作品タイトル不明
8話 決闘へ
「やってくれたなエルフ女王国!」
魔人国首都、王宮執務室の机を苛立ち紛れに魔人国第一王子ヴォロスが叩く。
なぜ彼がこれほど苛立っているのか?
エルフ女王国から入国してきたエルフ種達が、首都で大騒ぎしているのだ。
暴れている訳ではない。
ただ派手に着飾って、楽器を鳴らし、五月蠅いぐらいギラと『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を挑発しているだけだ。
普通ならさっさと警備兵士が注意するか、従わないなら捕らえて罰金を科し牢にでも一晩入れて反省させればいいのだが……。
『外交官』に近い肩書きを持っているため手を出せず、警備兵士側も苦々しく見ているしかなかった。
お陰でヴォロスも知ることになる。
「シックス公国会議の裏切りで分かってはいたが……エルフ女王国は完全に魔女の犬になりさがったのか」
ヴォロスが音頭を取り開催したシックス公国会議の席に、エルフ女王国は議題の対象である『巨塔の魔女』を隠して会議の席に連れてきた。
その際、リーフ7世は『巨塔の魔女』に対して非常に怯えていた。
さらにエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国が裏で繋がり、リリスを人種王国女王として推薦。
そのままなし崩し的にリリスが女王へと即位したのだ。
お陰で魔人国第一王子ヴォロスのメンツが完全に潰される形で、シックス公国会議が終わってしまう。
とはいえリーフ7世の態度から『巨塔の魔女』に恐怖し、脅されていたのは明白だ。
元々友好国だったのと、『巨塔の魔女』と深く繋がっている人種王国を懲らしめるのを優先するためシックス公国会議の騙し討ちは一時棚上げにしていたのだが……。
今回のような騒動をおこされたらもう黙ってはいられない。
エルフ女王国も人種王国同様、敵対国家として扱わなければならなかった。
「いくら相手が『巨塔の魔女』とはいえ、まさかプライドを捨ててここまで尻尾を振るマネをするとは……。あいつらには種としてのプライドはないのか?」
怒りを吐き出したことで、次にヴォロスの胸中を締めたのは呆れと哀れみだった。
さらに頭の痛い……とまでは行かないが、タイミングの悪いことが起きる。
「プライドの高いギラのことだ。恐らく魔女の挑発に乗って逃げずに戦うことを選ぶだろう。もしかしたら加勢で魔女が乗り込んでくるかもしれない。『ますたー』の1人であるギラなら問題はないと思うが……。他の『ますたー』であるゴウとドクがこの場に居れば増援として送れて、確実に魔女の首を落とすことが出来たかもしれないと言うのに……」
ヴォロスが片手でこめかみを押さえる。
魔人国側に身を寄せているマスターのゴウとドクは、ヴォロスの依頼で人種王国領内に向かっている最中だ。
今から急ぎ呼び戻そうとしても、間に合わないため意味がない。
それに、彼らに依頼した『 人種(ヒューマン) 王国の懲罰作戦を邪魔する強者の排除』も、魔人国側のメンツにとっては重要な仕事だった。
「『C』を無理矢理にでも目覚めさせて魔女を始末させる案もあるが……無理だな。いくらなんでも博打が過ぎる」
ヴォロスは魔人種が既に確保している『C』を目覚めさせて、ギラへの増援にあてる案を出すがすぐに却下する。
(手順を踏まず無理矢理封印を解いた際、何が起こるか分からないと明言されている上、実際に目覚めさせてこちらの指示に従うのかも未知数だからな)
折角、手元にある 『C』(切り札) をこの程度の問題で表に出すのは躊躇われた。
下手をすれば魔人国マスター達、 竜人(ドラゴニュート) 帝国マスター達が奪いに向かってくる危険性すらある。
安易に切れる札ではない。
「となると、我の手元に残った戦力ではギラの増援になるどころか、足を引っ張るだけだな……。一国の権力を有するというのにままならないものだな」
ヴォロスは珍しく弱気に溜息を漏らす。
彼は暫し、黄昏に身を沈めてしまう。
☆ ☆ ☆
決闘当日。
魔人国首都中心にある噴水には、大勢の野次馬が訪れていた。
エルフ種を使って騒ぎ『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の者達を挑発していたのだ。興味を持ち、一目見てみようというのが人情というものだろう。
