作品タイトル不明
4話 ギラの確保案
『奈落』最下層執務室。
各自の役割を伝えた後、魔人国『ますたー』の1人であるドクを確保するメンバーであるメイ、ナズナ、アイスヒート、スズは気合を入れて準備に取り掛かる。
魔人国『ますたー』で、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』創設者であるギラ確保を担当する僕、エリー、ネムム、ゴールドは執務室に残ってもらい話し合いを続けていた。
議題は『どうやってギラを確保するか』だ。
「ミキ曰く、ギラはレベル7000前後、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の創設者らしく暗殺技能に長けているらしい。ミキが側で見ていても、『いつのまにか敵が倒れている』ほどだ。武器か、攻撃魔術か、どうやって倒したのかも分からない」
僕は執務室の椅子に座りつつ、目の前に立つエリー、ネムム、ゴールドへ問う。
「相手の攻撃方法、奥の手、戦闘方法が分からないのは不気味だけど、所詮はレベル7000程度。僕とエリーのごり押しで潰すのは難しくない……問題はどうやってギラを逃がさず釣るかだ」
「? 逃がさぬも何も、主をエサにギラを釣り、逃がさぬためにもエリー殿が参戦するのではないのか?」
ゴールドが僕の言葉に疑問を呈する。
僕は素直に答えた。
「冒険者『ダーク』の命を狙って来た『 死剣(モルテ・スパーダ) 』を倒した後に晒して、組織のボスであるギラのメンツを散々潰したけど……あまり露骨に罠を張って、『準備万端に待ち構えています』なんてやったら、逃げられる可能性があるから。意外とその塩梅が難しくてさ」
地上で活動する僕、冒険者『ダーク』の命を狙って、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』のトップ5暗殺者が襲いかかってきた。
僕達は『 死剣(モルテ・スパーダ) 』を撃退。
彼らから必要な情報を抜き取った後、殺さず、ギラのメンツを潰す材料にした。
あからさまにメンツを潰すことで、冒険者『ダーク』に敵意を向かせて、釣り出そうと考えていたが……。
「それが意外と難しくて……。街中でふらふらとしていたら、周囲に迷惑がかかるし。かといって被害が出ないように荒野や遺跡、廃村なんかで待ち構えていたら……自分の命惜しさにメンツを捨てて逃げ出す可能性もあるんだよね」
「確かにありえる話ですね。所詮あの『 死剣(モルテ・スパーダ) 』共のボスですから……。臆病風に吹かれて、ライト様のご懸念通り逃げ出す可能性がありますよね」
ネムムが『 死剣(モルテ・スパーダ) 』達を思い出し苦い顔をする。
ネムムは『奈落』最下層で最もすぐれた暗殺者だ。
故に、僕の命を暗殺者が狙っていると知って、色々警告してくれたが……結局、あらわれたのは『なんちゃって』暗殺者達だった。
お陰でゴールドにからかわれ、僕も彼の声マネに思わず笑ってしまってネムムを落ち込ませてしまったこともあった。
そんな『なんちゃって』暗殺者達のトップなど、いくら『ますたー』でも高が知れていると考えているようだ。
僕自身、そこまで見下すつもりはないが……あからさまに『罠を張っています』という場所に突撃するほど馬鹿ではないと考えている。
ゴールドが腕を組み顎を撫でつつ、唸る。
「ふむ……確かにそう考えると、意外と難しいな。街中では被害が出る。とはいえ郊外では罠に警戒して釣られない可能性があるか」
「そうなんだよ。だから皆、何か意見があるなら教えて欲しいんだけど……」
「ライト 神様(しんさま) 」
今まで黙っていたエリーが声を上げる。
僕は彼女に視線を向けつつ、促す。
「エリー、何か案があるのかい?」
「はい、ございますわ。なのでどうか、魔人国側『ますたー』の1人、ギラの釣り出しに関して是非、このわたくしに一任させて頂ければ」
「ふむ、まずその案を聞かせてくれないか?」
「もちろんですわ!」
エリーは澄んだ鈴音のような綺麗な声音で案を提案する。
その内容に僕、ゴールド、ネムムはややドン引きした。
「……エリーの案は理解した。けど、些かやりすぎじゃないかな」
「ライト 神様(しんさま) の慈悲はわたくし達だけではなく、普く者達に降り注ぐ恵みの雨の如くですが、相手はライト 神様(しんさま) のお命を狙った兇漢の首魁! 一切の慈悲など必要ありませんわ!」
さらにエリーが熱弁する。
「またいくら相手が薄汚いドブネズミの輩とはいえ、対するはライト 神様(しんさま) ! 相応の舞台、格、空間が必要ですの! 絶対に手など抜けませんわ!」
彼女の言葉に前半のギラ呼び出し方法についてはややドン引きしていたネムム、ゴールドだったが、後半の戦闘場所に関してはエリーの台詞に納得したように何度も頷く。
(個人的には戦う場所なんて、周囲に余計な被害が出ないならどこでも良いんだけど)
何よりギラの相手をするのは冒険者『ダーク』だ。
そこまで気にすることはないと思うのだけど……。
エリーは熱弁と共に自己を主張するため、一歩前へ詰め寄る。
「もちろん他にも十重二十重に策を用意しますわ。なので是非、わたくしにお命じくださいですの!」
「…………」
僕は椅子に体を完全に預けて、考え込む。
(極論、ギラを呼び出したり、戦闘する場所の内容について別にどうでもいい。結果的にギラを捕らえられればいいのだから。『奈落』最高位の頭脳を持つエリーなら問題無く捕らえることが出来る可能性が高い。自信たっぷりだし。ついでに先延ばしにしていた罰についても、今回の一件を利用して帳消しにするか)
僕は背もたれから体を起こし、彼女へと向き直る。
「……エリー、随分と自信があるようだね。なら、エリーに任せるよ。ギラを無事に捕らえることが出来たら、以前、君が犯した失態……『 巨塔街(きょとうがい) 』の警備態勢の責を帳消しにしよう。ただし失敗すればより罪を重ねることになるけど、それでもやるかい?」
ちなみに『警備態勢の責云々』とは――魔人種側『ますたー』の1人、ミキの正体を見破れず『巨塔街』への侵入を許す。
さらに情報が外部に漏れて、もう1人の『ますたー』であるダイゴが『巨塔』を襲撃。
ミキは捕らえダイゴは倒したが、『巨塔』の責任者であるエリーは強い責任を感じて首を差し出して来た。
当然却下したが、彼女に対する処罰が延び延びになっていたのだ。
(ミキとダイゴのせいで罰を与える必要があるのならば、同じ魔人種側『ますたー』のギラを捕らえることで帳消しにするのは筋が通る。これで『奈落』の皆が『エリーを特別扱いしている』なんて差別感を抱くことはない。何よりエリーが自信満々だから任せても大丈夫だろう)
僕自身、あの件に関してエリーに責任があるとは考えていない。
だから、『どの程度の罰を与えるか』で頭を悩ませていたが、『ますたー』で被害が出たなら、『ますたー』を捕らえて帳消しにするは個人的にも筋が通って良い案だと思う。
僕の提案にエリーが前回の失敗を思い出したのか、一瞬だけ懺悔するような表情を作ったがすぐに気合十分な表情を作り声をあげる。
「はい! もちろんですわ! 是非、やらせてくださいまし!」
僕はその声に満足気に頷く。
こうしてエリー案の『ギラ捕獲作戦』が決定したのだった。