作品タイトル不明
15話 アバターゴーレム
――時間は少しだけ遡る。
ライト達が 戦略級(ストラテジー・クラス) 上位攻撃魔術、 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) に対処している頃、魔人国首都スラム、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』地下深くの一角にあるベッドから1人の男が体を起こす。
「…………」
一般的な男性より背が低く、150cm前後程度しかないだろう。
だぼだぼの衣服に袖を通し、口元を髑髏マークが付いたスカーフで隠していた。
彼は頭に被っていた、顔上半分を隠すほどのヘルメット状の物に手をかける。
不機嫌そうに取り、ベッドへとゴミのように投げ捨てた。
ヘルメット状の物を脱ぐと、顔半分が露出する。
鋭い視線が口に出さなくても、彼自身――ギラの苛立ちを雄弁に語っていた。
人形(ゴーレム) ではない。
ベッドに腰掛けているのは、ギラ本人だ。
彼は対戦ゲームに負けた子供のように苛立ち、舌打ちする。
「まさか、切り札、一つ、切ること、なるなんて……」
ベッドの上に投げ捨てたヘルメット状の物を一瞥。
「……いや、ああいうレベル高い奴、どんな手、隠し持っているか分からない。最善行動、相手が何かをしかける前、最大火力で沈める。勿体ないが、アレの自壊、最善手。諦めるしかない」
ギラは自身の決断を振り返り、苛立ちつつも、自分の行動が最善だったと確認して溜飲を下げようとした。
最初、ギラがライト達を目にした際、ギラの五感、魔力、意識などを共有した過去文明高位マジックアイテム『アバターゴーレム』で十分対処できると考えていた。
しかし相手は魔術、マジックアイテム、他未知の技術で実際の実力を隠蔽していた。本気を出したライトは、本体であるギラ自身のレベルすら圧倒的に越えた強者だった。
故に切り札の一つ、『アバターゴーレム』のコアである巨大魔石を自壊させて、ライト達をどことも分からない虚空へと吹き飛ばす選択をしたのだ。
『アバターゴーレム』の消失はギラとしても痛いが、割り切ることは出来る。
懸念が一つあるとするなら、
(『アバターゴーレム』、自壊させたせいで、最後まで見ること出来なかったが、奴ら、逃げられる距離ではなかった。問題ないだろうが……)
切り札である『アバターゴーレム』を自壊させたため、ライト達の最後をその目で確認していないが、あの距離からほぼ不意打ちで 戦略級(ストラテジー・クラス) の攻撃魔術を放ったのだ。
例えライトが無事でも、他2人はただではすまない。
態勢を立て直すのにも相応の時間がかかるだろう。
その間にギラはさっさと行方を眩ませるつもりでいた。
――ちなみに過去文明高位マジックアイテム『アバターゴーレム』とは?
ギラが被っていた通称『ヘルメット』を被り、起動手順を踏むと、『アバターゴーレム』へと意識をリンクさせることが出来る。
ただ意識をリンクさせるだけではなく、『ヘルメット』を被った本人とそっくりの姿形、魔力などの姿になるのだ。
『アバターゴーレム』には最初は目、口、鼻、などもないのに、リンクさせると本人そっくりとなり、生殖器すら生えてくる。
ギラはこの『アバターゴーレム』を魔人国領内にあるダンジョンで発見した。
魔人国はドワーフ王国に次いでダンジョンが多い国だ。
ダンジョン化した過去文明遺跡もあり、趣味と実益も兼ねて『精霊双剣』の ダイゴ(レベルアップ馬鹿) ほどではないが、ギラも定期的にダンジョンへと潜っていた。
その際、偶然過去文明高位マジックアイテム『アバターゴーレム』を発見したのである。
『アバターゴーレム』は、遠隔操作で敵を倒すとギラ自身がレベルアップするほどの高性能な一品だった。
これがあれば自分が死ぬ危険性はなくなり、本体が『アバターゴーレム』のため飲食等も必要ないので深くダンジョンに潜ることも出来た。
いつしかゴウ達にも気付かれず、ギラ本人と入れ替わり表に出るようになっていたのだ。
(非常に有用なアイテムだった。残念、ではあるが、損切り、諦めつく。次、運、よければまた『アバターゴーレム』、手に入る可能性あるだけ、まだマシ)
ギラはベッドから立ち上がり、乾いた喉を潤すため寝室から出て、台所を目指す。
「おはようございますわ。あまりにも遅いお目覚めは、体によくありませんわよ?」
「!?」
寝室を出てすぐの部屋に知らない美少女が居た。
身長は160cm前後だが、魔術師風の帽子を被っているせいで、見た目以上に背が高く見えてしまう。
金髪にスタイルもよく胸はしっかりと有り、腰もくびれている。なにより顔立ちが整っており、まるで神が自ら手がけて作り出したほど蠱惑的な容姿をした美少女だった。
彼女の周囲を浮かぶ奇妙な書籍より、容姿の方が目を引くほどの美少女である。
そんな彼女が本来ギラ以外は絶対に入り込めない『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』地下深くの自室リビングに立っているのだ。
あまりに予想外の出来事に驚きで一瞬、意識が空白になってしまうのは仕方ないことだろう。
その空白を利用するように少女――エリーが胸元から一枚のカードを取り出す。
「転移、 解放(リリース) ですわ」
「!?」
エリーは笑みを浮かべ、転移カードを解放。
ギラは抗うことも出来ず、一瞬で視界が変化し、先程まで戦っていた決闘場と似たような空間へと転移させられる。
ここでようやくギラは自分の目の前に居るのが強者だと認識して、素速く自身の置かれた状況を観察する。
「…………」
舌打ちしたい気持ちを抑えつつ、腰を落とし、相手の追撃に備え、視線を周囲へと走らせた。
広い空間で、地面は固い床で天井も見えないほど高い。
高さだけではなく、奥行きもあり、城一つなら楽々飲み込むほどはある。
先程まで『アバターゴーレム』を通してライト達と戦っていた決闘場と雰囲気が似ていた。
あそこほど装飾品は凝っておらず、芸術品のような玉座、壁画も無い。
『荷物を置く広い倉庫だ』と言われたら、納得できるシンプルな空間だった。
「この地下はライト 神様(しんさま) 達が居た場所の予備として作った場所ですわ。誰であろうとも逃がすことはないこの空間――ただあくまで予備ですので、時間が無く装飾に時間をかけられなかったんですの。なので恥ずかしいので、あまりじろじろ観察しないでくださいまし」
「……あのマスターらしき奴の部下、仲間か?」
エリーが恥ずかしそうに頬を染めて、不躾に周囲を観察するギラに注意を飛ばす。
ギラは彼女の恥ずかしがる姿に一切男性として心を動かさず、問いかけた。
エリーは彼の問いに、片手で口元を押さえる。
「あら、これは失礼いたしましたわ。わたくしったら、自己紹介もせず……では改めて」
エリーは優雅に動き、片足を後ろに引き踵を後ろに踏み替え、右手を帽子に、左手は可愛らしく瀟洒にスカートを摘み可憐な微笑みで一礼する。
「わたくしは『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』。ライト 神様(しんさま) の僕、将来の后ですの。以後、お見知りおきを、ですわ」