作品タイトル不明
11話 ドク地下研究所
――ライト達が魔人国マスター、ギラと戦っている頃。
メイ達は魔人国マスターの1人、ドクの研究所へと向かう。
ドクの研究所は魔人国首都郊外にある王家狩り場森林の奥地にある。
もちろん亡命したミキからの情報だ。
彼女の情報通り、場森林の奥地に洞窟があり、地下へ進む扉が擬装されていた。
『他ニモ魔術的ニ防御サレテイルガ、相方ニカカレバ、造作モナク誤魔化スコトガ出来ルガナ』
「…………」
ロックのカタカタと鳴る独り言を聞き流しつつ、ガンナーであるスズが次々に物理的・魔術的な罠等を発見、相手に気付かれないように無力化していく。
これも索敵能力が高い『UR、 両性具有(ダブル) ガンナー スズ レベル7777』だから出来る芸当である。
『シカシ敵モ良ク考エタナ。王家ノ狩リ場ニ研究所を作レバ、一般市民、冒険者達モ無断デハ寄リツケズ、居タラ不審者トシテ殺シテモ問題無シ。森ノ警戒モ、魔人国側ガヤッテクレルシナ――ト、準備ガ整イマシタ』
相方、スズの作業終了に気付き、ロックが声をかける。
後方に声をかけると、スズを含めて『SSR 存在隠蔽』で姿を隠したメイ、ナズナ、アイスヒートが待機していた。
メイが小さく頷き、改めて皆に確認する。
「では、改めて作戦の内容を確認します。私達は魔人国『ますたー』の1人であるドクを確保するのが目的です。あくまで確保が目的です。殺害は禁止します」
連絡役を担うドクを捕らえることで、魔人国マスター全員を確保し、情報を抜き取るのが目的だからだ。
何より――とメイが続ける。
「ライト様の故郷を滅ぼしたレベル9000台かもしれない、魔人国『ますたー』のリーダーであるゴウを逃がさず捕らえるために必要なこと。今回の作戦に失敗は許されません。皆、しっかりとその点を認識するように」
「もちろんだぜ! ご主人様のためにも、そのドクって奴を絶対に捕まえてやるぞ!」
「今回の作戦の成功を以て、今までの汚名を返上しなければアイスヒートはご主人様に顔向けできません!」
「(こくこく!)」
無限ガチャカードの力で周囲に音が漏れないようにしているため、皆、好きに声をあげる。
メイを筆頭に、ナズナ、アイスヒート、スズも全員、気合十分だった。
一方でロックは胸中で思わずツッコミを入れる。
(ナンダロウ……あいすひーとノ姐サンガ気合ヲ入レテ臨モウトスルト、逆ニ酷イコトニナリソウナ気ガスルンダヨナ……)
インテリジェンスウェポンだが、口に出さないだけの情けがロックにはあった。
皆のやる気を確認したメイは満足そうに頷き、各自の動きの確認と釘刺しを忘れない。
「スズは洞窟周辺の無力化をしたように、先行して罠の解除を。私はいつでも ドク(対象) を拘束できるように 魔力糸(マジック・ストリング) の準備をします。もし私が確保に失敗したら、アイスヒートが氷結系で凍り付かせて逃走防止をお願いします。ナズナは戦闘が開始するまでは手を出さないように。また、場合によっては、確保を諦めて撤退する可能性もあるのを忘れずに気を付けて。 ドク(対象) の確保より、私達の安全を優先するようにとライト様のお言葉を忘れないように」
皆の返事を聞き終えると、メイは満足そうに頷き早速行動を開始する。
――洞窟内部はあまり深くはない。
最奥に到着すると、洞窟壁に擬装された扉があり、それを開くと地下へと続く階段が存在する。
今の所、『SSR 存在隠蔽』の力で、視覚的にも魔術的にもメイ達を捉えることは出来ない筈。
スズが先導し警戒していることもあり、相手側にメイ達の侵入を気付かれている可能性は低かった。
非常に喜ばしいことであるが……問題も当然あった。
「なんか凄い臭いんだけど……これってあたい達の存在がバレて迎撃の準備をしているとかじゃないのか?」
「……いえ、違います。場所が地下というだけあり、臭いが篭もっているだけですね」
最後尾を歩くナズナが鼻を摘まみつつ、声をあげる。
彼女の問いにメイが臭いに眉根を顰めつつ、返答した。
地下の階段を下るごとに血、腐敗臭、薬品などの臭いが混ざり悪臭化しているのだ。
メイ達の侵入に気付き撃退するため悪臭兵器の準備をしている……とはいくらなんでも考え辛い。
もしそうだとしたら、もっと違う物を準備して迎撃してくる筈だ。
階段を下りきると、スズは気配がする方へと先導し移動する。
後に続くメイ達は、スズが踏んだ場所以外踏まないようにしつつ後へと続く。
地下出入口こそ狭かったが、地下研究所自体は貴族屋敷のごとく広かった。
食堂や広間、客間など普通の用途に使う部屋もある。
さらに奥へ進むと、コンテナのように積み上げたり、並べた檻の中に、モンスター達が押し込まれていた。
なぜこんな場所にモンスターが捕らえられているのか?
