軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話 リーフ7世のトラウマ

「はぁ……お茶が美味しいわぇ」

エルフ女王国王宮の一室で、リーフ7世が休憩中、一杯のお茶を口にする。

以前なら美しい金髪に、柳眉、長い睫、エルフ女性の中でも群を抜いた美女だったが――現在は無理なダイエットを重ねたように頬は痩けて、髪は艶を失い、目の下には化粧で隠せないほどの濃いクマが出来ていた。

もし現在と過去のリーフ7世を並べて『同一人物です』と説明しても、誰も信じないほどの落差があった。

(最近、ようやく妾も落ち着いた気持ちで、こうしてお茶を飲めるようになったわぇ……)

原因は『巨塔』に住む魔女だ。

彼女がこの容姿になる少し前――突如、エルフ女王国近郊にある原生林から謎の『巨塔』が姿を現した。

さらに謎の『巨塔』に、レッドドラゴンが住み着いたという情報を得る。

目と鼻の先にレッドドラゴンが住み着いたことによって、国家が被害を受ける前に ドラゴン(不発弾) の排除をするため、情報も碌に得ていないのにエルフ女王国の最高戦力である『白の騎士団』を投入したのだ。

またそこには政治的な理由もあった。

エルフ種社会は母権制で、その社会的構造を面白く思っていない層は一定数存在した。

既に死亡しているが、当時のエルフ女王国元宰相は母権制を破壊し、男性有利な社会構造に変えようとする急先鋒だった。

それに対して、母権性を守ろうとする保守派筆頭は国家の最高戦力である『白の騎士団』団長である。

故に『白の騎士団』団長がミスをする場を作り、少しでも保守派に付け入る隙を作るため、元宰相は『白の騎士団』を『巨塔』へと投入するよう強く訴え、強行するよう促したのだ。武力では勝てずとも、何かあれば敵対勢力の発言権や権力などを削ぎたいと考えるのは必然である。

謎の『巨塔』出現も彼らに取っては宮廷政治に利用するモノの一つでしかなかった。

問題があるとすれば……。

(……妾達はどうしてあんな『 巨塔の魔女(化け物) 』に手を出してしまったのか。否、むしろどうしてこの世にあんな『 巨塔の魔女(化け物) 』が突如、姿を現したのか。あれが地下に眠っていた邪神だと言われても、妾は信じるわぇ)

少しでも余裕が出来てしまうと過去の愚かしい自身の行動を後悔してしまう。

(もしあの時、宰相に反抗せず大人しくしていれば、愛しい妾の息子ハーディーを失わずにすんだというのに……)

リーフ7世は思わず、目頭を押さえる。

彼女の自慢の息子『白の騎士団』団長であるハーディーは、『巨塔』に住むレッドドラゴン討伐に向かって帰らぬ者となった。

代わりに邪神のような怪物である『巨塔の魔女』が姿を現し、エルフ女王国を実質の支配下―― ヒューマン(劣等種) と侮って見下し、差別してきた者達より下の存在に位置づけられてしまったのだ。

もちろん、エルフ種、エルフ女王国の女王として 人種(ヒューマン) の下にされている現状は業腹だが、

「ハーディーちゃん……」

母親として選択ミスで最愛の息子を失ってしまった後悔は、いつまで経っても拭えない。

だからと言って今更『巨塔の魔女』を裏切り、逆襲しようなどという考えはなかった。

圧倒的戦力差、戦場に立った獣人種を文字通り1人残らず皆殺しにした酷薄さ、そして再びあの魂を切り刻まれるような拷問を受けたくなどない!

