作品タイトル不明
14話 URカード
「お前は僕の気分を悪くするのが得意だな。本当に気分が悪い」
『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の元部下達が倒れた後、ギラは死体を踏みつけ『使えないゴミ』と罵るだけではなく、死後も僕達の足止めに向かわせる。
部下を完全な物扱いするギラの態度に、僕は非常に苛立ちを覚えてしまう。
ギラが遠隔で動かしていた 人形(ゴーレム) は、国宝級の大きな魔石を自壊させ 戦略級(ストラテジー・クラス) 上位、『 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) 』を作り出し、既に飲み込まれていた。
向かって来る『 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) 』を放置すれば、飲み込まれた僕達自身どうなるか分からない。
『このまま何もせず飲み込まれたら』だが。
僕は1枚のURカードを取り出し、 解放(リリース) する。
「『UR 冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) 』、 解放(リリース) !」
僕達に向かって迫り来る光を通さないほど黒い穴は――より巨大な超重力球である『冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) 』によって飲み込まれてしまう。
『 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) 』は確かにレベル9999の僕でも、飲み込まれたらどうなるか分からない戦略級だが、所詮はただの攻撃魔術。
防ぐ方法などいくらでもある。
その一つが『 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) の上位魔術である冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) で呑み込む』だ。
『UR 冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) 』は、『 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) 』の上位互換の攻撃魔術である。
効果もほぼ同じで単純に威力と効果範囲が高い。
お陰で狙い通り、『冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) 』によって、『 黒き虚ろの穴(ブラック・ホール) 』が僕達まで到達する前に飲み込まれ消滅する。
それだけではなく、さらに冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) は、魔石を砕けさせ腹部を露出した偽ギラ人形をも吸い込んでいく。
「グ、グアァァァアアアッッッ……!!」
断末魔の悲鳴を上げながら、偽ギラ人形が消え去る。
そして敵を全て始末したことによって、冥府より続きし 重力廻廊(グラビティー・ワールド) が同時に縮小し、消えていく。
場にもたらされる静寂。
問題があるとするなら……。
「さすがURカード……まさかエリーが作ってくれた決闘場をここまで破壊するなんて、威力が強すぎるよ……」
偽ギラ人形による最後の悪あがき、自爆を防ぐことは出来たが、代わりに威力が高すぎてエリーが作ってくれた決闘場の天井まで綺麗に抉られてしまった。
『禁忌の魔女』であるエリーが、地上に影響が出ないように対攻撃魔術にも耐えられるように施した決闘場にもかかわらず、青い空が見えてしまう。
「主の言ではないが……あの外道の攻撃魔術とは比べ物にならない威力だな……」
「さすがライト様です! エリー様がお作りになった場をここまで破壊するとは! 自分達の頂点に立つ御方はやはりライト様しかおりませんね!」
「……ネムム、呼び名が戻っているよ」
「も、申し訳ありません! つ、つい興奮してしまって!」
ゴールドとネムムが僕の側に集まる。
ゴールドはURカードの破壊力に呆れ、ネムムは興奮から僕の冒険者ネームではない本名を叫び、称賛の声を上げてきた。
この場には僕達しかおらず、偽ギラも自身の攻撃魔術で飲み込まれたため、僕の本名『ライト』を耳にしている可能性は低いが、誰が耳にするかも分からない。
そのためにネムムに釘を刺す。
彼女は先程までの興奮が嘘のように、自らの失敗に体を縮こませた。
僕はそんな彼女の姿に微苦笑を漏らし、フォローの声を掛ける。
「ネムムの興奮する気持ちも分からなくないけどね。僕自身、まさかURカードの攻撃魔術がこれほど威力が高いなんて思わなかったし。だから、もう怒っていないから、そんなに落ち込まなくてもいいよ」
「だ、ダーク様……ッ」
「やれやれ、主は甘いな。もう少し厳しく叱責しても我輩は良いと思うぞ?」
ネムムは僕のフォローに怯えていた表情が一転、感動した面持ちで笑みを浮かべた。
ゴールドは僕の甘い態度に、呆れとネムムへのからかいを含めて肩をすくめる。
ネムムがゴールドを睨むと、彼はそっぽを向いて口笛を吹き出す。
そんな2人のやりとりに思わず僕も笑みを浮かべてしまった。
またゴールドの指摘も分からなくないが……僕自身、先程も口にした通り、ネムムの気持ちも理解できた。
当時、まだ『奈落』最下層に篭もっていた頃、攻撃魔術のURカードはメイ、エリー、アオユキとの意見交換でも『どれほどの威力になるか分からないため奈落内での使用はしない』という取り決めをしていた。
もちろんURカード全部ではなく、威力が高そうな物のみだ。
下手に使って『奈落』が崩壊したら目も当てられない。
そうならないための措置である。
……ちなみに余談だが『UR お菓子のお城』カードなんて物もある。効果もそのままで文字通りお菓子のお城が出てくるらしい。
さすがにお城レベルのお菓子なんて出しても食べきれないし、体に悪いため一度も使ったことはないが。『いつか出して皆で食べてみたいね』と話をしたこともあった。
――話を戻す。
「とりあえず僕達はまずあの天井にあいた穴をなんとかしよう。一応、人里から離れた場所に作ったとはいえ、放置して誰かにこんな大穴や中を見られたり、落ちて死亡されるなんて目覚めが悪いからね」
「エリー様への応援には向かわないのですか?」
ネムムの問いに僕が頷くと、僕の返答にゴールドが納得して頷く。
「確かに部下の手柄を上司である主が、横からかっさらうようなマネは外聞が悪い。部下に手柄を譲るのも上の器量だ。何よりエリー殿が戦闘中であればそれに割って入るなど、例え主の命でもぞっとせぬからな」
ゴールドが戯けるように肩を震わせるマネをする。
実際、『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』の戦闘する中に割って入る光景を想像してネムムですら、嫌そうに顔を顰めた。
エリーの実力はナズナに次ぐナンバー2だ。
レベル5000クラスのネムム、ゴールドでは手も足も出ない。
居場所を割り出したギラ本体とエリーの本気の戦闘に割って入るなど、想像しただけで身震い、嫌になるのはしかたないだろう。
とはいえ、僕が命じれば喜々として、彼らは突撃する。
(だから敵を見誤って下手な指示を出せば、ネムムやゴールド、他みんなの命を徒に失わせることになるんだよね。以前までただの貧農の次男だったのに、今では沢山の部下を持って、本当に凄い立場に居るよな……)
胸中で思わず言葉を漏らす。
自らの目的のため今の立場に着いたのは自分の意思だから、その重責は受け入れて気をつけていかなければならない。
ネムムが心配そうに声をかけてくる。
「ダーク様、如何なさいましたか?」
「……なんでもないよ。まずはあの天井に空いた穴を塞ごうか。『無限ガチャ』カードで何か良いのがあったかな?」
僕はネムムに笑顔を返して、天井にぽっかりと空いた穴を塞ぐ適切な『無限ガチャ』カードがないか思考を巡らせた。