作品タイトル不明
18話 エリーvsギラ 3
「……でも、その程度でわたくしをどうにか出来るとでも? 本当にお馬鹿さんな『雑魚』ですわね」
「はったり、無駄。お前、魔術師、もう何も出来ない」
ギラはエリーを『典型的な固定砲台魔術師タイプ』と評した。
一般的な魔術師もエリーとは攻撃魔術の規模こそ違うが、基本的には足を止めて後方の安全域から魔術を放つ。
これを『固定砲台魔術師タイプ』とギラは定義していた。
では『固定砲台魔術師タイプ』を攻略する際にギラがとる方法は――『奇襲などで気付かれずに攻撃を決める』、『魔力切れを狙う』、『魔術を封じる』のいずれかだ。
『奇襲などで気付かれずに攻撃を決める』については、既に正面から向き合っているため難しく、いつエリーの魔力が切れるかも分からない。
そこでギラは、最後の切り札である『グリード・グリード』を使用した。
「われ、切り札『グリード・グリード』。『強欲の死神』から受け取った大鎌、打ち付けた地点を起点、魔術そのものを禁止する『魔術禁止範囲』、広がる。短時間で気付く、さすが魔女」
「うふふふ、それほどでもありませんわ」
ギラの嫌味に、エリーは気付いていないのか理解した上で挑発のためか、余裕の態度を崩さず長い髪を優雅に弾く。
ギラはあまり動揺を見せないエリーの態度に苛立ちを覚えるが、すぐには手を出さない。
彼自身、時間を稼ぐ意味があるからだ。
(『魔術師殺し』、極めた先、得た切り札『グリード・グリード』。一見、有効そうでも、デメリット、当然ある)
デメリットは、『強欲の死神』の大鎌を受け取り、起点を作らないといけない。
さらに言えばその起点から『魔術禁止範囲』が広がるが、すぐに広範囲禁止になる訳ではないのだ。時間が経つ事に、その範囲は加速度的に広がるが、ある程度時間を稼ぐ必要がある。
ギラがエリーへすぐに襲いかからず、会話で時間を稼ぐのも、彼女が『魔術禁止範囲』からすぐに脱出出来ない程度まで広げる必要があるためだ。
だがこの『魔術禁止範囲』は生物の『魂』を材料に作り出しているため、範囲が広がれば広がるほど消費する魂も増量する。
それ故、ギラは普段から魂を回収するため、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を立ち上げたり、ダンジョン等でモンスターなどを狩っていたのだ。
これが趣味と実益の『実益』部分である。
さらに最後のデメリットとして、『魔術禁止範囲』の内部に居るため、その間はギラ自身も魔術は一切使用できない。
以上が『グリード・グリード』のデメリットである。
しかし、それらのデメリットがあっても『グリード・グリード』は対魔術師戦において非常に有効だ。
まさに『暗殺者(魔術師殺し)』と断言できるだけの性能を持つ。
一方でエリーは興味深そうにギラの手にしている大鎌を見つめる。
その瞳は敵対者ではなく、研究者、求道者のモノだった。
「本来、『魔術禁止範囲』を作り出すのは、非常に難しいですの。もしやろうとしたら大掛かりな設備、手順、儀式などが必要なのですが……まさか、そんなちっぽけな鎌一つでそれを作り出すとは、非常に興味深いですわね。形は鎌ですが、ダンジョンコアのような性質を持っているのでしょうか? だとしたら非常に面白いですわね」
「くくくく……余裕、ぶっている、時間、もうない」
ギラが嗜虐的に笑う。
『魔術禁止範囲』がエリーといえど、簡単に出られないほど広がったためだ。
ギラは続ける。
「魔女、囀っている間に、『グリード・グリード』、広がった。例えレベル9999が本当でも、簡単、逃げられない。魔術師、魔力特化、身体能力なら、われ、有利」