どう考えても愉快なモノではないことだけは理解した。
さらに進む。
別の区間には独房らしきモノがあった。
中には老若男女問わず人種が捕らえられており、共通して生気が無い。
この状況に絶望しているから……というより、魔術的な何かで暴れる意思を奪われている感じだ。
下手に絶望され、目を離している隙に自殺されても面倒なための処置だろう。
さらにメイ達はドクの姿を探し、注意深く複数の場所を探査し……顔をしかめる。
「……最悪ですね。ライト様をお連れせず、本当に幸いでした」
メイの言葉にスズ、アイスヒートが深く頷き、ナズナは心底気分悪そうに眉根を顰める。
研究所に入って『ドクの気配が全くない』というのもあるが……。
人種の扱いがあまりに酷すぎたのだ。
バラバラにされた遺体、モンスターらしき内臓を縫いつけられたモノ、薬品によってドロドロに融かされて混ぜ合わされた者達、他にも言葉にするのも憚られる状態の人種だった者達が多数あった。
これならまだマシだ。
さらにメイ達が確認した場所では、遺体を捨てる深く巨大な穴があり、そこでは大量のアンデッド化した者達が怨嗟、苦しみ、悲しみの声をあげていたのだ。
死してもなお苦しみ続ける声。
ライトと同種達のため苦しみから解放してやりたいが……。
「下手に浄化して、私達の侵入が相手に知られる訳にはいきません。何より、この数を浄化するのは私達では魔力的に不可能です」
「むしろ、エリー様でも無理なのでは?」
アイスヒートの指摘に皆、無言で同意する。
エリーの魔力量は『奈落』でもトップを誇るが、数千――下手をすれば数万ものアンデッドを浄化するのは物量的に不可能だ。
もちろん外部から、魔力を補充し長時間覚悟でおこなったり、燃やして火葬するなら別だろうが。
『シカシ……ヨクモマァコレホドノ同胞ヲ殺シタ上、放置出来ルモンダナ。本当ニソノどくッテ言ウノハ、人種ナノカネ』
「…………」
ロックのぼやきにスズがギュッと相方を強く握り締める。
別に彼の発言に同意した訳ではない。
スズ自身、もし戦闘になればドクに後れを取らない自信はあるが……。
目の前にある、ドクの狂気に触れて思わず寒気を覚えてしまったのだ。
「…… ドク(対象) の捜索を続けましょう。もし私達に気付き、逃げられているとしたら、手がかりになりそうな物、逃走経路、痕跡などの調査をし、追撃します」
メイの言に皆が同意し、再びスズが捜索を開始する。
――結局、 ドク(対象) の発見は不発に終わってしまう。
とはいえ、皆の表情は別に暗くなっていない。
なぜなら、研究所の状況から『自分達に気付き逃げた』というより、用事があって外出中だと思われたからだ。
「さすがにアイスヒート達に気付き、取るモノも取らず慌てて逃げたにしてはそれらしい痕跡がありませんから、恐らく外出中の可能性が高そうですね。メイ様、如何なさいますか?」
「そう、ですね……」
アイスヒートの問いにメイが形の良い顎に指を宛て考え込む。
ドクが帰って来るまで、待って奇襲をしかけて捕らえるか、一度撤退して再度襲撃をしかけるか……。
どちらにもメリットがあり、デメリットがある。
メイがどちらを選択するか、また他の案を出すか考え込んでいる最中、ナズナが暇そうに周囲を見渡す。
現在、メイ達はドクの書斎らしき場所に居た。
出入口以外、周囲が本棚に囲まれ、棚は本と書類、研究内容を纏めた紙束でパンパンだ。
机の上にも書籍、研究内容を纏めたデータなどが山積みになっている。
この書斎が研究所の悪臭が一番薄い場所のため、皆で集まっていたのだ。
さすがに暇だからと言って、その辺りにある書籍を本棚から抜くようなマネはしない。
下手をして魔術トラップが発動するかもしれないし、物理的にバランスが崩れるかもしれないのだ。
再度、詰め込んでも相手が違和感に気付き、侵入を悟られたら目も当てられない――が、ナズナは机の一角に摘まれた紙束に興味を示す。
「……うん? これって……」
スズ&ロックが止める暇もなく、机に近付き積み上げられた本の間に挟まった紙束を抜き取る。
その姿に気付いたメイが、彼女の行動に頭が痛くなり、こめかみを押さえる。
指揮権を預かっている立場上、勝手な行動をしたナズナを叱ろうと、メイが口を開くより先に彼女が手にした紙を見せてくる。
「なぁなぁメイ、ここに書かれている名前って――」
その名前を読んだメイだけではなく、アイスヒート、スズ、ロック全員が、ひきつった声を上げそうになったのだった。