軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7話 舞台準備

「――日後、首都大通り噴水で待つ! 繰り返す! 魔人国ますたーギラに告ぐ! 貴殿が腰抜けの臆病なクソ雑魚ナメクジ暗殺者でなければ――」

『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の屋敷周りを派手に着飾ったエルフ種達がチンドン屋のように派手な恰好をし、楽器をかき鳴らし声を張り上げながらギラを挑発しつつ、決闘場所の日時とを全力で伝えていた。

魔人国首都スラムの常識として、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の屋敷周りで騒ぎや揉め事を起こすのはタブーだ。

殺されても文句は言えない。

故に基本的にスラム住人は用事がなければ屋敷周りに近付かないため、周辺は非常に静かである意味、治安が良いのだが……。

そのタブーを派手な格好をしたエルフ種達は全力で破っていく。

元々魔術の才能が高いエルフ種をLVが低い者が襲うのはリスクが高すぎて割りに合わないと言われており、それでも一か八かで手を出すスラム住人も居るが……今回ばかりは、誰もそんなマネをしない。

むしろあまりの暴挙にスラム住人はエルフ種達を怯えた様子で遠巻きに見つめるか、命が惜しい者は早々に距離をとる。

今この瞬間、ギラや他コケにされている『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の暗殺者達がキレてエルフ種に攻撃し、スラムの地図が変化するほどの被害が出てもおかしくなかった。

とはいえ別にエルフ種だって喜々として、こんな馬鹿なマネをしている訳ではない。

派手なピエロの恰好をしたエルフ種男性が、内心で盛大に愚痴をこぼす。

(いくら『巨塔の魔女』に脅され、女王の命令だからって、こんな命を危険に晒すようなマネをさせられるなんて!)

しかし彼らに逆らうという選択肢はない。

もし逆らえば、エルフ女王国を覆ったドラゴンの群が再び飛来し、今度こそ自分達の家族もろとも物理的に吹き飛ぶ可能性があるのだ。

実質、家族、恋人、友人などを人質に取られているようなものだ。逆らう術はない。

ちなみにエルフ種チンドン屋は、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の屋敷周りだけではなく他にも派遣されていた。

派手な恰好をして魔人国首都大通り、職人街、市場などありとあらゆる場所に派遣され、似たような内容の声を上げている。

『――日後、首都大通り噴水で待つ! 魔人国ますたーギラに告ぐ! 貴殿が腰抜けの臆病なクソ雑魚ナメクジ暗殺者でなければ自分達と決闘をしろ! 例え怯えて逃げ出しても追いつめて負け犬のごとく残酷に殺してやろう。もし命が惜しいなら、当日噴水前に姿を現し皆の前でこちらが許してやっても良いと思う全力の土下座謝罪芸をするんだな。もし気に食わなかったらその場で惨めったらしく殺すけれど。暗殺結社 処刑人(ブロー) トップの意地を見せてみろ!』と。

他にも挑発的な台詞が羅列されていた。

これが以前、ギラを確実に引っ張り出すためエリーが提案し、ライト達がその内容にやや引いてしまった作戦だ。

エリーはエルフ女王国に協力を求め、チンドン屋紛いに扮装させたエルフ種人員を借り受けた。

人種なら警戒されるが、エルフ種なら魔人国国境、首都にも入り込むことが可能だ。

お陰でスムーズに入国、準備を整え騒ぐことが出来る。

さらに女王であるリーフ7世を脅しつけ、彼らに『エルフ女王国外交官』に近い肩書きを与えた。

お陰で魔人国兵士達は手を出せず、表通りで叫ぶエルフ種達を忌々しそうに睨みつける。

この一件でエルフ種は魔人国側から『 人種(ヒューマン) に尻尾を振る犬』扱いされるだろう。

今後、 人種(ヒューマン) 同様にエルフ種は敵視、警戒されることになる。

またこの作戦を実行する際、エリーが『奈落』最下層の仲間達を起用せず、エルフ種達を用いたのにも理由があった。

もしギラが怒りにまかせて手を出し『奈落』最下層の仲間達を死亡させたら、ライトが悲しむからだ。

エルフ種達ならいくら死んでも、エリーにとってはどうでもいい。

ようは捨て駒である。

お陰で効果は抜群だ。

「ぐぅっ、がっぁあッ、……ッ!」

ギラは窓からエルフ種チンドン屋を睨みつける。

あまりの怒りに声にならない声が喉から漏れ出てしまう。

『 死剣(モルテ・スパーダ) 』が無様を晒しただけでメンツを潰されているのに、現在進行形でギラ自身が貶められているのだ。

これで当日、指定されている魔人国首都噴水前に顔を出さなければ、ギラのメンツは丸潰れ。

魔人国マスター側からも、チンドン屋達が言う様に『腰抜けの臆病なクソ雑魚ナメクジ暗殺者』扱いされ兼ねない。

いくら罠だと理解していてもだ。

――とはいえ、例えここでギラが警戒心高く姿を現さなくても、エリーは彼の動きを捕捉、確保できるよう十重二十重の策を用意しているため、逃げても意味はないのだが。彼がそれを知る術はない。

だがエリーの作戦通り、さすがのギラもこれには引き下がれなくなる。

これだけコケにされて引き下がったら、部下や住人達だけではなく、同じ魔人国マスター達にも馬鹿にされてしまう。

そんなことはギラのプライド的に許されなかった。

何より、ギラ自身、奥の手、切り札を持っている。

故に『どちらにしろ勝つのは自分だ』と理解しているから、挑発に乗ることを決意したのだった。

☆ ☆ ☆

ギラが挑発に乗ることを決意している時、作戦案を出したエリーはというと……彼女は1人とある地下で作業をしていた。

「とりあえず空間だけは確保しましたわね」

彼女がぐるりと見回す。

天井は見えないほど高く、横幅も城が3つは楽に入るほど広い。

だが、ただ広い正方形の空間のため、殺風景だった。

「広さは確保できましたが、ライト 神様(しんさま) がご活躍する場として華がありませんわ。時間までにライト 神様(しんさま) がご活躍するために相応しい場にしなければいませんわね! やはりまずはライト 神様(しんさま) を讃える巨大なライト 神様(しんさま) 像から作るべきでしょうか?」

ギラを呼び出した後に転移で移動し戦うための場を、エリーは魔術で作り出していた。

広さは確保したが敬愛するライトが戦う場としてはあまりに華がないため、次は装飾に手を出そうとする。

「あっ、でも戦いの最中ライト 神様(しんさま) 像が余波で壊れてしまっては不敬ですわよね……。さすがにそれは不味いですわ。なら像はやめて壁に彫刻でも掘りましょう! ライト 神様(しんさま) に相応しい豪華絢爛、雅で、厳かな彫刻を! 他にはライト 神様(しんさま) を喝采する者達を描いたりするのもありですわね。後、ライト 神様(しんさま) がお待ちになる間にお座り頂く玉座の準備もしなければ!」

エリーはウキウキとした表情で気合を入れ直す。

敬愛する主が戦う場を自ら作り上げることに、多幸感を感じているのだ。

「本番となるこの場の装飾には手を抜けませんが、いざと言う時のための場もいくつか作っておきたいので時間がありませんわね。もう少し、決闘までの時間を延ばすべきだったかしら?」

ギラの怒り心頭な状況など一切気にせず、エリーはある意味非常にどうでも良いことに頭を悩ませる。

彼女は頭を切り換えると、さくさく作業に取り掛かる。

「とりあえず気にせず、早速作業に取り掛かりましょうか」

エリーは鼻歌交じりで、喜々として魔術を使って壁にデザインを施し始めたのだった。