ギラが言わんとすることは……例えエリーが本当にレベル9999の魔術師で、ギラ自身とのレベル差があっても、所詮は魔術師。
魔術師は基本的に魔力特化のため、身体能力自体はお世辞にも高くない。
もちろん、低レベルと比べたら圧倒的に高いだろうが。
ギラ自身、レベル7000前後の暗殺者だ。
いくらレベル差2000以上あっても、暗殺者のため速度には自信がある。
十分広がった『魔術禁止範囲』から、今更逃げようとしても身体能力の差ですぐに追いつき背中を大鎌でばっさりと切り裂くことが出来ると言いたいのだ。
これがギラの対魔術師戦の戦術だ。
魔術を封じて、身体能力差で魔術師を倒す。
非常に理に適った戦術だった。
今度はギラが完全に上から目線で告げる。
「命乞い、しろ。服を脱いで、全裸になって、土下座しろ。『ギラ様に逆らって申し訳ありませんでした』と、詫びろ。床に、額擦りつけて、泣いて、喚いて、惨めに同情心を誘って見せろ。われ、関心を少しでも引けば、楽に死ねる、かもしれないぞ?」
「…………」
「もし死にたくないなら、女の武器、使ってみろ。魔女、顔、体、良い。売女らしく、股、開いて、誘って、われ女なる、だから、命助けて、と誘えば、殺されない可能性僅かにある。どうした、早くしろ」
ギラが、勝利を確信した表情で語る。
彼は促すように手にしている大鎌で床をコンコンと叩く。
ギラは調子に乗って声を上げ続ける。
「ぷふっ、プライド、許さないか? なら、プライドを抱えて、無惨に殺される、選ぶ? われ、それでも良い。魔女、まず逃げられないよう、手足、刎ねる。次、腹割いて、臓腑、抜き出し、その口につめこむ。しっかり、自分、臓物の味、堪能したら、次は野菜のように顔の皮剥く。それでもレベル、本当なら、その程度では死なない。存分に苦しませて、苦しませて、苦しませて、苦しませて――われ、逆らった罪、後悔にまみれながら死ね!」
ギラの狂気的声を聞かされても、エリーは動じない。
むしろ興味深そうな研究対象から一転、彼の発言を聞いてゴミ以下の存在を目にしたような蔑んだ視線を向ける。
彼女は不機嫌そうに髪を弾く。
「まったく……興味深そうな研究物を見つけたと思いましたら、ついでに下品な雑音を聞かされるなんて……。これだからライト 神様(しんさま) 以外の殿方は嫌なんですの」
エリーは改めてギラに向き直り、彼の発言全てを鼻で笑う。
「わたくしが逃げる? 命乞いする? どうしてわたくしがそんなエレガントではないことをしなければなりませんの? 貴方程度の『雑魚』相手に」
「……魔女、置かれている立場、分かっていない?」
「それはこちらの台詞ですわ。貴方、自分の置かれている立場を未だ分かっていませんの? では分かり易く現実を教えてあげますわ……『 星の撃ち抜き(ノヴァ・レイ) 』!」
「!?」
エリーが『魔術禁止範囲』内部にいるにも拘わらず、ギラへ向けて攻撃魔術 戦略級(ストラテジー・クラス) を放つ。
『 星の撃ち抜き(ノヴァ・レイ) 』、太い光のレーザーが敵を打ち抜く。
ギラは咄嗟にその場から身を投げ出し、太い光から回避する。
思考してからではない。
本能的に危機感を覚えて、体が動いていたのだ。
回避できたのは奇跡に近い。
だが、ギラはその喜びより、『魔術禁止範囲』内部で攻撃魔術を放った事実に驚愕する。
「馬鹿な!? ありえない! どうして、魔女、『魔術禁止範囲』で、魔術、使える!」
ギラの問いにエリーは蠱惑的な笑みを浮かべつつ、薔薇色の唇を真っ赤な舌で湿らせた。
――では、実際、どうやってエリーは『魔術禁止範囲』内部で攻撃魔術を使用できたのか?