「……ッ!」

「女王陛下!?」

側付きメイドが、リーフ7世の苦悶に気付き慌てて声をかける。

ある種の定期的な発作だ。

リーフ7世は『巨塔の魔女』から味わった拷問――直接記憶を読み取られる苦痛を思い出し、反射的に苦悶の表情を浮かべてしまったのだ。

彼女はカップを落とし割るが、それにも気付かずボロボロと涙を零し、頭を押さえる。

あの苦痛を思い出すだけで、最愛の息子を殺した『巨塔の魔女』への反抗心など一切湧かない。

再びあの苦痛を味わうぐらいなら、リーフ7世は大人しく息を潜め、国を捧げ、頭を垂れ続ける道を選ぶ。

それだけ『巨塔の魔女』の魔術の苦痛は絶大だった。

メイドが頭を押さえて幼子のように泣くリーフ7世へと寄り添う。

「女王陛下、お薬をお持ち致しますのでお待ちください」

メイド長らしき人物が、他メイドに指示を出しカップを片付けさせる。

その間、薬……気持ちを落ち着かせ、幻想の頭痛を抑える薬を準備する。怪我がある訳ではないため、ポーションではなかった。

薬を飲み、ソファーに体を横たえ気持ちを落ち着かせる努力をする。

薬の効果もあったが、『巨塔の魔女』に膝を屈して以後、自分達の献身を繰り返すことで心の平穏を保つ。

「『巨塔の魔女』様のご指示に従い 人種(ヒューマン) の奴隷を撤廃。『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を徹底させ、支援物資なども送ってきたわぇ。なによりシックス公国会議で、『巨塔の魔女』様の同席、人種王国リリス女王就任の後押しをしっかりとおこなった。妾はちゃんと『巨塔の魔女』様に献身している。だから大丈夫、大丈夫、大丈夫、だい――」

ぶつぶつと念仏のように自身へと言い聞かせる。

『巨塔の魔女』に膝を折った後、エルフ女王国は国を挙げて、今までの態度が嘘だったかのように従順に従っていた。

当然、反発する者達も出たが、その者達を『巨塔の魔女』が処罰しても文句一つ言わなかった。

ただただ従順に奴隷の如く『巨塔の魔女』に付き従っていた。

「だから妾があんな脳味噌を掻き回されるような目には二度と会わな――」

「ちょっとよろしいかしら?」

「ッゥ!?」

リーフ7世が自分に言い聞かせていると、突然、聞き覚えのある声に呼ばれる。

抑えていた顔を上げると、そこには邪神――ではなく、彼女達が服従している『巨塔の魔女』がいつの間にか立っていた。

下から覗く形になるが、頭からすっぽり被るフードから顔を見ることが出来ない。なぜか素顔を視認することが出来ないのだ。

『巨塔の魔女』――エリーが被っているフード付きマントは 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』から排出された『SSR、認識阻害フードマント』だ。

このフードを被っている限り、覗き込まれても相手から顔を認識されることはない。

「ま、魔女様!? よ、ようこそいらっしゃってくださいました!」

突然の『巨塔の魔女』登場にリーフ7世達は慌てた様子を見せるが、すぐに気持ちを立て直す。

以前『シックス公国会議に自分も参加したい。リリスの人種王国女王就任に賛成するように』と『巨塔の魔女』が突然現れて命令して来たことがある。

なのでリーフ7世達自身、驚きはしたが既に経験済みのため、すぐさま動揺を抑えて怯えてはいるが愛想笑いをすることが出来るのだ。

『巨塔の魔女』エリーは、彼女達の怯えた態度など一切気にせず、一方的に命令を下す。

「ご機嫌よう。歓迎痛み入りますわ。早速ですが、少々お願いがあって伺わせて頂きましたの」

「お、お願いですか?」

「はい。これからとても、とても! とても重要なことを行うので、完璧に遂行するためにはどうしてもエルフ女王国の協力が必要なのですわ。もちろん、協力してくださいますわよね?」

『SSR、認識阻害フードマント』の効果で表情を確認できない筈だが、『巨塔の魔女』が壮絶に美しい満面の笑みを浮かべている光景をリーフ7世達はなぜか認識する。

当然、彼女達に『否』という選択肢は存在しなかった。

例えそれがどんな願いでも……。