魔女! それが貴様、切り札か! 多少、驚いたが、『遅延術式』なら、確かに『魔術禁止範囲』内部でも、魔術、可能! だが、いくつ魔術、ストックしている? 10、20? 規格外、でも100か? そのうち、われ、通じる、攻撃魔術、いくつある?」
もし規格外で、魔術師写本の補助のお陰で100のストックが出来るとして、全部が全部、攻撃魔術などありえない。
状況に応じて、回復、防御、他支援、転移・移動など、ストックしておきたい魔術がある。
さらに攻撃魔術も全部が全部、 戦略級(ストラテジー・クラス) など使い勝手が悪すぎる。
常識的に考えれば、小回りが利く 戦闘級(コンバット・クラス) 、どのような状況でも対応できる 戦術級(タクティックス・クラス) などの攻撃魔術もストックするだろう。
その上で、ギラ自身に通じる攻撃魔術の数は……そう多くないと彼は考えた。
(恐らく、20前後、多くて30、それなら手持ち、マジックアイテム、なんとか、切り抜けられる、はず……)
ギラに通じる攻撃魔術を回避しきれば、いくらレベルが高くても魔術師を殺すのはわけがない。
ギラは再び舌なめずりをする。
「魔女、ほら、いくつある? どれぐらいストックある? それで、われ、倒しきれるか? 第一、われ、別に正面から、戦う必要ない。魔術、使えない以上、距離を取り、時間をかけて、魔女の集中、切れる隙、狙えばいいだけ。魔女、長時間、敵と戦った経験あるか? どれだけ神経、保つ? 気、抜くなよ。気を抜いた瞬間、この大鎌、オマエの腑を裂く。裂いて、子宮でも取り出して、目の前で握り潰すのも、面白いか。ほら、どんな風に死にたい? 要望、今、気分良いから、聞いてやるかもしれないぞ?」
「1万ですわ」
「いちまん? それが死ぬ、要望。意味不明」
エリーは調子に乗って囀るギラを前に、酷薄に笑い絶望を告げる。
「わたくしが、常にストックしている『遅延術式』魔術の総量は全部で1万ですわ」
「……?」
ギラ自身、最初は意味を理解することが出来なかった。
次に脳味噌が意味を理解するのを拒み。
それでも理解してしまった刹那、絶望的な声をあげてしまっていた。
「あ、ありえない! ありえない! ありえない! いくら、規格外でも、1万なんて、ありえない!」
「最初にわたくし、自己紹介いたしましたわよね? 『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』。ライト 神様(しんさま) の僕、将来の后です、と。ライト 神様(しんさま) の僕、将来の后であるわたくしには、『遅延術式』魔術の1万程度ストックぐらい余裕ですわ。もちろん、わたくしだけの力ではなく、魔術写本の補助を受けてですが」
事実を証明するように、攻撃魔術を解放する。
エリーは天使の笑顔で告げる。
「ではまず最初は 戦略級(ストラテジー・クラス) 、1000発から発射いたしましょう」
彼女の背後に夜空に輝く綺羅星のような攻撃魔術の輝きが空間を埋め尽くす。
その光景はまるで地下に星空が顕現したような幻想的で、非常に美しいモノだった。
一発、一発が 戦略級(ストラテジー・クラス) の威力を秘めた攻撃魔術だが。
ギラが初めて絶望的な表情を浮かべる。
はったりではなく、眩しいほどの星空――1000発の 戦略級(ストラテジー・クラス) の攻撃魔術が展開されたら絶望するのは当然といえるだろう。
彼は思わずエリーに対して震える声で漏らす。
「ば、化け物……」
この発言にエリーは可愛らしく頬を膨らませて怒る。
まるで恋人が記念日を忘れていた事に怒る少女のようにだ。
「酷いですわ。ライト 神様(しんさま) はわたくしよりお強いのは当然として別枠ですが、ナズナさんと比べればわたくしなど可愛いモノですわ。なのに化け物なんて酷いですの」
「!? ま、魔女より、なお上が、いるのか!?」
この発言にギラは、『エリー以上に強い化け物が居る』と知り、再度絶望的な表情を作る。
彼女の声から嘘やはったり、冗談ではなく本気で発言していると嫌でも理解してしまう。
そんなエリーが気を取り直して、満面の天使の笑顔で告げた。
「ではせいぜいストックが切れるまで、頑張ってドブネズミの如く逃げ回ってくださいましね?」