僕とネムム、ゴールドは既に噴水前で『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』トップのギラを待ち構えていた。
本来、人種で『巨塔の魔女』派閥である僕達が、魔人国首都に入場するのは難しいが……今回、エルフ種に同行することで顔を改められることもなくさっくり入国することが出来た。
(今後、魔人国側が警戒するから二度と使えない手だろうけど……)
エリーの作戦に協力したエルフ種達も、野次馬に混じって待機していた。
もし魔人国の警備兵士が手を出そうとしたら、『外交官』に近い特権を持っている彼らが防波堤になる契約を交わしていた。本人達的には嫌々だろうが、魔人国の警備兵士に邪魔される訳にはいかないための措置である。
そんな警備兵士達はエルフ種側から釘を刺されているせいか、苦々しい視線を向けるが僕達の邪魔をする気配はない。
野次馬達を抑えるのに忙しいというのもあるだろうが。
「なぁ、あの娘、メッチャ可愛くないか?」
「あんな可愛い人種が、今から貴族や凄腕冒険者を殺してきた暗殺結社 処刑人(ブロー) の奴らと戦うんだろう。相手になるのか?」
「あんな可愛い子、怪我する前に保護してぇ。自分の嫁になってくれないかな」
「…………」
そんな野次馬達は容姿に優れたネムムを目にして、感想を漏らしていた。
彼女はマフラーを深くずり上げ、不快そうに顔を隠す。
あまりに下品な内容には鋭い眼光を飛ばし黙らせるほどだ。
ネムムとは反対にゴールドは、
「ゴールド、今度また酒を飲もうぜ!」
「ゴールドさん、頑張って!」
「おい、ゴールド! さっさと暗殺者どもなんて倒して、またオマエさんの冒険譚を聞かせてくれよ!」
「我輩の活躍に期待するが良い!」
彼はなぜか魔人国首都でも知り合いを作って、応援の声に手を振る。
(エルフ種に紛れて入国したから、外で街人達と交流する時間なんて殆ど無かったのに……。ゴールドは本当に誰とでもすぐに仲良くなるんだな)
僕はゴールドのあまりのコミュニケーション能力に、内心でそう呟いてしまう。
(もしかしたら『奈落』で一番、誰とでも仲良くなるのはゴールドかもしれないな……)
僕がそんなことを考えていると、気配を感じ取る。
その気配は禍々しく、遠くからでも血の匂いを感じ取ることが出来た。
不躾な視線に辟易していたネムム、新しい知人達に手を振っていたゴールドも気付き、視線を気配がする方へと向ける。
「…………」
先頭を歩く者以外、ぼろ布を頭から被った一団が姿を現す。
一見すると乞食集団だが、漏れ出る威圧感が半端無い。
さすがに一般の野次馬達も気配の異様さに気付き、恐怖で押し黙っていく。
その先頭にいる、頭から死神のようなローブを頭からすっぽりと被った小柄な体躯の人物が足を止めた。
「……魔人国側『ますたー』のギラか?」
「そう。この場で、やるか」
耳にするだけで、LVが低い者ならば命を奪われそうな男の声。
もし一言でも『やる』と返答すれば、このギラという男は何の躊躇いもなく周囲の野次馬ごと、僕達に攻撃をしかけてくるだろう。
僕自身、野次馬の魔人種達に怨みがある訳ではない。
下手な挑発には引っかからず、肩をすくめて返答する。
「まさか。ちゃんと舞台を用意している。そこでなら存分にやりあえるよ」
「なら、案内、しろ。今すぐ、貴様達、悲鳴、鳴かせたい。我慢するの、限界」
「…………」
ギラの挑発に、ネムムが目に力を込める。
ゴールドは彼女が暴発しないよう注意しつつ、最悪、この場で戦闘が始まっても僕をかばえるよう心構えを固めている。
僕自身はというと……。
(最悪、この場で戦闘になると思ったけど……いくらなんでも素直すぎないか?)
相手は自称『世界最強の暗殺結社』を立ち上げたボスで、ミキの話や短い会話から自分以外など気にせず斬り捨てる冷酷さを持つ人物だと思われる。
にも関わらず、素直にこちらの言うことを聞きすぎではないか?
(こいつ……ギラは何か企んでいる?)
僕は直感で理解する。
理解しつつ、『SR、念話』でエリーに指示を飛ばしつつ、懐から分かり易いようにカードを取り出した。
「それじゃ、場所を移そうか」
『SSR 転移』カードを 解放(リリース) 。
僕達はエリーが準備してくれた戦場の舞台へと一瞬で転移したのだった。